中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

長谷川沼田居美術館を訪ねて

2017年09月12日 | かたち塾、アート鑑賞いろは塾
                                        
                           「かきつばた抽象」1965年頃(長谷川沼田居図録より)

初秋の一日、足利市にある長谷川沼田居美術館を訪ねました。

一昨年、渋谷区立松濤美術館「スサノヲの到来」で、また昨年少しまとめて足利市立美術館特別展示室で拝見しました。
また、同市ある長谷川沼田居美術館も是非訪れたいと思っていました。

そしてこの度のかたち塾としての開催になりました。
かたち塾の笹山さんのブログでも作品について書かれています。

そこは東武線足利市駅から車で15分くらいの浄徳寺というお寺の一角にある小さな美術館です。
沼田居は実力は認められながらも中央の画壇とはほとんど関わらず、生まれ故郷足利で無名のまま生きた画家です。いわゆる売り絵をしなかった画家ですので世の中に名が広まりませんでした。

1965年右目を摘出。ほとんど目が見えなくなり、73年全盲。83年78歳で亡くなります。90年に遺作保存会を中心とする多数の方々の寄付で美術館は建てられたそうです。現在も日曜日だけボランティアの方たちで開館しています。

まずは20点ほど(年4回の展示替え)の展示作品を各自じっくりと拝見し、その後、以前「塩香」を作るかたち塾で講師をしてくださり、「スサノヲの到来」にも出品していた造形作家の栃木美保さんのご紹介もあり、足利市立美術館学芸員で2002年の同館の「心眼の画家 長谷川沼田居」展の企画に携わった江尻潔さんに沼田居の画歴や師のこと、回りの人々との交流エピソード、作品などについて解説をしていただきました。

      図録表紙(二曲屏風「八手」1944年頃、とタイトルに有るのですが、実際は芙蓉が描かれてます)

絵の素晴らしさに加え、沼田居の魅力を江尻さんが図録(2002年足利市立美術館発行)も交えてわかりやすく端的に伺えたことがとても良かったのです。観賞を深めることが出来ました。

市の限られた予算で美術企画を立てるのも大変ということですが、こんなに素晴らしい心ある学芸員さんがいらっしゃるということを知り、嬉しく興奮を覚えました。

上記の図録はまだ在庫があるようです。実作を観るのが一番ですが、図録だけでも取り敢えずご覧になられるのもよいと思います。図版も文章もとても良いです。こちらから電話でのお申込み。
またいつの日か全国を巡回するような展覧会が開催されることを願いたいと思います。

沼田居の作風は多岐にわたります。作品は怖いぐらいの深い闇にたどり着くような凄みがあるものもありますが、初期~中期の作品はのどかな山水や鉛筆画で植物や身近な風景を書かれていたり、軽やかなほのぼのとしたイラスト風のもの、着物の図案のようなもの、抽象、半具象など部屋に飾って愉しみたいような作品も多いです。庭の草花を自ら育て絵に描いています。とは言え作品について簡単に書けるものではありません。

ただ、天賦の才能と、強靭な精神の持ち主であったこと、対象物を真摯に自分の血肉になるまで見つめていたのではないか、、とは思えるのです。

水墨画、日本画、洋画、墨、水彩、インク、鉛筆、クレヨンなど様々な技法や筆具のチャンネルを複数持っていたこと、だから全盲になってからも筆を折らず描けるもので描き続けることが出来たのではないかと江尻さんも話されていましたが、私もそう思いました。
画家として持つべき基礎があった。鍛え方があった。対象の見つめ方があった。

今回の美術館訪問で見た「霖雨(う)」と書かれた書。ピンぼけですが許可を得て撮らせてもらいました。図録には収められていません。

単に絵を描こうとしたのではなく、対象の本質を見つめ筆を、ペンを走らせ続け、肉体、精神の苦しみを乗り越えた身体――全身全霊で今を生きる最先端で、最前衛で描き続けた画家であったと思います。

沼田居を支えた夫人、お寺のご住職など遺作保存会の方々、足利の人々のお陰で今日こうして埋もれようとしていた作品に出会えたことにもこころから感謝をしたいと思います。

ものを創る端くれにいる私自身もその作風、生き方に突き動かされるものがありました。
素晴らしい芸術家はたくさんおられますが、沼田居は私の胸に深く刻まれたことは間違いありません。

沼田居美術館で絵葉書を購入してきました。1000円/8枚入

浄徳寺境内にある大イチョウの木。雷除けとして植えられたそうです。銀杏もなっていました。

樹勢はだいぶ弱っているということですが、根元から新しい幹が出てきています。沼田居も風景の中に描いています。

その後は足利市美、大川美術館をめぐりました。
刺激的でフルボディの味わい深い一日でした。帰りの東武線車中では缶ビールを飲みながら余韻に浸りました。
機会がありましたらご覧いただきたいと思います。

今回ご協力くださいましたみなさま、ご参加のみなさま、ありがとうございました。

さて、次回かたち塾は五感の探索シリーズ、「味覚のシンフォニーを愉しむ 」10月21日(土)昼食を共にいたします。小さな席数の限られた日本料理店での開催となります。こちらは完全予約ですので早めにお申し込みください。かたち塾もあと2回で終了となります。


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