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東日本大震災津波の復興の現状と課題
日本共産党岩手県議会議員 斉藤 信
はじめに
3・11から1年8カ月が経過しました。岩手県における大震災津波の復興状況は、緒についたばかりです。政府の対策があまりにも遅く、不十分で、復旧が遅れ、被災者のいのちとくらしが脅かされています。多くが津波による被害です。人命、住宅、財産とともに仕事、産業が破壊されているのが津波被害の特徴です。それだけに住宅の再建とともに、仕事の確保、産業の再建が一体で取り組まれることが必要です。こんな状況の下で、復興予算を被災地以外に流用していることは許されないことです。消費税大増税を進めることは復興に逆行する「政治災害」というべきものです。
1、復興の現状―被災者のいのちとくらしが脅かされている
1) 戦後最大の津波被害―死者4,671人、行方不明者1,194人、合計5,865人(10月31日)、行方不明者の多さに津波被害の悲惨さが示されています。全壊・半壊・一部損壊33,268棟、応急仮設住宅12872戸、29647人、民間借り上げなどみなし仮設住宅は3846戸、10189人、自宅等被災者6,604戸、15,030人、内陸仮設以外601戸、1167人で合計23,923戸、56033人、県外避難、1,655人、合計、57,688人(10月26日現在)となっています。さらに宮城県から1327人、福島県から525人、合計1852人が県内に避難しています。被災者の全体を視野に入れた対応が必要です。また、多くの犠牲者を出した最大の教訓は避難の問題です。今後の防災計画、防災教育、防災の町づくりに生かすべき課題です。
2) 被災者のいのちが脅かされている―震災関連死323人(申請605人、審査中160人、9月30日現在)、その原因の37.7%が「避難所等における生活の肉体的・精神的疲労」、30.5%が「病院の機能停止により十分な医療を受けられなかったこと」となっていることは重大です。震災関連の自殺22人、仮設住宅での孤独死9人、沿岸市町村の新規要介護認定者は前年比687人、20.3%も増加しています(全県では8.9%増)。義援金等の収入を理由に生活保護が廃止された世帯は222件、辞退14件、停止が9件(11年3月~12年8月分)となっています。山田町の特定健康審査では「要医療」が56.6%を占め、高血圧性疾患と糖尿病が増加。震災健診アンケートでは「不眠」が44.1%となっています。被害の大きさと復興の遅れから今も被災者のいのちが脅かされ続けています。被災者に寄り添った支援、生活再建と心のケアの取り組みがますます必要となっています。
とくに、国による被災者の医療費・介護保険の保険料と利用料の免除措置は9月末までで打ち切りとなりました。10月以降は国保や介護保険、後期高齢者医療制度の枠内での減免措置ということになり、減免に対する国の支援は最大8割、市町村が2割負担することになります。県は国保・介護保険・後期高齢者医療・障害者の福祉サービスの一部負担(医療費、利用料)について、市町村に対する財政支援(市町村10分の1負担)決めました。その結果、国保では33市町村全部、介護保険では被災者にいる22保険者すべてで一部負担の免除措置が継続されることになりました。免除額は半年分で18億3400万円(昨年度は72億円の免除額)。陸前高田市などでは国保の保険料の減免も実施しています。しかし、被災市町村の負担には無理があります。減免は来年3月末までです。国の責任で免除措置を再開することが必要です。昨年度の減免は国保で2万9461人(一部負担の減免)、44億72百万円、後期高齢者医療で1万2048人(一部負担)、13億87百万円、介護保険5233人(一部負担)、13億60百万円、食費居住費減免が3億54百万円、合計72億18百万円となっています。
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灯油が高騰している中で、福祉灯油等の補助を昨年(被災地12市町村、5000~1万円)より拡充して全ての市町村で実現することも重要な課題です。
3)人口減少進む―昨年3月1日と今年10月1日の人口を比較すると、全県で23292人減少(うち社会減は6203人、自然減16511人)、これは福島県に次ぐ全国第2位の減少率です。とくに被災地は陸前高田市で3514人減(社会減1428人)、大槌町で3004人(社会減1525人)、釜石市で2569人(社会減923人)、山田町で2100人(社会減1031人)と被害が大きい自治体ほど人口減少が激しくなっています。
2、被災者の切実な要求は、被災地で働ける仕事の確保と住宅の再建です。
1) 安定した仕事の確保、雇用のミスマッチの解消は急務―延長されていた失業保険(4335人)は9月末で打ち切りとなり、失業保険切れ3268人(9月14日現在)のうち就職は1125人、32.4%にとどまっています。県のハローワーク前のアンケート調査では被災地の管内で就職したいが9割を占めています。有効求人倍率(9月)は0.90倍となっていますが、求人は建設業や警備、臨時・短期雇用や資格が必要な職種となっており完全なミスマッチとなっています。
2) 事業所の再建(事業継続・再開)は72%(9月1日現在、商工会議所・商工会会員)―被災市町村の会員事業所7,723のうち、被災事業所は4,325(56%)、営業継続・再開が3123(72.2%)、廃業690(16%)、休業284(6.6%)、転出73(1.7%)、不明155(5.4%)となっており、廃業、休業、不明で1,047(24.2%)を占めています。県の第2回被災事業所調査(1779事業所回答、2519事業所対象)では、再開済み51.52%、一部再開済み26.3%で合計77.9%、「被災前と同程度又は上回っている」33.2%、「震災前よりも減少した」は62.25となっています。来年2月までの雇用増は「0人」が63.7%、雇用増の計画は来年2月までに約2100人(1事業所平均1.6人)となっています。事業復興型雇用創出事業(1人雇用に225万円補助、15,000人目標、事業費300億円)の活用は徐々に進みつつあるものの、再建の遅れと使い勝手の悪さと周知の不徹底から620事業所、2083人(10月末現在)にとどまっています。2割までの新規採用が条件となっていること。昨年11月21日以降に限られていることなどの改善が急務です。
事業費の4分の3を補助するグループ補助金は中小企業の再建を支援する新たな制度で大変歓迎されていますが、第4次申請では43グループ、929社、255億円の申請に対し、交付決定は21グループ456社、140億円にとどまりました。第4次までに51グループ、751社、577億円の交付決定、申請事業者の約7割にとどまっています。商業者のグループの補助が新たに決まったのが特徴ですが、緊急に大幅な拡充が必要です。県は9月補正で国に先駆けて87億円の補正予算(総額97億円)を計上しました。これは第4次申請の不足分の規模に対応するものです。政府は10月26日予備費を活用し801億円のグループ補助の実施を決め、11~12月に公募することになりました。仮設店舗は340カ所の申請、323カ所1653区画(店舗)が事業開始し、着工320カ所、完成が311カ所(11月15日現在)となっています。
県単独の中小企業被災資産修繕費補助は427件、15億1949万円の実績ですが昨年度で終了。今年度実施の中小企業資産復旧事業費補助は、146件4億2547万円(11月12日現在)の利用にとどまっており、県は全業種2000万円(事業費の2分の1補助)までの補助に遡及して改善します。
二重ローン解消の制度がつくられたことは重要な成果でしたが、岩手産業復興機構の相談件数が336件、債権買い取り決定が31件(11月13日)、返済条件の変更(減額や延長)11件、条件変更検討・作業中29件にとどまっています。岩手産業復興機構と銀行の姿勢が問われています。(株)東日本大震災事業者再生支援機構では県内23件(11月19日)の債権買い取りとなっていますが、宮古地区では相談83件、再生計画提出23件、支援決定12件など取り組みいかんでは積極的な活用の道を開く可能性も出ています。
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3) 漁業・水産業の被害は5,649億円と最も大きく、その復興は中心課題です―岩手県では、漁協・漁民の取り組みを踏まえ、漁協を核に漁船の確保と養殖施設の整備(9分の8補助)に取り組むとともに、魚市場の再建を核に水産加工業と一体の復興に取り組んでいます。111漁港のうち108漁港が被災しましたが、すべての漁港の再建整備に取り組み、応急工事ですべての漁港で漁船の出入港や接岸が可能となり、潮位に関わらず利用できる漁港は6割まで復旧しています。本格的な復旧工事は88漁港で着手し、16漁港は完了、平成27年度までに全ての漁港の復旧する計画です。漁場・漁港・漁村が一体となっているのが岩手の漁業の特徴です。
9月末現在、漁船の確保は6375隻(被災漁船13,271隻の48%)、被災を免れた漁船を合わせると約8000隻程度が稼働可能、養殖施設整備は13,145台(49.5%)、被災した漁業経営体の再開状況は約7割となっています。県は9月補正で今年度450隻の漁船の確保をめざしていますが不十分です。流通・加工関連移設は54カ所の復旧・整備が完了し(7割強)、今年度は12カ所で事業実施中です。定置網の復旧は135ヶ統中100ヶ統、74%まで復旧しましたが、昨年の秋サケは大不漁でした。今年も不良の予測です。2015年問題も指摘されています。今年の春のワカメ漁は数量で震災前の75%、金額では震災前と同じ101%で重要な再建の一歩となりました。がんばる養殖業計画認定件数は9漁協24件(8月末)にとどまっています。
3、住宅再建に県・市町村が独自に100万円の補助、災害公営住宅の建設は5600戸
1) 貧困な仮設住宅(4畳半2間に3~4人)のもとで、住宅の確保は最も切実な要求です―「仮設から葬式を出したくない」「早く家を再建したい」「災害公営住宅に入居したい」は共通の声です。
2) 持ち家の再建を住宅再建の基本に抜本的な補助をすべきです―県と市町村は、住宅の新築・購入に100万円の補助を実施しています。9月30日現在の申請は1152件となっています。県はバリアフリー化(40~90万円)、県産材使用(20~40万円)で合計最大130万円の補助も実施。陸前高田市では水道工事費に最大200万円、道路整備に300万円、地元産材活用で50万円、浄化槽設置に最大115万円、造成に50万円、合計市独自に最大715万円の補助を実施しています。大船渡市でも水道整備などに200万円の独自補助を行っています。釜石市も100万円(新築50万円、宅地の盛土50万円)、大槌町は150万円の補助、住田町も新築に100万円、宮古市も地元産材で30万円の独自補助を決めています。国の被災者生活再建支援金(22920件)のうち、加算支援金は新築・購入1972件、補修2724件、賃借531件、合計5227件(9月末)となっています。県内の住宅建設費の平均は約2000万円となっており、県・市町村での100~200万円のさらなる支援策がなければ自力再建は難しい状況です。災害公営住宅は建築費で1戸当たり1540万円(釜石平田県営住宅)~2000万円です。さらに維持管理費もかかります。この点でも持ち家建設への支援が効果的です。
県・市町村の独自補助の拡充とともに、被災者生活再建支援金の300万円から500万円への引き上げが必要です。
被災住宅の補修、宅地復旧などへの生活再建住宅支援事業補助金は、2004件、7億1136万円の実績(4~7月)となっており、申請増を踏まえ9月6憶円の増額補正で24億円の事業費となっています。積極的な活用が必要です。
3) 良質で廉価な復興住宅の提供を地元木材と地元業者の総力を挙げて取り組む。
木造戸建ての仮設住宅を建設した住田町では、住田型復興住宅生産者グループを作り、木造軸組工法の地域型復興住宅を100平方メートルで1200~1500万円で建設する計画を示し、住田町では3棟のモデル復興住宅を建設しています。釜石・遠野・大槌の3市町による上閉伊地域復興住宅協議会は、総2階30坪タイプ、設備込みで1000万円の木造住宅建設のプランを示しています。岩手県地域型復興住宅連絡会議も3タイプの地産地消の復興住宅を提案しています。138の生産
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グループが会員となり8月末までに121件の受注となっています。
4) 災害公営住宅の建設戸数は5,601戸(7月25日現在、県分3,231戸、市町村分2,370戸)となっていますが、希望者が徐々に増加しており、応急仮設16,817戸(みなし含め)からみて極めて不十分です。釜石市の被災者アンケートでは40%が公営住宅を希望し、58%の集計ですでに市の計画戸数を上回っています。入居希望者が全員入居できる規模にすること。木造住宅は全体で533戸、うち県分は30戸だけ。比較的被害の大きくない野田村、田野畑村など県北地域では木造戸建て住宅を建設します。大船渡市でも検討するとしています。集落維持を基本に、最大限木造戸建ての公営住宅を建設することが課題です。とくに漁村にふさわしい木造戸建ての公営住宅が必要です。県分の着工戸数は1032戸、今年度内には1750戸に着手する予定です。
5) 持ち家再建の場合の課題は用地不足です―高台移転、土地区画整理事業の場合、造成事業完了まで3年以上かかり、取り組みが早い野田村の場合でも住宅建設は平成26年度半ばから28年までかかる。それまでは仮設住宅での生活が強いられる。土地が高騰しており用地確保に特別の手立てが必要です。陸前高田市米崎町松峰地区、宮古市田老地区が全国1・2位の地価上昇となっている。
6) 住宅ローンの二重ローン対策―私的整理ガイドラインの改善と取り組みの強化が急務。
個人版私的整理ガイドラインの相談件数は636件、登録専門家を紹介し準備中が835件(全体)、債務整理開始の申し出件数102件、債務整理成立件数がわずか28件(11月5日現在)となっており、機能していないのが実態。すでに金融機関からローンの返済が求められ、義援金等で返済を強いられている。積極的な活用と制度の改善が必要です。金融庁(7月)、東北財務事務所(10月1日)が金融機関に具体的で厳しい通知を出していることを活用し、周知の徹底、金融機関の対応の改善が必要です。
4、12市町村120地区で復興まちづくり事業―徹底した住民合意貫いて、早く
1) 12市町村120地区で復興まちづくり事業―7市町村21地区で都市再生区画整理事業、7市町村50地区で防災集団移転事業、6市町村10地区で津波復興拠点整備事業、11市町村32地区で漁業集落防災機能強化事業、3市町村7地区でがけ地近接住宅移転等事業が計画されています。普通1事業で10年かかる事業を今年度中に住民合意を踏まえ復興計画を策定し、平成26年度までに事業計画の手続きを終え、平成30年度までに完了させる計画です。
2) 徹底した住民による協議と合意を形成することが特別に重要―専門家の派遣など住民の立場に立った議論が行われるようにすべきです。行政にとっては技術者・用地の専門家が不足しています。県と市町村から11市町村に281人(10月1日現在、昨年度比142人増)派遣されていますが、要望数371人に対し90人(10月1日現在)不足しています。全国知事会を通じた派遣は258人の要請に対し121人となっています。土地の高騰と用地取得の問題、資材不足、埋蔵文化財調査の課題もあります。土地区画整理事業では宮古以南の6市町がUR都市機構と協定を結び取り組むことになっています。
3) 市街地・中心部の再生・復興を早く示すこと―役場、病院、商店街、公営住宅など中心市街地の再生の取り組みが遅れています。分散型ではない、効率的なコンパクトなまちづくりが進めることが求められています。
4) JR大船渡線・山田線の早期復旧に背を向けるJR東日本―鉄道と駅は町づくりの土台。
JR東日本は、JR大船渡線・山田線の復旧を言明せず、BRT(高速輸送バス)への転換を提起しています。2010年3月期決算で2,400億円の経常利益、2兆5千億円の内部留保をため込んでおり、十分復旧は可能です。ルート変更やかさ上げ分に対する国の支援も必要です。大船渡市、陸前高田市、気仙沼市長は10月4日、「JR大船渡線のBRTによる仮復旧について」の要望書を提
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出しましたが、BRTはあくまで仮復旧として鉄路の全面的な復旧を強く求めています。
5、被災地で住み続けられる町づくりを―医療・福祉と教育の復興の課題
1) 被災した高田・山田・大槌の3つの県立病院の再建の道切り開く―昨年8月に策定された県の復興基本計画には、被災した3つの県立病院の再建が明記されませんでした。地域住民の運動と県知事選・県議選のたたかいを通じて「被災した県立病院の再建を基本に取り組む」と知事が言明し、今年3月の「本県医療の復興計画」に県立病院の再建が位置付けられ、75億円余の地域医療再生臨時特例交付金が交付されました。今年度中に用地と再建の規模を決めることにしていますが、問題は用地の確保と医師の確保です。最優先課題の一つとして地元市町が取り組むことが必要です。地震で入院病床が使えなくなった大東病院も病院再建の方向(40床程度、平成26年4月)となりました。
2) 民間を含めた医療機関の被災と復興状況―病院は13が被災、3県立病院が仮設で診療(高田病院は41床の病床も再建)、10病院が自院で再開、診療所は54が被災し、24が自院で、17が仮設で再開、10が廃止、歯科診療所は60が被災、24が自院で再開、23が仮設で再開、7が廃止、調剤薬局は53が被災し、32が自院で再開、3が仮設、15が廃止となっています。
3) 介護施設では大船渡市の特養ホーム(53人)、山田町の老健施設(73人)が全壊の被害で計126人が犠牲となりました。一時使用不可となった介護施設は14施設ありましたが、7施設が再開し、6施設が再開・再建を計画中となっています。要介護認定者が急増している中での介護基盤の再建整備は急務の課題です。
4) 学校教育の再建は急務―「釜石の奇跡」と言われた釜石東中学校の生徒避難行動があったものの、県内全体では児童生徒78人が死亡し、13人が行方不明となりました。津波で全壊となった県立高田高校は、旧大船渡農業高校の校舎を使用し、毎日スク-ルバス10台で生徒を送迎しています。造成工事に着手し平成26年度末の完成をめざしています。小中学校の12校が仮設校舎で、7校が他校を間借り、3校が他施設を使用しています。被害を受けなかった学校でも25校のグランドが仮設住宅の全面使用、一部使用は12校で体育の授業や部活動ができない状況となっています。被災した校舎の再建(7市町17校で再建を検討、用地・移転場所決定が4校、用地交渉中が8校、協議・調整中が5校)、当面、仮設グランドの確保(41校中9校で整備中または予定)、仮設校舎へのエアコンの設置(釜石市の4校と大船渡・大槌町の6校に設置予定)などの取り組みが急務です。2300人の生徒が仮設住宅から通学しており、放課後の学習の場所の確保と学習支援の強化が必要です。
5) 震災孤児94人、震災遺児481人―震災孤児のほとんどは親族里親が面倒をみる状況となっています。昨年9月1日~9月22日に実施された児童生徒の「心と体の健康観察」によると、ストレスやトラウマなどで「優先的に教育相談をしてほしい児童生徒」は小中高で14.6%、沿岸市町村では15.8%となっています。生徒は仮設住宅での生活でも緊張を迫られており、心のケアの取り組みは重要となっています。
6) 「いわて学び希望基金就学金給付事業」―寄せられた46億円余の寄付を活用し、小学生に月1万円、中学生1万円、高校生3万円、大学生・専門学校生に5万円を給付しています。未就学児71人、児童生徒は482人(昨年度は532人)に給付しています。
6、被災者の生活再建優先の復興か、大規模公共事業優先の復興かが問われている
1) 岩手県の復興基本計画の問題点―「安全の確保」「暮らしの再建「生業の再生」を三つの原則にしていますが、「安全確保」の名のもとに、三陸縦貫道などの復興道路(高速道路)の整備(総事業費1兆1403億円)など大型公共事業優先の復興になりかねない問題をはらんでいます。復興
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道路は昨年度759億円(県負担139億円)、今年度836億円(県負担157億円)の事業費となっています。県が事業主体となる復興支援道路は総事業費737.9憶円、復興関連道路は938.3憶円となっています。防潮堤の整備も十分な住民の協議もなく、12~14mを超える高さの防潮堤が三陸海岸に整備されようとしています。背後地盤が高いことや農地のため、まちづくりとの調整を理由に19ヶ所21地区で防潮堤の高さを前と同程度に変更していますが、漁業・環境との共生、防災対策、維持管理費と経済効率性など総合的に検討されるべきです。今回の津波で破壊された釜石湾口防破堤、大船渡湾口防破堤も十分な検証もなくそれぞれ490億円、200億円の事業費で復旧されています。宮古市の水門の整備(166億円)もこれまでの市や市議会の堤防かさ上げの方向を無視して強行されました。
2) 復興事業は生活再建を最優先に、オール岩手で取り組むこと―被災者の生活と産業の再生に関わる高台移転や漁港の整備や水産業の再生、学校の再建整備などは遅れ、資材不足、生コン、職人不足、事業費の高騰が深刻となっており、復興事業の優先順位が問われています。建設事業はこれから本格的な発注となりますが、内陸の企業との復興JVなどオール岩手の取り組みとすることが必要です。
7、災害廃棄物(がれき)処理の問題
1) 県内の災害廃棄物は、525万t―10月末までに処理された量は103万t、19.6%にとどまっています。広域処理は44万tの処理必要量に対し、1都6県18市町村等で4万tにとどまっています。県内で最大限処理する計画ですが、県分で12年分、陸前高田市分148万tは255年分にあたります。とくに津波堆積物130万トンは県内処理をすることにしています。復興資材として活用する計画で、陸前高田市に分別処理施設を設置する計画です。80%活用できる見込みで、残りの処理方針は定まっていません。96.8万tの不燃物の処理も同様です。
2) がれきの広域処理の問題―福島原発事故による放射能汚染問題が大きな障害となりました。9都県と協定・覚書を結び、6都県が広域処理を行っています。広域処理に協力していただく県、市町村では、独自の基準(100ベクレル/kg)を決めて処理しています。
8、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染対策
1) 原発事故による放射能汚染―稲わら(583t)・牧草(19729t)、シイタケほだ木(109万本、5450トン)、堆肥(6954t)、合計32726トンとなっています。畜産など岩手の農林業の危機的状況を招いています。原木シイタケ、山菜、きのこ等の出荷制限は14市町村に及び、2500頭に及ぶ廃用牛の滞留、15000haを超える牧草の除染、風評被害対策を含めると4万haとなるなど重大な課題に直面しています。産直施設・きのこの時期に向けた検査体制の強化確立も必要です。県は9月補正ですべての牧草の除染に対する助成を示すなど40億円の補正予算を提出しました。焼却処理の方針ですが5~6年以上かかる状況で見通しが立たないのが実態です。
2) 学校など子どもが利用する施設とホットスポットの除染対策、子どもの健康被害・健康調査の継続は引き続き待ったなしの課題です。県の9月補正では昨年度健康調査の継続実施(132人)と新たに希望者(3000人)への検査にも2分の1の助成を実施することを示しました。
汚染状況重点調査地域に指定された一関市、奥州市、平泉町における除染対策では、除染実施区域内の除染に限るとされ、ホットスポットの除染が対象外となっていること、表土除去後の客土による原状回復については基準額では復元できないこと。汚染廃棄物・土壌の共同仮置き場についても制限があることなど、国の責任で全面的に除染が実施されるように改善が必要です。
3) 損害賠償対策―JA協議会の第7次による請求額は111億円となっていますが、東京電力の支払額は8月の仮払い(5~6月請求分の50%)を含め69億円で62%にとどまっています。県・市町村・広域連合等の損害賠償請求額は8億7千万円余となっていますが、回答も支払いはありません早期の全面賠償を求める徹底した取り組みが必要です。
東日本大震災津波の復興の現状と課題
日本共産党岩手県議会議員 斉藤 信
はじめに
3・11から1年8カ月が経過しました。岩手県における大震災津波の復興状況は、緒についたばかりです。政府の対策があまりにも遅く、不十分で、復旧が遅れ、被災者のいのちとくらしが脅かされています。多くが津波による被害です。人命、住宅、財産とともに仕事、産業が破壊されているのが津波被害の特徴です。それだけに住宅の再建とともに、仕事の確保、産業の再建が一体で取り組まれることが必要です。こんな状況の下で、復興予算を被災地以外に流用していることは許されないことです。消費税大増税を進めることは復興に逆行する「政治災害」というべきものです。
1、復興の現状―被災者のいのちとくらしが脅かされている
1) 戦後最大の津波被害―死者4,671人、行方不明者1,194人、合計5,865人(10月31日)、行方不明者の多さに津波被害の悲惨さが示されています。全壊・半壊・一部損壊33,268棟、応急仮設住宅12872戸、29647人、民間借り上げなどみなし仮設住宅は3846戸、10189人、自宅等被災者6,604戸、15,030人、内陸仮設以外601戸、1167人で合計23,923戸、56033人、県外避難、1,655人、合計、57,688人(10月26日現在)となっています。さらに宮城県から1327人、福島県から525人、合計1852人が県内に避難しています。被災者の全体を視野に入れた対応が必要です。また、多くの犠牲者を出した最大の教訓は避難の問題です。今後の防災計画、防災教育、防災の町づくりに生かすべき課題です。
2) 被災者のいのちが脅かされている―震災関連死323人(申請605人、審査中160人、9月30日現在)、その原因の37.7%が「避難所等における生活の肉体的・精神的疲労」、30.5%が「病院の機能停止により十分な医療を受けられなかったこと」となっていることは重大です。震災関連の自殺22人、仮設住宅での孤独死9人、沿岸市町村の新規要介護認定者は前年比687人、20.3%も増加しています(全県では8.9%増)。義援金等の収入を理由に生活保護が廃止された世帯は222件、辞退14件、停止が9件(11年3月~12年8月分)となっています。山田町の特定健康審査では「要医療」が56.6%を占め、高血圧性疾患と糖尿病が増加。震災健診アンケートでは「不眠」が44.1%となっています。被害の大きさと復興の遅れから今も被災者のいのちが脅かされ続けています。被災者に寄り添った支援、生活再建と心のケアの取り組みがますます必要となっています。
とくに、国による被災者の医療費・介護保険の保険料と利用料の免除措置は9月末までで打ち切りとなりました。10月以降は国保や介護保険、後期高齢者医療制度の枠内での減免措置ということになり、減免に対する国の支援は最大8割、市町村が2割負担することになります。県は国保・介護保険・後期高齢者医療・障害者の福祉サービスの一部負担(医療費、利用料)について、市町村に対する財政支援(市町村10分の1負担)決めました。その結果、国保では33市町村全部、介護保険では被災者にいる22保険者すべてで一部負担の免除措置が継続されることになりました。免除額は半年分で18億3400万円(昨年度は72億円の免除額)。陸前高田市などでは国保の保険料の減免も実施しています。しかし、被災市町村の負担には無理があります。減免は来年3月末までです。国の責任で免除措置を再開することが必要です。昨年度の減免は国保で2万9461人(一部負担の減免)、44億72百万円、後期高齢者医療で1万2048人(一部負担)、13億87百万円、介護保険5233人(一部負担)、13億60百万円、食費居住費減免が3億54百万円、合計72億18百万円となっています。
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灯油が高騰している中で、福祉灯油等の補助を昨年(被災地12市町村、5000~1万円)より拡充して全ての市町村で実現することも重要な課題です。
3)人口減少進む―昨年3月1日と今年10月1日の人口を比較すると、全県で23292人減少(うち社会減は6203人、自然減16511人)、これは福島県に次ぐ全国第2位の減少率です。とくに被災地は陸前高田市で3514人減(社会減1428人)、大槌町で3004人(社会減1525人)、釜石市で2569人(社会減923人)、山田町で2100人(社会減1031人)と被害が大きい自治体ほど人口減少が激しくなっています。
2、被災者の切実な要求は、被災地で働ける仕事の確保と住宅の再建です。
1) 安定した仕事の確保、雇用のミスマッチの解消は急務―延長されていた失業保険(4335人)は9月末で打ち切りとなり、失業保険切れ3268人(9月14日現在)のうち就職は1125人、32.4%にとどまっています。県のハローワーク前のアンケート調査では被災地の管内で就職したいが9割を占めています。有効求人倍率(9月)は0.90倍となっていますが、求人は建設業や警備、臨時・短期雇用や資格が必要な職種となっており完全なミスマッチとなっています。
2) 事業所の再建(事業継続・再開)は72%(9月1日現在、商工会議所・商工会会員)―被災市町村の会員事業所7,723のうち、被災事業所は4,325(56%)、営業継続・再開が3123(72.2%)、廃業690(16%)、休業284(6.6%)、転出73(1.7%)、不明155(5.4%)となっており、廃業、休業、不明で1,047(24.2%)を占めています。県の第2回被災事業所調査(1779事業所回答、2519事業所対象)では、再開済み51.52%、一部再開済み26.3%で合計77.9%、「被災前と同程度又は上回っている」33.2%、「震災前よりも減少した」は62.25となっています。来年2月までの雇用増は「0人」が63.7%、雇用増の計画は来年2月までに約2100人(1事業所平均1.6人)となっています。事業復興型雇用創出事業(1人雇用に225万円補助、15,000人目標、事業費300億円)の活用は徐々に進みつつあるものの、再建の遅れと使い勝手の悪さと周知の不徹底から620事業所、2083人(10月末現在)にとどまっています。2割までの新規採用が条件となっていること。昨年11月21日以降に限られていることなどの改善が急務です。
事業費の4分の3を補助するグループ補助金は中小企業の再建を支援する新たな制度で大変歓迎されていますが、第4次申請では43グループ、929社、255億円の申請に対し、交付決定は21グループ456社、140億円にとどまりました。第4次までに51グループ、751社、577億円の交付決定、申請事業者の約7割にとどまっています。商業者のグループの補助が新たに決まったのが特徴ですが、緊急に大幅な拡充が必要です。県は9月補正で国に先駆けて87億円の補正予算(総額97億円)を計上しました。これは第4次申請の不足分の規模に対応するものです。政府は10月26日予備費を活用し801億円のグループ補助の実施を決め、11~12月に公募することになりました。仮設店舗は340カ所の申請、323カ所1653区画(店舗)が事業開始し、着工320カ所、完成が311カ所(11月15日現在)となっています。
県単独の中小企業被災資産修繕費補助は427件、15億1949万円の実績ですが昨年度で終了。今年度実施の中小企業資産復旧事業費補助は、146件4億2547万円(11月12日現在)の利用にとどまっており、県は全業種2000万円(事業費の2分の1補助)までの補助に遡及して改善します。
二重ローン解消の制度がつくられたことは重要な成果でしたが、岩手産業復興機構の相談件数が336件、債権買い取り決定が31件(11月13日)、返済条件の変更(減額や延長)11件、条件変更検討・作業中29件にとどまっています。岩手産業復興機構と銀行の姿勢が問われています。(株)東日本大震災事業者再生支援機構では県内23件(11月19日)の債権買い取りとなっていますが、宮古地区では相談83件、再生計画提出23件、支援決定12件など取り組みいかんでは積極的な活用の道を開く可能性も出ています。
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3) 漁業・水産業の被害は5,649億円と最も大きく、その復興は中心課題です―岩手県では、漁協・漁民の取り組みを踏まえ、漁協を核に漁船の確保と養殖施設の整備(9分の8補助)に取り組むとともに、魚市場の再建を核に水産加工業と一体の復興に取り組んでいます。111漁港のうち108漁港が被災しましたが、すべての漁港の再建整備に取り組み、応急工事ですべての漁港で漁船の出入港や接岸が可能となり、潮位に関わらず利用できる漁港は6割まで復旧しています。本格的な復旧工事は88漁港で着手し、16漁港は完了、平成27年度までに全ての漁港の復旧する計画です。漁場・漁港・漁村が一体となっているのが岩手の漁業の特徴です。
9月末現在、漁船の確保は6375隻(被災漁船13,271隻の48%)、被災を免れた漁船を合わせると約8000隻程度が稼働可能、養殖施設整備は13,145台(49.5%)、被災した漁業経営体の再開状況は約7割となっています。県は9月補正で今年度450隻の漁船の確保をめざしていますが不十分です。流通・加工関連移設は54カ所の復旧・整備が完了し(7割強)、今年度は12カ所で事業実施中です。定置網の復旧は135ヶ統中100ヶ統、74%まで復旧しましたが、昨年の秋サケは大不漁でした。今年も不良の予測です。2015年問題も指摘されています。今年の春のワカメ漁は数量で震災前の75%、金額では震災前と同じ101%で重要な再建の一歩となりました。がんばる養殖業計画認定件数は9漁協24件(8月末)にとどまっています。
3、住宅再建に県・市町村が独自に100万円の補助、災害公営住宅の建設は5600戸
1) 貧困な仮設住宅(4畳半2間に3~4人)のもとで、住宅の確保は最も切実な要求です―「仮設から葬式を出したくない」「早く家を再建したい」「災害公営住宅に入居したい」は共通の声です。
2) 持ち家の再建を住宅再建の基本に抜本的な補助をすべきです―県と市町村は、住宅の新築・購入に100万円の補助を実施しています。9月30日現在の申請は1152件となっています。県はバリアフリー化(40~90万円)、県産材使用(20~40万円)で合計最大130万円の補助も実施。陸前高田市では水道工事費に最大200万円、道路整備に300万円、地元産材活用で50万円、浄化槽設置に最大115万円、造成に50万円、合計市独自に最大715万円の補助を実施しています。大船渡市でも水道整備などに200万円の独自補助を行っています。釜石市も100万円(新築50万円、宅地の盛土50万円)、大槌町は150万円の補助、住田町も新築に100万円、宮古市も地元産材で30万円の独自補助を決めています。国の被災者生活再建支援金(22920件)のうち、加算支援金は新築・購入1972件、補修2724件、賃借531件、合計5227件(9月末)となっています。県内の住宅建設費の平均は約2000万円となっており、県・市町村での100~200万円のさらなる支援策がなければ自力再建は難しい状況です。災害公営住宅は建築費で1戸当たり1540万円(釜石平田県営住宅)~2000万円です。さらに維持管理費もかかります。この点でも持ち家建設への支援が効果的です。
県・市町村の独自補助の拡充とともに、被災者生活再建支援金の300万円から500万円への引き上げが必要です。
被災住宅の補修、宅地復旧などへの生活再建住宅支援事業補助金は、2004件、7億1136万円の実績(4~7月)となっており、申請増を踏まえ9月6憶円の増額補正で24億円の事業費となっています。積極的な活用が必要です。
3) 良質で廉価な復興住宅の提供を地元木材と地元業者の総力を挙げて取り組む。
木造戸建ての仮設住宅を建設した住田町では、住田型復興住宅生産者グループを作り、木造軸組工法の地域型復興住宅を100平方メートルで1200~1500万円で建設する計画を示し、住田町では3棟のモデル復興住宅を建設しています。釜石・遠野・大槌の3市町による上閉伊地域復興住宅協議会は、総2階30坪タイプ、設備込みで1000万円の木造住宅建設のプランを示しています。岩手県地域型復興住宅連絡会議も3タイプの地産地消の復興住宅を提案しています。138の生産
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グループが会員となり8月末までに121件の受注となっています。
4) 災害公営住宅の建設戸数は5,601戸(7月25日現在、県分3,231戸、市町村分2,370戸)となっていますが、希望者が徐々に増加しており、応急仮設16,817戸(みなし含め)からみて極めて不十分です。釜石市の被災者アンケートでは40%が公営住宅を希望し、58%の集計ですでに市の計画戸数を上回っています。入居希望者が全員入居できる規模にすること。木造住宅は全体で533戸、うち県分は30戸だけ。比較的被害の大きくない野田村、田野畑村など県北地域では木造戸建て住宅を建設します。大船渡市でも検討するとしています。集落維持を基本に、最大限木造戸建ての公営住宅を建設することが課題です。とくに漁村にふさわしい木造戸建ての公営住宅が必要です。県分の着工戸数は1032戸、今年度内には1750戸に着手する予定です。
5) 持ち家再建の場合の課題は用地不足です―高台移転、土地区画整理事業の場合、造成事業完了まで3年以上かかり、取り組みが早い野田村の場合でも住宅建設は平成26年度半ばから28年までかかる。それまでは仮設住宅での生活が強いられる。土地が高騰しており用地確保に特別の手立てが必要です。陸前高田市米崎町松峰地区、宮古市田老地区が全国1・2位の地価上昇となっている。
6) 住宅ローンの二重ローン対策―私的整理ガイドラインの改善と取り組みの強化が急務。
個人版私的整理ガイドラインの相談件数は636件、登録専門家を紹介し準備中が835件(全体)、債務整理開始の申し出件数102件、債務整理成立件数がわずか28件(11月5日現在)となっており、機能していないのが実態。すでに金融機関からローンの返済が求められ、義援金等で返済を強いられている。積極的な活用と制度の改善が必要です。金融庁(7月)、東北財務事務所(10月1日)が金融機関に具体的で厳しい通知を出していることを活用し、周知の徹底、金融機関の対応の改善が必要です。
4、12市町村120地区で復興まちづくり事業―徹底した住民合意貫いて、早く
1) 12市町村120地区で復興まちづくり事業―7市町村21地区で都市再生区画整理事業、7市町村50地区で防災集団移転事業、6市町村10地区で津波復興拠点整備事業、11市町村32地区で漁業集落防災機能強化事業、3市町村7地区でがけ地近接住宅移転等事業が計画されています。普通1事業で10年かかる事業を今年度中に住民合意を踏まえ復興計画を策定し、平成26年度までに事業計画の手続きを終え、平成30年度までに完了させる計画です。
2) 徹底した住民による協議と合意を形成することが特別に重要―専門家の派遣など住民の立場に立った議論が行われるようにすべきです。行政にとっては技術者・用地の専門家が不足しています。県と市町村から11市町村に281人(10月1日現在、昨年度比142人増)派遣されていますが、要望数371人に対し90人(10月1日現在)不足しています。全国知事会を通じた派遣は258人の要請に対し121人となっています。土地の高騰と用地取得の問題、資材不足、埋蔵文化財調査の課題もあります。土地区画整理事業では宮古以南の6市町がUR都市機構と協定を結び取り組むことになっています。
3) 市街地・中心部の再生・復興を早く示すこと―役場、病院、商店街、公営住宅など中心市街地の再生の取り組みが遅れています。分散型ではない、効率的なコンパクトなまちづくりが進めることが求められています。
4) JR大船渡線・山田線の早期復旧に背を向けるJR東日本―鉄道と駅は町づくりの土台。
JR東日本は、JR大船渡線・山田線の復旧を言明せず、BRT(高速輸送バス)への転換を提起しています。2010年3月期決算で2,400億円の経常利益、2兆5千億円の内部留保をため込んでおり、十分復旧は可能です。ルート変更やかさ上げ分に対する国の支援も必要です。大船渡市、陸前高田市、気仙沼市長は10月4日、「JR大船渡線のBRTによる仮復旧について」の要望書を提
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出しましたが、BRTはあくまで仮復旧として鉄路の全面的な復旧を強く求めています。
5、被災地で住み続けられる町づくりを―医療・福祉と教育の復興の課題
1) 被災した高田・山田・大槌の3つの県立病院の再建の道切り開く―昨年8月に策定された県の復興基本計画には、被災した3つの県立病院の再建が明記されませんでした。地域住民の運動と県知事選・県議選のたたかいを通じて「被災した県立病院の再建を基本に取り組む」と知事が言明し、今年3月の「本県医療の復興計画」に県立病院の再建が位置付けられ、75億円余の地域医療再生臨時特例交付金が交付されました。今年度中に用地と再建の規模を決めることにしていますが、問題は用地の確保と医師の確保です。最優先課題の一つとして地元市町が取り組むことが必要です。地震で入院病床が使えなくなった大東病院も病院再建の方向(40床程度、平成26年4月)となりました。
2) 民間を含めた医療機関の被災と復興状況―病院は13が被災、3県立病院が仮設で診療(高田病院は41床の病床も再建)、10病院が自院で再開、診療所は54が被災し、24が自院で、17が仮設で再開、10が廃止、歯科診療所は60が被災、24が自院で再開、23が仮設で再開、7が廃止、調剤薬局は53が被災し、32が自院で再開、3が仮設、15が廃止となっています。
3) 介護施設では大船渡市の特養ホーム(53人)、山田町の老健施設(73人)が全壊の被害で計126人が犠牲となりました。一時使用不可となった介護施設は14施設ありましたが、7施設が再開し、6施設が再開・再建を計画中となっています。要介護認定者が急増している中での介護基盤の再建整備は急務の課題です。
4) 学校教育の再建は急務―「釜石の奇跡」と言われた釜石東中学校の生徒避難行動があったものの、県内全体では児童生徒78人が死亡し、13人が行方不明となりました。津波で全壊となった県立高田高校は、旧大船渡農業高校の校舎を使用し、毎日スク-ルバス10台で生徒を送迎しています。造成工事に着手し平成26年度末の完成をめざしています。小中学校の12校が仮設校舎で、7校が他校を間借り、3校が他施設を使用しています。被害を受けなかった学校でも25校のグランドが仮設住宅の全面使用、一部使用は12校で体育の授業や部活動ができない状況となっています。被災した校舎の再建(7市町17校で再建を検討、用地・移転場所決定が4校、用地交渉中が8校、協議・調整中が5校)、当面、仮設グランドの確保(41校中9校で整備中または予定)、仮設校舎へのエアコンの設置(釜石市の4校と大船渡・大槌町の6校に設置予定)などの取り組みが急務です。2300人の生徒が仮設住宅から通学しており、放課後の学習の場所の確保と学習支援の強化が必要です。
5) 震災孤児94人、震災遺児481人―震災孤児のほとんどは親族里親が面倒をみる状況となっています。昨年9月1日~9月22日に実施された児童生徒の「心と体の健康観察」によると、ストレスやトラウマなどで「優先的に教育相談をしてほしい児童生徒」は小中高で14.6%、沿岸市町村では15.8%となっています。生徒は仮設住宅での生活でも緊張を迫られており、心のケアの取り組みは重要となっています。
6) 「いわて学び希望基金就学金給付事業」―寄せられた46億円余の寄付を活用し、小学生に月1万円、中学生1万円、高校生3万円、大学生・専門学校生に5万円を給付しています。未就学児71人、児童生徒は482人(昨年度は532人)に給付しています。
6、被災者の生活再建優先の復興か、大規模公共事業優先の復興かが問われている
1) 岩手県の復興基本計画の問題点―「安全の確保」「暮らしの再建「生業の再生」を三つの原則にしていますが、「安全確保」の名のもとに、三陸縦貫道などの復興道路(高速道路)の整備(総事業費1兆1403億円)など大型公共事業優先の復興になりかねない問題をはらんでいます。復興
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道路は昨年度759億円(県負担139億円)、今年度836億円(県負担157億円)の事業費となっています。県が事業主体となる復興支援道路は総事業費737.9憶円、復興関連道路は938.3憶円となっています。防潮堤の整備も十分な住民の協議もなく、12~14mを超える高さの防潮堤が三陸海岸に整備されようとしています。背後地盤が高いことや農地のため、まちづくりとの調整を理由に19ヶ所21地区で防潮堤の高さを前と同程度に変更していますが、漁業・環境との共生、防災対策、維持管理費と経済効率性など総合的に検討されるべきです。今回の津波で破壊された釜石湾口防破堤、大船渡湾口防破堤も十分な検証もなくそれぞれ490億円、200億円の事業費で復旧されています。宮古市の水門の整備(166億円)もこれまでの市や市議会の堤防かさ上げの方向を無視して強行されました。
2) 復興事業は生活再建を最優先に、オール岩手で取り組むこと―被災者の生活と産業の再生に関わる高台移転や漁港の整備や水産業の再生、学校の再建整備などは遅れ、資材不足、生コン、職人不足、事業費の高騰が深刻となっており、復興事業の優先順位が問われています。建設事業はこれから本格的な発注となりますが、内陸の企業との復興JVなどオール岩手の取り組みとすることが必要です。
7、災害廃棄物(がれき)処理の問題
1) 県内の災害廃棄物は、525万t―10月末までに処理された量は103万t、19.6%にとどまっています。広域処理は44万tの処理必要量に対し、1都6県18市町村等で4万tにとどまっています。県内で最大限処理する計画ですが、県分で12年分、陸前高田市分148万tは255年分にあたります。とくに津波堆積物130万トンは県内処理をすることにしています。復興資材として活用する計画で、陸前高田市に分別処理施設を設置する計画です。80%活用できる見込みで、残りの処理方針は定まっていません。96.8万tの不燃物の処理も同様です。
2) がれきの広域処理の問題―福島原発事故による放射能汚染問題が大きな障害となりました。9都県と協定・覚書を結び、6都県が広域処理を行っています。広域処理に協力していただく県、市町村では、独自の基準(100ベクレル/kg)を決めて処理しています。
8、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染対策
1) 原発事故による放射能汚染―稲わら(583t)・牧草(19729t)、シイタケほだ木(109万本、5450トン)、堆肥(6954t)、合計32726トンとなっています。畜産など岩手の農林業の危機的状況を招いています。原木シイタケ、山菜、きのこ等の出荷制限は14市町村に及び、2500頭に及ぶ廃用牛の滞留、15000haを超える牧草の除染、風評被害対策を含めると4万haとなるなど重大な課題に直面しています。産直施設・きのこの時期に向けた検査体制の強化確立も必要です。県は9月補正ですべての牧草の除染に対する助成を示すなど40億円の補正予算を提出しました。焼却処理の方針ですが5~6年以上かかる状況で見通しが立たないのが実態です。
2) 学校など子どもが利用する施設とホットスポットの除染対策、子どもの健康被害・健康調査の継続は引き続き待ったなしの課題です。県の9月補正では昨年度健康調査の継続実施(132人)と新たに希望者(3000人)への検査にも2分の1の助成を実施することを示しました。
汚染状況重点調査地域に指定された一関市、奥州市、平泉町における除染対策では、除染実施区域内の除染に限るとされ、ホットスポットの除染が対象外となっていること、表土除去後の客土による原状回復については基準額では復元できないこと。汚染廃棄物・土壌の共同仮置き場についても制限があることなど、国の責任で全面的に除染が実施されるように改善が必要です。
3) 損害賠償対策―JA協議会の第7次による請求額は111億円となっていますが、東京電力の支払額は8月の仮払い(5~6月請求分の50%)を含め69億円で62%にとどまっています。県・市町村・広域連合等の損害賠償請求額は8億7千万円余となっていますが、回答も支払いはありません早期の全面賠償を求める徹底した取り組みが必要です。