えつこのマンマダイアリー

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第2章 怒涛の日々 25.

2007年05月04日 | 乳がん闘病記
25.
 先生は最初の好意的な感じに戻り、口と手を同時にてきぱきと動かし始めた。「腫瘍の大きさは2cm以下です。先ほど言いましたように、リンパ節への転移も骨や他臓器への転移もないという所見なので、術前評価としての病期はIということになります。まだ初期の段階です」
 そう言いながら先生が書いた文章をのぞいてみると、「診断 左乳がん <2cm (T1. N0. M0)=病期I(術前評価)」とあった。
 私は自分ではだいぶ落ち着いたつもりでいた。でも、メモをとる手が震え、字はガタガタだった。―T1. N0. M0って何? まるで記号の羅列じゃん?!― 頭の中は“?”マークのオンパレードだったが、その場で説明を求めることはなぜかできなかった。
 帰宅後自分で調べてわかったことだが、「T1. N0. M0」とは、先生が口頭で説明した内容について、それぞれの段階を記号で表したものだった。

 Y先生が口頭と筆記とで私に伝えた内容をまとめると、次のようになる。
 ・診断は左乳がん(浸潤性がん) 
  T1. N0. M0:腫瘍の大きさは2cm以下・リンパ節への転移無し・
  他臓器への転移無し 
  よって、術前評価の病期*はI(正確には、切除した腫瘍の生検結果を
  待たなければならない)
 ・厚生労働省が現在定めている乳房温存手術ガイドラインは
  ①腫瘍径が3cm以下
  ②皮膚・胸壁浸潤無し・他臓器転移無し
  ③乳頭から2cm以上離れている
  ④患者様の強い希望
   この中で③が該当していない。しかし、④が該当するなら、
   同意を得た上で施術するもやぶさかではない。
 ・乳房温存手術を希望する場合の手術方法は
   ▽拡大温存手術(腫瘍の周囲+2cm分の乳腺を円状に切除する
    予定。腫瘍が乳頭に近いので、乳頭の裏側まで掘って切除し、
    断端の生検を行い、がん細胞が見つからなければ乳頭を残す)
   ▽術中のセンチネルリンパ節生検実施(そのために3~4cmの
    別切開を置く)
   ▽バックアップ腋窩郭清(センチネルリンパ節生検の結果が   
    陽性の場合、腋窩リンパ節を切除する)
 ・補助療法は、切除した病巣の永久病理標本の生検結果により、
  放射線療法やホルモン療法が考えられる。

 こうして後でまとめてみると、話はわかりやすいように見えるかもしれないが、そのときの私、素人である初心患者の私には、決してそうではなかった。これは事前に勉強していた予備知識と事後に調べた情報とを補うことで、ようやくまとめられたものだ。
 それほどY先生が何気なく使った言葉は専門用語だらけで、少なくともわかりやすくはなかった。おそらく悪気があってのことではないだろう。ひょっとしたら、最初にセンチネルリンパ節生検のことを訊いたりしたので、ある程度わかっていることを前提にして話されてしまったのかもしれない。
 私も私で、わからないことをその場で一つ一つ確認することは遠慮されてできなかった。
 現に、「別切開を置く」という表現が耳慣れなかったため、実は私は「せっかい」を「石灰」と頭の中で文字変換し、意味がよくわからないでいた。しかし、やはりすぐには訊き返すことができなかった。


 * 乳がんの病期は0期~V期の6段階で表される。しかし、乳管内にがんが留まっている状態である0期の例はごく少ないようだ。

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