こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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それぞれの旅立ち。

2009-03-30 00:00:23 | 訪問看護、緩和ケア
在宅緩和ケア。
「その人の思いに沿う事」「支えを知ること。」
「わかってくれると、思える存在であること。」
そして「最後の願いを、かなえること・・・」
でも、それはそんなに簡単なことではありません。
どんなに頑張っても、私たちはその人の本心はわからないし、何が本当に良かったのかもわからない。
自分の世界観や思い込みで、とんだ思い違いをしているんじゃないかとか、時々ふと怖くなったりもします。

先日、ひとりの孤高の老人が旅立ちました。
ずっとひとりで生きてきました。
どんなに痛くても、苦しくても、家にいることを選び、たった一人で死んでいきました。
確かに、最低限ヘルパーさんは入っていたし、ぎりぎり1週間前に訪問看護師、在宅往診医も入ることを納得してくれました。
でも、その時はもう、何も喉を通らず、自分で身動きすることもできない状態でした。身体中にできた褥創は膿を流し、痰もからんでいましたから、かなりつらかったと思います。
その間の長い夜を、暖房すらない、暗い部屋でたった一人、彼は何を思って過ごしたのでしょうか?
水が飲みたくても、どこか痛くても、誰もいない暗闇で、薄れゆく意識の中、彼は何を見たのでしょうか?
それでも決して病院に行くとは言わなかった。
誰かいてほしいとは、言わなかった。
すべてに首を振り続けて、ようやく私たちだけを受け入れてくれたんです。
ある朝、ヘルパーから「下顎呼吸が始まりましたが、まだ意識はあります」
と。
先生がそのすぐあと行った時も、まだわずかに意識はあったようです。
そして、その1時間後、私が伺いました。
玄関を開け、「おはようございます」そう言いながら部屋に入ると、静まり返った部屋は、鼓動とともに時間までも止めているようでした。
私は、空気でそれを感じましたし、その胸は2度と呼吸をすることはありませんでした。
「Aさん・・・」
「これでよかったんですか?たった一人で、これがあなたの望む最後だったんですか?」
私は彼のことは、全然知りません。誰も寄せつけなかったとしか・・
涙が出ました。
怖かったのかもしれません。
確かに、彼の希望だったこと。
けれど、本当にこれでよかったのか?と。私の価値観とは、あまりにもかけ離れた最後にうろたえていました。
あちこちに連絡をして、人が来るまでの間ひとりでひげをそり、そのやせ細った足を洗い・・・。
何度聞いても、これでよかったのだとも、本当は違ったのだとも、答えは返ってきませんでした。
何が一番望みかなんて、本当は誰にもわからない。
そんな思いが、今までの看とりまでも本当に良かったのだろうかと考えてさせていました。
しばらくして、ずっとかかわっていたケアマネさんも来て、ヘルパーさんも3人来て、先生もクリニックのナースも来て、みんなでお別れをしました。
ヘルパーさんたちも、涙ぐんでいましたし、みんなで声をかけてきれいにして、家を後にしました。
その日の夕方には、もうご遺体もどこかに運ばれたようです。
私は、どんな最後を送るのでしょうか?
そして、みなさんは・・・・・