●本稿は「世田谷市民運動『いち』382号22年12月1日号に寄稿しました。
「防衛計画大綱」が課した小さな島の、大きな転換―「島嶼防衛」の流れを見る②
(Ⅰ)日本国の軍事計画たる「防衛計画大綱」と「島嶼防衛」
③「動的防衛力」(2010年12月)から「統合機動防衛力」(2013年12月)へ(①、➁は前号)
2010年の「防衛計画大綱」について、超概略を前回書いた。この国は「動的防衛力」を「島嶼防衛」に乗り出すことで、武力対武力の構えを明確に打ち出し、陸海空の統合力に着手した。
2013年の安倍政権下の「防衛計画大綱」は「統合機動防衛力」を打ち出した。防衛計画大綱は、従来10年程度の計画とされていたが、3年で改訂された。ここに米国政府と安倍政権の思惑が込められていたのだ。「一層、厳しさを増す安全保障環境の下」と、自ら武力強化を進めていく硬直した認識に立って、「統合機動防衛力」を打ち出した。「統合」については説明済みだが「機動」とは何か? 打撃力の行使を目標に向かって総合的に動いて叩く態勢・実力だ。殆ど基地を置いてこなかった「空白地帯」に、新たな基地を造り、全国展開できる態勢―機動力を造ろうというのだ。
13大綱の「Ⅲ 我が国の防衛の基本方針」で「3 日米同盟の強化」を打ち出した。ここで、「日米防衛協力のための指針」の改訂が提起された。この2行が、軍事指針の改訂と「集団的自衛権の合憲化」という日本国憲法第9条の超法規的改憲に密接に繋がっていく。当時の私はこの問題の深刻さを捉えきれていなかった。
新たに打ち出された「中期防衛力整備計画」(2014-18年度)は、「陸上総隊」(従来の「方面隊」単位の指揮系統を、一元化した指揮系統へ再編する司令部・組織)や即応機動師団・即応機動旅団、水陸両用作戦能力をもつ水陸機動団の新編等を打ち出した(先に記した「機動」軍団)。この陸上総隊は2018年3月に創設され、自衛艦隊、航空総隊と3軍統合作戦態勢ができていく。
④「日米防衛協力のための指針」(2015年4月)
これを詳細に検討する必要があるが、ここでは無理。米日両政府と相互の軍隊が、平時から有事まで包括的に指揮系統を米日間で調整し、遂行できる態勢を造ることを確認し、集団的自衛権の行使も「アセット(武器・弾薬等)防護」を名目に確認した。この締結は2015年4月27日。安倍政権はこの改訂を先行させながら、戦争法を同年9月に強行採決した。
この指針の改訂と戦争法で、米日共同統合軍(米軍の指揮下で動く「自衛隊」)の基礎ができたと私は考えている。それを確定していくのが2018年大綱となる。
⑤米国・米軍と一体となり、「専守防衛」をぶち壊す2018年大綱
2018年大綱は著しく変貌しており、軍事態勢のみならず「国家再編」と言うべきだ。以前はごく短文だった「Ⅰ 制定の趣旨」が著しく膨張。「独立国家として」を大上段に掲げ、「平和国家」なる言葉を交えながら、「自由で開かれたインド太平洋」の盟主になるようだ。
ハイブリッド戦、サイバー戦、電磁波戦を前面に打ち出し、「多次元統合防衛力」を掲げている。「独立国家」と言いながら、「防衛力を強化することは、日米同盟を強化することにほかならない」と続けている。「防衛力は、(中略)我が国が独立国家として存立を全うするための最も重要な力」と断言。国家の根底に軍事力を据えたいのだ。
私は訴える。字面だけ「日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならない」と言いながら、「島嶼防衛」の強化、空母を持ち、スタンドオフ防衛力をもつという。スタンドオフ防衛力とは、相手のミサイル等が届かない遠方から攻撃できる武力のことだ。遠方の洋上から打てば、確かに届かず反撃されないかもしれない。しかし琉球諸島も、日本列島も動かない。攻撃部隊は逃げても、私たちは逃げられない。「国民の生命・身体・財産を守る」と言う政府の下で、市民が軍事力の犠牲になる国家で、いいのか?! これは、「再び来た道」ではないのか。
ここに2022年末の軍事3文書の書き換えの基礎が打ち出されていたのだ。次回、琉球諸島から見た「島嶼防衛」の実態に迫りながら、この問題を考えたい。