夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

第9シリーズ:ショスタコーヴィッチ

2005-12-29 | music

 さて、このシリーズもいよいよって言うほどでもありませんが、最終回です。でも、この曲は今まで紹介してきた中でもいちばん評価がむずかしいでしょうね。シューベルトもブルックナーもマーラーも名曲ですって言ってればとりあえずすみますが、ショスタコーヴィッチの第9って、ふつうはベトちゃんの呪いを逃れるため軽めの曲にしたって言われてますから。演奏も最短の30分足らず。重量級のシンフォニーをいっぱい書いた彼にしては手抜きって言われても仕方ないでしょうね。お蔭でなのかどうなのか、彼は結局15曲のシンフォニーを書いて、まあベトちゃん以降の最高記録。くだらない作曲家はもちろん対象外。

 そういう意味ではこれを彼の代表曲に挙げるのはウケねらいでしかないでしょう。シンフォニーだと第5とかシュワちゃんの「ちーちんぷい♪ぷい♪」のCMで有名になった第7とかかな。私は第4とか第14が好きですけど。第14は「死者の歌」で、とてもこわい詩と音楽のカンタータみたいなものですが。

 私は20世紀で最高の作曲家って訊かれたら、躊躇なくショスタコーヴィッチを挙げます。なぜか? 音楽と政治の間で微妙な緊張関係の下で、自分の音楽を書ききったからです。こう言うと音楽以外のことで判断するなんてバカじゃないの?って言われるでしょう。でも、音楽ってなんなのかわからなくなっちゃったのが20世紀じゃないんですか? ピアノの前でしばらく何もしないなんて一発芸みたいなものを作ったジョン・ケージを挙げるまでもなく。……シェーンベルクたちが始めた12音音楽やその流れをくむ調性やメロディを放棄した音楽は、結局クラシックを聴く人を減らしただけです。この間ヴェーベルンについて書いたことと矛盾するみたいですが、こんなのふつうの人は聴かないよな、音楽のプロしかわからないしなっていうのはいつも感じています。新しい音楽が楽しくなければ古いのだって聴かれません。今のポップスを聴いている人がその音楽の元になっているビートルズとかをだんだん聴くようなことを考えてみれば明らかでしょう。逆説的ですが、玄人はだませても素人をだますことはできません。玄人は理屈と知識で考えて良い悪いを判断しますが、素人は常識と感覚で決めますから。

 別の言い方で言えば20世紀の音楽のかなりの部分は偽善的です。特に政治との関係において。芸術に限らず、多くの分野で政治との関係が強まったのが20世紀ですが、あまり気づかない例を挙げましょうか。ブリテンに戦争レクイエムって曲があります。第2次大戦で敵味方で戦い、亡くなったイギリスとドイツとソ連の若者たちに捧げられたものです。感動的ですね。英語、ドイツ語、ロシア語で戦争の悲惨と融和を説く。誰も反対できませんね。……だから、アマノジャクの私は政治的でうさんくさい作品だと感じます。音楽的にも中途半端だなって思います。これに類した作品は我が国にもいっぱいあるでしょう。

 さて、長々と書いてきたことがショスタコーヴィッチを高く評価する理由です。ソ連という、体制に反対どころか否定的なことを言っただけで、銃殺か、シベリアの収容所や精神病院に送られるような国で、彼も何回も失脚し、生命の危険にさらされ、その度に迎合したり、うまく逃げたり、要は体制や権力との間で右往左往したところが好きです。政治と無関係ですなんていう人は無自覚なだけで、北朝鮮にだっているでしょう。

 それで第9シンフォニー(1945)ですが、第5、第7と堂々たる作品でソ連芸術の実力を示して、さあ戦争に勝利したことでもあり、どれだけの大作なのかと思えば短い、からかうような調子の作品。体制側の批判を受ける原因になりました。でも、音楽だけを聴くとコンパクトに自分の音楽をまとめたって感じがします。いくらでも長くできるのを緊密な構成に仕立てたんじゃないでしょうか。第1楽章はおもちゃの戦争のような感じで、カリカチュアなんでしょうけど。そうした皮肉な調子も彼の本質です。



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