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50音図の落とし穴・・・続 ハ行の反乱③…元NHKアナウンサー塚越恒爾さんのブログから

2011-09-18 09:49:42 | 日本語学習法
中国で日本語を教えておられる川端さんから頂いた、以前のメールの中に、こんな一節がありました。
 ーーー「ハ行」の音は、母音に近い音ということでしょうか。学生達が、ときどき「私」を「はたし」と聞き違えることがあります。また、私自身もニュースなどの視聴覚教材を聞いていて「あれ?今のは「は」かな、「あ」かな」と思うこともありますーーー

 では、実際にハ・ヒ・フ・ヘ・ホのh音を出してみましょうか。
 この音は、わかりやすく言えば、カキクケコの子音k音と同じ所で出す音でして、違いは破裂音と摩擦音だということです。
 k音の場合は、この、舌の奥と口蓋の奥を、一旦閉じておいて、そこを呼気で突破して「K」と出す。いわゆる破裂音です。
 h音の場合は、同じ所に、少し隙間を空けておき、そこへ息を通す、いわゆる摩擦音です。
 (でも、摩擦と言うほどの摩擦はありませんので、隙間音といった方が分かりやすいと、私は思っていますがね)
 ともかく、舌先や唇などと違って、この辺りの口蓋は柔らかく、舌の奥の感覚はやや鈍いものですから、人によって、隙間の巾はマチマチになりやすく、これが「難しい音」とされるところです。それに、出る音そのものも頼りない。
 そして、この隙間が大きくなれば、h音はa音と区別出来なくなるのです。出しにくい音とは、実は聞き別けにくい音でもあります。

 そこで本題。
 唇の音「ph音」が「h音」に乗っ取られたのは、実は「語頭にくる音」が中心だったようでして、語の中や、末尾にくる音は、必ずしも、簡単に移籍は出来ませんでした。
 そこで、語中や語尾にくる音については、「変われるものは変わりなさい」「変われないものは、どこか居場所を探しなさい」「その際、表記については、それぞれ御勝手にどうぞ」・・・となったと考えるのです。
 
 だから、日本(ニホン・nihon)、気品(キヒン・kihin)、位牌(イハイ・ihai)・・・など、語中のh音が生まれる一方で、変わりにくい音、例えば「恋心(コヒゴコロ→コイゴコロ)、買い換える(カヒカヘル→カイカエル)・・・」などでは、表記も実際の音も、母音になってしまったのでしょう。
 こうした例は数多くあり、例えば、“思う” という動詞は、ついこの間までは“思ふ”と書かれていた。しかし、今では“思う”と、音に従って表記されるようになり、“思はぬ”は“思わぬ”、“思ひ”は“思い“、“思へ”は”思え“となって、音の変化に表記も引きずられて変わった。
 ところが、ハ行の助詞「〜は」は、「文字はハ行だが音はワ・wa音」となり、同じく助詞「〜へ」は、「文字はハ行で音は母音」と、音と文字とが、泣き別れとなってしまった。
 これを「思 い は・・・」と繋げてみると、「なんじゃ、このルールは!」となる。

 このことで、不可解な旧仮名遣いと新仮名遣いは、さらに昏迷の度を深めるとともに、50音図の落とし穴はどっと増えて、かつては、表音記号であった筈の仮名文字体系すら崩れてゆくのですな。
 
ハ行の移転については、もう一つ指摘しなければならない問題がありますね。それは、「フ」。なぜ、ヘボン式のローマ字では、この「フ」だけが「f」になっているのか。これは次回に・・