2020年12月8日、沖縄防衛局は辺野古美謝川の付け替え工事の第一歩として、辺野古ダムなどでボーリング調査に入った。このことについて、うるま市島ぐるみ会議(既報-2020年12月Ⅰ日)や地元の名護市政を考える女性の会が名護市に申し入れを行う(2020年12月2日)などアクションを起こしてきた。
これに対して、渡久地武豊名護市長は「(沖縄防衛局が)ボーリング調査を行っていることは承知しているが民有地で防衛局は地主の許可を得ており市として関知しない。市には防衛局から水路切り替え工事の申請は届いていない。申請されたら適切に対処する」と答えたそうだ(12月2日)。
しかしこれは話しが逆流している。水路は上流から下流に流れるものだ。水路の付け替え工事は、先ず新たな水路を造った上で、既設の水路を破棄することになる。新しい水路のためのボーリング調査に着手するということは、既設のモノを破棄することの同意をえずにやることはありえない。この既設の辺野古美謝川の管理者は名護市だ。要するに沖縄防衛局は既に名護市の内諾を得ているはずだ。国や県が行う申請は認可でなく、協議ではあるが、行政行為であり、文書で申請することに変わりはない。申請すれば、市はこれを受理して協議となる。これが然るべき手続きというものだ。また名護市は12月Ⅰ日のうるま市島ぐるみ会議の申し入れに対しておかしなことを言っていた。ボーリング調査をやってこれから設計するのだから沖縄防衛局は市と協議する段階ではないと。これも今述べたとおり、既設の水路を除去する計画の上に新たな水路を造るのだ。要は基本設計はできており、ボーリング調査の結果で詳細設計を造ることになる。市民はこんな誤魔化しに欺されてはならない。
そこで私なりにこの辺野古美謝川問題を紐解いてみたい。辺野古美謝川の問題は幾つもの要素が重なっている。①基地建設を行いたい沖縄防衛局にとって、これはかなりのネックになっている。基地建設のための造成工事の範囲にこの川が流れ込んでおり、この水路をどかさないと溢水してしまうのだ。国は何が何でもこれを付け替えないと、軟弱地盤以前に新基地建設はアウトになってしまう。②辺野古ダムは名護市水道の原水となっている。住民への給水という死活的な問題なのだ。③辺野古ダム付近は実は年に何回か大雨が降ると国道329号に水が溢れだし、交通が止まってしまう。不用意に付け替えたら、水難が悪化しないだろうか。④森の中を流れる水路である以上、ただの管路ではない。そこに自然生態系が生きているのだ。そして従来の大浦湾は、こうした何本もの淡水の流れがひとつの特徴的な生態系を生み出してきたのだ。沖縄防衛局はこうした環境への影響を解析しているのだろうか。
①現在の辺野古美謝川の河口は辺野古崎の中心部から北西に約750mの位置にある。埋立て予定地のど真ん中に流れ込んでいる。国の計画ではこれをさらに北西に750m移し、K-9護岸の外(北)側に移さないと水の流れをせき止めてしまい、溢水してしまう。滑走路の高さが海面から8.1mとなるので、尚更避けて通れない。国からすれば、辺野古美謝川は基地建設工事を阻む存在だ。
②辺野古ダムは名護市の給水源となっている。現在の名護市の水道は3つの浄水場、10カ所の水源から取水している。辺野古浄水場はそのひとつであり、水源は辺野古ダムだ。一日に4500立方メートルを取水している。給水区域は名護市東海岸地域となっている。
他に名護市中央浄水場(為又1219-3)18500立方メートル/日、給水区域:名護市街区域及び屋部地域、そして県企業局名護浄水場(大北3-28-36)27000立法メートル/日、給水区域:伊佐川以北及び大北区の一部、部瀬名地域の一部。(以上は名護市環境水道部「令和2年度水質検査計画書」p2から転載)
辺野古浄水場は1975年に県企業局から名護市に譲渡されたのだ。この水は今言ったとおり住民の水源として使われている。現状はこうだが、2004年段階で辺野古浄水場の老朽化に伴い、県企業局から上水の受水計画が進められている。当時のことだから辺野古ダムと辺野古浄水場を潰すことは国に好都合だったことも背景にあったのかもしれない。逆に言えば、辺野古ダムも辺野古浄水場もまだ現役なのだ。
③辺野古美謝川の溢水は何故起きるのだろうか。普段の辺野古ダムからみていれば、余り想像できない。これは素人の浅はかさ。辺野古美謝川は上流からダム・国道329号まで約4000mある。さらに下流に1000m余りで河口に達する。この川は国道329号(高いところを走っている)と西に辺野古岳の谷間を流れている。思いのほか流域降雨面積は広いのだ。大雨が降ると辺野古ダムに溜まってしまい、水かさが急上昇し、溢水することも度々あるのだ。
埋立計画によれば、辺野古ダム周辺からも土砂を採取するという。森を壊し、辺野古ダム周辺を丸裸にしてしまうのだ。こうなれば、氾濫は度々起きるだろう。酷くなることはあっても和らぐことはあるまい。沖縄防衛局はこれにどう答えるのだろうか。
④森から流れ出る水路は自然生態系を構成している。土壌があり、植物が生え、プランクトンが棲み、様々な動物が棲んでいる。特にオカヤドカリの仲間やミナミオカガニなどは陸生動物だが、繁殖は陸域と海域が繋がるルートを持てなければ生命の循環は絶たれてしまう。こうした環境を支える水路になるのだろうか。極めて疑わしい。泥水が流れ出るだけの水路になってしまうのでなかろうか。そもそも辺野古ダム周囲から土砂を採取することじたいがジェノサイドだと言えるのではないか。
名護市長は、こうした多面的な問題から本件を慎重に考えなければならないのだ。単純に水道は県企業局と契約するから問題ないのではない。総合的な考察と、ボーリング調査による土砂の採取・攪拌が水道水としていかがなものなのかを沖縄防衛局の言いなりになるのではなく検討すべきだ。
名護市環境水道部は先に示した「令和2年度(2020)水質検査計画書」にこう記している。水質管理上留意すべき点として辺野古ダムは「富栄養化の進行」と「降雨による高濁水発生」と。ただでさえこうした保留が付いている場所で、名護市はこうした蓋然性をたかめるボーリング調査を容認するのだろうか。あってはならないことだ。