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英シリア空爆 出口は見えているのか

2015-12-04 18:03:24 | 戦争立法
東京新聞より転載

社説
英シリア空爆 出口は見えているのか

2015年12月4日


 英国が過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆をイラクからシリアに拡大した。重い決断に違いない。しかし、戦争の出口は見えているのか。
 空爆は米国主導の有志国連合がイラクとシリアで実施。英国はイラク空爆には参加していたが、シリアについては慎重だった。二〇一三年に英政府が下院に承認を求めた際は否決されていた。
 流れを変えたのはパリ同時多発テロだ。犯行声明を出したIS壊滅の機運が高まり、米仏は英国にも空爆参加を要請。一時、六割が賛成し英世論の支持も広がり、キャメロン英首相は空爆拡大を求める動議を提出した。
◆議会で分かれた賛否
 英下院(定数六五〇)での採決は賛成三九七で空爆拡大を承認したが、反対も多く二二三に上った。最大野党、労働党では、コービン党首が「無実の人々の死が避けられない、重い責任を負う」などと反対を訴えたが、六十人以上が賛成に回り、意見が割れた。かつての対アフガン、イラク戦の時とは違い、それほど難しい判断でもあったということだ。
 労働党「影の内閣」外相、ベン議員の「国際社会が直面するファシストたちを、打ち負かさねばならない」との声は、賛成世論を代弁するものだろう。
 下院承認後、直ちに空爆は始まった。
 テロを起こし、人質殺害の映像を公開するISは話し合いができる相手ではなく、壊滅を目指す国際的な合意形成が進んでいる。
 独自にシリア空爆をしていたロシアが有志国連合と協調する姿勢を示した。
 ナチスへの反省から軍事力行使に慎重だったドイツ政府も、フランス軍などへの支援のため、偵察機や最大千二百人規模の兵士を派遣することを決定した。
◆シリア内戦の終結を
 しかし、各国とも大規模な地上軍を派遣する計画はなく、空爆を中心とした作戦では、IS壊滅の出口戦略は描けないままだ。
 さらに、ISには欧州などから若者らが次々と流入し、戦闘員が補充されている。軍事力だけではISを壊滅することはできない、という専門家は多い。
 英国にはイラク戦争のトラウマ(心的外傷)がある。二〇〇三年、米国とともに主導したが、戦争の「大義」とした、フセイン政権の大量破壊兵器保有情報は誤りだった。ブレア元首相は十月、謝罪し、イラク戦争がIS台頭の一因だったと認めた。
 憎悪と過激思想を生んだイラク戦争の過ちを繰り返してはならない。空爆は市民を巻き添えにしない保証はない。
 ISへの感化拡大を防ぐことも必要だ。欧州で差別され、孤立しがちな移民の若者らへの目配りを厚くして、ISの根を断ちたい。
 空爆に効果がないとは言わないが、和平プロセスを伴わないままでは、流血が増えるばかりではないか。
 まず目指すべきは、ISの土壌となっているシリア内戦の終結だ。関係国の外相級会合では暫定政権樹立などで合意もしている。イスラム社会との協調も無論、必要だろう。
 日本政府は有志国連合の軍事作戦に参加することなく、ISを生む温床となっている貧困をなくすための民生安定支援や、避難民に対する食料・医療などの人道支援に徹するべきである。
 国会では今年九月、海外での自衛隊活動を拡大する安全保障関連法が成立し、有志国連合による対IS軍事作戦を後方支援することが、法律上は可能になった。
 要件となる国連決議に加え、日本が国際社会の一員として主体的かつ積極的に寄与する必要性があり、国会の事前承認を得れば、後方支援は可能との見解だ。
 ただ安倍晋三首相は、有志国連合に参加して後方支援を行うことは「政策判断として、全く考えていない」と繰り返し強調している。この判断を変えてはならない。
◆非軍事貢献に徹せよ
 日本は戦後、先の大戦の反省から海外で武力の行使をしない「専守防衛」に徹してきた。それが国際社会の信頼を得て、経済大国としての道を歩むことができた。
 中東地域で武力を行使したことも、この地域を植民地支配したこともない日本だからこそ、できる非軍事分野の貢献があるはずだ。
 首相はパリで開かれた国連気候変動枠組み条約第二十一回締約国会議(COP21)で「今、私たちは、国や文化の違いがあっても、連帯することで、大きな課題を克服することができることを示さなければならない」と語った。
 首相は、その大きな連帯の先頭に立ってほしい。それが戦後七十年を迎えた「平和国家」の責任である。

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