西向きのバルコニーから

私立カームラ博物館付属芸能芸術家研究所の日誌

北校舎 23

2006年02月09日 21時04分00秒 | 小説
 香川克利は、一学期のあの終業式の日に、大宅と大喧嘩をした奴である。その直後の夏休みに大宅が死んで、香川と大宅は、文字通りの喧嘩別れとなってしまった。香川にしてみれば、さぞ後味の悪いことだったであろう。その香川とも、浩人は仲良くなった。切れ長の眼光鋭い目で、大宅に殴り掛かっていく香川を見た時の印象から、浩人は香川のことを、相当野蛮なワルかと思っていた。が、実際付き合ってみると、単なるやんちゃ坊主であったことが判った。香川は浩人のことを「栗栖君」と呼ぶ。君付け派の中でも、妙に馴れ馴れしく、いつの間にか浩人を兄のように慕っていたし、浩人もそんな香川を弟のように思っていた。そして香川もまた、大のクルマ好きであった。
 その香川が、一度盗みを働いた。校内に駐車してあったスカイラインの、ヘッドライトの横に付けられていた<GTR>のエンブレムを盗んだ。スカイラインの持ち主は、大黒先生であった。浩人は勿論、共犯者ではない。しかし大黒先生の困惑する顔を想像すると、浩人は盗人香川を責める気にはならず、むしろ褒めてやりたい気もした。だが、悪事はそうそう旨くはいかない。香川の盗みはすぐに見付かり、大黒、白川両先生から、後で大目玉を食らうことになってしまった。

(続く)