まいったな、どうしよう。
山路 稔は途方にくれていた。
中野にある1人住まいのアパートが火事で全焼してしまったのだ。
さいわい誰もいない夕方の時間帯だったが、灯油のまかれた跡が発見され、放火と断定された。
40過ぎて1人、北海道生まれの彼に関東での知り合いはなく、友達もいなかった。
安いビジネスホテルに泊まっているが、貯金も底を尽きかけていた。
仕事はドライバーサービスの会社で、霞ヶ関に派遣され各省庁の役人を乗せて国会議事堂や議員会館を廻っている。
山路は、60人以上のドライバーが1部屋に居る場所で勤務していた。
その仲間に山路より一回り年上の永瀬 昇がいて話し相手になっている。
「もう引っ越すしかないよな」
「でも永瀬さん、全く余裕がないんですよ、あのアパートも住んで半年ですからね」
「そうか、ここの仕事もまだ3ヶ月だっけ」
「そうです、だから有給休暇も取れないし、いま現金が足りなくて」
「そりゃ大変だ」
山路は、ついてない時はこんなもんだ、とため息をついた。
この職場に来る前は、若い頃からの飲み過ぎがたたって肝臓が悪くなり、4ヶ月入退院を繰り返していた。
タクシーの運転手や警備員も断られ、やっと給料はいままでの中で1番安いが、半年契約で何とか就職できたところだった。
結局いま付き合っている相手に頼るしかないと諦めた。
山路は結婚経験があるが、相手の藤中啓子も同じバツイチで、小学校1年になる女の子がいる。
都営新宿線西大島駅近くの公団に住んでいた。近くの小名木川は、江戸時代から物資の運搬が盛んに行われ倉庫も多くあったが、今はリバーサイドマンションが建ち並び、様相が一変している。
失業中にハローワ―クで彼女と知りあい、毎日の様に公団の5階に入り浸っていた。
「頼みたい事があるんだけど」
啓子が珍しく神妙な顔で話し出した。
「何?僕で役に立つの」
「ええ、引っ越しなんだけど」
山路 稔は途方にくれていた。
中野にある1人住まいのアパートが火事で全焼してしまったのだ。
さいわい誰もいない夕方の時間帯だったが、灯油のまかれた跡が発見され、放火と断定された。
40過ぎて1人、北海道生まれの彼に関東での知り合いはなく、友達もいなかった。
安いビジネスホテルに泊まっているが、貯金も底を尽きかけていた。
仕事はドライバーサービスの会社で、霞ヶ関に派遣され各省庁の役人を乗せて国会議事堂や議員会館を廻っている。
山路は、60人以上のドライバーが1部屋に居る場所で勤務していた。
その仲間に山路より一回り年上の永瀬 昇がいて話し相手になっている。
「もう引っ越すしかないよな」
「でも永瀬さん、全く余裕がないんですよ、あのアパートも住んで半年ですからね」
「そうか、ここの仕事もまだ3ヶ月だっけ」
「そうです、だから有給休暇も取れないし、いま現金が足りなくて」
「そりゃ大変だ」
山路は、ついてない時はこんなもんだ、とため息をついた。
この職場に来る前は、若い頃からの飲み過ぎがたたって肝臓が悪くなり、4ヶ月入退院を繰り返していた。
タクシーの運転手や警備員も断られ、やっと給料はいままでの中で1番安いが、半年契約で何とか就職できたところだった。
結局いま付き合っている相手に頼るしかないと諦めた。
山路は結婚経験があるが、相手の藤中啓子も同じバツイチで、小学校1年になる女の子がいる。
都営新宿線西大島駅近くの公団に住んでいた。近くの小名木川は、江戸時代から物資の運搬が盛んに行われ倉庫も多くあったが、今はリバーサイドマンションが建ち並び、様相が一変している。
失業中にハローワ―クで彼女と知りあい、毎日の様に公団の5階に入り浸っていた。
「頼みたい事があるんだけど」
啓子が珍しく神妙な顔で話し出した。
「何?僕で役に立つの」
「ええ、引っ越しなんだけど」