天津ドーナツ

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50音図の落とし穴・「ファ行」の再生へ・・・元NHKアナウンサー塚越恒爾さんのブログから

2011-11-13 10:02:20 | 日本語学習法
今年の一月に書き始めた「50音図の落とし穴」ですが、もう10回を数えたでしょうか。
 初めに取り上げた「サ行」や「タ行」の「落とし穴」は、その行の、音の変化として気をつければ済むのですが、「ハ行」の反乱ともなりますと、音の混乱ばかりでなく、表記と音の乖離、「仮名遣い」にまで、波紋を広げるに至りました。 
 9月にも書いたように、新らしもの好きな江戸の学者たちが、「漢音のh音」を、日本語の音として定着させようとして、「は行」を強引に乗っ取り、それまでの「ふぁ ふぃ ふ ふぇ ふぉ」という音を追い出してしまったのですね。
 
 この音の集団移動は、どおうやら語頭にくる音が中心だったようです。
 その語頭の場合も、「ハヒ ヘホ」は、なんとか収まりましたが、「フ」は未だに落ち着かず、宙ぶらりんです。
 また、語中にくるハ行は、表記は「〜は」で音は「〜wa」、「ひ」と書いて「i」、「ふ」と書いて「u」、「へ」と書いて「e」、「ほ」と書いて「o」と読むなど、表記と音との分裂を招き、旧仮名遣いの複雑さを、一深めてしまいました。
 でも、それだけで、これまであった音列が、全部収まった訳ではありませんし、「ファ行音」は、多くの地方語にしっかりと根付いておりました。

 問題は、なぜそれほど無理をして、“50音図の中に居場所を探さなければならなかったのか”ということなのですが・・・それには、時代の背景がありました。そのことに触れると少し長くなりますので、これは、のちほど、しっかりと書きましょう。
 
 今回の話は、そのすぐあとに、西欧から救いの手が伸びてきましたことです。
 いわゆるカタカナ語の定着です。
 もともと「f音」と混同されがちだった「ph音」は、ここでも混同されながらですが、ともかく復活を遂げるのです。
 50音図の脇役としては、拗音の表があります。
 「きゃ きゅ きょ」とか「しゃ しゅ しょ」、「にゃ にゅ にょ」、「ひゃ  ひゅ ひょ」など、イ段の母音を持つ拗音ですが、この別枠に「ファ フェ フォ」というカナ表記が、当然のこととしてですが生まれたのです。
 
 これも、新しもの好きの日本人の習性でしょうが・・・
 私は、これを「ファ フィ フ フェ フォ」として、50音の一行とすればよかろうと考えております・・・でも、そう考える人は、まだ少数派です。
 多くの学者諸兄の数える、日本語の「拍の数」がマチマチなのも、この音列の「どれを認めどれを認めないか」にかかっている気配があります。
 
 勿論、「フ」については問題がありませんね。問題は、それ以外の表記を、日本語と認めるかどうかですね。
 いまのところ、この行は、外来語だけに用いられる、50音表の番外としての存在なのですが・・・
 競馬のファン、野球のファン ファンタジーのファン・・・いずれも本当は「f」の音なのですが、日本人が外来語として発音するのは、殆ど「ph」の両唇音なのです。
 フェンシングはどうでしょう。垣根・フェンス、フェロモン、フェーン現象・・・も、カタカナ日本語として定着しています。
 また、フォルム・フォーム(投球の)、フォーカス(焦点)、フォーク(食器)も、もう日本語として欠かせない言葉になっています。
 いまのところ、語彙の少ないのは「フィ」です。
 それでも、電球のフィラメント、球場のフィールド、フィジカル、フィックス、フィルム、フィルハーモニー・・・ことに最後の例は元音も「ph音」ですね。
 さて、この音列を、正式な日本語の表記と位置づけるかどうか・・・ま、認める可能性は低いのではないか・・・認めたとしても・・・恐らく、時間が掛かると思いますねえ・・・

来月は、「ヤ行 ワ行に子音はない!」です。