ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

詩「見失う」

2010-06-18 06:08:40 | 
空をいくら見上げたところで、空の全部は手に入らない。

空は見上げるたびに姿を変えるから、困惑する。

空を見上げた視線はどこまでもどこまでも遠くにゆき、見失う。

空を見ているように君を見ている僕は悲しいだろう。

僕は空に浮かんだ雲を嫉む。

空を見ているように君を見ている僕は悲しいだろう。

また今日も空を見上げる。

サイレントピアノ 斎藤典子

2010-06-17 04:52:28 | クンストカンマー(美術収集室)
いささかに錆つきはじめし少年の自転車雪の夜に盗まれつ

自転車は少年に世界が広いことを教えただろう。そんな自転車もいつしか乗らなくなって錆び付きはじめる。すると自らの役目を終えたように雪の夜に姿を消した。実際は盗まれたのだとしても、作者にとってそれは少年が少年時代を終えた象徴だと感じたのではないか。

サイレントピアノ 斎藤典子

2010-06-16 06:07:11 | クンストカンマー(美術収集室)
歯ブラシの使ひ古しを捨つるごと春のひと日は過ぎてゆきけり

使い古しの歯ブラシを捨てるのはどこか思い切りがいる。そんな風に一日一日春は自らの気配を捨てて夏になっていく。ただ作者は少しあわれを感じていないだろうか。まるで捨てられた歯ブラシのように、どんな一日も終わってしまうことに。