0309_悪魔の祈り(001)裕也の冒険-悪魔の少女-
-悪魔の少女-
この土地の太陽は黒い金環(きんかん)である。
ここは、地球の裏側の世界。
夜は、闇に包まれる。
本来の夜を照らす月に力がなく暗黒の世界である。
昼は、辛(かろ)うじて明るい。
独(ひと)りの少女が、食べ物を探して山の崖(がけ)をうろついる。
この山には、森は無い。
街に果物(くだもの)の木があるが、
植物は全て死滅(しめつ)しかかっている。
不思議なエネルギーが伝わってくる。
「誰かが祈っている」
少女にもこのエネルギーのことが少し分かってきた。
何者かがエネルギーを出して、この次元の宇宙に伝えているのである。
何のため祈っているかは分からない。
過(か)ってここの植物は地球の欲望を吸収して育つていた。
いつからか欲望の吸収が上手(うま)くいかなくなった。
この世界の果実(かじつ)は枯れだしている。
「きっと、月が力を失(うしな)った所為(せい)だわ」
岩肌に光っているものがある。
苔(こけ)である。
不可思議な祈りを吸収しているらしい。
「今、命を繋(つな)いでいる食べ物は、この苔だけ」
少女は岩に生えている苔を削(けず)った。
少女の名は『デルアド』。
この世界は、悪魔の住む世界。
少女は、悪魔の子である。
悪魔に子供が出来るのは珍(めずら)しいことである。
少女デルアドは、苔を積み終わってふと思う。
(このエネルギーの主(あるじ)とあえる方法はあるのだろうか?
この主ならこの世界を何とか出来るのではないか)
少女デルアドは、そう考えるようになった。
そして、とうとう意を決した。
「そうだ。お婆(ばば)に聞いてみよ」
その足で街のお婆の家に向かった。
少女の村と違い街の大通りに住んでいる。
街一番の物知りである。
少女は、しばしば、話を聞きに行く。
しばらく歩き家の前に着く。
入口は、布が吊(つ)り下げられて仕切(しき)ってある。
「お婆。入るよ」
少女は、布を押し上げ中に入る。
お婆は、嬉しそうに少女デルアドを迎(むか)えた。
「お婆(ばば)。苔(こけ)だよ」
「また、お前かい。そうかぃ。うぅぅ」
歳のせいか悪態をつきかけるが、すんでのところで飲み込んだ。
(いかんいかん)
「うん。
ありがとう。
そうそう。
この苔は、力が出るね」
「たぶん。祈(いの)りのエネルギーを吸ってるから」
少女デルアドは、答えたが、すぐ口ごもる。
お婆は、何かを察(さっ)した。
「デルアド。
何か聞きたいことがあるんだろ」
少女デルアドは、正直に尋(たず)ねてみることにした。
「どうしたらこのエネルギーの主(あるじ)とあえるの?
何か方法はあるの?」
「苔にエネルギーを与えてる主(ぬし)かい?」
「そう」
「そのエネルギーの主(ぬし)は、仏様だね。
仏の血を飲めば魔力が増すと言うよ。
そやつを食らいたいのかい?」
「うぅぅ」
「あははは。
冗談だよ。
それはさておき。
呼び出すには、召喚(しょうかん)の儀式を行えばいいのさ。
異世界の者だって、
なんだって呼び出せるそうだよ」
「それは、どんな儀式(ぎしき)ですか?」
「私は知らないね。
ただ、お城の本棚に召喚(しょうかん)の儀式を記(しる)した本があると言う」
「ほんとうに?」
「わたしゃ。昔、城につとめてたさ。
書斎(しょさい)には、入ったことはないが。
お城の書斎は地下にあるそうだよ。
私が教えれるのは、ここまでだ」
この街を見下ろす丘に領主の古城がある。
少女は、手に3杯(はい)苔をとり皿にのせた。
それをお婆に渡して出て行った。
「ありがとうよ」
お婆は、何か嬉(うれ)しそうである。
つづく。次回(悪魔の祈り(002)-悪魔の少女-)
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