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武蔵野物語 67

2012-10-21 20:19:37 | 武蔵野物語
誠二は、佳子の別な側面を見せつけられたが、もちろんゆりことは比べる相手ではないのだけれど、この先歌い手としての人生を歩み始めていくと、どう変わっていくのか、そのドラマを見続けていきたい欲求がとても強くなっていた。
ライブを終えて、近くのカフェに寄った。
「ねぇ、きょう送ってください、この頃誰かにつけられているみたいで怖いんです」
「ストーカーに狙われているの?」
「はっきりしている訳ではないけれど、何か変な感じがして」
「思い過ごしじゃない、佳子さんこの頃また綺麗になってるし」
「お上手なんだから、お世辞」
そういうと誠二の手を強く握ってきた。
誠二は離そうとしたが、なかなか離してくれない。
「わかった、送るけど今日は帰りが心配だな、いまからだと終電にまにあわないかも」
「なんだそんなこと、この間も送ってくれたし、2,3人分の布団もあるから」
「でも・・・」
「私、そいうの気にしないの、親戚みたいな感じで、ね」
佳子の瞳が鋭さを増してきた。
マンションに着いたときは0時近かったが、彼女はとても元気にみえた。
「有難う、来てくれて」
「別にお礼なんて」
「うれしかったの・・1人前に扱ってくれたみたいで」
「そんな、もうりっぱな大人の女性です」
「好きよ」
佳子はいきなり唇を押し付けてきた。
2人は狭いベッドに重なり合い、激しく求めあっていったが、誠二は心が遠く漂っていくのを覚めた目で眺めている自分を嫌悪していた。

夏から秋に変わる季節は好きで、喧騒が遠ざかり澄んだ静けさが辺りを覆う頃、誠二は1人でよく旅行に出かけていた。といってもせいぜい1,2泊で近くの温泉地が多く、自分に全く自身がなくなった今の様な時期は、逃げ場としては最も適しているのだろう。
新潟の温泉地に着き、空を見上げると秋らしさが一層深まっていた。