憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

笑う・・終

2022-08-19 20:50:22 | 笑う女

俺は笑子を見舞う前にまず、担当医の元へ足を運んだ。

そこで、聞かされたことは
俺を震撼させるに十分で
そのあと、笑子の病室に入っていったけれど、
笑子が俺を見つけて
笑った顔が早送りのフィルムのように
俺の脳裏で途切れずずううとつながって
俺にいまでも、くっきりと、その時の衝撃と
笑子の笑いをよみがえらせる。

そう、俺は、
笑子の笑いによって、
初めて自分にはめられた枷にきがついたんだ。

担当医の話はこうだった。
「笑子さんが暴れるのは女性の看護のせいばかりじゃないんですよ」
「と、いいますと?」
「性的欲求の解消をのぞんでいるんですよ」
「え・・・ああ・・はあ」
そうかもしれない。
見知らぬ場所に行った笑子が見渡せば
交渉を与えてくれるいつもの男がいない。
要求のサインの腕を上げても、誰も取り合わず、
笑子の感情は無視され、
己の存在認識さえ定かでなくなる孤独。
隔離されている存在になった自分への不安と寂しさ。
笑子は暴れることで
俺達を呼ぶか、希求を叶えろと訴えたのだろう。

「無穴症って、ご存知ですか?
女性の局部がふさがっていて
文字通り、穴が無いという病気があるんですが・・・。
そんな症状の女性がね・・・。
年頃になって、性への欲求を体内に発動させることになると・・・、
何も無い場所になにかをおしこもうとして、あげく、
血だらけになって病院に運び込まれてきた・・・という事が
実際に当病院であったのですが・・
笑子さんの状態もそれによくにているんですよ。
一度、性を教え込まれた人間はもう、後に戻れないとは言いますが
さっきの事でもわかるように、
性を知らないはずの人間でさえ自分をきずつけてまでも、
性にとらわれるものなのですよ。
笑子さん・・・と特殊な関わりを持った、持たない、
こんなことを責めようとか
白黒はっきりしろとか、いってるんじゃないんですよ。
笑子さんを介護してゆく上で
むしろ、あえて、性交渉が必要になってくるという事です。

それが、出来なければ
無穴症の女性のように笑子さんは
何らかの形で自分を傷つけてゆくのです。

じっさい、身体の自由が利かない笑子さんが
自分で自分を傷つけるのも容易じゃないわけですから・・・・。

今・・・こうやって
暴れるという行動も笑子さんの精神が均衡をくずしているという意味で
これも、自分を傷つけてゆく代償行為なのです」

つ・・・つまり・・・。
ソレを回避するためにも・・・
俺は笑子にこの先もセックス・ヴォランテイアをつづけてゆかねばならない?
俺の意志でなく・・・。
笑子の意思に牛耳られ
俺は笑子にセックスを奉仕する・・・ヴォランテイアという名前の性奴隷?

徳山の言うように
俺が思ったように
笑子が性玩具でなく
およそ、人間らしい意志を持たない
精神障害者の下僕・・・性玩具に成り下がるのは・・・

俺の方?

ふらふらと立ち上がった俺の脚が笑子の病室を目指し
ドアを開けた俺を笑子がみつけると
頂戴と伸ばした腕の向こうに
思い通りになったといわんばかりの笑子の微笑があった。

                   終



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