ヤマヒデの沖縄便りⅣ 歩き続けて 歩き続ける 再び

「基地の島」沖縄を歩き続け35年、気ままに綴ります。自然観察大好き。琉球諸島を戦場に据える「島嶼防衛」は愚の骨頂。
 

【拡散願います】「ずっとやんばる ずっとうちネコ アクションプラン」(案)―二項対立という「ワナ」でごまかされてはならない(20230508)

2023年05月08日 | 考え直すために

(Ⅰ)はじめに
 私は4月27日にブログに書いた事から、深みに嵌まっている。タイトルに示した文書であり、副題に「沖縄島北部における生態系保全等のためのネコ管理・共生行動計画」とある文書だ。これは沖縄県・国頭村・大宜味村・東村・環境省沖縄奄美自然環境事務所の5団体がまとめたようだ。
 初めにお断りしておきたいのだが、私は「猫派か、野生保護派か?」と問われれば、明らかに後者だと自覚している。そこを押さえていただき、お読みいただきたい。
 この文書はA4で10頁足らずのものだが、何度読んでも分かりづらいのだ。否、単純すぎるからだろう。問題の本質をずらしている。以下検討したい。

(Ⅱ)「アクションプラン」概要
 目次を見れば、彼らが指摘する問題が理路整然と列挙されている。「①目標1.森林域においてネコが確認されなくなること。②目標2.沖縄島北部のすべての飼いネコが適正飼養され、飼い主不明ネコがいなくなること。③沖縄島北部以外からネコが流入しない状態とすること」。この3点が本アクションプランの目標であり、結論だ。
 この3点をさらっと読む限り、熱烈猫派の皆さん以外、納得するかも知れない。しかし野生保護派の私でも、あれれと思いながら、合点がいかず、この文章化に1週間余りかかってしまった。
 この文章には落とし穴が仕掛けられているようだ。冒頭にこうある。「『ずっとやんばる ずっと内ネコ アクションプラン』という名称は、①やんばると呼ばれる沖縄島北部が有する豊かな生態系が、ずっと存続されるように(ずっとやんばる)、②ネコを適正飼養することでネコの安全、健康が守られ、ずっと飼い主のもとで暮らせるように(ずっとうちネコ)、目指すべき地域の将来像を表したものである。『共生』とは、『ネコを適正飼養することにより生態系に悪影響を与えずに人とネコが共生すること』を指す。/本計画は、森林域からのネコの排除、飼いネコの適正飼養、沖縄島北部以外のネコの流入防止等により、希少種の生息状況の改善を図ることを主な目的として、沖縄島北部の生態系保全、公衆衛生の維持・向上及びネコの安全の確保・健康の維持に寄与するため、関係機関等が連携して迅速にネコの対策を進めることを目指すものである」とある(下線は引用者が付した)。
 目的は「希少種の生息状況の改善を図ること」である。しかし「沖縄島北部の生態系保全」は、そんな単純な対策で改善されるのだろうか? 野生保護派の私だからこそ「嘘だろう」と思う。

(Ⅲ)動機が不純
 環境省は、何故このアクションプランを急いでいるのか? 沖縄県、国頭村・大宜味村・東村は、何故追従しているのだろうか? それは、この地域が2021年に「世界自然遺産」に登録されたことにある。このことを大義名分にして、世界遺産となったやんばるの、亜熱帯林、希少種・固有種も多いやんばるの森を守っているとの「やってる感」を演出したいが為だろう。
 「野生希少生物VSネコ」の二項対立を煽れば、本質論議を回避しながら、事を進めうると高をくくっているのだ。私は、動機が不純としか思えないのだ。そう考えれば、何故これほど単純な思考回路で結論を出せるのか、納得できよう。

①そもそもの疑問―ネコと人間について
 このプランは、「ネコ」を何通りかに分類している。「ノラネコ」、「飼いネコ」、「適正飼養されたネコ」などと分類し、ランクづけている。
 また、誤解を恐れずに言えば、私はネコを「外来種」と捉えることを疑っている。自然状態(原始)のやんばるに、ネコは生息していなかったことは確かだろう。しかし「やんばる」という名は、人間が住むようになったから付いたのだ。ネコも人間と共にやんばるにも暮らし始めた。確かに原始の時代から考えたら、ネコは外来種。狭いやんばるの野山に、人間と共にネコは進出したのだろう。ネコは人間と共に暮らし、歩んできた動物だ。こう考えると、一番の「外来種」は人間ではなかろうか。ここを脇に置いて考えていいのだろうか。「外来種」である人間を差し置いて、ネコを「外来種」とするのは、フェアではない。人間は格別な「特権」を有しているのだろうか。
 ここが自然環境問題を考える際の原点だと私は考える。私たち自身を問うことになり、難しくなるのだが、避けて通れない道筋だ。「常に人間を正当化したい」のが人間だからだ。人間のエゴ。しかし本来人間界も自然界の中から生まれてきたのだ。それが巨大な力を持ち、圧倒的な支配力をもってきた。近代化はその格差を支配/被支配の関係を益々絶対化してきたのだ。
 
②環境省の思惑
 だから環境省は、ネコをターゲットにして、お茶を濁したいのではないか。環境省は、「適正飼養されたネコ」と言うが、ネコは気まぐれだ。すたすたと俊敏な動きで出歩くものだ。これを「ずっと内ネコ」にしておけば、暴れ出すだろう。密かに外出してこそ、ネコはネコたり得るのではないか。
 私は、ネコが希少種を食べる可能性を否定できない。「適正飼養」というが、人間がネコに、十分に食べ物を与えたとしても、ネコも犬も他の動物を狙うのは、私が身近に見てきた限り、食欲を満たすだけではない。遊びの要素もある。こうだとすると、いくら飼い主が食べ物を適正に与えても、希少動物を襲う可能性はゼロにはならない。「適正」の幅は完全隔離しかなくなる。この流れは、ネコへの虐待の道を拓いていきかねない。愛猫家が最も恐れるところだろう。

③環境省の思惑―2
 前項で、私はやや一般的な批判をしておいた。しかしこの背景はなかなか政治的だ。東村と国頭村の間に北部訓練場がある。約7500ヘクタールもあった。これが1996年のSACO合意により約4000ヘクタールは返還されることになった。2016年12月のことだった。日米合意から20年後のことだ。それも6個のヘリパッドを東村高江周辺に新設し、海域からの上陸訓練を可能とする提供区域を付け、住民・県民の猛反対を蹴散らして強行された。
 政府・環境省は、2018年6月、その返還地の3700ヘクタールをやんばる国立公園に編入した。なんと米軍が残していった廃棄物等の処理もせずに形を整えたのだ。この上に、「世界自然遺産」を冠したのだ。環境省も被害者かも知れないが、環境を守りたいならば、防衛省に問題を突きつけ、解決を迫るべきだろう。何もせずにこの様だ。

(Ⅳ)どう考えるべきか?
 以上の論考で、私の批判を終えては解決に至らない。しかし今の私に名案はない。この問題をまとめて考えている時間がないのだ。せめて要点だけを記しておく。

①やんばるの森を守るために
 第一に、自然生態系としてのやんばるの森・生物相(希少種のみならず)についての知見をまとめていくことだろう。分野を超えた自然科学者が協力して、基礎研究を進めるべきだ。このアクションプランに示されているような断片的な知見だけで、分かったような「顔」をしてはダメだろう。
 第二に、やんばるの森を圧迫しているのは、何かを見極めることだろう。アクションプランには林道がイヌやネコの進入を容易にしたとあるが、問題はそれだけに留まるまい。面的な森の破壊は、亜熱帯の森を剥がしてきた。ヤンバルクイナ等が林縁に、人間の居住地にでてきたのも、このせいだろう。ヤンバルクイナは何しろ、あれだけ目立つ姿をしていながら、「新種」と認定されたのは、1981年のことだ。42年前にすぎないのだ。
 第三に、(Ⅲ)の③で記したが、やんばるの森に広がっている「北部訓練場」が米軍に提供されている(さらに米日共同使用が拡大している)。こうした演習の力が自然生態系を圧迫していないか。市民は、行政ですらも、米軍演習場の中に立ち入れず、調査研究もできていない。また2016年末に返還された地域は、未だに米軍の遺物が大量に残されたまま、原状回復がなされていない。「日米地位協定」の弊害だ。その上で、法的には日本政府が廃棄物等を処理することになっているが、沖縄防衛局はこれを無視したままだ。こうした現状を告発している人がいるのに、逆に権力に起訴されている始末だ。
 
②ネコに対してとるべき対策など
 沖縄島北部以外からネコが流入しない状態とすることなど、個別の対策は必要だろう。やるべきことはあるのだが、二項対立を煽るようなやり方は、不信感しかもたらすまい。地元の愛猫派、地元の野生生物保護派、無関心派は、「世界遺産」という名目で箔をつけるのではなく、改めてやんばるの森と、その中での暮らし方を考え直し、あり方を探る努力が求められているだろう。
 地元外の私たちは、ネコ対希少種を超えて、やんばるの森を考え、学ぶことを課題にしていくべきだろう。本筋を外した対策はマイナスにしかならないだろう。

③沖縄県などの行政に対する要望
 沖縄県、国頭村、大宜味村、東村に以下のことを要望したい。沖縄の人々のアイデンティティーの欠くべからずやんばるの森について、国の主張に惑わされず、正面から捉えていただきたい。こうした二項対立のままでは抜け落としかねない内実を積極的に拾っていただきたい。国立公園であれ、世界遺産であれ、沖縄の森であり、空であり、海なのだ。地元の声を、意思を示していこう。

参考資料 ①:面積
 国頭村:194.8平方キロ
大宜味村: 63.45平方キロ
東村: 81.88平方キロ
計 :340.13平方キロ

参考資料 ②:北部訓練場
7500ヘクタールが、3533ヘクタールに。
約4000ヘクタールの返還地の約3700ヘクタールが国立公園に。
しかし米軍は返還地に廃棄物をすてたままであり、沖縄防衛局もろくに片付けないまま今日に至っている。さらに米軍は返還地内外でも演習を繰り返している。

 



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