「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

貝原益軒に学ぶ⑰「敵に対し勝負を争ふ時、はやり過ぎて勇むを貴ばず、しづまりてこらふるを貴ぶ。」

2021-06-22 14:07:11 | 【連載】道の学問、心の学問
「道の学問・心の学問」第五十八回(令和3年6月22日)
貝原益軒に学ぶ⑰
「敵に対し勝負を争ふ時、はやり過ぎて勇むを貴ばず、しづまりてこらふるを貴ぶ。」
                       (「文武訓」武訓下)

 益軒は言う「武には本末がある。忠・孝・義・勇は兵法の本である。それを武徳と言う。節制(軍法・人員配置や兵の派遣)や謀略が兵法である。弓矢や剣戟等兵器の術は兵法の末であり、武芸である。武芸は兵法を本とし、兵法は仁義を本とする。」と。武に於いては、仁義(武徳)・兵法・武芸の三者を兼ね備える事の出来る、日常の修養・修錬が求められるのである。人格を磨き、智略を練り、武芸を鍛え続けるのが武士の本務である。

 敵と対した時には、如何に沈着であるか、平常心が勝負を決する。益軒は言う「敵に対して勝負を争う時、はやり過ぎて勇み立つ事は貴ばない。鎮まって堪(こら)える事を貴ぶ。この事が敵に勝つ道である。只、忍ぶ事は難しい。忍ぶ事は堪える事である。(略)先ず動く者は負け、後で起こる者は勝つ。忍はまことに一字千金の兵法である。(略)はやり過ぎて、こちらから早く動けば負けやすい、能く堪えて動かないでいる事は難しい。それ故、能く忍ぶ事を貴ぶ。軽々しく動いてはいけない。未だ利が見えないのに妄りに動けば敗れ易い。君子は、重をもって軽を制し、静を以て動を待つ。神全く気定まって、心の動かない事を貴ぶ。」と。武道では「後の先」と呼び、敵の動きが起こる一瞬の隙をついて敵を制する事を修行するが、中々難しい。それ故、「忍ぶ」事は、余程の自信と精神力が無ければ為し得ない。恐怖心に負けて動いてしまうのである。

 その様な心の強さを身に付ける為には、平生の心の在り様が大切だと益軒は述べる。「武士たる者は、平生は温厚和平にして、怒りを抑え気色を激しくしてはならない。自分で何事も楽しみ、人々を愛さねばならない。その上で、常に高い志を持ち気を養って、義理のある事は進んで行わねばならない。危難に遭遇しても、平生の志を守って勇剛を失ってはならない。どの様な大事に臨んでも、かたく此の道を守り、心を動かしてはならない。強敵に俄かに出会い戦う事となっても、勇気を奮い起し、心を静かに保ち、動かしてはならない。」

 現代風に言えば、如何なる想定外の出来事が発生しても、動揺せずに冷静沈着に対応出来るかに、その人の日常的な修養の成果が出て来る事を教えている。急がねばならない時に、一呼吸待って冷静に物事を判断した時に、真の対応策は生れて来る。心の落ち着きが大切なのである。武田信玄は寝覚めの時や危急の時などには、必ず三回ほど胸から臍下丹田に気を下ろしてから動き始めたと言われている。「深沈厚重は是れ第一等の資質」(『呻吟語』)と言う様に、深沈厚重の資質が備わるべく日々の修養・修錬に励みたい。


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