「定期巡回」

２０１１年６月１２日（日）

最近、自治会の防犯パトロール隊はもちろん、防犯ＮＰＯやセキュリティ会社の
防犯パトロールの車が、防犯の呼びかけをしながらパトロールしている姿をよく見かける。
物騒になってきたんだねえ・・・という話をお向かいさんとしたら、お向かいさんが、
「先月だったか、家に戻ったら、玄関先で主人が警官と話をしているので、びっくり！
何があったのかと思ったら、定期巡回ですって。定期巡回なんて、いつ以来かしらと
覚えてもいないくらい久しぶりで、焦ってしまったわ・・」と。
ウィステのところは、去年来たわ。お向かいさんとは、自治会のブロックが別なので、
それだけ日時に差が出たのかしら・・？

そこで、ウィステが去年、定期巡回を受けた時のエッセイ・・・
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「定期巡回」

　チャイムの音に外へ出てみると、ヘルメットを被った屈強な男性が、門扉の向こうから、
「交番から来ました。定期巡回です」
　と、にこやかに語りかけてきた。半分開いたジャンパーの胸元から、下の制服の「千葉県警」
という縫い取りが見えるので、本当に警察官らしいがと、まだ様子を伺うような気分が残るのは、
一人暮らしの用心が身に付いたからなのかもしれない。
「警察手帳を見せてください」
　と、思いきって聞いてみたいが、彼の笑顔に、「疑うのは失礼かしら」との気持ちも湧いて言い出せない。
警官は愛想の良い態度を崩さずに、黒い表紙のカード綴りを開き、
「前回、このカードにお名前を書いていただいたんですよ」
　と、一枚のカードを示した。
　――これは……、私の字じゃないわ。私のならもっと角ばっている筈だし。
　　　　この細く滑らかな字は、……あの人の字だ。
　私は、思いがけずに差し出された夫の筆跡に、目が吸い寄せられた。「いつ書かれたものですか？」
　との問いに、彼は、
「平成十五年の七月ですね」
　と、答えた。私が、
「これ、夫の字です。夫は、この年の十二月に亡くなったんです。つい先日、七回忌をすませた
ばかりなんですよ」
　と、言うと、彼は驚いた様子だったが、
「それはそれは。六年ぶりなんですが、六年もたつと、いろいろと変わってきますよね」
　と、頷いた。
　夫が亡くなってから、夫の写真は居間にも仏壇にも飾ってあり、朝晩見ているが、夫の字は見るのが辛い。
夫はもう居ないのに、筆跡からはその時々の夫の思い、喜びなどがたち上がるようで、ダメなのだ。
私は、細々とした書き込みのある夫の謡本、数十冊を、引き出しに仕舞い込んだ。捨てることなど出来ない
けれど、本を開くことも出来ないままになっている。
　久しぶりに見る夫の字は、やや斜めに傾いでいて、現役で仕事をしていた頃より弱いような感じだ。
亡くなる五ヶ月前と聞いて、もう体調が悪くなり出していたかと、思いが走り、じっとしていられない
ような気分に陥った。
すると、警官は、カードの下の部分を指差し、
「このカードなんですが、緊急連絡先が書いてないんですよね。ほら、ここです。それで、緊急連絡先、
貰えますか？なんかの時にあるほうが良いですからね」
　と、言い出した。私は気持ちがうわずり、
　――お手数をかけて申し訳ないわ。あの頃は二人暮らしだったから、どっちかがどうかなっても、
　　　　もう一人がいるしって、あの人は考えたのかな。
　と、弾かれたように住所録を取りに行った。
　私が手元の住所録を見ながら他県に住む三人の子供たちの名前、住所、携帯電話の番号を読み上げ、
彼が書き込み、カードには、夫と私の名前の下に、三人の子供たちの名前が、かっちりした字で並んだ
のだった。引き上げる前に彼は、
「これは緊急の場合だけしか使いませんから。交番の金庫で他の人に見られないよう、ちゃんと
保管しておきますので」
　と、請合っていったが、私は、温かい室内に戻ると、なんだか心がうろうろした。
　――やっぱり、あの人の字を見たのが、いけなかった……。
　つい、いそいそと子供たちのプライバシーを教えてしまったけれど、本当に必要だったのかな？
良かったのかな？
　私は、警官が別れ際に置いていったチラシの「振り込め詐欺に注意」と大きく書かれた文字から
目を離せないまま、
「いやいや、彼は間違いなく本物の警官だったんだから、教えていいんだって」
と、自分に言い聞かせていた。

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そう、彼はやっぱり、本物の警官だったんです・・・。
最近、窓を開けることが多くなったけれど、出がけに閉めること忘れて、何度も、セキュリティに
ピッ、ピッと警告される。
うっかりしてても、安心～。（＾＾）←いけません・・・。