「アメリカが外国の製品に課す関税は少なくとも1940年代以来の水準にまで引き上げられることになる。関税によって製品の供給網が崩壊し、自動車から野菜に至るまでさまざまな製品の価格が上昇する可能性が高い」

【詳報】中国 メキシコ カナダへ関税“発動” 対抗措置も NHK 2025年3月4日 21時19分
アメリカのトランプ大統領は3日、中国からの輸入品に新たに10%の追加関税を課し上乗せする関税をあわせて20%とする大統領令に署名しました。また、メキシコとカナダからの輸入品については25%の関税を課すと明言しました。現地は4日を迎え、3か国への措置が発動されたものとみられます。
各国による対抗措置の応酬となれば貿易摩擦が激しくなり、懸念が広がっています。
トランプ大統領は3日午後、中国からの輸入品に新たに10%の追加関税を課す大統領令に署名しました。
中国に対しては2月4日から10%の追加関税を課していて、上乗せされる関税はあわせて20%となります。
中国がアメリカへの薬物の流入を防ぐ対策を取っていないためだとしています。
また、トランプ大統領は3日午後、記者団に対し「カナダとメキシコに25%の関税を課す。あすから開始する」と述べました。
2月から25%の関税を課す方針でしたが、両国が国境の安全対策を実施するなどと約束したとして発動を1か月間、停止していました。
現地では3か国への関税措置が発動される見通しの4日を迎え、欧米メディアは発動したなどと伝えています。
メキシコ、中国、カナダはアメリカにとって1位から3位を占める重要な輸入相手国で、3か国でアメリカの輸入全体の40%以上を占めています。
アメリカはこれまで隣国のメキシコ、カナダと貿易協定を締結し、相互に経済的な結びつきを深めてきました。
特に自動車の生産をめぐっては部品などのサプライチェーンが高い水準で確立されてきただけに影響を懸念する声があがっています。
米 有力紙「1940年代以来の関税水準」
ニューヨーク・タイムズは「アメリカが外国の製品に課す関税は少なくとも1940年代以来の水準にまで引き上げられることになる。関税によって製品の供給網が崩壊し、自動車から野菜に至るまでさまざまな製品の価格が上昇する可能性が高い」と指摘しました。
一方、ウォール・ストリート・ジャーナルは、去年1年間にアメリカで販売された新車のおよそ25%がメキシコやカナダで組み立てられていることや、EVメーカーのテスラではアメリカ国内で販売する車のおよそ20%の部品がメキシコから輸入されていることを伝えたうえでメキシコとカナダへの関税でアメリカで販売される自動車の平均価格がおよそ3000ドル上昇するという推計もあるとしています。
また、調査会社「ムーディーズ」の協力を得た試算を紹介し、ほかの国の製品で代替可能なものについては関税による販売価格の上昇が起こりにくい一方、代替することが難しいゲーム機などについては中国への10%の追加関税がほぼそのまま販売価格に転嫁されるという見通しを示しています。
《【中国】対抗措置発表 経済影響は》
米国産農水産物に追加関税発表 アメリカへ対抗措置
中国財政省は4日、アメリカから輸入する
▽鶏肉や小麦、トウモロコシなどに15%
▽大豆や豚肉、牛肉、水産物、果物、それに野菜などに10%の
追加関税をそれぞれ課すことを発表しました。
トランプ政権による中国製品への新たな追加関税の措置に対抗するもので、3月10日から実施するとしています。
中国政府は2月4日にトランプ政権が追加関税の措置を発動した際にも石炭やLNG=液化天然ガスに追加関税を課しましたが、再び米中双方で関税をかけ合う事態となり、貿易摩擦が激しくなることへの懸念が強まっています。
また、中国商務省は今回のアメリカの措置がWTO=世界貿易機関のルールに深刻に違反しているとして、WTOに提訴したと発表しました。
このほか、軍事転用が可能な鉱物資源などについてアメリカの15の企業などへの輸出を禁止することや、台湾への武器の売却に関わったなどとして、アメリカの10の企業に中国との貿易を禁止する制裁を科すことなども発表しました。
さらに中国の税関当局は、アメリカから輸入した木材から害虫が見つかったとして、4日からアメリカ産の木材の輸入を停止すると発表しました。
また、アメリカ産の大豆から穀物に寄生する有害な菌類などが検出されたとして、同じく4日からアメリカ企業3社の資格を停止すると発表しました。
中国による対抗措置は先月より一段と踏み込んだ複合的な内容で、アメリカの反応や両国の協議に与える影響が注目されます。
中国商務省「断固反対 追加措置講じる」
中国商務省の報道官は4日、「強い不満を表明し、断固反対するとともに対抗措置を講じ、中国の正当な利益を守る」とするコメントを発表しました。
また、追加関税の理由としたアメリカに流入する薬物への対策について「中国はもっとも厳格で徹底した麻薬の取り締まりを実施している国の1つだ」などと反論したうえで、「事実を無視し、国際的な貿易のルールや国際社会の意見を顧みないもので、典型的な単独主義、いじめ行為だ」と批判しました。
そして、「根拠のない一方的な関税措置を即刻撤廃するよう強く求める。アメリカが公平な対話を通じて適切に解決する正しい道に速やかに戻るよう望む」としています。
中国経済への影響は
中国の貿易統計によりますと、去年1年間で、中国がアメリカに輸出した額は2023年から4.9%増えて5246億ドル余り、日本円でおよそ78兆7000億円となっています。
中国の輸出全体の14.6%を占め、国としては最大の輸出先となっていて、アメリカが中国製品への関税を引き上げた場合、経済への影響は避けられません。
日本の調査会社「大和総研」の試算では、アメリカが中国からの輸入品にあわせて20%の追加関税を課した場合、中国のGDP=国内総生産を0.73ポイント押し下げるとしています。
さらにトランプ大統領が選挙期間中に主張していた60%に関税を引き上げた場合、GDPを1.46ポイント押し下げると試算しています。
また、トランプ政権1期目の際は同時に通貨の人民元安が進んだため、追加関税の影響が軽減されたものの、今回は中国経済の減速などを背景にすでに人民元が安値水準にあり、これ以上の通貨安は見込みにくいことから、追加関税の影響を受けやすいという指摘も出ています。
一方、米中間で半導体などの先端技術をめぐる対立が続く中、中国はASEAN=東南アジア諸国連合の国など新興国向けの輸出を増やしています。
去年1年間のASEAN向けの輸出額は2023年から12%増えて5865億ドル余り、およそ87兆9000億円と、アメリカを上回る規模になっています。
全人代報道官「圧力と脅し 受け入れない」
中国の向こう1年の重要政策などを決める全人代=全国人民代表大会が5日、開会するのを前に全人代の婁勤倹報道官が4日、記者会見しました。
この中で婁報道官は、トランプ政権による中国製品への新たな追加関税の措置について「圧力と脅しは絶対に受け入れない。国家の主権と安全、発展の利益を断固守っていく」と反発しました。
一方で、米中両国が国交正常化して以降貿易や投資の規模は大きく増え、世界の経済発展にも貢献してきたとした上で「対話と協議を通じて問題を解決する軌道に戻ることを望む」と述べました。
中国では長引く不動産不況などで景気が減速する中、アメリカとの貿易摩擦の激化が経済に与える影響が懸念されています。婁報道官は経済の現状について「国際的には政治や経済の不確実性が増し、国内的には需要が不足し、一部の企業では生産や経営が困難になっている」とする一方で「中国の経済的な基礎は安定し潜在力は大きい」などと述べ、民間企業の発展促進や対外開放を図っていく姿勢を強調しました。
《【メキシコ】米との国境沿いでは“人員削減”も》
シェインバウム大統領 “対応するための構えできている”
メキシコのシェインバウム大統領は、現地時間3日朝の記者会見で「われわれとしては対話を続け必要な合意や調整も行ったが、決断はアメリカ政府、アメリカ大統領次第だ。その決断がどのようなものであってもわれわれは計画に沿って決断を行う。メキシコはひとつであり、それが強さだ」と述べ、トランプ政権の出方に対応するための構えは十分にできているという考えを改めて示しました。
国境の工場地帯は
メキシコのアメリカとの国境沿いには、1960年代につくられた「マキラドーラ」と呼ばれる制度があります。
アメリカなどの外国企業の委託を受けて材料や部品をメキシコに輸入し、組み立てや加工をした上で輸出するもので、輸出入に関税がかからない制度となっていました。
1994年に発効したアメリカ、カナダ、メキシコのあいだのNAFTA=北米自由貿易協定より前から存在し、投資を呼び込みやすく、国境地帯の産業の発展や雇用の創出に貢献し、この制度の適用を受ける工場もマキラドーラと呼ばれています。
このうち320以上の企業が集まるマキラドーラの町、チワワ州シウダーフアレスの国境の検問所にはアメリカに向かう輸出品を積んだトラックが1キロ以上にわたり列を作っていました。
トランプ大統領が掲げる関税措置について、運転手たちに話を聞くと「非常に悪いことだ。輸送業者である私たちに大きな影響がある」とか「彼は狂っている。アメリカにとっても悪いことだ」などの反対の声が相次ぎました。
人員削減の動きも
シウダーフアレスにある自動車や電気設備などの部品を製造する企業です。アメリカから輸入した材料をもとに部品をつくり、マキラドーラの企業に納入しています。
納入した部品はマキラドーラの企業で製品に組み立てられ、アメリカに輸出されますが、新たに関税がかかればコストに直結します。
取材した日にはトランプ大統領がメキシコに関税をかけるタイミングが4月になるとの見方が現地で報じられるなか、社長のトール・サラヤンディアさんは「4月なのか、3月なのか、関税がかけられれば価格は上がることになる。この国境地域にとって大きな懸念材料だ」と話していました。
シウダーフアレスのマキラドーラで働く人は30万人以上にのぼりますが、2023年をピークに減少に転じています。
サラヤンディアさんの会社でも先行きの不透明さなどから、去年1月、80人いた従業員を20人ほどにまで減らしました。
企業経営者 “トランプ大統領の政策は大打撃”
サラヤンディアさんは「強調したいのは、国境沿いの町は産業のマキラドーラへの依存度が高いため、アメリカの政策の影響がより顕著に現れているということだ。トランプ大統領の政策はマキラドーラ産業と投資に大きな打撃を与える。多くの中小企業に大きな混乱を引き起こし続けることは間違いないだろう」と話していました。
マキラドーラの業界団体によりますと、町ではすでに新たな投資を控えたり、リスク分散のためアメリカに工場を移転させたりする動きも出ているということです。
業界団体の広報担当者は「新たに投資をしてシウダーフアレスで製造を始めたいという企業もあるが、大統領選挙にせよ、今の関税の問題にせよ、結果が出るまで様子見をせざるをえなくなっている。あいまいさや不透明感が続けば企業は投資ができない。この不透明さは私たちには死活問題だ」と話していました。
メキシコの通貨ペソ カナダドル 約1か月ぶり安値水準
アメリカのトランプ大統領がメキシコやカナダに25%の関税を課すと表明したことを受けて、外国為替市場ではメキシコの通貨ペソやカナダドルを売る動きが広がりました。
このうち、メキシコのペソは一時、1ドル=20ペソ台後半まで下落しました。また、カナダドルもアメリカのドルに対して下落し、一時、1ドル=1.45カナダドルをつけました。
いずれも2月初旬以来、およそ1か月ぶりの安値水準となりました。
市場関係者は、「関税の引き上げによって、メキシコやカナダの経済が打撃を受けるとの見方から通貨がドルに対して売られている」と話していました。
《【カナダ】対抗措置表明 部品メーカーは懸念》
トルドー首相「正当性ない」報復措置を表明
カナダのトルドー首相は3日夜、声明を出し「これらの措置に正当性はない」と強く反発しています。
その理由として薬物のフェンタニルのアメリカへの流入対策をあげ、新たな責任者の任命や薬物などを取り締まる両国の合同部隊の設立によってことし1月のカナダでのフェンタニルの押収量は去年12月と比べて97%減少したと、成果を強調しました。
そして、トランプ政権が措置を発動した場合、カナダ政府は報復措置として4日からアメリカからの輸入品を対象に関税を段階的に拡大し、3週間後には最終的に1550億カナダドル、日本円にしておよそ16兆円分に対して25%の関税を課す方針を明らかにしました。
この措置は、アメリカが関税を撤回しないかぎり継続する方針です。
また、カナダへの関税でアメリカ人が食料品やガソリン、自動車に高い代金を支払い数千人が雇用を失う可能性を指摘したほか、今回の措置はトランプ政権の1期目で見直しの交渉を行った貿易協定に違反すると批判しています。
“「自動車の街」オンタリオ州 経済にリスク”
カナダのオンタリオ州にはアメリカの大手自動車メーカー、GM=ゼネラル・モーターズやフォードなどに加え、トヨタ自動車やホンダの工場もあります。
こうした大手メーカーの生産を支えてきたのが州内に700社以上ある部品メーカーで、アメリカのミシガン州などとの間で複雑なサプライチェーンを構築しています。
部品の輸送に不可欠なのがオンタリオ州のウィンザーとミシガン州のデトロイトをつなぐ「アンバサダー橋」で、毎日、多くのトラックが行き交っています。
カナダ政府によりますと、1日あたりに輸出入される自動車部品などの金額は3億9000万カナダドル、日本円でおよそ400億円相当にのぼり、カナダとアメリカの国境では最も貿易量が多いということです。
カナダ自動車部品製造業協会のフラビオ・ボルペ会長は「部品メーカーの利益は通常、6%から7%で、多くの企業には関税に対応できる余裕がない。自動車産業はオンタリオ州で最も影響力があり、その弱体化は州の経済に直結する」と述べ、地元経済にとって大きなリスクになるという認識を示しました。
カナダ自動車部品製造業協会 フラビオ・ボルペ会長
自動車部品メーカー 影響懸念
カナダのオンタリオ州にある自動車部品メーカーは、製造した部品の8割以上をアメリカに輸出していることから関税によるビジネスへの影響を懸念しています。
オンタリオ州ウィンザーにある「ラネックス・マニュファクチャリング」は、およそ30人の従業員を抱え自動車向けの部品などを製造しています。
この会社では製造した部品の80%から90%をアメリカに輸出し、原則として関税がかかっていませんでした。
また、アメリカとの国境沿いに立地する利点を生かし、製品を完成させるまでに何度も国境を行き来させながら手がけているものもあるということです。
アメリカがカナダからの輸入品に対して関税措置を発動し、カナダも報復措置に踏み切った場合、どれほどの影響が出るのか見通せないとしています。
ブルース・レーン社長は「1つの部品に何度、関税がかかるのかが疑問だ。部品は国境を何度も行き来していて、そのたびに課される事態になることはないと思うが、自動車産業では国境の両側で非常に多くのことが行われている。ビジネス全体に大きな影響が出ることは間違いないだろう」と話していました。
会社では、アメリカが関税を課した場合、自動車向けではない部品の割合を増やすなどして経営への影響を軽減したいと考えています。
《【日本】市場反応 日本企業への影響は》
経済同友会 新浪代表幹事“大変な影響ある”
アメリカによるメキシコとカナダへの関税措置について、経済同友会の新浪代表幹事は定例会見で、現地に工場を構える日系企業にとっては、収益面だけでなく、今後の事業戦略を考える上でも大きな影響があるという見方を示しました。
この中で、新浪代表幹事は「サプライチェーン=供給網を構築してきたのにそれが急に変わることになり、大変な影響がある。4年後には別の大統領になって別のことを考えるかもしれず、企業にとっては、収益面だけでなく、戦略的にどうすべきかも悩ましい」と述べ、メキシコやカナダに工場を構える日系企業にとっては、収益面だけでなく、今後の事業戦略を考える上でも大きな影響があるという見方を示しました。
一方、アメリカの関税措置に対抗し、中国政府が、アメリカ産の一部の農産物などに追加関税を課すと発表したことについては「関税合戦が始まると世界経済にとって間違いなくマイナスだ。企業にとっては、相当、厳しい経営になるので、他社との合従連衡や不必要な事業の売却、経営計画を複数用意するなど、経営のやり方も変わってくる」と述べ、貿易摩擦の激化を見越して、企業は経営のあり方を見直していく必要があると指摘しました。
中国に生産拠点もつ日本企業「リスク低減が一番大切」
アメリカのトランプ大統領が中国への圧力を強める中、中国に生産拠点を持つ日本企業は対応を迫られています。
大津市に本社を置く防犯センサーなどを手がけるセンサーメーカー「オプテックス」は、中国南部、広東省の東莞の工場を主力工場と位置づけてきました。
2015年には会社全体の生産の60%を占め、アメリカを含む世界に製品を輸出してきました。
しかし、トランプ政権1期目の関税引き上げを受け、会社では、アメリカ向けの生産を中国からベトナムに移管することを決定。
会社では中国の生産比率を2026年には40%に引き下げ、ベトナムの比率を20%に高める計画を進めています。
ただ、生産の移管には課題もあります。
大きな課題となっているのが部品の調達です。サプライチェーンが整った中国とは異なり、ベトナムでは、品質のよい部品を安く調達することが難しいため、今も中国からベトナムに輸出している部品もあるといいます。
トランプ政権が中国への追加の関税措置を発動した2日後(2月6日)、会社では、日本の本社とベトナム工場を結んだ対策会議が開かれていました。
このなかで年内にすべての部品をベトナムで調達できるよう、現地の部品メーカーと交渉を急ぐことを確認していました。
一方、アメリカ向け製品の生産移管を受けて、中国工場はヨーロッパ向けなどの生産に力を入れています。
ヨーロッパ向けは会社の売り上げの30%を占めています。
この春からは、同じ東莞市内にいまの工場の1.4倍の床面積を持つ新工場に移転する計画で、中国工場はアメリカ以外の海外市場の需要に対応していく方針です。
会社では、トランプ政権2期目も政策が予想できないとして、意思決定のスピードを高めるとともに日本での生産比率を高めることも検討しています。
オプテックスの池田和男社長は「意思決定をどれだけ速くできるか、そのための情報を吸い上げる仕組みを作るというのが非常に大切だ。弊社の場合、3地域に4工場あるので、それをうまく使いながら、リスクの低減をはかることが一番大切だと考えている」と話していました。
群馬 自動車部品メーカー メキシコ生産の一部移管も検討
メキシコからの輸入品に対する25%の関税措置について、メキシコからアメリカに自動車部品を輸出しているメーカーは、コストの増加につながるおそれがあるとして、関税がかかっていない国からの輸出に切り替えることや、生産の一部をアメリカに移すことも検討しています。
群馬県に本社を置く自動車部品メーカーは、日本やアメリカなどでエアコンに使われるコンプレッサーと呼ばれる装置を生産しています。
このうち、アメリカの工場では、自社のメキシコの工場で生産したシリンダーやコイルなどの部品を輸入して、コンプレッサーの最終的な組み立て作業を行っています。メキシコは人件費が比較的安いうえ、アメリカ向けはこれまで関税がかからなかったことから40年ほど前に工場を建設し、部品の輸出拠点として、生産を拡大してきました。
しかし、部品にも25%の関税がかかることで、短期的にはコストの増加が避けられないとして、一部の部品について、現在は関税がかかっていない日本やタイからの輸出に切り替えることや、生産の一部をアメリカに移すことも検討しています。
ただ、トランプ大統領が輸入される自動車に25%前後の関税を課すと発言する中、部品も対象になるかや日本に対して発動されるかはわからないうえ、為替の動向も不安定ですぐには判断できない状況だということです。
「サンデン」の小林英幸副社長は「関税の対象となれば、短期的には利益面にも影響は出てくる。企業としては、サプライチェーンの再構築のきっかけと捉えて、生産の一部をほかの国に移すことも検討しているが、部品によっては、すぐに対応することは難しい」と話しています。
日経平均株価 値下がり 輸出関連を中心に売り注文
4日の東京株式市場、アメリカのトランプ政権によるメキシコとカナダ、それに中国への関税措置や、外国為替市場で円高が進んでいることを受け、輸出関連を中心に多くの銘柄に売り注文が出て、日経平均株価は値下がりしました。
▽日経平均株価、4日の終値は3日と比べて454円29銭、安い、3万7331円18銭
▽東証株価指数、トピックスは19.38、下がって、2710.18
▽1日の出来高は、19億6450万株でした。
市場関係者は、「トランプ大統領の関税政策への警戒感に加えて、外国為替市場で円相場が一時、1ドル=148円台まで円高が進んだことで午前中は、日経平均株価が900円以上、値下がりする場面もあった。ただ、午後に入ると、円高がやや落ち着いたこともあって、値下がりした銘柄を買い戻す動きも出て下落幅を縮小した」と話しています。
静岡 自動車部品輸出企業 “事業戦略への影響 避けられず”
アメリカのトランプ政権によるカナダへの関税措置を受けて、カナダからアメリカに自動車部品を輸出している静岡県の企業は事業戦略への影響が避けられないとして、今後の対応を検討しています。
富士宮市に本社を置く「アミノ」は創業95年のプレス機械を作っている企業で、2004年からはカナダのオンタリオ州に設けた子会社で自社のプレス機械を使って自動車部品を製造し、アメリカへ輸出しています。
カナダの子会社はGM=ゼネラル・モーターズやフォードなどアメリカの大手自動車メーカーにピックアップトラックのバンパーなどを納品していて、去年9月までの1年間の売り上げ、およそ50億円のうちアメリカへの輸出が9割以上を占めています。
さらに、北米市場での販路拡大を見込み、去年、25億円以上を投じてカナダの工場を拡張したばかりだということです。
このため会社では今回の関税措置による事業戦略への影響が避けられないとして、今後の対応を検討しています。
網野雅章社長は「一番の心配は関税の引き上げでアメリカ国内の自動車の価格が上がり、車が売れなくなって、生産が縮小してしまうことだ。私たちのような中小企業はすぐにアメリカ国内に工場を移すことはできない。事態の推移を見守りながらできることをやっていくしかない」と話していました。
武藤経済産業相「日系企業の懸念に寄り添い サポート」
アメリカのトランプ大統領は3日、記者団に対し、メキシコとカナダから薬物が流入しているなどとして、両国からの輸入品に4日から25%の関税を課す方針を改めて示しました。
武藤経済産業大臣は、4日の閣議のあとの会見で、JETRO=日本貿易振興機構に2月に設置した専用窓口に、日系企業からおよそ200件の相談が寄せられていることを明らかにした上で「引き続き、中堅・中小を含む日系企業の懸念に寄り添って、きめ細かいサポートを行っていきたい」と述べました。
また、アメリカが、貿易相手国と同じ水準にまで関税を引き上げるいわゆる「相互関税」の導入を検討していることに関連して、「国会の許しが得られれば、私自身も早期に渡米して日本の国益、そして米国の国益の双方がウインウインとなるように協議をしていく」と述べ、ラトニック商務長官との会談を早期に行いたいという考えを改めて示しました。
エコノミスト「日本経済への下押し圧力拡大を警戒」
アメリカによるメキシコとカナダへの関税措置が日本経済に与える影響について、第一生命経済研究所の前田和馬主任エコノミストは、主に日本からメキシコへの自動車部品や機械の輸出が減少するなどとして、日本のGDP=国内総生産が最大0.1%押し下げられると試算しています。
さらに、前田主任エコノミストは「今回の関税政策で、アメリカ経済が冷え込み、現地の株価が下がることで、日本の株式市場にも影響が出る可能性がある。株価の下落によって日本国内で消費を控える動きや、設備投資を控える動きが出てくることも考えられ、影響が2倍3倍に膨らみ、日本経済への下押し圧力が大きくなることを警戒している」と話しています。
また「今までメキシコで生産し、アメリカに販売していたものを、アメリカで生産するという影響も出てくる。工場を、もう一度、再配置するというのは追加のコストがかかり、大きなデメリットだ」と述べ、生産体制の見直しが企業の負担につながる可能性も指摘しています。
アメリカのトランプ大統領は3日、中国からの輸入品に新たに10%の追加関税を課し上乗せする関税をあわせて20%とする大統領令に署名しました。また、メキシコとカナダからの輸入品については25%の関税を課すと明言しました。現地は4日を迎え、3か国への措置が発動されたものとみられます。
各国による対抗措置の応酬となれば貿易摩擦が激しくなり、懸念が広がっています。
トランプ大統領は3日午後、中国からの輸入品に新たに10%の追加関税を課す大統領令に署名しました。
中国に対しては2月4日から10%の追加関税を課していて、上乗せされる関税はあわせて20%となります。
中国がアメリカへの薬物の流入を防ぐ対策を取っていないためだとしています。
また、トランプ大統領は3日午後、記者団に対し「カナダとメキシコに25%の関税を課す。あすから開始する」と述べました。
2月から25%の関税を課す方針でしたが、両国が国境の安全対策を実施するなどと約束したとして発動を1か月間、停止していました。
現地では3か国への関税措置が発動される見通しの4日を迎え、欧米メディアは発動したなどと伝えています。
メキシコ、中国、カナダはアメリカにとって1位から3位を占める重要な輸入相手国で、3か国でアメリカの輸入全体の40%以上を占めています。
アメリカはこれまで隣国のメキシコ、カナダと貿易協定を締結し、相互に経済的な結びつきを深めてきました。
特に自動車の生産をめぐっては部品などのサプライチェーンが高い水準で確立されてきただけに影響を懸念する声があがっています。
米 有力紙「1940年代以来の関税水準」
ニューヨーク・タイムズは「アメリカが外国の製品に課す関税は少なくとも1940年代以来の水準にまで引き上げられることになる。関税によって製品の供給網が崩壊し、自動車から野菜に至るまでさまざまな製品の価格が上昇する可能性が高い」と指摘しました。
一方、ウォール・ストリート・ジャーナルは、去年1年間にアメリカで販売された新車のおよそ25%がメキシコやカナダで組み立てられていることや、EVメーカーのテスラではアメリカ国内で販売する車のおよそ20%の部品がメキシコから輸入されていることを伝えたうえでメキシコとカナダへの関税でアメリカで販売される自動車の平均価格がおよそ3000ドル上昇するという推計もあるとしています。
また、調査会社「ムーディーズ」の協力を得た試算を紹介し、ほかの国の製品で代替可能なものについては関税による販売価格の上昇が起こりにくい一方、代替することが難しいゲーム機などについては中国への10%の追加関税がほぼそのまま販売価格に転嫁されるという見通しを示しています。
《【中国】対抗措置発表 経済影響は》
米国産農水産物に追加関税発表 アメリカへ対抗措置
中国財政省は4日、アメリカから輸入する
▽鶏肉や小麦、トウモロコシなどに15%
▽大豆や豚肉、牛肉、水産物、果物、それに野菜などに10%の
追加関税をそれぞれ課すことを発表しました。
トランプ政権による中国製品への新たな追加関税の措置に対抗するもので、3月10日から実施するとしています。
中国政府は2月4日にトランプ政権が追加関税の措置を発動した際にも石炭やLNG=液化天然ガスに追加関税を課しましたが、再び米中双方で関税をかけ合う事態となり、貿易摩擦が激しくなることへの懸念が強まっています。
また、中国商務省は今回のアメリカの措置がWTO=世界貿易機関のルールに深刻に違反しているとして、WTOに提訴したと発表しました。
このほか、軍事転用が可能な鉱物資源などについてアメリカの15の企業などへの輸出を禁止することや、台湾への武器の売却に関わったなどとして、アメリカの10の企業に中国との貿易を禁止する制裁を科すことなども発表しました。
さらに中国の税関当局は、アメリカから輸入した木材から害虫が見つかったとして、4日からアメリカ産の木材の輸入を停止すると発表しました。
また、アメリカ産の大豆から穀物に寄生する有害な菌類などが検出されたとして、同じく4日からアメリカ企業3社の資格を停止すると発表しました。
中国による対抗措置は先月より一段と踏み込んだ複合的な内容で、アメリカの反応や両国の協議に与える影響が注目されます。
中国商務省「断固反対 追加措置講じる」
中国商務省の報道官は4日、「強い不満を表明し、断固反対するとともに対抗措置を講じ、中国の正当な利益を守る」とするコメントを発表しました。
また、追加関税の理由としたアメリカに流入する薬物への対策について「中国はもっとも厳格で徹底した麻薬の取り締まりを実施している国の1つだ」などと反論したうえで、「事実を無視し、国際的な貿易のルールや国際社会の意見を顧みないもので、典型的な単独主義、いじめ行為だ」と批判しました。
そして、「根拠のない一方的な関税措置を即刻撤廃するよう強く求める。アメリカが公平な対話を通じて適切に解決する正しい道に速やかに戻るよう望む」としています。
中国経済への影響は
中国の貿易統計によりますと、去年1年間で、中国がアメリカに輸出した額は2023年から4.9%増えて5246億ドル余り、日本円でおよそ78兆7000億円となっています。
中国の輸出全体の14.6%を占め、国としては最大の輸出先となっていて、アメリカが中国製品への関税を引き上げた場合、経済への影響は避けられません。
日本の調査会社「大和総研」の試算では、アメリカが中国からの輸入品にあわせて20%の追加関税を課した場合、中国のGDP=国内総生産を0.73ポイント押し下げるとしています。
さらにトランプ大統領が選挙期間中に主張していた60%に関税を引き上げた場合、GDPを1.46ポイント押し下げると試算しています。
また、トランプ政権1期目の際は同時に通貨の人民元安が進んだため、追加関税の影響が軽減されたものの、今回は中国経済の減速などを背景にすでに人民元が安値水準にあり、これ以上の通貨安は見込みにくいことから、追加関税の影響を受けやすいという指摘も出ています。
一方、米中間で半導体などの先端技術をめぐる対立が続く中、中国はASEAN=東南アジア諸国連合の国など新興国向けの輸出を増やしています。
去年1年間のASEAN向けの輸出額は2023年から12%増えて5865億ドル余り、およそ87兆9000億円と、アメリカを上回る規模になっています。
全人代報道官「圧力と脅し 受け入れない」
中国の向こう1年の重要政策などを決める全人代=全国人民代表大会が5日、開会するのを前に全人代の婁勤倹報道官が4日、記者会見しました。
この中で婁報道官は、トランプ政権による中国製品への新たな追加関税の措置について「圧力と脅しは絶対に受け入れない。国家の主権と安全、発展の利益を断固守っていく」と反発しました。
一方で、米中両国が国交正常化して以降貿易や投資の規模は大きく増え、世界の経済発展にも貢献してきたとした上で「対話と協議を通じて問題を解決する軌道に戻ることを望む」と述べました。
中国では長引く不動産不況などで景気が減速する中、アメリカとの貿易摩擦の激化が経済に与える影響が懸念されています。婁報道官は経済の現状について「国際的には政治や経済の不確実性が増し、国内的には需要が不足し、一部の企業では生産や経営が困難になっている」とする一方で「中国の経済的な基礎は安定し潜在力は大きい」などと述べ、民間企業の発展促進や対外開放を図っていく姿勢を強調しました。
《【メキシコ】米との国境沿いでは“人員削減”も》
シェインバウム大統領 “対応するための構えできている”
メキシコのシェインバウム大統領は、現地時間3日朝の記者会見で「われわれとしては対話を続け必要な合意や調整も行ったが、決断はアメリカ政府、アメリカ大統領次第だ。その決断がどのようなものであってもわれわれは計画に沿って決断を行う。メキシコはひとつであり、それが強さだ」と述べ、トランプ政権の出方に対応するための構えは十分にできているという考えを改めて示しました。
国境の工場地帯は
メキシコのアメリカとの国境沿いには、1960年代につくられた「マキラドーラ」と呼ばれる制度があります。
アメリカなどの外国企業の委託を受けて材料や部品をメキシコに輸入し、組み立てや加工をした上で輸出するもので、輸出入に関税がかからない制度となっていました。
1994年に発効したアメリカ、カナダ、メキシコのあいだのNAFTA=北米自由貿易協定より前から存在し、投資を呼び込みやすく、国境地帯の産業の発展や雇用の創出に貢献し、この制度の適用を受ける工場もマキラドーラと呼ばれています。
このうち320以上の企業が集まるマキラドーラの町、チワワ州シウダーフアレスの国境の検問所にはアメリカに向かう輸出品を積んだトラックが1キロ以上にわたり列を作っていました。
トランプ大統領が掲げる関税措置について、運転手たちに話を聞くと「非常に悪いことだ。輸送業者である私たちに大きな影響がある」とか「彼は狂っている。アメリカにとっても悪いことだ」などの反対の声が相次ぎました。
人員削減の動きも
シウダーフアレスにある自動車や電気設備などの部品を製造する企業です。アメリカから輸入した材料をもとに部品をつくり、マキラドーラの企業に納入しています。
納入した部品はマキラドーラの企業で製品に組み立てられ、アメリカに輸出されますが、新たに関税がかかればコストに直結します。
取材した日にはトランプ大統領がメキシコに関税をかけるタイミングが4月になるとの見方が現地で報じられるなか、社長のトール・サラヤンディアさんは「4月なのか、3月なのか、関税がかけられれば価格は上がることになる。この国境地域にとって大きな懸念材料だ」と話していました。
シウダーフアレスのマキラドーラで働く人は30万人以上にのぼりますが、2023年をピークに減少に転じています。
サラヤンディアさんの会社でも先行きの不透明さなどから、去年1月、80人いた従業員を20人ほどにまで減らしました。
企業経営者 “トランプ大統領の政策は大打撃”
サラヤンディアさんは「強調したいのは、国境沿いの町は産業のマキラドーラへの依存度が高いため、アメリカの政策の影響がより顕著に現れているということだ。トランプ大統領の政策はマキラドーラ産業と投資に大きな打撃を与える。多くの中小企業に大きな混乱を引き起こし続けることは間違いないだろう」と話していました。
マキラドーラの業界団体によりますと、町ではすでに新たな投資を控えたり、リスク分散のためアメリカに工場を移転させたりする動きも出ているということです。
業界団体の広報担当者は「新たに投資をしてシウダーフアレスで製造を始めたいという企業もあるが、大統領選挙にせよ、今の関税の問題にせよ、結果が出るまで様子見をせざるをえなくなっている。あいまいさや不透明感が続けば企業は投資ができない。この不透明さは私たちには死活問題だ」と話していました。
メキシコの通貨ペソ カナダドル 約1か月ぶり安値水準
アメリカのトランプ大統領がメキシコやカナダに25%の関税を課すと表明したことを受けて、外国為替市場ではメキシコの通貨ペソやカナダドルを売る動きが広がりました。
このうち、メキシコのペソは一時、1ドル=20ペソ台後半まで下落しました。また、カナダドルもアメリカのドルに対して下落し、一時、1ドル=1.45カナダドルをつけました。
いずれも2月初旬以来、およそ1か月ぶりの安値水準となりました。
市場関係者は、「関税の引き上げによって、メキシコやカナダの経済が打撃を受けるとの見方から通貨がドルに対して売られている」と話していました。
《【カナダ】対抗措置表明 部品メーカーは懸念》
トルドー首相「正当性ない」報復措置を表明
カナダのトルドー首相は3日夜、声明を出し「これらの措置に正当性はない」と強く反発しています。
その理由として薬物のフェンタニルのアメリカへの流入対策をあげ、新たな責任者の任命や薬物などを取り締まる両国の合同部隊の設立によってことし1月のカナダでのフェンタニルの押収量は去年12月と比べて97%減少したと、成果を強調しました。
そして、トランプ政権が措置を発動した場合、カナダ政府は報復措置として4日からアメリカからの輸入品を対象に関税を段階的に拡大し、3週間後には最終的に1550億カナダドル、日本円にしておよそ16兆円分に対して25%の関税を課す方針を明らかにしました。
この措置は、アメリカが関税を撤回しないかぎり継続する方針です。
また、カナダへの関税でアメリカ人が食料品やガソリン、自動車に高い代金を支払い数千人が雇用を失う可能性を指摘したほか、今回の措置はトランプ政権の1期目で見直しの交渉を行った貿易協定に違反すると批判しています。
“「自動車の街」オンタリオ州 経済にリスク”
カナダのオンタリオ州にはアメリカの大手自動車メーカー、GM=ゼネラル・モーターズやフォードなどに加え、トヨタ自動車やホンダの工場もあります。
こうした大手メーカーの生産を支えてきたのが州内に700社以上ある部品メーカーで、アメリカのミシガン州などとの間で複雑なサプライチェーンを構築しています。
部品の輸送に不可欠なのがオンタリオ州のウィンザーとミシガン州のデトロイトをつなぐ「アンバサダー橋」で、毎日、多くのトラックが行き交っています。
カナダ政府によりますと、1日あたりに輸出入される自動車部品などの金額は3億9000万カナダドル、日本円でおよそ400億円相当にのぼり、カナダとアメリカの国境では最も貿易量が多いということです。
カナダ自動車部品製造業協会のフラビオ・ボルペ会長は「部品メーカーの利益は通常、6%から7%で、多くの企業には関税に対応できる余裕がない。自動車産業はオンタリオ州で最も影響力があり、その弱体化は州の経済に直結する」と述べ、地元経済にとって大きなリスクになるという認識を示しました。
カナダ自動車部品製造業協会 フラビオ・ボルペ会長
自動車部品メーカー 影響懸念
カナダのオンタリオ州にある自動車部品メーカーは、製造した部品の8割以上をアメリカに輸出していることから関税によるビジネスへの影響を懸念しています。
オンタリオ州ウィンザーにある「ラネックス・マニュファクチャリング」は、およそ30人の従業員を抱え自動車向けの部品などを製造しています。
この会社では製造した部品の80%から90%をアメリカに輸出し、原則として関税がかかっていませんでした。
また、アメリカとの国境沿いに立地する利点を生かし、製品を完成させるまでに何度も国境を行き来させながら手がけているものもあるということです。
アメリカがカナダからの輸入品に対して関税措置を発動し、カナダも報復措置に踏み切った場合、どれほどの影響が出るのか見通せないとしています。
ブルース・レーン社長は「1つの部品に何度、関税がかかるのかが疑問だ。部品は国境を何度も行き来していて、そのたびに課される事態になることはないと思うが、自動車産業では国境の両側で非常に多くのことが行われている。ビジネス全体に大きな影響が出ることは間違いないだろう」と話していました。
会社では、アメリカが関税を課した場合、自動車向けではない部品の割合を増やすなどして経営への影響を軽減したいと考えています。
《【日本】市場反応 日本企業への影響は》
経済同友会 新浪代表幹事“大変な影響ある”
アメリカによるメキシコとカナダへの関税措置について、経済同友会の新浪代表幹事は定例会見で、現地に工場を構える日系企業にとっては、収益面だけでなく、今後の事業戦略を考える上でも大きな影響があるという見方を示しました。
この中で、新浪代表幹事は「サプライチェーン=供給網を構築してきたのにそれが急に変わることになり、大変な影響がある。4年後には別の大統領になって別のことを考えるかもしれず、企業にとっては、収益面だけでなく、戦略的にどうすべきかも悩ましい」と述べ、メキシコやカナダに工場を構える日系企業にとっては、収益面だけでなく、今後の事業戦略を考える上でも大きな影響があるという見方を示しました。
一方、アメリカの関税措置に対抗し、中国政府が、アメリカ産の一部の農産物などに追加関税を課すと発表したことについては「関税合戦が始まると世界経済にとって間違いなくマイナスだ。企業にとっては、相当、厳しい経営になるので、他社との合従連衡や不必要な事業の売却、経営計画を複数用意するなど、経営のやり方も変わってくる」と述べ、貿易摩擦の激化を見越して、企業は経営のあり方を見直していく必要があると指摘しました。
中国に生産拠点もつ日本企業「リスク低減が一番大切」
アメリカのトランプ大統領が中国への圧力を強める中、中国に生産拠点を持つ日本企業は対応を迫られています。
大津市に本社を置く防犯センサーなどを手がけるセンサーメーカー「オプテックス」は、中国南部、広東省の東莞の工場を主力工場と位置づけてきました。
2015年には会社全体の生産の60%を占め、アメリカを含む世界に製品を輸出してきました。
しかし、トランプ政権1期目の関税引き上げを受け、会社では、アメリカ向けの生産を中国からベトナムに移管することを決定。
会社では中国の生産比率を2026年には40%に引き下げ、ベトナムの比率を20%に高める計画を進めています。
ただ、生産の移管には課題もあります。
大きな課題となっているのが部品の調達です。サプライチェーンが整った中国とは異なり、ベトナムでは、品質のよい部品を安く調達することが難しいため、今も中国からベトナムに輸出している部品もあるといいます。
トランプ政権が中国への追加の関税措置を発動した2日後(2月6日)、会社では、日本の本社とベトナム工場を結んだ対策会議が開かれていました。
このなかで年内にすべての部品をベトナムで調達できるよう、現地の部品メーカーと交渉を急ぐことを確認していました。
一方、アメリカ向け製品の生産移管を受けて、中国工場はヨーロッパ向けなどの生産に力を入れています。
ヨーロッパ向けは会社の売り上げの30%を占めています。
この春からは、同じ東莞市内にいまの工場の1.4倍の床面積を持つ新工場に移転する計画で、中国工場はアメリカ以外の海外市場の需要に対応していく方針です。
会社では、トランプ政権2期目も政策が予想できないとして、意思決定のスピードを高めるとともに日本での生産比率を高めることも検討しています。
オプテックスの池田和男社長は「意思決定をどれだけ速くできるか、そのための情報を吸い上げる仕組みを作るというのが非常に大切だ。弊社の場合、3地域に4工場あるので、それをうまく使いながら、リスクの低減をはかることが一番大切だと考えている」と話していました。
群馬 自動車部品メーカー メキシコ生産の一部移管も検討
メキシコからの輸入品に対する25%の関税措置について、メキシコからアメリカに自動車部品を輸出しているメーカーは、コストの増加につながるおそれがあるとして、関税がかかっていない国からの輸出に切り替えることや、生産の一部をアメリカに移すことも検討しています。
群馬県に本社を置く自動車部品メーカーは、日本やアメリカなどでエアコンに使われるコンプレッサーと呼ばれる装置を生産しています。
このうち、アメリカの工場では、自社のメキシコの工場で生産したシリンダーやコイルなどの部品を輸入して、コンプレッサーの最終的な組み立て作業を行っています。メキシコは人件費が比較的安いうえ、アメリカ向けはこれまで関税がかからなかったことから40年ほど前に工場を建設し、部品の輸出拠点として、生産を拡大してきました。
しかし、部品にも25%の関税がかかることで、短期的にはコストの増加が避けられないとして、一部の部品について、現在は関税がかかっていない日本やタイからの輸出に切り替えることや、生産の一部をアメリカに移すことも検討しています。
ただ、トランプ大統領が輸入される自動車に25%前後の関税を課すと発言する中、部品も対象になるかや日本に対して発動されるかはわからないうえ、為替の動向も不安定ですぐには判断できない状況だということです。
「サンデン」の小林英幸副社長は「関税の対象となれば、短期的には利益面にも影響は出てくる。企業としては、サプライチェーンの再構築のきっかけと捉えて、生産の一部をほかの国に移すことも検討しているが、部品によっては、すぐに対応することは難しい」と話しています。
日経平均株価 値下がり 輸出関連を中心に売り注文
4日の東京株式市場、アメリカのトランプ政権によるメキシコとカナダ、それに中国への関税措置や、外国為替市場で円高が進んでいることを受け、輸出関連を中心に多くの銘柄に売り注文が出て、日経平均株価は値下がりしました。
▽日経平均株価、4日の終値は3日と比べて454円29銭、安い、3万7331円18銭
▽東証株価指数、トピックスは19.38、下がって、2710.18
▽1日の出来高は、19億6450万株でした。
市場関係者は、「トランプ大統領の関税政策への警戒感に加えて、外国為替市場で円相場が一時、1ドル=148円台まで円高が進んだことで午前中は、日経平均株価が900円以上、値下がりする場面もあった。ただ、午後に入ると、円高がやや落ち着いたこともあって、値下がりした銘柄を買い戻す動きも出て下落幅を縮小した」と話しています。
静岡 自動車部品輸出企業 “事業戦略への影響 避けられず”
アメリカのトランプ政権によるカナダへの関税措置を受けて、カナダからアメリカに自動車部品を輸出している静岡県の企業は事業戦略への影響が避けられないとして、今後の対応を検討しています。
富士宮市に本社を置く「アミノ」は創業95年のプレス機械を作っている企業で、2004年からはカナダのオンタリオ州に設けた子会社で自社のプレス機械を使って自動車部品を製造し、アメリカへ輸出しています。
カナダの子会社はGM=ゼネラル・モーターズやフォードなどアメリカの大手自動車メーカーにピックアップトラックのバンパーなどを納品していて、去年9月までの1年間の売り上げ、およそ50億円のうちアメリカへの輸出が9割以上を占めています。
さらに、北米市場での販路拡大を見込み、去年、25億円以上を投じてカナダの工場を拡張したばかりだということです。
このため会社では今回の関税措置による事業戦略への影響が避けられないとして、今後の対応を検討しています。
網野雅章社長は「一番の心配は関税の引き上げでアメリカ国内の自動車の価格が上がり、車が売れなくなって、生産が縮小してしまうことだ。私たちのような中小企業はすぐにアメリカ国内に工場を移すことはできない。事態の推移を見守りながらできることをやっていくしかない」と話していました。
武藤経済産業相「日系企業の懸念に寄り添い サポート」
アメリカのトランプ大統領は3日、記者団に対し、メキシコとカナダから薬物が流入しているなどとして、両国からの輸入品に4日から25%の関税を課す方針を改めて示しました。
武藤経済産業大臣は、4日の閣議のあとの会見で、JETRO=日本貿易振興機構に2月に設置した専用窓口に、日系企業からおよそ200件の相談が寄せられていることを明らかにした上で「引き続き、中堅・中小を含む日系企業の懸念に寄り添って、きめ細かいサポートを行っていきたい」と述べました。
また、アメリカが、貿易相手国と同じ水準にまで関税を引き上げるいわゆる「相互関税」の導入を検討していることに関連して、「国会の許しが得られれば、私自身も早期に渡米して日本の国益、そして米国の国益の双方がウインウインとなるように協議をしていく」と述べ、ラトニック商務長官との会談を早期に行いたいという考えを改めて示しました。
エコノミスト「日本経済への下押し圧力拡大を警戒」
アメリカによるメキシコとカナダへの関税措置が日本経済に与える影響について、第一生命経済研究所の前田和馬主任エコノミストは、主に日本からメキシコへの自動車部品や機械の輸出が減少するなどとして、日本のGDP=国内総生産が最大0.1%押し下げられると試算しています。
さらに、前田主任エコノミストは「今回の関税政策で、アメリカ経済が冷え込み、現地の株価が下がることで、日本の株式市場にも影響が出る可能性がある。株価の下落によって日本国内で消費を控える動きや、設備投資を控える動きが出てくることも考えられ、影響が2倍3倍に膨らみ、日本経済への下押し圧力が大きくなることを警戒している」と話しています。
また「今までメキシコで生産し、アメリカに販売していたものを、アメリカで生産するという影響も出てくる。工場を、もう一度、再配置するというのは追加のコストがかかり、大きなデメリットだ」と述べ、生産体制の見直しが企業の負担につながる可能性も指摘しています。