こうの史代『この世界の片隅に』<上巻、中巻>
広島に生まれて、一方的に持ち込まれた縁談により
呉に嫁いだ、すずという女性の物語。
時は昭和18年から、太平洋戦争末期のこと。
「戦争という暗雲が周囲を色濃く染めていく中、
すずは健気に日々を生きる。」(中巻のオビより)
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相変わらず、飾り気のない正直な女性の
小さな世界が描かれている。
人間、誰しも完璧な者はいないし
年を老いながら成長していくものだ。
だから、たとえ「片隅」ではあっても、
すずも周作もりんも、自分の住む町で
お互いに許したり、許されたりしながら
生きているのである。
人の生き死にが間近に見える時代だからでもないだろうが
「なんか悩むんがあほらしうなってきた・・・」と
開き直るくらいの「大陸的な」大らかさが
見かけは頼りなげでも、たくましく支えている。
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許す、というのは一見上から見ているようだけれど
許し、許されるといっているうちは
お互いの心に対等に余裕があるということだ。
それが「許さない」となったときに
不遜な心持ちが一気に増殖し、
人と人の間をツメてしまうのだと思う。
まるで常軌を逸しているとしか思えない事が
平然と起きてしまう今時の奥底には
他人の些細な間違いすら「許さない」という
恐ろしい緊張感が横たわっている。
それは過剰なほどの正義感や潔癖症に基き
物事や人の評価を瞬時に下して切り捨てるという
憎しみとはまったく別のシステムが
組み込まれてしまっているかのようだ。
戦争という、いかんともしがたい大きな暴力の中ですら
すずが懸命に幸せを見つけようと生きることができたのは
人の心の中に
「誰でも何かが足らんくらいで
この世界に居場所はそうそう
無うなりゃせんよ」
というゆとりがあったからなのだろう。
空から爆弾が降ってくるのもゴメンだけれど
大儀も憎しみも後悔すらなく人を貶める世界は
すずの目からすると
よほど不幸に見えるに違いない。
こうの史代『この世界の片隅で』上巻・中巻 (株)双葉社刊 各648円+税
広島に生まれて、一方的に持ち込まれた縁談により
呉に嫁いだ、すずという女性の物語。
時は昭和18年から、太平洋戦争末期のこと。
「戦争という暗雲が周囲を色濃く染めていく中、
すずは健気に日々を生きる。」(中巻のオビより)
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相変わらず、飾り気のない正直な女性の
小さな世界が描かれている。
人間、誰しも完璧な者はいないし
年を老いながら成長していくものだ。
だから、たとえ「片隅」ではあっても、
すずも周作もりんも、自分の住む町で
お互いに許したり、許されたりしながら
生きているのである。
人の生き死にが間近に見える時代だからでもないだろうが
「なんか悩むんがあほらしうなってきた・・・」と
開き直るくらいの「大陸的な」大らかさが
見かけは頼りなげでも、たくましく支えている。
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許す、というのは一見上から見ているようだけれど
許し、許されるといっているうちは
お互いの心に対等に余裕があるということだ。
それが「許さない」となったときに
不遜な心持ちが一気に増殖し、
人と人の間をツメてしまうのだと思う。
まるで常軌を逸しているとしか思えない事が
平然と起きてしまう今時の奥底には
他人の些細な間違いすら「許さない」という
恐ろしい緊張感が横たわっている。
それは過剰なほどの正義感や潔癖症に基き
物事や人の評価を瞬時に下して切り捨てるという
憎しみとはまったく別のシステムが
組み込まれてしまっているかのようだ。
戦争という、いかんともしがたい大きな暴力の中ですら
すずが懸命に幸せを見つけようと生きることができたのは
人の心の中に
「誰でも何かが足らんくらいで
この世界に居場所はそうそう
無うなりゃせんよ」
というゆとりがあったからなのだろう。
空から爆弾が降ってくるのもゴメンだけれど
大儀も憎しみも後悔すらなく人を貶める世界は
すずの目からすると
よほど不幸に見えるに違いない。
こうの史代『この世界の片隅で』上巻・中巻 (株)双葉社刊 各648円+税