「いやだぁ~ 私だけのお雛さまがないといやだぁ」
アキちゃんは大きな瞳に涙をいっぱいためて泣き出しました。
「そんな、わがままなことを言わないの!」
ママがアキちゃんをきつく叱りました。
アキちゃんは知っています。
この雛人形は、もともとお姉ちゃんのものです。
一組の雛人形なのに、
お姉ちゃんとアキちゃんの二人のものだとママが言っているんです。
「二人のお雛様だから、我慢しようね」
お姉ちゃんのハルちゃんが優しく語りかけますが、
アキちゃんの涙はとまりません。
お姉ちゃんは知っています。
生活も苦しく狭いお家では、お雛様は二つも飾れません。
わかっているはずなのに、
あまりにも駄々をこねる妹を見てたら、
ハルちゃんの目にも少し涙がたまってきました・・・
妹が大きくなってから、毎年この騒動です。
「私だってアキと一緒のじゃ嫌だ。」
だってだって、このお雛様は私だけのお雛様だったんです・・・
いつもお姉さんらしくしなさいって叱られてばかりだけど、
もう本当にいやです。
ふと、ハルちゃんは、涙がこぼれそうな目でお雛様のお顔を見ました。
あれっ・・
お雛様の目がさびしそうです。
こんな姉妹の姿を見ているからでしょうか。
二人の大事なお雛さまだから、
私の大切なお雛様だから、
もっといい子になって、お姉さんらしくしないとダメなんだ。
「もう泣くのはやめようよ。一緒にママのお手伝いをしよっ」
ハルちゃんは、まだ泣いているアキちゃんの頭を撫でていいました。
今年は新年から雪の多い年です。また雪の夜になるかもしれません。
泣きつかれたアキちゃんは、お姉ちゃんの手をとりました。
お雛様もちょっと微笑んでいるようでした。
今日はひな祭り。
ひな祭りに、短いお話を作るのが恒例になってしまいました…
今年は無理かなと思っていたのですが、
何年か前の話のMさんのコメントをヒントに作らせていただきました。
ありがとうございます。
今年のお話は、どうだったでしょうか。
みなさまの感想をいただければ幸いです。
写真は、今年伊豆で手に入れた「うさぎ雛」です
昨年の創作→とても叱られたひな祭り
2012年の創作→つるし雛のひいばあちゃん
2011年の創作→おひな様の歌
2010年の創作→首に傷のあるおひな様
2009年の創作→おひな様へのお願い…
2008年の創作→千代紙で折ったおひな様
2007年の記事→ちょっと悲しいひな祭り
2006年の創作→シチューとおひな様処女作でした