きのうボクたちは、そこまで歩く。
肌寒い花ちらしの雨の午前。
あぁ、これが観たかったんだ、この人。
この人と一緒にボクたちは桜を眺める。
ひらりひらりと散る花びらを目で追いかけている。
どれどれ、ボクも柵から桜ちらしを眺めよう。
この人は大きな溜息をつく。
その溜息はどんな意味を吐いているのだろう。
どれどれ、ボクは花びらを体に透かせてみせようか。
透かせた花びらをどんな思いでみてるだろう。
この人は余程でない限り雨ふりに出歩かない。
たまの出番しかないボクたちにこの人の気持ちはわからない。
故にどんな溜息か、どんな思いかなんて知らなくてもよい。
ただこの人が雨のなか、じっくり景色を眺めていることが珍しい。
雨を避けながら傘の柄を握りしめるわけでなく、小走りで顔を顰めてもいない。
雨ではみない表情でボクたちネコ傘のなかから桜を透かせ散りゆく姿を眺めている。
ボクたちは雨が好きなので、この人と同じ散りゆく桜を眺める。
勿論、ボクたちは桜ちらしの雨も大好きである。
桜ちらしの雨のなか