列車は暗闇を突き進んでいく。
都会に住む私にとって、まさにそういう表現がぴったりの車窓である。
遠くに見える街灯の青白い点々の流れと、ゆらゆらと身体を揺らす左右の力で、この列車が走っていることが感じられる。
鉄橋を渡る音、トンネルを進む音。雷鳥48号は終点大阪に向けて愚直に枕木の数を高速で数えている。
車内販売の案内のアナウンスがある。少し甲高い若い女性の声だ。沿線のお土産、お弁当、ビールにチューハイ、アイスクリームにコーヒー・・・。車内販売は走るコンビニエンスストアだ。
しばらくして、彼女が席の近くまでやってくる。ショートカットで黒い大きな目が印象的な女性だ。
「お腹がすいたな。お弁当は何があるの?」と私。
「幕の内弁当と、マス寿司、海老寿司、かにめしがあります。」
「あぁ、久しぶりに福井のかにめしをもらおうか。」
「はい、ありがとうございます。こちらの かにめしは、越前かにめしと申しまして、日本海の冬の珍味、ずわいがにの雌の赤肉・卵巣・味噌などの内蔵をほぐして炊き込んだごはんに、かにの足や肩の肉をあしらった日本海の風味満点のおべんとうです。容器のまま電子レンジで1~2分暖めていただいたり、チャーハンや雑炊にしていただきますと、さらにおいしくお召し上がりいただけます。」
「そう、、じゃあ少し暖めてもらおうかな。」
「はい、しばらくお待ちください。」
彼女はワゴンの下部にビルドインされた電子レンジに かにめしをほおりこんで、タイマーを1分にあわせる。
「お飲み物はいかがですか?」
「じゃ、チュハイを。」
「はい、チュウハイですね。キリンの氷結レモンになります。でも、これ、ベースはウォッッカなんですよねえ。厳密にはチュウハイじゃないです。ウォッカベースは昔サントリーがタコハイっていう名前で売ってました。でも、缶のここにもCHU-HIって書いてますから、チュウハイって言って売ってますけど、こちらでよいですか?。」
「ああ、いいよ。」と苦笑しながら応える私。
「おつまみはいかがですか?」
「つまみは、さっき小松の駅で買った あまえび入りかまぼこがあるからいいよ。」
「はい、そうですか。」彼女は私の答えが自分にとって良い結果なのか、悪い結果なのかまったく頓着しない風に機械的に応える。
ち~ん、という音と共に電子レンジの庫内灯が消える。
「お客様、随分前に かにめし駅弁をお買い求めになられたことがありましたね。」
「あぁ、そうだ、あれは会社に入った年のことだったろうか。福井駅でかにめしを買って、越美北線に乗って大野まで行ったんだ。あのときの かにめしは、飯にしっかりと卵のつぶつぶが混ざっていて本当に美味しかった。あの日、越前大野駅の駅長室でその晩の宿を世話してもらった。そこは古いそして静かな旅館だったな。」
「お客様はお一人でしたね。」
「そう、気ままな一人旅だった。」
ここで、私は不思議に思う、そして彼女に聞く。
「え?どうしてそんなことをあなたが知っているの?」
「はい、私はあの時あなたに食べられた"かにめしの精"でございますぅ。」
ボンッ!と白い煙が立ち上がり、彼女は"かにめしの精"に変身する。
ショートカットだった頭には、越前蟹のかぶりものが乗っていた。
雷鳥48号は北陸トンネルの漆黒を突き進んでいる。
私はすっかりと眠りについていたのであった。
都会に住む私にとって、まさにそういう表現がぴったりの車窓である。
遠くに見える街灯の青白い点々の流れと、ゆらゆらと身体を揺らす左右の力で、この列車が走っていることが感じられる。
鉄橋を渡る音、トンネルを進む音。雷鳥48号は終点大阪に向けて愚直に枕木の数を高速で数えている。
車内販売の案内のアナウンスがある。少し甲高い若い女性の声だ。沿線のお土産、お弁当、ビールにチューハイ、アイスクリームにコーヒー・・・。車内販売は走るコンビニエンスストアだ。
しばらくして、彼女が席の近くまでやってくる。ショートカットで黒い大きな目が印象的な女性だ。
「お腹がすいたな。お弁当は何があるの?」と私。
「幕の内弁当と、マス寿司、海老寿司、かにめしがあります。」
「あぁ、久しぶりに福井のかにめしをもらおうか。」
「はい、ありがとうございます。こちらの かにめしは、越前かにめしと申しまして、日本海の冬の珍味、ずわいがにの雌の赤肉・卵巣・味噌などの内蔵をほぐして炊き込んだごはんに、かにの足や肩の肉をあしらった日本海の風味満点のおべんとうです。容器のまま電子レンジで1~2分暖めていただいたり、チャーハンや雑炊にしていただきますと、さらにおいしくお召し上がりいただけます。」
「そう、、じゃあ少し暖めてもらおうかな。」
「はい、しばらくお待ちください。」
彼女はワゴンの下部にビルドインされた電子レンジに かにめしをほおりこんで、タイマーを1分にあわせる。
「お飲み物はいかがですか?」
「じゃ、チュハイを。」
「はい、チュウハイですね。キリンの氷結レモンになります。でも、これ、ベースはウォッッカなんですよねえ。厳密にはチュウハイじゃないです。ウォッカベースは昔サントリーがタコハイっていう名前で売ってました。でも、缶のここにもCHU-HIって書いてますから、チュウハイって言って売ってますけど、こちらでよいですか?。」
「ああ、いいよ。」と苦笑しながら応える私。
「おつまみはいかがですか?」
「つまみは、さっき小松の駅で買った あまえび入りかまぼこがあるからいいよ。」
「はい、そうですか。」彼女は私の答えが自分にとって良い結果なのか、悪い結果なのかまったく頓着しない風に機械的に応える。
ち~ん、という音と共に電子レンジの庫内灯が消える。
「お客様、随分前に かにめし駅弁をお買い求めになられたことがありましたね。」
「あぁ、そうだ、あれは会社に入った年のことだったろうか。福井駅でかにめしを買って、越美北線に乗って大野まで行ったんだ。あのときの かにめしは、飯にしっかりと卵のつぶつぶが混ざっていて本当に美味しかった。あの日、越前大野駅の駅長室でその晩の宿を世話してもらった。そこは古いそして静かな旅館だったな。」
「お客様はお一人でしたね。」
「そう、気ままな一人旅だった。」
ここで、私は不思議に思う、そして彼女に聞く。
「え?どうしてそんなことをあなたが知っているの?」
「はい、私はあの時あなたに食べられた"かにめしの精"でございますぅ。」
ボンッ!と白い煙が立ち上がり、彼女は"かにめしの精"に変身する。
ショートカットだった頭には、越前蟹のかぶりものが乗っていた。
雷鳥48号は北陸トンネルの漆黒を突き進んでいる。
私はすっかりと眠りについていたのであった。