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こうの史代『この世界の片隅に』

2008-07-12 02:06:42 | 
こうの史代『この世界の片隅に』<上巻、中巻>


広島に生まれて、一方的に持ち込まれた縁談により
呉に嫁いだ、すずという女性の物語。
時は昭和18年から、太平洋戦争末期のこと。
「戦争という暗雲が周囲を色濃く染めていく中、
 すずは健気に日々を生きる。」(中巻のオビより)



相変わらず、飾り気のない正直な女性の
小さな世界が描かれている。

人間、誰しも完璧な者はいないし
年を老いながら成長していくものだ。

だから、たとえ「片隅」ではあっても、
すずも周作もりんも、自分の住む町で
お互いに許したり、許されたりしながら
生きているのである。

人の生き死にが間近に見える時代だからでもないだろうが
「なんか悩むんがあほらしうなってきた・・・」と
開き直るくらいの「大陸的な」大らかさが
見かけは頼りなげでも、たくましく支えている。



許す、というのは一見上から見ているようだけれど
許し、許されるといっているうちは
お互いの心に対等に余裕があるということだ。
それが「許さない」となったときに
不遜な心持ちが一気に増殖し、
人と人の間をツメてしまうのだと思う。

まるで常軌を逸しているとしか思えない事が
平然と起きてしまう今時の奥底には
他人の些細な間違いすら「許さない」という
恐ろしい緊張感が横たわっている。

それは過剰なほどの正義感や潔癖症に基き
物事や人の評価を瞬時に下して切り捨てるという
憎しみとはまったく別のシステムが
組み込まれてしまっているかのようだ。

戦争という、いかんともしがたい大きな暴力の中ですら
すずが懸命に幸せを見つけようと生きることができたのは
人の心の中に
「誰でも何かが足らんくらいで
 この世界に居場所はそうそう
 無うなりゃせんよ」
というゆとりがあったからなのだろう。

空から爆弾が降ってくるのもゴメンだけれど
大儀も憎しみも後悔すらなく人を貶める世界は
すずの目からすると
よほど不幸に見えるに違いない。


こうの史代『この世界の片隅で』上巻・中巻 (株)双葉社刊 各648円+税

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