こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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受容

2010-05-31 23:09:05 | 訪問看護、緩和ケア
末期の悪性腫瘍で、すでに意識も朦朧としている夫を、どうしても自宅に連れて帰りたいと願った妻。

なかなか帰してもらえず、やっと数日前に退院しました。

帰宅後にみせた穏やかな表情に安どする妻。
そして、昨日の朝には「おはよう」と言う言葉も聞かれ・・・・

病院は、退院までに2週間もあったにもかかわらず、バルンカテーテルのバックの開け方も指導せず、予定していたポートも入れず、ただIVHをへパロックだけして帰してきました。

それでも、すぐにカフティポンプがつけられ、その日から訪問看護も入りました。

妻は、家に帰ればきっと良くなると信じたかったようです。
それは、かなわないこと。
ただ、大好きな家で、家族に囲まれて穏やかに最期を迎えるための帰宅であることは、最初に話し合い理解されていたはずでした。
それでも妻は、表情が良くなった、言葉が増えた、と喜び「良くなったということですよね。」と同意を求めてきました。

状態はいつも一定ではありません。
良い時もあれば、悪い時もある。
ただ、悲しいことですが、お別れがすぐそこまで来ている事は、確かなのです。

当初、「病院では、食事をポンと置いて行くだけで、食べさせてくれないんです。だから毎日私が食べさせに行っているんですが、食べないんです。嫌がって。これじゃあ元気にならない。」そう言っていました。

時々ご家族から聞く言葉です。

けれど、すでに消化管の機能は低下しており、腸閉塞や腹膜炎の症状のある方もいます。
だからこそのIVHです。
ご本人が、食べたいのなら私たちは止めません。
でも、そのリスクは分かってもらいます。それでも選ぶのはご本人です。
ですが、ご本人が食べたくないのに、無理に食べさせる事はしてほしくありません。

体が求めていないのに、無理やり口から入れても、おなかが張ったり、痛くなったり、吐き気がしたり辛いからです。
「体の声を聞来ましょう。」O先生がよく言います。

病状が悪化すれば、体は自分で自分の負担を軽くするために、食事や過剰な水分を受け付けなくなります。
そして、眠る時間が長くなります。

それを無理やり起こして食べさせても、決して元気にはなりません。

そういう話をO先生にされたあと、妻は茫然としていました。

「良かれと思って、一生懸命何とか食べさせようと思って・・・でもダメなんですね。そんなこと、病院の誰も教えてくれなかったんです。今どんな状態なのかも、先生からのお話もほとんどなかったから・・」そう言って泣きました。

比較的中規模の他区にある個人病院です。
緩和を目的に大学病院から紹介され、転院したらしいのですが・・・。
「かわいそうで見ていられない」と、「毎日泣いています。」と言って相談に見えた方です。

そして、昨夜から病状はさらに悪化し、チェーンストークス呼吸が出現しています。
荒い呼吸がだんだん小さくなり、そして止まります。
数十秒でまた呼吸が再開して、だんだん大きくなり、また小さくなって止まる。その繰り返しです。
中枢性の無呼吸で、終末期に見られる呼吸です。

明けがた緊急で呼ばれた看護師のみている前で、無呼吸が出るたびに家族全員で「おとうさん!おとうさん!」と叫び体をゆすっていたそうです。
長い無呼吸の時は、妻がマウスツウマウスで人工呼吸までしたと言っていました。

「今、お父さの表情は穏やかですね。呼吸は時々止まりますが、これは頭の中枢の命令なので、旅立ちの経過の中で起こってくることなんですよ。
せっかくうとうとしたくても、ずっと大きな声で揺り動かされたら、もしかしたら辛いかもしれませんよね。
まもなくお別れがやってきますが、どうしたら穏やかに、ご家族との時間を過ごせるのかを、みなさんで考えてみてくださいね。

呼吸のたびにペコペコとへこむ肋間筋をみてもらいました。
「おとうさん、今もこんなに全身の筋肉を使って頑張っていますよ。十分今までも頑張ってきましたよ。」と伝えました。

息子さんたちはもう良く分かってくれたようです。
それでも妻は、横にになる事も拒否し、食事もとらずふらふらでそばにいました。
ご家族の心配は、お母さんに移っていました。

その後酸素が入り、30度側臥位で気道が確保され、無呼吸も少し改善されました。
妻の血圧を測り、話を聞き二人の心強い息子さんに、少し任せても大丈夫とお話をして家を出ました。

愛する夫を失う悲しみや、わずかな時間でもそばにいたい妻の思い。
もう後は、ご本人の好きなようにするしかないと思いました。
後悔しないように。納得できるまで。

残された時間は、わずかです。