荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ヴィジット』 M・ナイト・シャマラン

2015-11-14 04:48:49 | 映画
 それなりにカルト的なファンがついているということだろうが、M・ナイト・シャマランという人は精神的に打たれ強いというか、よくぞこれまで続けてこられたものである。興行・批評共に評判がよかったのは『シックス・センス』など初期だけで、『レディ・イン・ザ・ウォーター』『エアベンダー』『アフター・アース』と、最近は評価が下がる一方となり、マイケル・ベイとならぶゴールデン・ラズベリー賞の常連にすっかりなってしまった。『ハプニング』なんかは悪くない作品だった。だが『エアベンダー』はサーガの導入部として作られたのに、その後シリーズの続編が作られるという話を聞いたことがないし(いや、『エアベンダー』も言われるほど悪くはないのだが)、ウィル・スミス親子の雇われ監督として参加した前作の『アフター・アース』の悲惨な出来ばえについては、こちらもあまり多くを語りたくはない。
 新作『ヴィジット』は、絶好調だった初期の調子を取り戻したなどとは言うまいが、映画ファンのツボを妙にくすぐる作品となった。シャマランはカレッジ・ホラーに先祖返りしていく。『岸辺の旅』とちょうど公開時期が重複したけれども、黒沢清の高山植物のような孤高の進化とは正反対に、一歩間違えたら学生でさえ作れそうなホラー自主映画を何食わぬ顔で作っている。しかもその画面構成は、15歳の少女と12歳の弟がカメラを回した家族ドキュメンタリーの素材という形式を取っている。退行の快楽によって調子を取り戻すこともあるのである。
 プロデュースは、『パラノーマル・アクティビティ』シリーズを手がけてきた、スリラー/ホラーを専門とするジェイソン・ブラム。このプロデューサーがこの1年で手がけたのは『セッション』『パージ』『パージ:アナーキー』『死霊高校』である。識者の舌戦を引き起こした『セッション』は、ようするに音楽大学を舞台とするホラー映画だったことがわかる。ブラムがはたして評価に値する存在であるかは、意見が分かれるだろう。しかし、シャマランに対しては良いことをしたのではないか。
 少女とその弟が一週間の予定で泊まりに行った、ペンシルベニア州の祖父母の家。夜になると、部屋の外でものものしい物音がする。ドアを開けると、ある者が踊り場を騒ぎながら横切る。嘔吐しながら横切る。これがじつに怖ろしい。誰かが横切るというだけで、観客を怖がらせるのだから、それだけでこの作品は成功である。少なくとも今年度は、ラジー賞から無縁でいられるだろう。


TOHOシネマズみゆき座(東京・宝塚劇場地下)ほかで公開中
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