園長が話しだしたこと。簡単にいえば、俺の昇格・・・。単純に喜べないのは、俺が此処をやめようと決めていたから・・・。そして、悪い事にこの昇格は俺の辞職を反古にさせる事情の上に成り立っていた。
「実は、江崎君が退職することになったんだ」え?寝耳に水というのは、こういう事かもしれない。俺の心中は複雑だった。先を越された?と、言うわけではない。江崎が、俺のように・・笑子との交渉に虚しさを感じながら自分の . . . 本文を読む
江崎から、笑子のノートを受け取ると
俺はそれにゆっくりと目を通した。
毎日の体温。食事の量。排泄状態。
女性機能である生理の状態。
ことこまかく記載されてきた事実。
言い換えれば
江崎は笑子の介護に細心の注意を寄せていたと言える。
俺が見る限り、笑子が体長を崩したことが無かったが
これも江崎の体長管理が行き届いていたからだ。
他の患者がときに食あたりをして、
掛かりつけの病院か . . . 本文を読む
江崎の代わりに俺が介護の主任格になったわけだから、
新しく補充された男は俺の代わりという事になる。
学校を出て、1年老人介護施設で働いただけだという、
まだまだ経験の浅い男は
笑子の介護補佐に従事することに
まず、驚いただろう。
「女性・・ですか?」
被介護者が女性ならば、女性の介護員が世話をするほうが
良いに決まっている。
そこで、笑子の経歴が説明され
男性職員でなければ
. . . 本文を読む
その夜・・・当直の身分を随意に俺は笑子をまさぐり出していた。
俺を煽ったのは、笑子の空中遊泳の腕の描画のせいじゃない。
昼間の新人の言葉に俺は翻弄されていたと言っていい。
江崎が恋しい・・
俺が吐き出した返答に俺の独占欲?
いや・・・、少なくとも俺には、笑子を独占したいという思いはない。的確にいうのなら、所有欲・・と言うべきだろう。
笑子にセックスを与え俺に与えられた快感に酔う笑子が江 . . . 本文を読む
まずい・・・。衝動がおさまったあとの後悔は今更取り返せる事実ではない。
妊娠・・・の一文字が俺の頭に大きく浮び俺はその可能性が無いことを確信したくて、笑子の日誌を取り出そうとした。
だが・・・・。俺が江崎と交代してから・・・、笑子の生理の処置をした・・覚えが・・ない。
新人の育成や笑子へのメイン介護やそして、俺の底に渦巻いていた江崎への嫉妬・・・。こんなものに振り回され、俺自身が忙しさに取り . . . 本文を読む
「あ・・」俺の頭に江崎と笑子の交渉を目撃したあの日のことが蘇ってきていた。
所長はすべてを察している。俺がこの個室の中で笑子に何をしていたか・・・全てを察している。
「おかしいな・・と、思っていたんだ」
きっかけは笑子の定期健診だったという。年頃になった少女の生理周期が崩れていた。生理異常から、子宮などの病気も検診の対象にすべきだと所長は婦人科の検診も定期健診の項目に加えた。
そこで、婦人 . . . 本文を読む
所長の腹のうちは読める。
江崎の日誌が確たる証拠になる・・。
これは、嘘だといっていい。
だが、その嘘を嘘だと、証明するためには
所長が盲判を押していたことを認めさせるしかない。
従業員の勤務日誌を勤務内容と照合せず、確認判をおしていたのが、所長だ。
所長は自分の保身のためになにがあっても、盲判を押していたとはいいはしない。
いや、いえはしない。
園の存続と所長の地位を護るためにも . . . 本文を読む
事実はいやおう無く現実をつきつけてくる。
笑子の妊娠・・・。
これは・・・、
逃れようもない現実として
俺を押しつぶす事になるはずだった。
ところが・・・・。
俺は・・・
あの当時のことを
今、思い返しても・・信じられない。
信じられないが
所長の措置によって、
俺は今も、名実ともの
ヴォランティアとして、
介護の仕事を続けている。
あの時・・・・。
笑子の妊娠を医師 . . . 本文を読む
俺の措置は・・結局、何も無かった。何の変化も降格も謹慎も減給も・・・いっさい無かった。
所長は何も無かったことにしたがった。
だから、俺の措置もなにも問わないことで俺に暗黙の枷をはめた。
俺がその枷に気が付くのは、もう少し後の事になる。
なにも、無かったことにするためにも、俺はあえて、徳山の事実も話さなかったし堕胎された水子の性別も何ヶ月になっていたのかも、聞かなかった。
おそらく、江崎 . . . 本文を読む
俺は笑子を見舞う前にまず、担当医の元へ足を運んだ。
そこで、聞かされたことは俺を震撼させるに十分でそのあと、笑子の病室に入っていったけれど、笑子が俺を見つけて笑った顔が早送りのフィルムのように俺の脳裏で途切れずずううとつながって俺にいまでも、くっきりと、その時の衝撃と笑子の笑いをよみがえらせる。
そう、俺は、笑子の笑いによって、初めて自分にはめられた枷にきがついたんだ。
担当医の話はこうだっ . . . 本文を読む