梅雨のわずかな晴れ間、キュウべえが巴マミのところへやって来た。
「あら、ひさしぶり。お茶でも飲む?」
「いや、遠慮しておくよ。…君は今は大学で物理を勉強しながら、数学の講師をしているそうだね」
「高校生相手の小さな塾でね。数学なのか算数なのかはわからないけど」
「じゃあ、この式は知ってるよね」
「ええ、オイラーの等式ね。つまんない小説や映画で有名になったけれど」
「つまんないか。…そうすると君はこの式の意味をわかっているのかな?」
「わかっているんでしょうね。十分かどうかは自信ないけど。…どうしてこれに興味を持ったの?あなたたちの文明なら小学校で習ったりするんじゃないの」
「そうでもないんだ。数学はコンピュータに任せておけばいいという考えが支配的でね。…ところが、この星の人間たちは数学を好きとか嫌いだとか、果ては美しいとか愛してるとか。全く理解できないよ」
「うふふ、それで知りたくなったの?」
「そうなんだ。巴マミ、ぼくと契約してこの数式の意味を教えてよ!」
「契約なんかしなくても教えてあげるわよ。殺されちゃかなわないわ」
「じゃあ、とびきりおいしいマカロンをあげるよ」
「その方がいいわね。…どこから始めようかしら。キュウべえの数学の知識はどれくらいなの?」
「君たちの授業を聞いてただけだから、中学の数学だけだね」
「あらら、それは大変。テーラー展開とかロンスキー行列なんかを使っちゃ無理ね」
「そういうのは説明になってないよ。本当はわかってないのをごまかしてるだけじゃないのかな」
「ふうん、一応は調べたのね。…虚数単位iの意味はわかってる?虚数:imaginary numberの頭文字だけど」
「2乗してー1になる数でしょ。暁美ほむらが『虚数を用いればX^2=-1にも解はあります』って早乙女先生を困らせてたから」
「ふふ、あの子らしいわね。じゃあ、始めるわ。…1に-1を掛けると?」
「-1でしょ」
「もう1回-1を掛けると?」
「1に戻るね」
数直線を書いて、1と-1が原点0を挟んで行ったり来たりする図を描く。
「こんな感じね。今度はiを掛けていきましょ。1×iは?」
「iだね」
「それにまたiを掛けると?」
「-1だね。…ははーん」
「わかってきたみたいね。3回掛けると?」
「-i。もう1回掛けて、4回目で元の1に戻るわけか」
「そう、それを図で描くとこうなるわけ。この複素平面を使えば実数+虚数の複素数(complex number)が表わせるんだけど」
「なるほど。iを掛けるっていう操作を90度回す操作と見ているわけか」
「そうだけど、ラジアンでπ/2と言ってほしいわね」
「ラジアンってなんだい?」
「角度の呼び方。…1の長さの棒でどれだけ棒の先が掃いたかってことよ」
「ん?…1の長さでぐるっと1周、円を描けばその長さは2π。その1/4の直角はπ/2か」
「うんうん。そうすると-1がπになるでしょ」
「ほほー、iからもう-1とπの関係が見えてきたね。簡単じゃないか」
「それがそうでもないのよ。ここからが面倒なの」
「そうなの?…オイラーの等式のπの部分を角度の変数だと見て、この円を表わした関数が式の左辺ってことでいいんじゃないか?」
「全くそのとおりよ」
「この式は複素平面における極座標形式での単位円の方程式を左辺は自然対数の底eによる指数関数を、右辺は三角関数をそれぞれ用いて表わしたものよ。これがオイラーの公式なの」
「…いきなりフィロ・フィナーレをぶちかましたね。さすがについていけない。もうちょっと話を聴くよ」
「あら、ひさしぶり。お茶でも飲む?」
「いや、遠慮しておくよ。…君は今は大学で物理を勉強しながら、数学の講師をしているそうだね」
「高校生相手の小さな塾でね。数学なのか算数なのかはわからないけど」
「じゃあ、この式は知ってるよね」
「ええ、オイラーの等式ね。つまんない小説や映画で有名になったけれど」
「つまんないか。…そうすると君はこの式の意味をわかっているのかな?」
「わかっているんでしょうね。十分かどうかは自信ないけど。…どうしてこれに興味を持ったの?あなたたちの文明なら小学校で習ったりするんじゃないの」
「そうでもないんだ。数学はコンピュータに任せておけばいいという考えが支配的でね。…ところが、この星の人間たちは数学を好きとか嫌いだとか、果ては美しいとか愛してるとか。全く理解できないよ」
「うふふ、それで知りたくなったの?」
「そうなんだ。巴マミ、ぼくと契約してこの数式の意味を教えてよ!」
「契約なんかしなくても教えてあげるわよ。殺されちゃかなわないわ」
「じゃあ、とびきりおいしいマカロンをあげるよ」
「その方がいいわね。…どこから始めようかしら。キュウべえの数学の知識はどれくらいなの?」
「君たちの授業を聞いてただけだから、中学の数学だけだね」
「あらら、それは大変。テーラー展開とかロンスキー行列なんかを使っちゃ無理ね」
「そういうのは説明になってないよ。本当はわかってないのをごまかしてるだけじゃないのかな」
「ふうん、一応は調べたのね。…虚数単位iの意味はわかってる?虚数:imaginary numberの頭文字だけど」
「2乗してー1になる数でしょ。暁美ほむらが『虚数を用いればX^2=-1にも解はあります』って早乙女先生を困らせてたから」
「ふふ、あの子らしいわね。じゃあ、始めるわ。…1に-1を掛けると?」
「-1でしょ」
「もう1回-1を掛けると?」
「1に戻るね」
数直線を書いて、1と-1が原点0を挟んで行ったり来たりする図を描く。
「こんな感じね。今度はiを掛けていきましょ。1×iは?」
「iだね」
「それにまたiを掛けると?」
「-1だね。…ははーん」
「わかってきたみたいね。3回掛けると?」
「-i。もう1回掛けて、4回目で元の1に戻るわけか」
「そう、それを図で描くとこうなるわけ。この複素平面を使えば実数+虚数の複素数(complex number)が表わせるんだけど」
「なるほど。iを掛けるっていう操作を90度回す操作と見ているわけか」
「そうだけど、ラジアンでπ/2と言ってほしいわね」
「ラジアンってなんだい?」
「角度の呼び方。…1の長さの棒でどれだけ棒の先が掃いたかってことよ」
「ん?…1の長さでぐるっと1周、円を描けばその長さは2π。その1/4の直角はπ/2か」
「うんうん。そうすると-1がπになるでしょ」
「ほほー、iからもう-1とπの関係が見えてきたね。簡単じゃないか」
「それがそうでもないのよ。ここからが面倒なの」
「そうなの?…オイラーの等式のπの部分を角度の変数だと見て、この円を表わした関数が式の左辺ってことでいいんじゃないか?」
「全くそのとおりよ」
「この式は複素平面における極座標形式での単位円の方程式を左辺は自然対数の底eによる指数関数を、右辺は三角関数をそれぞれ用いて表わしたものよ。これがオイラーの公式なの」
「…いきなりフィロ・フィナーレをぶちかましたね。さすがについていけない。もうちょっと話を聴くよ」
iってなんでしょう(´・ω・`)
虚数、複素数は高校で習うのかな。ぼくは中学生の時から知ってましたけど、いずれにしても初等数学です。
数学では複素解析とか言って、複素数は立派な研究分野になってるんですね。たしか波を記述するのにはなくてはならないらしいです。虚数が堂々と現実を記述するために使われているわけ。
「現実を記述するための言葉は、存在性を持つと言えるのだろうか」 こういう問いは数理哲学では面白いかもしれませんが、そしてとうことで数と言うものの本質を
示してくれるかもしれません。しかし、「使えるものは、使って便利なものは、存在する」と考えるのが普通ですよね。
レヴェルが変わると常識が通用しなくなるということです。
ぼくにとっては「時間は存在するか。存在するとすれば他の存在と同列に語れるか」という難問にしか興味はないですね。この問題について語る時間は「あり」ますか?w