老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「日本の木造高層ビル事情の現在地」の確認と自然や生態系すら商品化しようと試みる「世界のグリーンウォッシング事情の現在地」との対比から見えてくるもの

2024-05-31 13:48:48 | 環境問題
「東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話。この対比、どちらに与したいですか?」という話題を4月25日に紹介した。

その後、「なぜ今、木造高層ビルが建ち始めているのか------日本が抱える国家的な森林問題」
(Yahoo!ニュース 2024年2月29日付け一志治夫氏記す)という記事があることが判ったので、その紹介を兼ねて木造高層ビルや木造都市計画等に関連する我が国の現在地を一志氏の話をなぞりながら先ずは見てみたい。

O現状説明として:木材を使った高層大規模ビル建築が急速に増えたのは、2020年代に入ってから。純木造は少ないが、柱や梁、内外装に木を多用し、鉄骨や鉄筋コンクリートと組み合わせて造る地上6階建て以上のビルは、都内だけで、すでに20棟をゆうに超えている。この1月4日には、東京日本橋で地上18階建て、高さ84mの「日本一の高層木造賃貸オフィスビル」(建築主/三井不動産 設計・施工/竹中工務店)の建設工事も始まった(竣工予定は2026年)。

O木造高層ビルが増えだした理由:CLTや耐火集成材といった火災時の耐火性能を持つ木の柱・梁など新たな木質系材料が誕生し、鉄骨とのジョイントなどの技術開発をゼネコンやメーカーが進めた結果、燃える、腐る、折れるといった木材の弱点、課題が克服され始めたこと。つまり、高性能の木材が誕生したことで、木造高層につきものの消防法との兼ね合いや海外事例の拡大という背景をもとに、難題のハードルが下がってきたことが一つ目の理由。そして、この動きを後押しする法整備の存在がもう一つの理由。

O現在の法整備の状況:2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、その後2021年に改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市〈まち〉の木造化推進法)となった。これをもとに、建築主が国や地方公共団体とともに木材利用に取り組む「建築物木材利用促進協定制度」が創設され、各行政による補助金制度も整い始めている。

O木造高層ビル建設が推進される背景:一つは日本が抱える切実な森林問題を挙げ、我が国の森林と林業の歴史に触れている。国土の3分の2が森林。その4割は人工林。木材を利用し、森を循環させることが日本の絶対的テーマと考えるも、1964年の木材輸入自由化で外国産材の輸入が急増。「林業は儲からない」となり「放置林」が増加。2002年に国産材の供給量が底を打ち増加に転じるものの、2021年の自給率はいまだ41.1%。かかる状況が現在地とはいえ、SDGsやESG投資と無縁ではいられないスーパーゼネコンや大手不動産会社にとって、法整備も整いつつある中、我が国の絶対的テーマである国内の木材利用、そして日本の森を好循環させることにも繋がるという観点から見ても、「木造高層ビル」建設推進の動きは、うってつけのテーマと捉えられているのであろう。そして2010年の「公共建築物等木材利用促進法」も後押しする形で、一気に建築業界の積極的な取り組みが始まったのである。

O今や不動産会社自らが森林を保有したり、管理運営する:野村不動産ホールディングは、2022年10月東京奥多摩に、「つなぐ森」の地上権を取得し循環する森づくりをスタートさせ、東京都と「建築物木材利用促進協定」を締結。今後30年、130ヘクタールの森を保有し、「地産地消の循環する森づくり」を推進していくとしている。「つなぐ森」で生産される木材は、年間約500m3。野村不動産グループが目標とする木材使用量は16,500m3。「つなぐ森」からの木材は1.5%分とわずかであるが、切り出した丸太を地域の加工所に出すことで、加工所の生産量は従来の3倍になり、地域に新たな雇用が生まれている、と意義を語っている。
日本の人工林の約半分が主伐期の50年生を超えている。CO2吸収量が減少する高齢木を伐採し、新たに植えるという循環システムを作ることは急務とされており、そうした中で不動産会社が地産地消を掲げて森林を保有し始めたことの意義は深い。
また、不動産会社「ヒューリック」は2021年10月、銀座8丁目に「銀座を中心に森を作る」を開発コンセプトに、日本初となる耐火木造12階建ての商業施設「HULIC&New Ginza8」を竣工(設計・施工/竹中工務店)。福島県産のスギを中心に使った木造+鉄骨造のハイブリッド建築。外装に木材を使用し、柱や梁に耐火集成材を用い、構造材だけで288㎡の木材を使用。ヒューリックは、「伐採した分の木は植える」を掲げ、福島県白河で植林活動も行っている。森の循環あっての木造建築というコンセプトがここでも貫かれている。

以上、一志治夫氏の情報をもとに日本の木造高層ビルと日本の森林の状況ならびに今後の行方を占う話を紹介したが、都市の高層木造ビルのプロジェクトを推進している不動産デベロッパーの担当者の一人が思わず語った言葉が気になったので、彼の言葉も再録しておきます。

『2030年の前後って、木造ビルがたくさん出来ていたよね、なんか流行っていたよね、みたいなことになっちゃうことですね、一番恐れているのは』と彼はこうなって欲しくはないものの、大いに有りえる近未来の「日本の木造高層ビル事情」を懸念しているのである。ここに紹介している大手デベロッパーの動向は、賞賛に値するものと評価したい。熱しやすく、冷めやすい世の常の中でも、めげずに何とか進展していってほしいものではある。

とは言え、上に紹介した一志治夫氏の記事の内容は、日本も日本の不動産会社も良くやっているじゃないか、是非上手く進むよう我々も協力したいものだ、といった思いになるのはある意味、コインの一面のみを見ての話なのである。

コインの反対側の面を考えてみたい。

その為に先ずキーワードとなる、nature-based solutions(「自然を意識した解決策」NbSと略記)という言葉の説明が必要となる。

気候変動による社会・経済・環境上への打撃に世界が今後対処していく時に、このNbSが大きな役割を果たすとの観点から、国連環境総会第5回会合(UNEA-5)において多国間でNbSが討議され、その定義が正式に決定されている。

決定された定義は次である。

『手つかずの自然の陸地・水域の生態系、あるいは人手が入り改変された陸地・水域の生態系を保護・保全・再生・持続可能なやり方で利用し、管理運営する行動がNbSである。このNbSの行動は、我々が直面する社会的・経済的・環境上の課題に対し、有効であり順応性がある行動であること、そして併せてこのNbSの行動が、人々の幸福、生態系が持つサービス、そして回復力と生物多様性を提供できるような行動、をNbSとしている』

2023年4月15-16日に札幌で開かれたG7気候・エネルギー・環境大臣の会合でもこのNbSが一つの議題として討論され、UNEA-5における議論を追認し、NbSが気候・生物多様性・人間の幸福を含む多くの課題の解決に有効に働く能力を持っている、としてNbSの実行化実践化を強調している。

この世界の動きに合わせて、東京都は2030年目標(自然と共生する豊かな社会を目指し、あらゆる主体が連携して生物多様性の保全と持続可能な利用を進めることにより、生物多様性を回復軌道に乗せる=ネイチャーポジティブの実現)という東京都生物多様性地域戦略を立てており、この戦略の基本戦略IIに、行政・事業者・民間団体などの核となる主体者と共に『Tokyo-NbS』アクションを推進する、という行動目標をたてている。2030年までを「NbS定着期間」と捉え、各主体がNbSとなる取組を実施することを目指す、として手法としてのNbSが組み込まれている。

国際自然保護連合(IUCN)が提唱し、国連環境総会(UNEA)がお墨付きを与え、G7が推進力を与え動き出した我々市民社会と経済社会そして自然環境に大きく影響を及ぼす気候環境危機・生物多様性損失危機・生計危機等への順応策緩和策を考えていく手法として『自然を意識した解決策NbS』が注目されて来ているのが我々の現在地だといえます。

一志治夫氏の話題にある大手不動産会社の東京奥多摩で展開されている「つなぐ森」プロジェクトが、東京都のTokyo-NbSアクションメンバーに登録されている(他にサントリーの「奥多摩の森林整備による水資源と生物多様性の保全」プロジェクトがある)ことからみても、現在、行政と大手企業という主体組織が「気候危機・環境危機・生物多様性損失危機等の順応緩和策を考え出していく手法」として『自然を意識した解決策NbS』を大きく意識していることが判ると思う。

NbSが注目され、行政と大手企業が主体的に動き出している状況は、歓迎すべきだけれども、この流れには注意が必要だとする意見・情報が存在しているのである。次の情報です。

『自然を意識した解決策(NbS)』---気候危機と生物多様性危機を利用して企業や自治体がグリーンウォッシュの手段とする間違いであり困った解決策(原題:“Nature-based solutions(NbS)"---another false, corporate pathway in the great greenwashing of the climate and biodiversity crises、globalforestcoalition.org、 Oct.12,2023 by S.Lahiri and V. F. Martinez)

「自然を意識した解決策(NbS)」に関する国連多国間協議の最終ラウンドが今週ナイロビで行われる。NbSに関しては、昆明-モントリオールでの生物多様性枠組み協議においても議題になっている。これらの協議に入っていく際、我々はこれらの取り組みの方向性を慎重に見極めていくことが大切である。

NbSという言葉は、多くの人にとって健全な方向が目指されているとの印象を与えるだろう。しかし慎重にそして厳密に実施状況を分析・精査していくと、気候危機・生物多様性危機の解決を目指すNbSの理念とは反対に、危険な障害物となる恐れが浮かび上がる。

政策立案者らは、これら多国間協議の場に於いて、社会的・環境的課題に対して彼らが取り組む際に、NbSという用語が、持続可能な管理運営方法であり、自然の特徴や自然の流れを利用しているという意味合いを持つ、と指摘している。

しかし実態としては、カーボンオフセットの図式を含むような彼らが提案する方式は、人間の権利の破綻や生態系システムの破綻に繋がるものだとの認識が強まっており、そして同時に真の緊急課題である炭素排出を削減する課題から我々の注意をそらす有害なものではないか、と徐々に受け取られるようになってきている。

これらの間違った解決策が提起される動因として考えられるものは、不安感を過大に煽る企業側のロビー活動組織の存在がある。

石油・天然ガス・アグロビジネス・輸送部門の事業者らやGHG高排出諸国の政府らが「自然を意識した解決策(NbS)」という言葉を使用することが、増えてきている。
これらの事業体や政府は、我々が今日目撃している環境破壊の大半の責任を負うべき組織であり、世界中の共同体に影響を与えている。
環境保護の幾つかのNGO団体もNbSを支持しており、NbSの考えが最適なインフラを作りだし、生物多様性がある未来を約束するのに役立つとしている(IUCN?)。

しかしながら、NbSの指針となる原理原則は、数千年にわたり地球上の森林の保護者の任を負ってきた先住民族の人々の智恵や世界観や伝統的な慣習や持続可能な生計の立て方といったものとは合致しないのである。

最近の研究によると、NbS活動が生態系や森林や生物多様性に対して悪影響を及ぼし、合わせて先住民族の人々や多方面の女性や地域共同体にも悪影響を及ぼすということが明らかとなってきている。更に何世代にわたり自然を守ってきていた人々を疎外していくことも明らかとなってきている。

例えば、シェルの例では、シェルは、年間1億ドルを『自然を意識したプロジェクト』向けに投資することで、シェルのGHG排出分をオフセットすることを狙ってNbSを利用している。同様にフランスの石油大資本のトタルは、アフリカで木材・森林・アグロフォレストリー・植林分野のプレイヤーであるForetリソースマネジメント社と共同してコンゴ共和国と提携契約を結び、4万haに及ぶ植林活動を行っている。トタルはコンゴ共和国で1000万ha以上の植林を行うという。

植林活動や再森林化活動の何処が問題なのかと尋ねるかもしれない。

しかしながら、世界の巨大企業が主にカーボンオフセット制度を利用する形で「商品市場指向型のNbS」プロジェクトに投資する行動の状況を丹念に精査していくと、それら高排出事業体企業の行動というものは、気候危機や生物多様性危機を解決することを狙っての行動というよりも、高排出事業体企業によるグリーンウォッシングの行動にすぎないということが判ってくるだろう(高GHG排出企業や排出国政府が、彼らに染みついた悪いイメージの払しょくを狙うとともに、自然環境という資源を商品化し、市場に引き出すことで、可能な限りこれら活動への投資に対する利益・配当の獲得をも狙う行動をグリーンウォシングというのだろう)。

FAOとNature Conservancy(1951年設立の自然保護NGO。生物生息地確保や生態系保全活動を行う。100万人以上の会員を擁す)との共同文書が、これらの行動の傾向を取り上げており、それによると農業分野のNbSは主として混合型資金調達・債権・グリーンクレジットと株式・カーボンクレジット・生物多様性及び水系オフセット等を通じて出資金のリターンを求める傾向をこれらの行動がどのように反映しているかを示している。

このNbSというレンズを通して見ると、『森林と土地は金銭化できる資産であり、自然資産は経済的に増大が期待できる』という見方が生まれてくるのである。

2022年2月のナイロビで開かれた国連環境会議(UNEA 5.2)において、「持続可能な発展のための自然を意識した解決策NbS」に関する決議5/5が採択された。
この決議は多国間協議で定義が合意されたNbS活動を可能な限り迅速に進めていくという推進力を与える一方で、展開が予想されるNbS活動が、GHG排出削減活動の迅速化、深耕化、継続化という我々の要求を妨げることがないよう確認していくためにNbSの効果効能の分析の必要性がある点を確認し、指摘もしている。

またNbS(nature-based solutions)が誤用・悪用される可能性への懸念から、『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』との調和の必要性を強調もしている。

『自然を意識した解決策NbS(nature-based solutions)』と『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』との曖昧で、ハッキリしない結合化は、気候変動と生物多様性(T8)および人々に対する自然の貢献の再建(T11)に関する目標を検討した昆明-モントリオール世界生物多様性枠組交渉(KMGBF)においても反映されている。
この決議はまた、NbSには多面的な解釈が存在していることを認めており、協議参加国間の中に共通認識が欠けている事実も認め、受け入れている。

先住民族の主要グループは、炭素マーケットのオフセットシステム装置というものが、先住民族の権利を侵害し、彼らの領域を侵食し、重大な人権問題を引き起こす可能性があると、警告を発している。彼らの主張は正当なものである。

NbSの提案者や支持者らは、『自然を経済的な資産だと解釈し取り扱おうとする』のであり、自然の従来からの管理者たちから自然を奪い取り、自然を投資対象となる商品に変えて、彼らの投資に見合う将来の利益獲得を目指すのである(16世紀イギリスで進行した、地主による牧場用地の獲得の為の、そして農民の離村と賃金労働者化を促し産業革命の地ならしを求めた運動と理解される「囲い込み運動」の現代版だろう)。

NbSを『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』と調和させようとする試みが、KMGBF交渉にも及ぼうとしていることが見られており、懸念すべき状況が生まれている。
『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』には、CBDおよび数回の気候危機COP会議を経てきたという長い発展の歴史がある。

『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』というものは、多様な文化的背景をもつ人々が生態系を統合する要素である、という認識のもとで、人々はみな平等に生態系を保全しつつ持続可能なやり方で生態系を利用していくことを推進しようという考えである。

一方で、国連環境総会UNEAの決議内容は、気候危機と生物多様性危機という双頭の危機の解決策を求めんが為に、極端に緩和手段(mitigation)に軸足を置いたものであり、そこには先住民族・多面的な活躍する女性や地域共同体が介在していることの考えが抜け落ちているのである。
この重大な欠点を持つ「商品市場主導の解決策作り」の動向に我々は反対すべきである。

この国連多国間協議場内に起こっているNbSを『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』と同一視し、調和させようとするこれらの試みは、大きな問題を孕んでいるだけでなく、自然の持つ機能が商品化され・金融化され、そして民営化されていくことを狙う商品市場至上主義に基づく市場内の協調関係が構築されることになる。
自然と一体に暮らしている我々が懸念を訴えていく際の障害物となり、結果的に政治的思惑を利する恐れがあるのである。

UNEAのNbSに関する政府間協議と気候変動と生物多様性に関するCBD SBSTTA25会議が始まる今、我々は人々と地域共同体を気候変動と生物多様性に関する議題の中心に据える絶好の機会を得ている。必要な進路修正を行い、気候変動と生物多様性という2つの危機に対する有効な解決策への道を切り開く時が来ている。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
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何故にパプアニューギニアで多くの死者の発生を伴う地滑り・土砂崩れが多いのか?どのような協力が我々にできるのだろうか?

2024-05-26 22:04:44 | 環境問題
もし社会に、何らかの構造的課題が存在しているのであれば、それに対しては是正に繋がる行動が為されてほしいものだ。その課題が国内のものであろうが、国際間にまたがるものであろうが、同様に行動が為されてほしいものである。

ところが、グローバルノースに対してグローバルサウスが存在していると言われていること自体に、両者の間には厳然たる構造的課題が国際間には存在していることは明白である。

例えば、パーム油のプランテ―ション開墾の為の森林伐採の横行や、違法伐採木材すらが流通し横行している状況の放置であり、結果として森林伐採が進行し、ために気候変動事象が更に悪化していくという悪い回転の構造が今もあり、しかも減るどころか拡大していると言われているのである。

そして課題が生じる大きな原因の一つに、格差の存在とその放置の問題があると考える。

ここで伝える話題の論旨は、例えば、先の能登地震の問題を考える際にも通じる興味ある視点が提供されていると思う。日本の国内にも、更に更にと富み栄えていく都市部と共に、更に更にと疲弊が進み消滅さえ懸念される田園部との格差問題があり、この課題の放置は許されないのであり、是正に繋がる行動が大いに論じられ、そして為されてほしいと思う所である。

かかる視点から、このパプアニューギニアの現在の災害状況を伝える記事は、これらの課題を再確認する機会となり意義あるものと思い紹介する次第です。

***
何故にパプアニューギニアで多くの死者の発生を伴う地滑り・土砂崩れが多いのか?どのような協力が我々にできるのだろうか?
(原題:Why does Papua New Guinea experience so many fatal landslides---and what can be done?
ABC news Australia アンドリュー・ソールペ氏記す )

この金曜、パプアニューギニア・エンガ州のカオカラムという辺境の村で、100人を超す人命が奪われたと見られる大規模な地滑り・土砂崩れが発生した。

パプアニューギニアでは、ここ数カ月間、地滑り・土砂崩れ被害が続いている。例えば4月にはシンブ州で14人が生き埋めになっており、3月中旬には3件の地滑り・土砂崩れが発生し少なくとも21人が亡くなっている。

人命が奪われる地すべり・土砂崩れ被害の発生は、パプアニューギニアでは今に始まったことではなく、しかも悲しいことに、地すべり・土砂崩れが定期的に発生し、多くの人命がこの地で奪われるものの、それらの報道が海外に流されることは余りないのである。

パプアニューギニアにおいて地すべり・土砂崩れが何故頻繁に発生するのか、しかも多数の人命が奪われ続けるのか、そして世界の国々がこの状況の打開にどう協力できるか、を考えてみたい。

科学雑誌「Eos」で「地滑り・土砂崩れブログ」を運営している、著名な地滑り・土砂崩れ事象専門家である英国のハル大学副学長のデイブ・ぺトレイ氏は、パプアニューギニアで頻発する地滑り・土砂崩れには多くの要因が絡んでおり、その中の主な要因としてパプアニューギニアの山岳地帯特有の気象環境と熱帯特有の天候とが深く影響している、と語る。

激しい風雨や嵐により地盤の浸食が進行していき、洪水や高潮といった全ての事象が危険な岩石落下の発生率を高める働きをする、とぺトレイ氏は指摘する。

それに加えて、パプアニューギニアは太平洋の2つのプレートの境界に沿って活火山が走り、そして地震活動の活発な環太平洋火山帯に位置しており、地滑り・土砂崩れが起こりやすい環境が整っている、としている。

「常時起こる地震自体が地滑り・土砂崩れを誘発することがあり、地震によって岩盤の斜面構造が弱体化されるということも起こる。いわば、これらの地域全体が構造的に非常に活動的な場所となっている」とぺトレイ氏は指摘する。

パプアニューギニアで頻発する地滑り・土砂崩れは確かに問題ではあるが、パプアニューギニアに限ったものではないのであり、例えばアメリカ・日本・イタリア・オーストリアやスイスのような世界の各地の丘陵・山岳地域で、厳しい気象条件が重なれば地滑り・土砂崩れは同様に発生しやすくなるのである。

それでは、人命を奪うような地滑り・土砂崩れが、ことにパプアニューギニアで頻発しているのは何故なのだろうか?

研究者らは、地震やその他の通常起こる自然災害の場合と同じく、地滑り・土砂崩れによる死亡者数とその地域の経済状況との間に存在する関係性に長年にわたり着目している。

全ての条件が同じであれば、国が貧しいほど、死亡者数は多くなる、と言われている。

この説明に対する理由は数多くある。インフラ構築物が貧弱な点・緊急時対応が有効に働かない点・医療体制が低水準である点や早期警戒警報システムがない点などが主な理由である。

別の理由として、その地域の人々の居住場所が、地域の開発状況によって決まってしまうという点を指摘する研究者がいる(Joshua West,The Conversation,January22,2018)。

パプアニューギニアは世界で最も田園地帯特有の社会が残っている地域の一つである。

公式発表の人口は、1050万人だが、実際はもっと多いと見られ、国連の調査結果によると1700万人程になるだろうと見られている。この違いの発生は、基礎的統計資料の運用上の不備が原因とされている。

いずれにしても、パプアニューギニアの都市部に居住する人の数は、全体の20%以下で、大半の人々は自給自足型農業に依存して暮らす農耕民であり、彼らは農耕のためある程度の土地を必要としている。そして人口が増大する傾向のなか、丘陵地が主体の地域で暮らさざるを得ない彼らは、必然的に地滑り・土砂崩れの危険性があり、緊急時の支援活動が期待できない地域に居住せざるを得ない状況に置かれているのである。

地形的な条件や気象条件の問題に加えて、パプアニューギニアの地滑り・土砂崩れ頻発の原因として、ペトリイ氏は人間の生産活動がもう一つ別の大きな要因となっていると指摘する。

パプアニューギニアの森林地域には、小さな規模の村々及び彼らの耕作地域が展開されている以外に、大規模産業の数多くの工場もまた展開されており、金・銀・銅・コバルトの採掘や液化天然ガス(LNG)も採掘が行われており、過去に人命を奪った地滑りが引き起こされていたのである。

規模の大きい違法伐採の問題もパプアニューギニアには存在しており、またパプアニューギニアは世界で5番目に多くヤシ油を輸出しており、ヤシ油のプランテ―ションには大規模な森林伐採がついて廻るのである。

ぺトレイ氏は、「地形的には、植林化・森林化が強く求められるのであるが、パプアニューギニアの森は伐採され続けている」と指摘する。

パプアニューギニアの森林伐採の問題は、衛星写真で確認する限り改善の兆しはない。パプアニューギニアは地滑り・土砂崩れの危険性の除去や低減に役立つインフラ作りに苦闘している最中である。

一方で、森林伐採も原因して気候変動は高進していき、海面上昇による高潮被害も課題となってきている。海岸沿いの村レセ・カヴォラの住民は、巨大高潮により農作地や飲み水が被害を受けたことから、この3月村全体の移動の検討を始めている。

気候変動は、地域の地形が対処できる能力を超える突然の気象状況を発生させることから、特に地滑りに大きな影響を与える、とぺトレイ氏は指摘する。

「短時間に、多大な降雨量を伴う雨に対して、崖という斜面は特に脆弱だ」としている。

「地形というものは、それが従来経験してきた最も大きな衝撃には耐える構造ではあるが、もしも新たな衝撃が従来経験した以上の大規模な場合、その地形は、新たな衝撃に応じて変形していくのであり、即ち地滑り・土砂崩れということが必然的なものになるのである」とぺトレイ氏は指摘する。

山岳地帯での地滑り・土砂崩れは、ある程度は避けられないものである。しかしながら、死亡者数や対応策という両面において地滑り・土砂崩れの被害を軽減することは出来る、と専門家らは指摘する。

ヤシ油のプランテ―ションやLNG開発の様な大規模プロジェクトを推進するのではなく、規模の小さい地元経済の後押しが、パプアニューギニアが進めるべき正しい方向の対策であろう。

ぺトレイ氏は、過去に数百人の人命が地滑り被害で失われていたヒマラヤ地域が植林活動・森林化促進活動により成功を収めてきているネパールの事例を取り上げている。「森林再生に積極的だった地域では、地滑り・土砂崩れはかなり減少しているのである」と指摘している。

パプアニューギニア以外の国々の人々は、例えばヤシ油への必要量を抑えることとか違法伐採の木材の利用をやめるといった形でパプアニューギニアの森林伐採スピードを遅らせる形での協力は可能である。

「希少金属等の資源の採掘の運用上の規制を強めることも又、我々には必要なことである」とぺトレイ氏は指摘している。

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原発がベースロード電源だとする神話を払拭する:再生可能エネは上手く働かない、という神話・物語は間違いである

2024-05-06 11:22:42 | 環境問題
「原発がベースロード電源だとする神話を払拭する:再生可能エネは上手く働かない、という神話・物語は間違いである」
(Energypost.eu 2016年3月23日  Mark Diesendorf氏記す)

今回の情報は、4月21日投稿の「原発ヨイショのお為ごかしな物語をオーストラリア・ディーゼンドルフ氏が反駁する」において、原発擁護者らが良く使う次の神話・物語1および2つの変形例については、著者のDiesendorf氏が既に説明済みとして前回の情報では触れなかった氏の反駁に相当するものになります。

【神話・物語1:ベースロード発電所は、ベースロード需要を供給するために必要だ。】
【変形例:ベースロード発電所は、不規則で安定していない再生可能エネルギーをバックアップするために、常時運転しておく必要がある。】
【変形例:再生可能エネルギーは、大規模な電力供給の為の主要な電力源と見なすには、あまりに不規則であり不安定性である。】

***
原発を正当化する主張として「原発は、水力と並んで大きな規模で信頼できるベースロード電源となる性能を持っている。しかも炭素排出量が小さい技術である。よって原発は必要なのである」ということを聞いたことがあるでしょう。

この主張に沿った神話や説明が、例えば、英国で提案された原発のHinkley Cの建設決定を正当化する際に英国のエネルギー担当Amber Ruddさんが利用しており、彼は「ベースロード電源確保は保証される必要がある」と主張している。
同様に、先のオーストラリア産業相のIan Macfarlaneさんは最近のウラニューム関連の会合において「誇ることが出来る唯一の排出炭素ガスゼロのベースロード電源のシステムは、水力と原子力である」との主張にも利用されている。

これらの主張が正当であるとするには、鍵となる3つの前提の妥当性の検証ならびに証明が必要となるのである。

一つ目の前提は、「確かにベースロード電源は良いものであり必要なものである」になる。
しかし、ベースロード電源というものは、必要のない時に必要以上の電力を供給し、必要な時には供給力が足りない、というのが実態としての実績なのである。
実際に必要とされ、優秀な電源とは、需要に見合う供給をその時々の状況に合わせて即座に追随できる柔軟性を持つ発電方式なのである。

二つ目の前提は、「原発は信頼できるベースロード電源である」という主張である。
しかし実際には原発はそのようなものではない。即ち、原発はすべて、安全上の理由や技術的欠陥から平常時の状態から逸脱する可能性が存在しているのである。よって、例えば3.2GWの原発には、すぐに呼び出せる3.2GWの高価な「運転予備力(spinning reserve)」を準備しておくことが求められているのである。

【参考情報:運転予備力とは、突然の故障や電力需要の急変に際しても安定した電力供給が出来るよう保有している余力電力のことを指す】

「どんな発電形式(原発・石炭や天然ガス火力)であろうが、ベースロード発電所というものは、需要の有無にかかわらず最高レベルの能力を常に発揮するように設計される必要がある」というのが三つ目の前提であるが、これも間違いである。
これらの前提条件の問題性を更に説明すると以下のようになる。

ソーラー発電から充分な供給を持たない通常の大規模電力網における夏季の電力需要の変動・動揺を想定して見ると、ベースロード発電所は一般に分刻み、時間刻みの需要と供給の変動・動揺に追随して運転するには適していないのである。従って、柔軟性のある、例えばダム機能を持つ水力発電や開放型ガスタービン発電(open cycle gas turbines,OCGTs)をもって補強しておくことが必要とされるのである。

「ベースロード発電所は、送電線網に信頼性の高い電力を供給する」という仮定は、再生可能エネルギ―から大規模な供給を受けている実際の送電線網の実績・経験から、および時間ごとのコンピューターシミュレーションの検証結果から、の両方から判断して、誤りであることが証明されている。
2014年、オーストラリア南部の州では、年間電力消費量の39%を再生可能エネルギ―(33%を風力、6%をソーラー)から取得しており、それにより、その州では石炭火力を用いていたベースロード発電所は不要だと判断され閉鎖している。そして数年にわたり州全体のシステムは再生可能エネルギ―とガスの組み合わせで確実に稼働しており、隣接のビクトリア州からの輸入も少量で済んでいるのである。
北ドイツのMecklenburg-Vorpommern州とSchleswig-Holstein州の両州は、その大半が風力である「実質」再生可能エネルギ―100%の稼働を既に実現している。「実質」というのは、相互間ならびに隣接する地域との間の取引の存在を意味している。
そしてこれら両州では、ベースロード発電所には依存していないのである。

そして「ベースロード発電所は必要ない」ということで一致している多くの研究があるのだが、これらの研究や説明・言説に対し「それはマヤカシだ」と反論する原発擁護者らが存在している。
彼ら原発擁護者らの言い分は「それらの地域は、どこか別の地域のベースロード発電所からの送電線網により輸入・移入される電力に依存している」というものである。
しかし実際にはベースロード発電所から輸入・移入されている量はわずかなのである。

オーストラリアのように完全に隔絶されている国々や、アメリカのようにほぼ隣国から隔絶している国々において、年間電力利用量の80~100%までの量を再生可能エネルギ―に依存する電力の需給システムに関する時間ごとのコンピューターシミュレーションが行なわれているが、得られている結果は実際的経験・実績と整合的なのである。
アメリカにおいて、科学者らや技術者らの大規模なチームによりコンピューターシミュレーションが行われ、80~90%の再生可能電力が技術的に適当であり、信頼できると認めている(100%再生可能なケースは検討していない)。2012版レポート(再生可能電力の将来性研究、Vol.1、技術レポートTP-6A20-A52409-1)が、アメリカ国家再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory,NREL)から発行されており、そのシミュレーションの結果は、時間ごとの供給と需要とのバランスは取れているとしている。
さらにレポートによると、「現時点で購入可能な技術から得られる再生可能発電は、ある種のより柔軟な電気システムと組み合わせることで、2050年における時間ごとの需要に見合う形で、全米の80%の発電量を充分に適切に供給できる」としている。

入手できる技術と電力需要・風力及びソーラーに関する実測データを組み込んだ100%再生可能エネルギ―を条件としているオーストラリア国家電力マーケットが行った時間ごとのシミュレーションにおいても同様な結果が得られている。
このオーストラリアのモデルには、ベースロード発電所は含めておらず、比較的少規模の貯蔵施設が含まれているだけである。最近のシミュレーションはまだ公表されていないが、1時間ごとのデータは、8年間の期間に及んでいる。

欧州での研究と併せて、これらの研究は、負荷喪失確率または年間エネルギー不足といった全体の需給システムにおける標準的信頼性基準を満たした上で、ベースロード発電所は必要ないということを明らかにしているのである。

さらに、これらの研究からは、ソーラーや風力と言った変動する再生可能エネルギーを年間70%まで、その供給に依存するというオーストラリアでのモデルにおいても、信頼性は維持されるとしている。

では、このことを実現するには、どのようなことが必要なのだろうか?

それには、柔軟性ある発電所を使うことで、電力需要の動揺・不安定さをバランスさせることが必要なことだ、としている。

第一に必要なのは、変化しやすい風力やソーラー発電に起こる動揺・不安定さは、需要発生時点で電力を供給できる需給調整可能な、柔軟な再生可能発電源によってバランスを取るということである。これらの柔軟な再生可能発電源としては、ダム機能を持つ水力発電、オープンサイクルガスタービン(OCGTs)や熱貯蔵機能を持つ集中型太陽熱発電(concentrated solar thermal power:CST)がある。ここにおいて、システム内の全ての発電所が需給調整可能型であることは必須の条件ではない。
ちなみに、ガスタービン自体は、都市廃棄物や農業廃棄物の堆肥化などからの「グリーンガス」を燃料として利用したり、あるいは再生可能エネルギーの余剰分を利用することが出来る。これらについては以下に説明する。

第二に必要なのは、異なった統計的性能を有するものと再生可能エネルギー源を組み合わせて利用することで、信頼性を高めることである。このことは、複数の技術に依存するシステム、および地域を拡大して展開させた風力発電とソーラー発電に依存するシステムというものが、全体としての電力の動揺・不安定性を低減させることに繋がるということを示している。
このことにより、既に貢献度合いが小さいガスタービン発電の寄与を数%へと低減させることが出来ることになる。

第三に必要なのは、再生可能エネルギー源を地理的に広く分散させるために、そして送電線網への再生可能エネルギー源の供給多様性を高めるために、新たな送電線網が必要になるということである。
例えば、風の強いドイツ北部の地域とドイツ南部の風が弱く、限定的な太陽光の地域との間の接続例が提案されている。また大きな風力資源を持っているテキサスにとっては、隣接する州との接続を拡大する必要性があるということである。

第四に必要なのは、電力需要ピーク時の電力を削るために、そして電力供給量の低い時期の電力管理を目的として「スマート需要管理」を導入することで、信頼性を更に高めることが必要だということである。
このことは、電力供給者ならびに消費者の両方がコントロールできるスマートメーターとスマートスィッチによって支援をすることであり、そして電力需要が高い時や、または供給量が低い時に消費者が短期間、ある種の回路(例えば、エアコン、温水化、アルミの精錬)を切断するようプログラムを組むことで支援するやり方である。
アメリカ国家再生可能エネルギー研究所(NREL)がまとめているように、高レベルで再生可能エネルギ―発電を利用する電力システムの需給バランスを取る上で必要とされる、拡大された電力システムの柔軟性というものは、供給側ならびに需要側のオプションの保有リスト(柔軟な従来型発電や送電線網内での電力備蓄や新たな送電線網や、より応答性の高い電気機器や電力システム運用の変更)から得ることができる。

上記の研究をはるかに超える研究が、最近Mark Jacobsonらにより発表されている。
それによると、アメリカにおける輸送と加熱を含む全てのエネルギーが、再生可能エネルギーから供給できるということを示すものであった。コンピューターシミュレーションでは、6年間にわたり30秒ごとに獲得される電力需要・風力・ソーラーに関する合成データが使用されている。

備蓄(蓄電)或いは「風力ガス(windgas)」もまた電力の動揺・不安定性を管理できるのである。

上記の「柔軟な」方式というものは、良好な風力資源に恵まれるものの太陽光資源には恵まれない英国やその他の国にとっては経済的に最適なものではないかもしれない。

風力とソーラーにおける動揺や不安定さを管理していく別のやり方としては、より多く備蓄するやり方、例えば蓄電池または揚水式水力発電や圧縮空気方式がある。

さらに別の方式としては、英国のHinkley C原発プロジェクトに対し、もっとグリーンであり、低コストの代替え案だとして、エネルギーブレーンプール(Energy Brainpool)社が最近推奨している「風力ガス(windgas)」のシナリオがある。

このアイデアは過剰な風力エネルギーを用いて水の電解を行って水素を作り、その水素を用いてメタンを作り、それをコンバイン型サイクルガスタービン発電所(combined cycle gas turbine,CCGT)の燃料として利用するものである。

ここで、実用上は水素をメタンに100%変換する必要はなく、水素を少し残したメタン-水素混合物がより効率的であり有効な燃料になるとされている。
別のオプションに、水素をアンモニアに変換する方式があり、得られるアンモニアは燃料利用だけでなく、肥料産業向けに利用することも出来る。

ブレーンプール社のシナリオでは、このシステムは3.2GWのHinkley C 原発の発電出力を再現でき、より低コストで運用できるとしている。

実際には、以下に見るように、はるかに優れた方式とされる。

・各風力タービン、CCGT、ガス貯蔵ユニットや「電力をガスに転換」する施設は完成すれば、全体システムの建設完成を待たず、それの施設は直ちにその機能を発揮し始める
・このシステムはベースロード発電所としてではなく、実際には現実の需要に見合う柔軟な発電所として用いられることになり、もっと大きな価値を持つ施設となる
・ソーラー発電が更に安価になっていくと、ソーラー発電はそのシステムとの統合化が進められ、それによって更に弾力性・復元性が向上し、コストが低減することになる
・システム全体が送電線網の安定性を生む出し、原発のように全てが突然停止すると言ったマイナスの「統合コスト」を生みだすようなことは、起こらないことになる

以上、述べたように柔軟性がある再生エネルギ―を基盤とする全ての方式においては、「従来型のベースロード発電所というものは不要になる」のである。

オーストラリアの緑の党の前代議員Christine Milneさんは、「我々は今、過去と未来との間で起こっている争いのただ中にいる」と述べている。再生エネを故意に誹謗中傷するベースロードに関するお伽噺や神話の類に反論していくことが、この争いにとって鍵となる大切な作業なのである。
***

最後にこの情報を提供しているオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学で学際的環境研究を行っているMark Diesendorf準教授は次のように述べている。

「再生可能エネルギーには、ベースロード電力を供給できるだけでなく、もっと価値あること、即ち需要に応じて柔軟に電力を供給出来る性能がある。そして続けて再生可能エネルギーの拡大により、原発の役割・使命は実質的に終わる」と主張している。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話

2024-04-25 13:12:53 | 環境問題
東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話。
この対比、どちらに与したいですか?

2027年入居を目指す、中央区豊海のタワーマンション2棟のプロジェクトを進める三井不動産-清水建設が、コンクリの強度不足という瑕疵が見つかり、スケジュールに齟齬を来したという話題が東京新聞のウェブ(4月5日付け)に紹介されている。地上53階建て、全2046戸を予定し、昨年1月着工、現在1、2階を建設中で問題が確認されたという状況。

東京駅を中心に中央区では、三井不動産を始めとするデベロッパーが行政と一体に、現在槌音高く、そして巨大クレーンを林立させ、再開発と称して巨大事業に猛進中であることは、以前紹介している。ついこの前、地域内の工事現場で重大事故があり、複数名の作業員が事故死するという痛ましい事態も起こっている。

世界人口(80億人)の55%が現在、都市部で暮らし、そして世界の潮流として、人々は更に都会に吸引され、2050年には都市部住人の割合は68%に達すると予測(国連情報)され、都市生活者の数は今後新規に25億人が加わると言われている。

これに合わせて莫大な数の新規住宅が都市部に用意される必要性があり、それぞれの国がこの問題にどのように対処していくのか、が問われているのが現状であり、この先5-10年の喫契の課題となっている。但し単に都市部に住居を用意さえすれば良いという話ではなく、環境との調和・脱炭素化・グリーン社会化の方向性を考慮に入れた持続可能な形で各国はこれに対処していくことが求められている。

この喫契の課題に対する日本の対応を見るにつけ、そして東京駅周辺の喧騒的な再開発ラッシュを見るにつけ、どこか違和感を覚えるところがあり、その上今回の豊海のタワーマンションの話を聞くと、我々社会が何か大切なものを何処かに置き去りにしてきてしまい、見失ってしまっているのではないか、と感じている。

世界のいろいろな潮流を調べることの面白さに惹かれて、木造の高層建築物についても調べているが、その過程で興味あるスウェーデンの話に突き当ったので、今回は豊海のタワーマンションの話との比較をしながら、スウェーデンの話題を紹介します。

ストックホルム樹木都市構想というプロジェクトの話題になります。

現在計画が進行中のストックホルム木造都市計画は、スウェーデンの大手不動産会社Atrium Ljungbergが、2023年6月に発表しており、ストックホルム南部の25ヘクタールを超す敷地に、2千戸の住宅と7000か所のオフィススペース、レストランや店舗の建設を予定しており、そのすべてが木造で、2025年の着工予定で、最初の建物の完成は2027年を見込んでいるという。
樹木を多く植えるなど、森の中にいる雰囲気を感じるように設計されているという。

スウェーデンでは、コンクリや鋼鉄から脱却した形で、環境との調和を、脱炭素社会とグリーン社会の構築を、そして持続可能な未来社会の追求を、木造建築物にこだわる形で追求していこうとの意識と意欲があることが見て取れる計画に思える。

一方、良く言えば、日本ではコンクリ・鋼鉄・アルミ等の従来の建築手法にこだわりを持ち続ける中で、環境と調和し、脱炭素化やグリーン社会化の方向は見失うことなく、持続可能な未来社会を追求しようとする姿が浮かび上がってくる。

ここで見られる明らかな立脚点の違いが、何処から出てくるのかは、興味ある問題だと思います。
ここでは、簡単に森林と林業に対する両国の違いを見ることで、この違いの一つの面をあぶり出してみたい、と思います。

以下に、スウェーデンと日本の対比をならべてみます。
1. 人口:日本は1.251億人(2022)、スウェーデンは1049万人
2. 森林面積等:日本の森林面積は約2500万ha(国土面積3780万haの約66%)
スウェーデンの森林面積は約2800万ha(国土面積4080万haの約68%)
人口には大差があるが、国土と森林の面積、森林率は似ており、しかもこの森林率がここ数十年ほぼ一定している点でも良く似ている両国です。
3. GDP/1人:日本は33823米ドル(2022)、スウェーデンは55689米ドル(2022、IMF)
4. 森林の状況と森林資源の利用状況
(スウェーデン)
・スウェーデンでは、ほぼ全ての森林は管理されているとされる。農業や造林の影響を受けていない原生林があるのは最北の山岳地帯だけで、これらは天然林と呼ばれる。
従って大半の森林は農業や造林や管理という形で人の手が入っている状況といえる。
・年間の森林蓄積量の成長増量分は約1.2億m3で、伐採実績収穫分は9000万m3程。
従ってスウェーデンの森林は毎年増大し続けており、現在は30億m3を超えている。
・2250万ha(80%程)の森林が生産的に利用・活用されている。
・スウェーデンの年間樹木伐採率は2.4%程。
・パルプ・紙・製材品に関して世界第2位の輸出国。
・木材自給率:139%(柏田木材のホームページ情報より)
・林業に6万人以上が直接雇用。林産業全般の雇用従業員数は20万人程になる。
直接雇用6万人の対人口割合は0.6%、関連業種全般の20万人の対人口割合は2%。

(日本) 「森林・林業学習館」の情報より引用
・人工林はこの40年間(1966~2007)で約30%増加し、1000万haに達する。戦後の拡大造林の動きで、広葉樹の天然林の多くが針葉樹林に置き換わり、結果的に天然林等の約15%の低下が引き起こされた。
・増え続ける森林蓄積(樹木の幹の体積のことを指す)。
日本の特徴は、森林蓄積が増え続けていること(1966~2017年の50年に2.8倍化、18.87億m3が55.6億m3に)、ことに人工林の蓄積の増加(同50年間に約6倍化、5.58億m3が35.45億m3に)が際立っている。森林面積が変わらない中での、森林蓄積のこの増大は、森林の樹木間の密集度合いの増大を意味しており、人工林は手入れされずに放置され、幹が太るのを単に眺めているのが日本の特色と言える。
スウェーデンの森林が、ほぼ同じ環境にありながら蓄積量が30億m3程で収まっているのに対して、日本では人工林(1000万haと約3分の1の面積でありながら、35.45億m3とスウェーデン以上の蓄積量になっている)だけで、スウェーデンの蓄積量を凌駕していることの暗示する意味合いは非常に重いものがある。
・日本の樹木伐採率:0.53%。
・木材自給率:40.7%(2022、柏田木材のホームページ情報より)
・ 林業従事者の激減が起こっており、現在の従事者数4.5万人は対人口比0.036%であり、スウェーデンの20分の1程度という極めて「末期的」な状況である。
林業従事者数の推移データ
51.9万人(1955)、20.6万人(1970)、10万人(1990)4.5万人(2015)

「末期的」と言った理由を述べてみたい。
妥当な林業従事者割合がどの程度かは、厄介で決めにくいものとは思うが、ILOが2022年11月24日に発表の森林部門の世界の雇用者数が3300万人と推計していることが、利用できるのではと考えている。
この考えを基に妥当な林業従事者割合をわりだすと、3300万/80億の0.41%となる。スウェーデンが現在0.6%であり、この考え方から出される数字がある程度は当たっていると思う。この数値からすると日本の望ましい林業専業雇用従事者は50万人程となり、現状の4.5万人(0.036%)は極めて「末期的」なもので、日本が森林や林業を疎かにしている例証の一つと言うことの妥当性を裏付けるものと考える。
少なくとも、世界基準の林業専業雇用従事者を確保することが、責任ある社会の姿だと感じる所です。我が国も1955年当時はそのような普通の社会だった訳ですから。

以上、両国の森林と林業の状況比較を紹介したが、両国の間にはかなりの違いがある。

即ち、スウェーデンは持続可能な森林運営と林業経営が社会にとって重要だ、と捉えていることが明らかであり、そしてその実績を積み重ねている国だと言える。このことは木材関係の輸出が世界第2位、木材自給率が139%、森林蓄積率が毎年増大を続け、そして80%もの森林に人の手が入っている状況をみれば明らかであろう。

一方、日本は人工林の手入れが為されずに単に放置され、森では無意味に樹木の間が狭まり混雑さが高まっている。そして社会はそれを放任している、これが日本の現実である。

スウェーデンでは、ストックホルム樹木都市構想というプロジェクトが進み、日本では東京駅を中心に再開発が推進中であり、重大事故が起ころうが、瑕疵が見つかり進行に遅れが生じようが、行政とデベロッパーが一旦敷いたレール上の進行はそれほどの支障なく続いていくのである(東京―大阪間のリニアにも相通じる症状だろう)。

そして森林の放置も続くのである。でも、この状況は如何にもおかしい。
こういう見方をしてみたらどうだろうか?

それぞれの国や市民や社会は、森林という資源を世界から委ねられた形でそれぞれに持っており、その運営を世界から一任された存在だと考えるのである。

ある国は委ねられた貴重な森林資源を持続可能な形で有効に活用して、委ねられた権利に相応の義務を果たしている。その結果、世界の脱炭素化へ向かう方向に協力している。

一方委ねられた森林資源の活用をおろそかにする国や社会も残念ながら存在しており、そんな国や社会では森林資源が持っている炭素吸収・固定化力やそのほかの数多くの潜在能力が充分に発揮されることがない。
あまりにも、もったいないことであり、資源を委ねられているという権利に相応の義務を果たしていない国であり、社会であり、市民であると捉える必要があると感じている。

豊海のタワマンの話とストックホルムの話、私は後者の木造都市作りのプランの話の方が好きであり、スウェーデンの話の方に与したいと思う。

ある意味、我が国を象徴するとも言える現在の東京駅周辺の再開発や中央区豊海の今回の瑕疵発見の話には、森林と言う世界から委ねられている資源の大切さを忘れ、置き去りにしたまま、突進している我々社会の歪な偏った行動の結果ではないか、と感じている。

今の日本の都市(再)開発の仕方や森林を放擲している実態に違和感を持つ人が増え、政治に原因があるのではと思う人が増え変化が必要だ、に繋がっていけば良いと思っている。

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yo-chan
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(目にとまった記事の紹介)『太陽光を遮断して地球を冷やす提案が撤回された』

2024-03-03 09:58:23 | 環境問題
(目にとまった記事の紹介) 『太陽光を遮断して地球を冷やす提案が撤回された』(Deutsche Welle,2024年3月1日)

ナイロビ:この木曜、国連代表団は地球温暖化対策として太陽光を宇宙に跳ね返すという技術を更に推進していくことを求める決議議案を撤回した。本技術が健康と環境上のリスクに影響が出ることを懸念しての動きである。

国連環境総会(UN Environment Assembly,UNEA)で、この決議草案に反対する人々は、太陽光修正技術(solar radiation modification,SRM)の利用が、巨大な汚染事業者らに対して彼らの責任が免責されてしまうことに繋がるのではないか、と懸念していると会議を傍聴していた団体らが発言している。

スイスとモロッコとが12月に初めてこの地球工学的技術の検討を要請する決議を上程しており、今週ナイロビの総会でこの問題について協議されていた。

当初の草案では専門家らの招集が要望され、彼らの手になるリスクと倫理上の考察を加えたSRMの、可能性があり、そして妥当な利用法に関する報告書が作成されることが要望される、ということが念頭に置かれていた。

この技術を使っての最も知られている利用法の一つが、冷却用反射材としてSO2を用いて、それを大気圏のかなりの上層に噴霧するというものである。
わずか数件の小規模SRMプロジェクトが実施されているだけの状況である。
そして研究者の中には、気候変動の臨界点越えを避けることが必要となった際にSRMは運用可能だと指摘している人もいる。

批判的立場の人たちは、天候と農業とに悪影響が起こり得るとし、殊に貧困国にその影響が大きく生じるだろうことを懸念している。
彼らはSRMが温室効果ガス排出削減活動のスピードを遅らせる言い訳・方便に利用されることもまた懸念している。

直近の2週間にわたる6回の改訂版作成の後、木曜日にこの決議案は撤回された。

スイス連邦環境局のRobin Poll報道官は、「SRMに関する情報への利用しやすさ改善という議案に各国が反対している。そして収集する情報にSRMのリスクと不確実性に焦点を当てるべきかどうかという点、あるいは潜在的な利点をも同様に含めるべきかどうかという点で、各国は反対している。」
「UNEAが、この重要な議題に結論を出せられなかったことは残念なことである。しかし、ここで行われた議論には多くの、そして有益な情報が含まれており、この重要な課題に関する国際的な討議を我々は開始したのである。」とPoll報道官は指摘している。

ケニアの気候問題代表のAli Mohamedさんは、アフリカ諸国がこの決議に反対している、としている。
「この科学技術はまだ開発の黎明期であり、潜在するリスクは充分解明されてはいない」とMohamedさんは語る。

「現時点で、温室効果ガス規制には数多くの解決策がある」

国際環境法センター(The Centre for International Environmental Law,CIEL)によれば、EUと太平洋島嶼諸国とコロンビアそしてメキシコが決議に反対しているという。

「これらの技術は気候危機の根本の原因を解決していくことには繋がらず、反対に主要なGHG排出事業者らが化石燃料の段階的廃止という緊急の必要性を遅らせるような目的でこの技術が使われることになるだろう」とCIELの上級地球工学キャンペーン担当のMary Churchさんは指摘している。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
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SDGsからSPGs、SOGsへ

2024-03-02 11:51:41 | 環境問題
今のSDGsが描く望ましい「未来の社会と自然の景観」は企業論理からのみ見ている修正だと感じる。SDGsをSPGsやSOGsに読み換えると企業論理とは異なる「人々」の論理が発する「別の」目標設定の必要性が見えてきて、それらを今のSDGsに持ち込むことの大切さと面白さが見えてくると思う。

現在のSDGsには企業が差配し、企業に都合のよい目標だけが注入される仕組みが社会に埋め込まれているように感じている。そして社会はそれを受け入れて、その方向にしゃにむに動かされているように感じる。そこには我々という「人々」の存在が抜け落ちているように思う。そんな危機意識を以前から持っている。

危機意識の根元の一つに、SDGsのD(Development)という言葉に違和感を覚える事がある。

Developmentは「開発」とか「発展」に直結する言葉と、普通受け取られている。
そして「開発」や「発展」という言葉が真っ先に結び付く先は「企業」であり、「企業の存在理由」のなかにこのDが強く組み込まれていると、人々も安易に納得しているように思う。

従って企業が差配し、企業に都合のよい目標が優先されている現在のSDGs が違和感なく社会に受け入れられている背景には、DevelopmentのDが挿入され、ある意味強制的に企業の存在感を世界に周知させようとして、Dが使われているというネーミングの妙にも理由があるのではないかと邪推している。

社会を構成するのは「人々」と「企業」。決して「企業」だけで成り立っている訳ではない。現状のSDGsが「企業」の論理を中心として動いており、一方の「人々」が抜け落ちている状況は困ったものだと常々感じております。

そこで命名の妙が一つの原因であるのなら、SDGsに代わる別のスローガンを提起するのも意義があるのではとの思いから、SPGsとSOGsというスローガンを敢えて提示してみます。

SPGsはSustainable People Goalsの略、SOGsはSustainable Other Goalsの略です。
SPGs中のPは申すまでもなく、ハッキリと「人々」が主体だというスローガンとしたいという思いからの造語です。
SOGs中のO(Other)は現状の「企業中心の論理」から出てくる目標設定とは異なる、それらとは別の「他の」目標の設定が重要だ、ということを強調したいが為に作った造語です。

SDGsを敢えてSPGsとかSOGsに読み換えることで、現在は脇に置かれがちな我々という「人々」が希望する未来の目標の設定をSDGsに組み込んで行くチャンネルが生まれるのではないかと考えております。

企業の論理とは異なる人々の持つ別の論理から生まれる目標をSDGsに組み込むことは、「今世紀半ばの世の中はこんな風であって欲しい」というSDGsの本来の目標をより健全にする作業であり、視野をより広げる上で必要とされる作業であると考えております。

「人々」という言葉を繰り返して使用していますが、ここで使っている「人々」には我々人間だけでなく共に暮らしている動物・植物そして微生物、即ち全ての生命あるものを含めております。そして生命あるものだけでなく、我々の周りに共に存在している大地河川や大気といった自然環境をも含めて考えていきたいと考えております。即ち命のあるなしに関わらず全ての我々の周りにあるものを代表して代弁する存在として、我々という「人々」が存在している、という立場を取りたいと考えています。

この様な視点の考えを推し進めていく上で役立つ情報を今後紹介していきたいと考えており、今回は先ずAlJazeeraの情報から始めてみます。そこではアフリカが抱える諸課題は、企業利益を優先する思考から手掛けていくのではなく、諸課題解決の中心に「人々」を据えて取り組むことの重要性を訴える視点が打ち出されております。

AlJazeeraの2月28日の記事『アフリカの気候変動の真の解決は人々に関することの追求から可能であり、利益を追求することでは決して解決できない』(アフリカOxfam所属のHassaneさんの手になる記事)
***
2月17-18日アディスアベバで今年度のアフリカ連合サミットが開催され、各国指導者らが「気候変動に関するナイロビ宣言」を採択。

アフリカでは、干ばつと洪水が交互に繰り返されており、農作物は枯れ、流され、そして多くの家畜が死亡している。
アフリカ東部だけでも74億ドルに相当する家畜と数十万haに及ぶ農作物が失われ、その結果数百万人の人々が無収入、または食べ物のない状況に昨年置かれていたという。

アフリカ東部では井戸掘削の際、5か所に1ヵ所はカラ井戸であったり、浄化処理なしでは飲めない水が出るといった状況である。井戸掘削はより深く掘る必要があり、費用がかさむことになり、維持も困難なことになる。

ナイロビ宣言は、地球温暖化に対するアフリカの寄与度合いは歴史的に極わずかであるのに対して、アフリカの人々の生命と生計そして経済面は温暖化による悪影響をより大きく受けており、過大な負担をアフリカは強いられている、という指摘の点では市民社会の思いとおおむね一致している。

この宣言では「地域共同体」の果たす役割が、気候変動対策活動において鍵となる、との認識が指摘されており、注目すべき視点である。
気候変動への対処に必要となる適切な資源と支援を、役割が期待される「地域共同体」に確実に到達させていくことが、当然ながら求められるのである。残念ながら、この点の明確なシナリオの提示が正にナイロビ宣言では欠けている部分である。

アフリカ各国は「グリーン成長」戦略の地域規模への、地方規模への、そして国家規模・世界規模への拡大を目指す政策・規制そして奨励金制度の実施に取り組んでいる。

ここで問題となるのが「グリーン成長」とは、ではどんなものか、という条件についての透明性が無い状況が存在していることである。現状では無数の成長策が提示され、妥当なものと判断されており、その結果優先されるべきは「人々」を中心に据えるとの尺度が薄められて、「利益」思考が優先されてしまうという事態がたびたび発生することになっている。

例えば海外でのCO2排出を相殺する目的で企業は広大な土地を購入することが可能となっており、結果として企業の石油とガスのくみ上げは継続され、その為にアフリカや他の地域が出汁として利用されるという状況が発生しているのである。そしてこのような状況により、アフリカ大陸の小規模農家そして大陸の環境に不利益がもたらされているのである。

富裕国に対し、彼らの約束の履行を促すこと、そして気候予算の拡大を要求することは大切ではあるが、提供される資金の性格を見極めることも重要である。
富裕国側は2020年度に833億ドルを拠出したというが、Oxfamの計算では実質上は高めに見積もっても245億ドルだったとしている。富裕国側の根拠には気候変動目標案件に含めるには、評価基準を過大に甘くする必要のあるプロジェクトが混じっていたり、ローンとして拠出している案件も含まれているとしている。債務が既に重くのしかかっている国にとって、ローン案件は受給国にとっては反対に有害な支援となる恐れがある。

また、現在利用可能な気候変動向け資金のメカニズムには、利用のしやすさの点での課題と包括性・一体性の無さの課題を指摘する市民社会の組織や団体が多く存在している。
事実、Oxfamの調査では西アフリカ/Sahel地域で国際的気候変動資金を直接利用できた団体のなかで、「地域的組織・団体」だと認定できたのはわずか0.8%だったとされる。

気候変動資金がどの程度地域レベルに到達し、プロセスに地域社会がどのように参加しているかについて、不透明な情報提供が依然として続いている。この点の改善が求められる。

そして地元住民が利用しやすく、管理しやすい少額の助成金の創設が求められる。

ナイロビ宣言では女性が直面する多面的な課題に対する包括的であり一体的な取り組みが為されていない。食べ物が足りない時、女性は食べる量をへらしたり、最後に食べるということを行うものである。そして学校をやめるのは女児が優先され、そして口減らし目的で女性は早婚化となる。日々の水を求めて女性は炎天下子供を抱えて数km歩くことになり、危険にさらされている。家庭内暴力の傾向は貧困状況と密接に関連しているとの研究が東アフリカで確認されており、貧困状況の改善が早急に求められる。

ナイロビ宣言では輸送に対する炭素税の創設を世界に要請している。
しかし適切な緩和戦略を併せて取り入れることなく進めると炭素税は脆弱な人々に悪影響を過大に与えることとなり、食料・医薬品やその他生活必需品のコストを更に上昇させる恐れがある。

我々の希望は投資が真に「人々」に広く行きわたり、気候変動への対処が可能となり、それにより「人々」は食物を生産することが出来るように繋がっていくシステムの構築である。

国際農業開発基金(the International Fund for Agricultural Development,IFAD)によるとアフリカ大陸には推定3300万世帯の小規模農家があり、大陸の食糧供給力の70%程を生産しているという。この様な状況でも、FAOによるとサハラ以南の地域に住む貧困状態にある90%の住民は農村地域に暮らしているという。

給水システムと衛生システムに向けての投資が必要とされる。アフリカ南部地域では飲用可能な水を利用できる人の割合は高々61%とされ、適切な衛生環境下で暮らしている人は5人に2人という。最近のマラウィ・モザンビーク・ザンビアやジンバブエにおけるコレラの蔓延が拡大している原因はかかる衛生環境の劣悪さである。事実1月以降これらの地域では新規感染者が数千人にのぼり、死者は数百人発生している。

現在アフリカは決定的な岐路に立っていると言える。

アフリカ大陸の指導者らは自由貿易市場から要請される拙速な取り繕い策、そして致命的になる恐れのある罠とも言える策を回避すべきであり、気候変動活動の中心に「人々」を据えることに注力すべきである。そうすることによって「包摂的・一体的な成長と持続可能な発展に基づく豊かなアフリカ」を目指すというアジェンダ2063がその目標に向けて一歩を踏み出すことになることが期待できるのである。

資源とチャンスへの利用可能性が公平であり、そして利用しやすさを支援することで、全ての個人が生き残るだけでなく、自然界と調和して繁栄するアフリカ大陸の構築が可能となるのである。
***

アフリカの気候変動に対応する現在の状況や水資源・衛生状況の課題と疾病との関係やジェンダーをも含めての貧困問題等と通して、結局は市場の論理が優先されている形の支援が横行していることをOxfamアフリカの担当者が指摘していると思います。

Oxfamが指摘している「利益」を中心に据えるのではなく、「人々」を中心に据えてアフリカの今後の課題に対処していくことが大切とする姿勢は、冒頭述べた現在のSDGsが企業の論理が中心となっており、それをより健全にするには企業の論理とは異なる「人々」が持つ別の論理から生まれる、今までとは異なる「他の」目標をSDGsに組み込むことが大切であり、必要な作業だとする思いと相通ずる認識だと思います。

「今世紀半ばの世の中はこんな風であって欲しい」というSDGsの本来の健全な目標を作っていくには、企業の論理だけでなく、それとは異なる別の論理からの検討が必要であり、それを行えるのは我々「人々」が求められていると思うのです。

次回は我々の農耕と病害虫とのかかわりに関連する問題を取り上げる形で、ともすると企業の「利益」が偏重されすぎてきた歴史と、そこから生じた「人々」の不利益の問題を取り上げてみます。そして企業からの課題解決策が優先され、それとは異なる「他の」良い解決策があるにも関わらずに、何故かそれが見落とされてしまった歴史の例を名著とされるカーソンの「沈黙の春」に焦点を当てることで振り返ってみたいと考えています。

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1年に亘り過去の基準温度より1.5℃を毎月継続して上回るという年を我々は経験した

2024-02-23 13:45:13 | 環境問題
『1年に亘り過去の基準温度より1.5℃を毎月継続して上回るという年を我々は経験した』
AlJazeera、2024年2月8日

表題の報道が欧州のコペルニクス気候変動サービス(Copernicus Climate Change Service、C3Sと略称される)から発表され、一方NASAは、海洋と大気に関する情報を従来を量的・質的に大幅に上回り供給することが期待される気象衛星を、発射している。

記録を取り始めて以降で初めて、地球の気温が12カ月間(2023年2月から2024年1月の1年間)に亘り継続的に1.5℃を超えて上昇した、とコペルニクス気候変動サービス(C3S)が発表している。人類への警告と受け止めるべきと科学者らは述べている。

気候変動につれて暴風・日照りや山火事が世界各地を襲い、エルニーニョにより太平洋東部海域の海洋表面温度を温めている。その結果、1850年以降の記録の中で2023年が最も暑い年だった、と記録されることとなっている。

C3Sは2023年の1年間が19世紀の基準温度に比して1.52℃温暖だったとした上で、2024年もこの極端な気象状況は続いているとしている。

ただし、科学者らは、約200カ国の政府が署名した2015年のパリ合意で設定した温暖化の上限値1.5℃を永続的に上回っている訳ではない、としている。

パリ合意において各国は2050年までに化石燃料の使用を段階的に廃止の方向に進め、代わりに再生可能エネルギー利用を進めるとしているが、実態としては、世界は温暖化を1.5℃以内に抑制することを含めて合意目標に向かっての軌道には達していないと国連は見ている。そして科学者の中にもパリ合意の目標達成は最早現実的には無理だとする意見があり、彼らは少なくとも目標値の上振れを最小限にすべく温室効果ガスの排出削減の努力を迅速に進めるべきと強調している。因みに2024年1月の気温は2020年に記録した過去最高を更新している。

米国宇宙局(US Space Agency)NASAが木曜日に最新人工衛星を発射している。目的は、従来得られていた以上に詳細な世界の海洋及び大気の観測情報を得ることである。

9億4800万ドルをかけ打ち上げられた人工衛星は、少なくとも3年の期間、地上676kmの高さから地表を毎日スキャンすることを使命としている。観測項目はプランクトン(Plankton,P)、エアゾール(Aerosol,A)、雲(Cloud,C)及び海洋生態系(ocean Ecosystem,E)。頭文字を取ってこの人工衛星はPACEと呼ばれる。

この人工衛星プロジェクトの科学者Jeremy Werdellさんは、「我々地球に住む者にとって今まで見たことのない光景をもたらしてくれるだろう」と話している。

今までの地表観測衛星では、7から8種類の色の情報が送られて来ていた。今回の新しい衛星では200種類の色の情報が送られてくることになり、科学者らは海洋中の藻類(Algae)の種類や大気中の粒子の種類が特定できることになると期待している。

新人工衛星からの情報は1~2カ月で始まる予定とされ、ハリケーンやその他の異常気象予報の精度向上に繋がることや、地表温度上昇のような気候変動の詳細情報や、有害藻類の繁殖の予測精度の向上に繋がることが期待されている。

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2024年の元旦の朝にフト思ったこと。今夜初夢として見たい夢のこと。

2024-01-01 20:06:15 | 環境問題

皆さん、あけましておめでとうございます。
2024年の年明けの今年最初の食事をしながら、フト思ったことを簡単に記しておきます。
正にこうなったら、うれしいな、の夢の話になります。

昨年年末のCOP28に関する話題の提供を現在進めており、年末もいろいろと材料集めを行っております。

その過程で、世界のエネルギー調達課題において、極めて大きな二つの潮流の激突が我々の現前に明瞭に立ち現われたのが、今回のCOP28の一つの見方だと思っております。

世界各国が自己申告で設定した目標の棚卸しとか、ロス&ダメージの資金調達の問題とか、いろいろな観点が今回のCOP28で討議され、進展を見てきているとは思います。

新年の朝の話題として、ここでは、一方では100数十カ国が署名した2030年までに再生可能エネルギー発電量を3倍化するという宣言案がCOP28の場で提示されたのに対して、片や米国やフランス・英国・日本・韓国等22カ国が署名宣言した、2050年までに原子力エネルギー発電量を3倍にする案が、同じくCOP28の場に提供されている、という話に限定して見たいと思います。

両方の宣言の目標は全く同じで、現在世界が苦しみの中に入り込んでいる気候変動問題・異常気象にどのように順応していくか、GHG排出を如何に緩和していくか、そしてその資金的裏付けをどう担保していくか、という我々世界が抱えている課題への対策作りになります。

一方は風力やソーラー等の再生可能エネルギーで、もう一方は原子力エネルギーでその実現を推進していこうとしています。正にこの2つが、我々が現在目にしている大きな潮流と言えます。

この辺りの話の詳細な紹介は、次回の世界沸騰時代の記事に譲るとして、ここでは簡単に端折った形、夢の話の形で論を進めたいと思います。

この二つの大潮流の状況を、極めて大づかみに捉えてみると、次のようになるのでは、と思っております。

22カ国の支持・署名という数の上では劣っているが、GDP的には世界の半分程は占める有力国が、原子力3倍化案の後ろ盾になっている。
一方の再生エネルギー3倍化案には、100数十カ国という数の上では世界の半数以上を占める後ろ盾を持つものの、GDP的には極めて劣勢な状況が見て取れる。

ここで興味深い情報を一つ提供すると、既に2022年1月時点でEU域内の有力者が今回のCOP28の原発3倍化案を先取りする形で、2050年までの期間、毎年200億ユーロの資金調達が原発促進の為に必要だと発言している(Thierry Breton氏、Guardian TV、2022.1.10)。
正に2050年までという期間設定も同じで、既にほぼ2年前には今回のCOP28での宣言がスケジュール化されていたのではないか、と思う位の手際の良さを原発推進派に対して感じる所です。

一方の再生エネルギー推進により異常気象を乗り越えていこうとする再生エネルギー3倍化案の方は、チェルノブイリや福島の事案を拠り所に極めて大きな潮流を形成してきていることは事実です。

しかしながら、原発推進派は“人もの金”の3つを持っている一方で再生可能エネルギー派は"人“はさておき、“ものと金”は原発派に比べて劣り、しかも今回のCOP28を契機として、原発3倍化が彼らの思惑通りに動き始めて行けば、この“ものと金”における両者の格差は更に極めて大きな差へと開いていく恐れを、実は持っております。

即ち、権力を持ち資金調達の権限をもつ各国の支配層のかなりの部分は、原発業界の意向になびいていくのではないかと予想しております。

そこで、夢の話です。

世界には、権限や権力はないが普通に暮らしている市民が、80億人は存在しているのです。
正に原発3倍化の22カ国に対して、再生エネルギー派は100カ国をはるかに超えている状況と同じ構造が、“人の数”の点として、ここに存在しているのです。

市民が再生エネルギーの推進を力に異常気象を乗り越えていこう、その為に我々市民は再生エネルギー推進のための資金調達の一翼を担おうではないか。こんな運動を世界に巻き起こすことが出来ないものか。とこんな夢です。

例えば、「我々市民の、我々市民の為の再生エネルギー推進で異常気象に打ち勝とう」
こんなキャッチフレーズでしょうか。

80億人が、例えば年100円を寄付すれば8000億円。この一人100円という金額でもEU有力者の希望資金の年3兆円の1/4強に達するのです。

こんな夢を今夜の初夢で見てみたいものです。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
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世界沸騰時代に対処するキーワード(3)COPとMultistakeholderism

2023-12-25 20:40:29 | 環境問題
今月13日までUnited Arab Emirate(UAE)のDubaiにおいてCOP28が開催された。
COP28の成果を伝えることを念頭に、妥当な記事を調べていたが、一つの記事だけでは全貌を伝えること・その成果の是非を伝えることが難しそうだと考えている。
従って、幾つかの記事を何回かに分けて紹介していく予定です。

先ずはAlJazeeraからの記事を紹介致します。
この記事はCarola Rackete氏が見たCOP28の総括であり評価ですが、氏の総括と評価には現代国際社会の統治(ガバナンス)が抱えている大きな課題であるMultistakeholderism(多利害主体主義)が各所に見え隠れしており、そういう視点で極めて興味深い読み物になっていると考えます。
Rackete氏の記事をCOP28の紹介の最初に持ってきた由縁です。

このMultistakeholderismというキーワードが、今回のCOPを考えていく上で重要な背景思想の一つであると思っており、そしてこの背景思想が、COPだけに限らず現代の国際社会が抱える一国だけでは解決が困難な諸課題を国際社会が対応していく際、ある特定の有力勢力がこの思想を拠り所にし、国際社会の統治(ガバナンス)が事実この思想に沿って左右されている、と考えると現在の国際社会の流れが良く見えてくる節がある、と思っております。

という訳で、これから何回かに分けてCOP28の総括と評価を紹介していくことと、合わせてMultistakeholderismの是非や問題点をも考えていきたいと思っております。

ではRackete氏の記事を紹介します。

タイトル:気候危機から抜け出す方策・道はある。だがそれはCOPを通じて、ではない。
AlJazeera、2023年12月19日 Carola Rackete氏記す
***
世界最大規模の気候課題サミットが開催されたが、それは一種のマヤカシであり、我々に役立つものではありえない。

気候危機に対する国連締約国会議(UN Conference of Parties:COP)は今回で28回目の開催となる。そして今回の最新のCOP28の会議の最終合意文書に初めて「化石燃料の終結」という文言が載せられた。

確かにCOP28では「化石燃料への依存状態から移行していくこと」を各国に約束させることに成功はしたけれども、気候危機を真に解決できる策が設定できたかどうか、という視点からみると、COP27やそれ以前の合意内容以上の進展はほとんどなかった、と言えるのである。
即ち、2015年のパリ合意の目標である2030年までにGHG(Green House Gas)排出を43%削減すること、に対しては今回の会合出席者間で合意に至らなかった。
そしてCOP27で設立した損失と損害基金(Loss and Damage Fund:この基金は気候危機に最も脆弱な諸国に対して財政支援を行うことを目的とする)の課題に関して言うと、富裕諸国側はいかなる有効な貢献策も打ち出すことはなかったのである。
例えば、ドイツはこの基金に1億ドルの拠出を約束しているが、この額はベルリンのA100高速道路のわずか430mの距離分の建設費用と同等なのである。そしてこの金額は気候変動の結果全世界が被った損失と損害金額に全く見合う額ではないのである。事実2022年のパキスタンで発生した洪水では1739人が死亡し、200万人が避難を強いられたが、この洪水災害損害額は300~400億ドルに達したと見られている。

一方、ウクライナ戦争の結果、化石燃料生産者らは記録的な利益を得ており、そして彼らは更に生産拡大を目論んでいる。今回のCOP28には数千人の化石燃料生産者サイドのロビーストらが会合に参加している。
化石燃料生産者サイドの動向が地球の未来に大いに懸念される所であるとの我々の認識に対して、ロビーストらは化石燃料生産者サイドの動向は人類の賢明な進歩であるかのような認識を植え付ける偽装工作活動を展開していたのである。

そして今回、議長役を務めたUAE国営石油会社社長のスルタン・アル・ジャベル氏の文書が流出するという事態が発生し、その文書においてジャベル氏は化石燃料ビジネスの推進を今回の会合の中で計画していると指摘されているのである。

化石燃料生産者側は、会議の交渉の中心に公正さと正義という思想を据えるのではなく、彼らは誤った方向の解決策を推進しようとしているのである。即ち欧州全域において、企業は炭素捕捉と貯蔵技術(carbon capture and storage:CCS、CO2をその発生源で捕捉し、適切な場所に移送し埋蔵するという方式)の開発を推進しており、この推進の狙いが異常気象が進行する状況下においてさえ、化石燃料の利用を継続し続けたい、ということなのである。
しかしながら、CCS技術の有効性・効率性は不充分なものであり、コスト的にも見合わないと見られている。そして現在の実験室レベルの再現性・有効性を充分大きなスケールまで同等の性能で規模拡大させるにはかなりの時間が掛かるとも見られている技術なのである。

即ちCCSの技術開発の推進は、単に化石燃料の利用を延長し、継続したいが為の方便であり、化石燃料利用の延長による化石燃料の漏出や流失、採掘地の崩壊等の破壊的危険性が継続し続けることになり、そしてその上に権力者らが正しい判断の下でより望ましい対策を採用し、実施していくことを単に遅らせるだけの働きをするものだと言える。CCS技術への過剰な期待と依存は、地球環境を劣化させ続けることに繋がるのである。

CCS技術の推進は、ドイツの緑の党のプログラムにも見られ、Wintershall社のようなドイツ化石燃料企業もがCCS技術を推進している状況がある。
そしてCCS技術は、COP28の最終合意文書中にも組み込まれているのである。

この理由は何なのだろうか?
考えられることは、資本主義を機能し続けるために、そして欧州のGDP成長を継続させるために、化石燃料を燃やし続けることが必要だという思想であり、その思想には多くの人の生命や他の地域に住む人々の生活は含まれていない、無視されているのである。

もう一つ別の企業側の遅延戦略が炭素オフセット(carbon offsets:現在はnature-based solutions、自然に基づく解決策とも呼ばれているようだ)に対して市場を更に拡大しようとする動きである。例えば炭素オフセットの認証を発行したとしても、その80~90%はCO2排出削減に結び付いていない、とされている。かかる状況下において、オーストラリアやUKの様な諸国は、炭素市場を世界に既に拡大している。一方ECは、生物多様性クレジットと水質汚染との取引きを計画中である。

COPは一種のマヤカシであり、年が経過するほど腐敗が進行していると言える。

誰もが考える真の解決策というものは、化石燃料使用の終結であり、企業による政治支配の停止であり、化石燃料依存体質を脱却した産業構造の広範な構築である。
幾つかの国は既にこの方向への道をたどり始めており、化石燃料不拡散条約(a fossil fuel non-proliferation treaty)推進運動を画策することで代替え策を創造している。12カ国、2000以上の団体、そして60万人以上の人々が、このキャンペーンを後押ししている。これら12カ国とは、気候変動の悪影響を最も受けている国々なのである。
ヨーロッパでのこの条約の意味する所は、化石燃料に関する新規インフラへのこれ以上の投資を行わないこと、時代遅れの内燃エンジン自動車の迅速な停止、そして生態系に合致した農業(ecological agriculture)に向けて工業生産型肥料の代わりに天然素材を利用する肥料への転換ということである。
この方向に展開していくには、グローバルノースの各組織や団体や人々が立ちあがり、各国政府が行動に参加するよう圧力をかけていくことが必要とされるのである。

EUは、明らかにその富を共有化することには関心を持ってはいないが、しかしEUは国連が到達した合意よりも先進的な政策パッケージの一つであるグリーンディール政策を少なくとも実行しているのである。ただしこのグリーンパッケージ政策は間違った目標を設定しており、即ち持続可能な方向に発展していくのでなく、経済を発展させていく目的の為に、グリーン化へ転換を図っていくという構図になっている。そして近年、EUの政策は「悪い」状態から「更により悪い」状態へと悪化する方向になって来ている。

最近の数カ月間、欧州では保守勢力と極右勢力が協同してグリーンディールの最も重要な法律(自然保全法と殺虫剤使用削減の為の持続可能な利用規制)のいくつかを葬り去ろうとしている。
この保守と極右勢力の協同体制が強化されたり、6月予定の次期議会選挙の結果、協同体制が多数派となれば、EUの各組織が化石燃料終結に向かう動きを維持することは、ほとんど期待できないものとなるだろう。次期EU議会選挙の結果が最も懸念されるところであり、EUの決定の重要性を人々が深く認識して、投票行動に結びつける必要がある。

結局のところ、変化を推進していくのはCOPやEU委員会からもたらされてくるのではない、ということである。変化というものは下からわき上がって来るものである。

我々は企業による乗っ取り(corporate takeover)に対し、抗議活動に参加が望まれる。そして極右勢力の台頭に対しても抗議活動に加わることが望まれる。我々は、人間中心の生態系に合致したシステムに移行するため、下からの動きを加速化していくことが望まれ、そのための共同行動を構築していく必要がある。
我々はCOPで提示される誤った解決策には慎重に対応していく必要があり、そして化石燃料を終結させるためグローバルサウスの行動の先頭に加わることが求められている。-
***

以上がCarola Rackete氏から見た今回のCOP28の総括議論です。

表題の地球沸騰化時代を考える際、重要なキーワードとしてCOPとMultistakeholderismの二つを挙げました。
COPについては更に説明の必要は無いと思いますが、Multistakeholderismについては最後に少々説明を加えておきます。この言葉の説明も簡単に纏めることが困難なものであるということを、先ずはことわっておく必要があります。
これから数回に分けて今回のCOP28の説明を行いますが、その中の情報等も参考にこのキーワードの存在を意識して考えてもらえれば、と思います。

Multistakeholderismの最初の説明として、京大の久野秀二氏の「持続可能な食農システムへの転換:グローバルヘゲモニーと対抗的実践との相克(農業経済研究94巻91-105、2022年)」中にある部分を引用させていただきます。
***
マルチステークホルダー主義は、1980年代以降に強まった新自由主義的グローバリゼーションの産物である。加盟国からの拠出金に依存する国連システム等の多国間機関が財政難に陥り、多国籍企業の資本力、とりわけBMGF(Bill & Melinda Gates Foundation)等の民間財団の資本力に依存せざるをえない状況が背景にある。更に世界経済フォーラム(World Economy Forum)の影響力が増し、彼らが多国間主義(Multilateralism)から多(利害関係)主体間主義(Multistakeholderism)への転換を構想した「Global Redesign Initiative」が着実に実行に移されてきたという点も重要だ。
マルチステークホルダー主義の問題点としては、
1. 多様なステークホルダーが水平的な関係においてグローバルガバナンスに参加するとはいえ、それが包括的・民主的である保証はなく、むしろ現実に存在するステークホルダー間の構造的な権力格差が曖昧にされてしまう。政府・国際機関を除いてガバナンスのプロセスに積極的・恒常的に参加できるステークホルダーは自ずと多国籍企業・産業団体や主流の国際NGOに限られる。規制する側(政府)とされる側(企業)、権利保持者(人々)と義務履行者(政府)と潜在的権利侵害者(企業)の立場上の違いも、同じカテゴリーに括られることによって曖昧にされてしまう。
2. コンセンサスが前提されており、熟議の末に採決が行われるような意思決定の手続きを要しないガバナンス手法であるため、「すべてのステークホルダーが合意できる合理的な解決策」という名目で、課題解決の方向性や手段を技術的・脱政治的に限定し、より構造的・根本的な転換を要求するような反対意見や少数意見は最初から排除される傾向にある。
3. 総じてグローバルガバナンスの断片化が生じ、透明性と説明責任の欠如も相まって、実際に何が議論され、何が行われているのかが外からは見えづらい、いわばガバナンスの迷宮が出現している。
***

前回のキーワードのAGRAとAFSAに合わせて更に説明すると、マルチステークホルダー主義の具現体組織がAGRAといえる。AGRAの訴求するグローバルガバナンスにおいては、国連機関(そもそも元国連事務総長のアナン氏がAGRA初代代表)や政府間組織、農業研究機関(矮生小麦や矮生コメの開発化とその実践)、国際NGO、農業団体、民間財団(BMGFやロックフェラー財団)、民間企業(多国籍肥料企業や農薬企業そして国際的種苗企業等)などの広範な関係団体を構成員に加えたマルチステークホルダー型のガバナンスプラットフォーム(即ちAGRA)が設置され、特定の考え方や規範に基づく農業改革等の構造化・制度化が進められる、のである。

Multistakeholderismの考え方は、現実の国際社会の諸々の課題に対するガバナンスに既に深く広く浸透しているのが実態と言える。

Rackete氏が危惧するCOPの現状においても、アフリカの食と農のシステムにおいても(充分な「人もの金」に裏付けられたAGRAの考え方が優先的に実態化される一方で、AFSAの動きはやはり鈍いと言える)、そしてSDGsの実態においても(上位に位置している筈の人々や市民ら権利保持者が建前としてはSDGsを主導していくのが、望ましい姿であると考えたいが、やはり実態は大手建設企業らが勝手に主張する論理のもとSDGsが実態化され、推進されているのが現実と感じている)、現代の諸課題のガバナンスはマルチステークホルダー主義の考え方に浸食されている、という見方を意識することが大切ではないかと思っている。

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世界沸騰時代に対処するキーワード(2)AGRA対AFSA

2023-12-05 09:34:48 | 環境問題
食と農(食糧問題及び農業問題を全体として捉える場合に食農という言い方がある。以降可能な限り食農を使ってみたい)のシステムに関する世界の潮流をまず捉えてみたい。そして、その潮流が世界沸騰時代という今の状況に合致した適切な流れなのかどうかを考えてみたい、と思い調べております。

そんな考えで、前回はC3植物とC4植物というキーワードを取り出し、現在の世界の食農システムの潮流が妥当かどうかを判断するキーワードの1つを提示しました。

今回はアフリカの食農システムに興味があり調べていく過程で、興味深い別のキーワードの存在が出てきましたので紹介したいと思います。「AGRA」と「AFSA」になります。

AGRAとAFSAはいずれもアフリカ大陸における、それぞれの食農システムの普及を目指している組織になります。ただし、AGRAは世界のアグリビジネス業界の提供する科学技術を採用し、そして推進することでアグリビジネスの巨大企業からの支援と後援を受けており、その運用資金は世界の慈善団体(例えばロックフェラー財団やビル・メリンダゲーツ財団)から受けており、その技術力と資金力からアフリカ各国の政府にAGRAの食農システムを採用させる力を持っており、一方のAFSAはこうした支援や後援を現在はほぼ受けることが出来ていない、世界の潮流の脇に置かれた組織だというのが今の現実の状況と思われます。

しかしながら、AGRA とAFSAという2つの組織の活動を調べていくと、2つの組織の動向が、単にアフリカ大陸に留まらない、世界の食農システムの現在と今後の行方を考えていく上で非常に参考になる思想がそれぞれに含まれている、と感じております。

前回のC3植物とC4植物と同様に、今回もAGRAとAFSAという二つの組織を観察していくことで、世界が目指すべき食農システムと、その流れが世界沸騰時代に適っているのかを考える上での参考材料になればと思っております。

結論的にいうと、種子ビジネス・合成肥料・合成農薬販売等の多国籍巨大アグリビジネス事業体の利益が優先的に確保され、そして単一品種栽培の効率化を追求し、規模の拡大を目指すAGRA型システムだけが繁栄している現状を肯定するのでなく、家族労働も含めた小規模事業者のその土地その土地に合わせた自主性・自律性が尊重されるAFSAシステムもが共存する食農システムが構築され、世界から支持を受けるようなことが望ましく、その方向が我々の取るべき道だと考えております。即ち、いずれか一方に偏った食農システムの採用は正解ではない、という考えであります。

私自身は主流になり得ていないAFSA側に身を置きたい気持ちがあるものの、出来る限り、バランスをとりながら話を進めてみたい。

まずAGRAを紹介する。

AGRAの正式名称は、緑の革命アフリカ同盟(Alliance for a Green Revolution in Africa)。
彼らのホームページ中の「我々について」に記載されている内容は次のとおりである。

AGRAはアフリカが主導する組織であり、小規模農家の収入が増え、生活が改善され、そして食料の安全確保の向上に役立つ農業の革新化を図ることに焦点を合わせている組織です。
アフリカの農民らが、直面する環境上のそして農業上の課題に関してアフリカに特有の解決策を求めていることをAGRAは心得ています。AGRAが提供する解決策により、生産拡大が持続可能な形で達成され、そして急激に拡張している農業市場への接続性が向上されることが期待できます。簡単に言うと、AGRAの使命というものは、小規模農家の生活を、そして生存をかけた孤独な戦いの状況から繁栄発展するビジネスへと転換させることであります。
2006年以降、AGRAはパートナーら、各国政府、非政府組織、民間企業体やその他多くの組織機関と連携し活動してきています。そして小規模農家や先住アフリカ農業事業体に対して有効性が実証されている一連の解決策を提供してきています。AGRAは小規模農家を第一に考えており、農業の革新なしには如何なる国も低収入状況から中程度収入状況の国への発展はあり得ないと考えています。

以上が、AGRAのホームページにおける自己紹介です。表面上はAFSAの理念を意識し、取り入れながら存在感の確保を試みているが、利益関与団体の意向を底流では保持した文言と見えます。

繰り返すが、AGRAは、多国籍化学肥料・農薬企業・種子ビジネス企業等からの後援を受け、国際的慈善団体からは資金支援を受け、そしてAGRAの農業システムは行政から優先的に採用され、世界的に主流と認知されている組織であるということが大きな特徴であり、その推進するシステムは、以前に紹介したメキシコの研究所の矮生コムギ(背たけが低い)の品種とフィリピンの研究所の矮生コメの品種という新しい多収量品種の単一栽培をアジアと中米に広めた1960~1980年代の所謂「緑の革命Green Revolution(GR)」システムを、前回のGR拡大路線に乗り損ねたと見られるアフリカに、2006年以降から適用・推進することを念頭に置いた組織だ、ということである。

自身が美辞麗句で飾るAGRAのホームページの情報とは異なる、別の立場の人々が見るAGRAについての情報を次に紹介してみたい。

Tufts大学のTimothy A.Wise氏による「間違った約束:緑の革命アフリカ同盟(False Promises:The Alliance for a Green Revolution in Africa)」の記事がそれである。この記事は題名からわかる通りAGRAに批判的な立場からの見かた・歴史観になります。
更に興味のある方はWise氏の論文「Failing Africa's Farmers:An Impact Assessment of the Alliance for a Green Revolution in Africa」2020年を参照することをお勧めします。

以下に簡単にWise氏の論旨を拾って紹介します。

ビルとメリンダ・ゲーツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation:以下BMGFと略す)及びロックフェラー財団が2006年にAGRAの設立に着手。
多国籍種子企業が販売する高収量(矮生)種子や合成肥料及び合成殺虫剤等農薬を用い、そして灌漑-多水農耕が必要な米・小麦等の単一品種栽培を特徴とする緑の革命(GR)型農耕システムをアフリカ大陸に導入することを目的とする組織の設立である。
そしてAGRAが推進するシステムが、アフリカに存在する飢餓と貧困の削減達成に貢献できる、と主張している。

AGRAは様々なプロジェクトに投資を行っており、そしてアフリカ各国政府にロビー活動(多国籍巨大アグリビジネス団体の力を背景とする)を行い各国政府がAGRA型GR技術を採用することを推進し、アフリカ大陸各国家の食農政策の推進と市場の構造改善を達成する手助けを行っている。
AGRAは発足以来、10億ドルに近い出資・寄付金を主にBMGFから受けており、BMGF以外にはアメリカ、英国、ドイツ等もある。

AGRAは5億ドル以上の助成金をアフリカ農業の現代化を目指して行っている。
そしてアフリカ各国政府は主として、「作物栽培向け投入資材(農薬や肥料や種子に相当する)購入資金助成金プログラム(the form of input subsidy programmes, FISPs)」という形で獲得した助成金を使用している。即ち、農家はハイブリット種子を購入し、合成肥料や合成農薬の力を借りて緑の革命型農業システムを行い、それにより農家の収入と生活の改善及び生産性の向上を図ろうというわけである。

AGRAの初代代表には前国連事務総長のアナン氏が就任しており、その主導のもとAGRAは重点対象国を13カ国に設定して、その内10カ国が事実FISPsを採用している。
AGRAが当初目標としたミッションが2008年年次報告書(2008 annual report)に記されており、2020年までにアフリカの2000万の小規模農家の収入の倍増とアフリカ20カ国の食料不安・栄養不足を半減させることとしていた。

AGRAが主導するシステムの実績は次のようである。
・栄養不足の改善:3ヶ国は15年にわたり改善がみられる。ザンビア(2%改善)、エチオピア(8%改善)ガーナ(36%改善)。反対にケニア(44%の悪化)、ナイジェリア(247%の悪化)。
即ち、過去15年のAGRA型システムの取り組みで全体としては、栄養不足は逆に50%悪化したという。AGRAの目標は完全に破たんしていると言える結果なのである。
・2000万の小規模農家の収入アップ目標:この目標も達成されていない。巨大アグリビジネス企業の利益は常に確保される(それが保証されるシステムであるが故である)ものの小規模農家の収入アップに繋がらない理由は、一つにAGRA型のシステムでは時間と共に土壌の劣化が起こり、生産性の悪化が付随することによるとされている。
よってAGRAは2020年6月に説明なしでこれら目標をホームページから削除しているのが実態である。

このWise氏の提供している情報の中でAGRAの本質を示すものは次の点だろう。
1.2006年ビルとメリンダ・ゲーツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation,BMGF)とロックフェラー財団がAGRAの設立を主導。そして10億ドルに近い出資・寄付金が主にBMGFからのものだったこと。
2.AGRAは5億ドル以上の助成金を、アフリカ農業の現代化達成を目指して行っている。
アフリカ各国政府は獲得した助成金を使用して「作物栽培向け投入資材購入向けの助成金プログラム」を提示。農家がGR型農業のハイブリット種子や合成肥料の購入をするよう誘導する。各国政府に対する多国籍アグロビジネス事業体からのロビー活動により、13カ国中10カ国でFISPsが採用されているというのが実態である。
3.各国政府にFISPsを採用させて、GR型農業行政を行うよう誘導したのが前国連総長だった人物でありAGRA初代代表だったという点も重要なことである。
4.BMGFやロックフェラー財団がバックアップし、種子企業や大手合成肥料会社・農薬企業・農業機械企業といった多国籍企業の資本力・事業化力の後援があり、地元各国政府の思惑が重なった形で、アフリカ大陸の食と農業のガバナンスはAGRAが思い描く方向に進んでいるという実態が厳然と存在している。

即ち、アフリカに留まらずに世界の食農システムのガバナンスを支配しているのはAGRA的工業型農業システムであり、これが現在の主流の体制と間違いなく言える状況である、とも言えるのではないかと見ている。

次にAFSAについて、説明する。

AFSAとは、食料主権アフリカ同盟(Alliance for Food Sovereignty in Africa、AFSA)を指す。
同様に先ずはAFSAホームページの「我々について」を見てみたい。

AFSAはアフリカの小規模農家・牧畜民・漁民・先住民・信仰共同体・消費者・女性そして若者らを統合し、統一して食料主権を声高に訴えることを目指している。

そしてFAO(世界食糧農業機関)がホームページでAFSAを紹介している。それによると、AFSAは2008年に趣旨を共有する関係者らが構想を持ち、2011年の南ア・ダーバンにおける国連気候変動に関する枠組み会合(the UN Framework Convention on Climate Change、UNFCCC)のCOP17において発足している。発足時の報告において、食料主権主義が地球を冷却する力があり、世界の食を改善し、そして地球環境を再生する力を持つと主張されている。
即ち、AFSAはアフリカにおける食料主権とアグロエコロジー(agroecology)確立のため闘っている様々な市民活動家らの広範な同盟である。同盟に加わっているのは、農民組織団体・NGOネットワーク・専門家NGO団体・消費者運動団体・AFSAの考えに共鳴する国際組織団体及び個人らであり、小規模農家・牧畜民・狩猟採集者ら・先住民の人々らを代表するものである。
AFSAの重要な目標は国の政策に影響を及ぼすこと、そして食料主権に向けてのアフリカが提示する解決策を推進することであるとしている。

アフリカの農民を組織化しネットワーク化するための汎アフリカプラットホームである。
そして共同体の権利・家族型農業・伝統として継承されている農業知識体系の推進そして環境及び天然資源の管理運営等をアフリカ農業政策へと昇華していくように声を強めていくことがAFSAの目標だとしている。

しかし、その実態及び実績は、やはり主流からは脇に置かれた存在という面はぬぐいきれない状況であろう。AGRAの背後の多国籍アグリビジネス巨大企業体組織・国際慈善団体のバックアップとそれになびく地元各国政府の存在という総合力は侮ることはできない力である。

ここにおいて前国連総長がアフリカの食農システムの改善向上を目指す考えを持った時に、多国籍アグリビジネス巨大企業体組織のGR型システムだけを念頭に置く構想だけでなく、AFSA型のシステムの構築と確立も重要だとする構想を持てなかった判断力と見識の不足が残念である。多面的な視野を持って動けば、例えばBMGF等の国際慈善団体基金の投入もバランスの取れたものになっていたのではないかと思う。

かかる現状の課題からAFSAはBMGFも含むAGRAへの出資団体に公開書簡を送っている。その内容を記しておきたい。

AFSAの35の組織ならびに40カ国174に及ぶ団体からの後援を背景に、AFSAはAGRAを支援する団体に対し支援の停止を要望する。そしてアフリカ人が主導するAgroecologyやその他の低い投入物量(合成肥料や合成農業薬剤の使用量の削減化を目指す)を特徴とする農耕システムを支援するように要請する。
アフリカ大陸最大の市民社会団体ネットワークであるAFSAは、2021年5月にAGRA支援団体に対し、AGRAが15年にわたり実施した工業型農業システムが数100万の小規模農家の収入拡大と食糧安全保障に貢献した、という確かな証拠があれば提示して欲しい旨の書簡を送っている。
これに対しわずかな回答はあるものの、信頼できる証拠の情報は提示されていない(2021年9月7日時点)。
AGRAの掲げる使命(生産性と収入を向上し、食料安全保障を改善するという使命)は明らかに破たんし実際にはアフリカ農民に対し広範な悪影響を及ぼしている。
約15年にわたり、10億ドル以上を推奨種子・化学肥料・農薬購入に費やすシステムを13のアフリカ諸国で展開し、その上、毎年10億ドルに及ぶ補助金制度をアフリカ諸国政府が提供するシステムをAGRAが展開したが、持続可能な形で収穫量・農家収入そして食料安全保障を改善するというAGRAの目標が達成されたという明確な証明は為されていない。
AGRAシステムに取りくんだ13カ国では栄養不足の割合が30%拡大し、主食作物の生産量が拡大した国においてさえ田園地域の貧困と飢餓状況の削減にはほとんど効果は出ていない。反対にAGRA推奨の品種の大量採用により、元々かかる地域の食料安全保障に役だっていた気候変動に強い作物が脇に追いやられるという弊害のみが残ったといえる。

AGRAが果たした悪影響に対する理由を挙げると、
1. 持続可能な生活システム、長期にわたる土壌肥沃性や気象等を犠牲にして、良策とは言えない化学的投入物(肥料と農薬)に高度に依存する単一品種栽培を追求している。
2. 高収量種子・肥料・農薬依存へと農民を誘導する戦略は、多国籍アグリビジネス事業体の提供する生産システムへの依存性を農家に植え付けることになる。しかもこのシステムは環境に悪影響を与えることで、気候変動に対する回復性を悪化させ、そして小規模農家の負債リスクを高進させる恐れがある。
3. AGRAはその財政力を梃子にしてアフリカ諸国の農業政策に介入している。そこではアフリカの飢餓と貧困対策は置き去りにされ、アフリカ農民と資源が収奪されるシステムが働いている。

AGRA現代表のKalibata博士が、開催が予定される国連食糧サミット(UN Food Systems Summit、UNFSS)に国連特別代表として参加し、AGRAのシステムを世界に提案し、世界を間違った方向に誘導する可能性が出てきている。このことが現在の我々が抱えている課題の一つであると捉えている。
世界の数百の組織・団体が、開催予定のUNFSSが多国籍企業の主導する工業型農業を世界に拡散する機会になるのでは、という懸念を表明している。
2021年6月500人に近い数のアフリカの各種団体の長がBMGFに書簡を送り、悪影響のある工業型農業への支援停止を要請している。そしてBMGFおよびその他の支援団体は、小規模農家の声を聞くよう求めている。
AFSAはこれらの書簡の内容を支持し、慈善団体が支援を決定する段階で、アフリカ人の声を聞くよう要望する。
世界は人道的に、環境的に、そして異常気象という危機に直面している。従って発展モデルを迅速に転換する必要がある。
アフリカの全ての農民は、それぞれの知識を共有し、科学者らと連携して低い投入量に基づく農業モデルを確立することが更なる望ましい結果を生むということを理解している。即ち農業生産の権利はアフリカ農民の手にあるべきだ、と考えている。
AFSAはBMGF及び他のAGRA支援団体がアフリカ全域にわたる農民の声(健全であり、持続可能であり、公正な食農を目指すシステムの構築、即ちAgroecologyに基づく食農システムの構築)に耳を傾けるよう要請する。

***

世界は主流側、体制側がアドバルーン的に方向を指し示し、その持てる資金力と技術開発力とそして腕力を用いて、その方向への動きを実態化させていくことで、動いていくものだ、とも言える。

まさしく進行中のCOP28で、温暖効果ガス排出削減の手段として、100カ国以上の支持を受け当然ながら再生可能エネルギーの拡大が上程されようとしている。そして20程の国(日本はこちらにも顔を出している)が、原発の3倍化の方針を上程する気配が感じられる。

このCOP28での突然の原発の動向は今後興味深い問題ですが、現時点ではあくまでこういう考え方もある位の受け取り方をする必要が我々市民側には求められると思っております。
事実、DeutcheWelleやAlJazeeraやPakistanDawnらの記事には、20程の国による原発の3倍化方針の情報は取り立ててスポットライトは当てられていない。例え紹介されている場合でも100カ国以上の支持の再生可能エネルギーの3倍化拡大策が強調され、そして原発の動きもある位の報道が現状です。
ここでも日本の報道の突出性がある意味興味深く、また気にかかる所です。

わき道にそれてしまいましたが、今回のテーマの底流として存在していると感じる資金力や腕力による世の潮流作りの功罪ということについて、今後焦点を当てていきたいと思っております。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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