カブトムシ事情
日曜日に長女一家が来て、カブトムシを持って帰った。我が家に居たのはちょうど二週間になるが、三晩続けて脱走してかなりの存在感を発揮した。そのせいか少し寂しい気もするが、卵から育てた本来の持ち主(飼い主)に返すのが筋であろう。
しかしよく卵から育てたものだと思う。私などの言わせると、カブトムシは捕ってくるものなのに……。
さてカブトムシと言えば、八月十三日放送されたNHKの自然番組「ダーウィンが来た」が実に興味深かった。この番組によれは昨今、各地の住宅街でカブトムシが謎の大集結が多発しているというのだ。
実際大集結している所がテレビに映し出されたが、驚くほど多くのカブトムシたちが一本の木に集まっていた。しかも昼間である。その上クヌギではなく、シマトネリコという亜熱帯の常緑広葉樹なのだ。
詳しい内容はここでは控えるが、カブトムシが増えた理由やなぜシマトネリコという木に集まるのかなどの理由が解き明かされた。なるほど人類だけではなく昆虫類も進化するのだなと思ってしまった。ただカブトムシの場合は環境の変化という、やむにやまれぬ理由があってのことだ。
実を言うと私は子どもの頃、かなり虫が好きだった。そして月並みではあるが、やはりカブトムシが一番好きだった。
夏になると電燈の灯りに誘われてよくカブトムシが飛んできた。それがオスだったりしようものなら、大喜びして捕まえたものだ。わざわざ捕りに行かなくても、好きなものが自分の方から飛んでくるなんて。今考えればなんて幸運な子ども時代を過ごしていたのだろう。
ただ一方では捕りに行くという行為も楽しかったのだろう。ある時期私は、自分だけの秘密の木を知っていた。たぶん当時まだ同居していた叔父に教わったのだろう。誰にも教えるなと言われたのだろうか。それとも自分が誰にも教えたくなかったのだろうか。とにかく誰にも教えずに、一人でこっそり行っていた。
秘密の木といっても田んぼの脇の林の中に生えている、一本のくぬぎの木のことである。そんなに大きな木ではなかったが、幹に穴があいており、中から樹液がこぼれ出ていた。その樹液を目当てに色々な虫たちが集まって来ていた。蜂や蝶(もしかしたらオオムラサキだったのでは?)に混じって昼間でもカブトムシやクワガタがいた。運よくオスのカブトムシを捕まえることができた時には、小躍りして帰ったものだ。
それから驚くほど年を取ってしまったものだ。あの頃の私が現在にタイムスリップしたとして、一本の木に無数に集まっているカブトムシを見て、どんな反応を示すのだろうか。感激して捕りつくすだろうか。それともあまりの異様さにひいてしまうだろうか。いやその前にこの暑さで倒れるかも知れない。などとまた昨今の猛暑の話になってしまいそうだ。
さて猛暑の話はもう飽きただろから、今日はこの辺で……。
それにつけても、早く涼しくなってくれないだろうか……。