車泊で「ご当地マンホール」

北は山形から南は大分まで、10年間の車泊旅はマンホールに名所・旧跡・寺社・狛犬・・思い出の旅、ご一緒しませんか。

年の初めの神楽三昧「大江山」

2022年01月18日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

一条天皇の御代、丹波の国・大江山に『酒呑童子』という鬼人が立て籠もり、都に出ては女人を攫い、悪行を重ねておりました。この事態を重く見られた帝は、『源頼光』に鬼人退治の勅命を下します。『頼光』と四天王の一行は「石清水八幡・住吉明神・熊野権現」の三社に詣で、大江山へと向います。
2013年7月6日「安芸高田神楽特別公演」、「上河内神楽団(安芸高田市)」による【大江山】。
舞台の袖には、山伏に化けて大江山に向う『頼光』四天王(の内の二人)が登場。

大江山へと急ぐ三人の前に、八幡・住吉・熊野の祭神よりの使いと名乗る老人が現れ、鬼を倒す為の「神変鬼毒酒」を授けます。

三社の神の加護を受けて更に山奥へと旅を続ける一行は、途中で悲しい歌を歌う美しい姫に出会います。
【寂しさに 父の名を呼び 母呼べど 松風ばかり 都恋しや】

姫の名は、先に鬼に攫われた花園中納言の娘で『紅葉姫』。山伏姿に身を変えた一行は、姫の案内で鬼の棲家に向い、言葉巧みに鬼に取り入ります。

山伏の一行が都の土産にと差し出したのは、鬼が飲むと「飛行自在」の力が失せてしまうという「神変鬼毒酒」。そんなこととは露知らず、すっかりご機嫌で杯を重ねる『酒呑童子』とその仲間・・・・

おだてられ勧められるままに杯を重ね、すっかり酔いつぶれた頃合を見はからって鬼たちの岩屋を襲う頼光たち。騙されたと知った時は既に「毒酒」によって妖術は封じられ、もはや素で戦うのみの鬼たち。

こうして激しい戦いが繰り広げられた後、最後は『頼光』たちによって、見事討ち果たされてしまいました。

------------------------00----------------------

2013年7月7日「安芸高田神楽特別公演」、「原田神楽団(安芸高田市)」による【大江山】。
ここは京の都。美しい姫に目をつけた鬼たちが、妖術を使って姫を拉致し大江山へと連れ帰る場面から物語は始まります。

美しい姫をかどわかし、老婆に化けては人を捕り食らうなど、都の人々を恐怖に陥れる鬼たちの悪行に心を痛めた朝廷は、『源頼光』に大江山の鬼を退治せよとの勅命を下します。

中央のポジションがおそらく頼光殿。宝塚ばりの美形に思わず😍

山伏の姿に変装した一行は、奥山深くの川辺で、悲しい声で都の父母を慕って歌う、美しい紅葉姫に出会います。神楽に限った事ではありませんが、男性が女性の役をする時、声だけはカモフラージュのしようがないのですが、この方(上野さん)の歌声は吹替かと思ったほどに美しいソプラノ。帰宅後に速攻ググってお名前を調べました😊

話が脱線しましたが、紅葉姫に、きっと助け出すと約束した『頼光』とその一行。早速山伏に変装して鬼の棲家に乗り込み、押し問答の末、ついに一夜の宿を借りることに成功。宿のお礼にと都の酒を献上します。

まさかこれが「鬼」だけに毒の効果を持つ酒とも知らず、旨い!旨い!と喜んで杯を重ねる鬼たち。まぁ、飲むわ、飲むわ😆。すっかりいい気分で酔っぱらって、眠りこけてしまいました。

そうして鬼たちがすっかり酔いつぶれて眠り込んだ頃、こっそりと鬼の岩屋に忍び込む『頼光』一行。

すかさず正体を現し鬼たちの寝込みを襲う頼光一行。と言ってもいきなり無言で切りつけるような卑怯な真似はせず😄、堂々と名を名乗ったうえでの「勝負~!!勝負~~~~」

しかし悔しいかな、すでに毒酒によって妖術は封じられ、酔った体は思うように動きません。罠に気付いてビックリ仰天(に見える)の鬼の表情がものすごお~~くツボ😆

あっという間に手下どもは成敗されて、気が付けば酒呑童子ただ一人。ものすご~~~く頑張って戦ったのですが、誰かの歌の文句ではないですが「正義は勝つ」のです😊

見事大江山の鬼を退治した頼光一行。神の加護に感謝し、華麗な喜びの舞で互いの無事を祝いあいます。

------------------------00----------------------

最後は2013年12月8日「千代田開発センター開催:月一の舞い」、「梶谷神楽団(安芸高田市)」による【大江山】
舞台に登場した「三社神の使い」『源頼光』一行、「梶谷神楽団」では、神方は化粧なしの素顔です。

帝の命で鬼退治に出向く一行は、途中で八幡神より、鬼が飲むと飛行自在の力が失せ、善人が飲めば良薬となる「神変鬼毒酒」を授かります。

奥深い山の中で道に迷いかけた一行、きこりの『栗の木又二郎』さんに出会い、道案内を頼みます。

この『栗の木又二郎』さんが、何ともすっ惚けて、ひょうきんで、会場は笑いの渦。

真面目な顔で又二郎さんの相手をする『源頼光』。必死に笑をかみ殺しているのが、またおかしくて😅

川を越え、崖を登り『栗の木又二郎』さんのやる通り、無茶ぶりな要望にも真面目に応える頼光さん一行。やっと鬼の棲家に近づきましたが、そこで鬼の言いつけで、川で洗濯をする美しい姫に出会います。この姫こそ鬼に攫われた、花園中納言の娘『紅葉姫』。怯える姫に「必ず救い出す」と約束し、鬼の下に案内させます。

怪しい山伏と疑われつつも、持ち前の臨機でその場を取り繕う頼光。長い押し問答の末、やっと疑いを解く『酒呑童子』。土産の酒に気を良くし、何時しか身の上を語るまでになります。

自分だって好んで鬼になったわけではない。生まれ出たとき既に鬼であった身、口にふくんだ母の乳房を食い千切ったとて、その事を誰が責められると・・この鬼の述懐は初めて聞くものでしたが、思わず鬼の境遇に同情し、この後の展開に・・チクリと胸の痛みを覚えました。

しこたま飲んだ酒に良い、すっかり油断をして寝込んだ『酒呑童子』。そこへ忍び込む『頼光』たち。

信頼して招きいれたのに・・人間はやっぱり嘘つきばかりだ!!。信じた者に裏切られる・・・・鬼の怒りは激しいものでした。

しかし毒酒の廻った体では思うように動くこともできず、戦いの結果は火を見るよりも明らか。

そして・・酒呑童子は頼光たちの振り下ろす刃に討たれ「鬼に横道(おうどう)なきものを!」と叫んで絶命します。横道とは、「人の道に背く。正しくない事。邪道。不正と知りながらそれをする事。」とあります。
基本的に人間界の善悪を基準として生きていない鬼にとって、こんなだまし討ちは卑怯なことで、また、自分たちと暮らす『紅葉姫』が都を恋しがって逃げ出したいと思っているなどと思いもせず・・・・鬼たちの生き様は鬼界の道に背くものではなかったのかもしれません。でもね・・・やっぱりよそ様の娘をさらったり、人を捕って喰う事は、人間界では許されない悪行。ゆえに鬼と人とはどうしたって共存できないのです。

------------------------00----------------------

福知山市大江町仏性寺にある「鬼の交流博物館」の敷地内には、大江山の鬼退治に来た山伏姿の頼光主従のモニュメントがあります。神楽に登場する頼光さんたちと比べるとかなり地味な拵えです。が、神楽の世界では、山伏であろうと、鬼であろうとキンキラキンの衣装でないとダメなのです😄

年末から始まった神楽三昧、結局書き終えてみたら今日は一月十八日👀 取捨選択ができない性格なので、薄々は覚悟していたのですが・・でもまぁ、この先神楽見物に行ける当てもなくなった事だし・・気分的には「書ききった感」があります😄

2022年一月十八日

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「戻り橋・羅生門」

2022年01月17日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

前日紹介した「源頼光と四天王」といえば、何を置いても大江山の鬼退治が有名です。で、この鬼退治の神楽は三つの物語で構成されており、それぞれが関連を持って繋がっています。
最初の物語は、2013年7月7日&12月7日の両日に「広森神楽団(安芸高田市)」が演じた【戻り橋】。二回分をまとめての紹介です。
ここは一条戻り橋、舞台に登場したのは見るからに怪しい老婆。だれがどう見たって怪しい!怪しい以外に言葉がない位、怪しい(笑)

老婆が隠れると、軽快なお囃子にのって目かつらをつけた『傘売り善兵衛』の登場。ひとしきり傘のパフォーマンスを披露した後に「そもそも、このところに進みいでたる者、傘売りを生業とする、正直者で男前の善兵衛と申す者にてそうろう」と、元気に歯切れよく自己紹介(笑)

会場の笑いを独占した『善兵衛さん』。そこに登場したのは先ほどの老婆。雨に濡れて難渋しておる身。ついてはこの濡れた衣服を拭く間、傘を貸して貰えないかと頼まれます。

「貸してあげんでもないけんど、安うしとくで買うてもろうたらわしゃぁ助かるんじゃがのお~」

なんて思っていても口に出せない、親切で正直者の『善兵衛さん』。怪しい老婆に頼まれて傘をさしかけてあげます。

「それにしても時間がかかるのぉ~。それに、えらいこと暗ろうなって来たし、この辺は夜になると物騒なもんが出ると言うとるし・・おばぁさんや、まだかの~~(泣)」

「まだまだ~もう少し~」「まだかの~ (´;ω;`)」「ま~だ、ま~~~だ」

「もうよいぞ!」と傘の向こうから顔を出したのは、耳まで裂けた口、額の横には大きな角、ギラギラと金色に光る眼。腰を抜かし声も出せない『善兵衛さん』。何とあの老婆、実は大江山に棲む『酒呑童子』の弟分『茨木童子』が化けたものだったのです。

絶体絶命の善兵衛さん、しかしその時、四天王の1人『渡辺綱』があらわれて茨木童子を阻みます。渡辺綱と茨木童子のはげしい戦い、やがて少しずつ茨木童子が劣勢になってきました。

茨木童子の劣勢を察した『酒呑童子』、虚空飛天の妖術を使って大江山から飛んできました。何というか・・大江山の鬼の結束って、半端ない(笑)
一体でも手強いのに二体を相手。しかも加勢に現われたのは、鬼族のラスボス「酒呑童子」。

妖術を駆使し、渡辺綱を追い詰めてゆく鬼たち。絡め捕られ遂にうち伏してしまう渡辺綱!!危うし!

その時、「岩清水八幡神」のご神徳を受けた『坂田金時』が、加勢に駆けつけます。『山姥』と共に切り殺されていても不思議ではなかった『怪童丸』。今や立派に頼光四天王の1人として、渡辺綱の加勢が出来るまでになっていたのです。

神の威徳によって意識を取り戻した渡辺綱。もはやおくれを取る事はありません。思いがけない助っ人に慌てる酒呑に茨木。とは言え鬼のメンツにかけても逃げ出すことなど有ってはならぬ!

拍手喝さいの鬼の所作。やがて華麗な衣装へと変身し、一糸乱れぬ呼吸での戦いの舞。『渡辺綱』&『坂田金時』VS『酒呑童子』&『茨木童子』。迫力満点の戦いにお囃子方も力が入ります。

迎えるクライマックス、綱の刃が煌めいた瞬間、茨城童子の右腕が宙を舞い・・!

慌てふためく『茨木童子』。切り落とした右腕を高くかかげ、更に鬼たちに迫る『渡辺綱』

何とか腕を取り返そうと悪あがきする茨木童子を説き伏せ、今は、三十六計逃げるにしかず。再び「虚空飛天」の妖術を使って、酒呑童子たちは大江山へと飛び去っていったのです。

------------------------00----------------------

2013年7月7日「安芸高田神楽特別公演」、「黒瀧神楽団(安芸高田市)」による【羅生門】。

一条戻り橋の乱闘で右の腕を切り取られ、日ごと夜毎、嘆き悲しんで暮らす『茨木童子』。大事な弟分の悲しむ姿を見た『酒呑童子』、腕を取り返してやろうと、単身、都に乗り込んできました。

そうして『渡辺綱』の乳母『白妙』を捕り食らい、姿を変えて館の奥深くに入り込んだのです。

草木も眠る丑三つ時、館の誰もが寝静まった頃。息を殺し、足音を殺し寝所に近づく酒呑童子。まさか乳母が食い殺されたなどとは夢にも思わぬ渡辺綱。そこに生じた油断がやすやすと鬼の侵入を許してしまったのです。

慎重に・・慎重に・・切り落とされた右腕のありかは、昼の内に白妙に化けて確認しておいた・・・待っていろよ茨木童子。もう少しの辛抱だ。

風のような速さで右腕を手にした瞬間、正体を現す酒呑童子。

いつの間にか側に来ていた茨木童子の腕に、取り戻した腕をもみこんでやる酒呑童子。住む世界は違いますが、同族同士として仲間思いなのは確か。

異変に気がついた『渡辺綱』。『酒呑童子』たちに立ち向かいますが、白妙が殺された事に少なからず動転していた事もあり、「水火の妖術」に苦戦します。

再び『渡辺綱』危うし!と、その時「岩清水八幡神」のお告げを受けて駆け付けた『源頼光』。神の威徳で意識を取り戻した綱と共に「いざ、勝負~、勝負~~。」

そして始まる華麗なる戦い。『源頼光』&『渡辺綱』VS『酒呑童子』&『茨木童子』。迫力満点の戦いにお囃子方も力が入ります。・・・・って、このフレーズ、つい最近書いたような気が??絵づらも似てるし・・ま、いいか(笑)

武勇の誉れ高い『源頼光』の加勢だけでも面倒なのに、その上「岩清水八幡」の威徳まで一緒では、さすがに分が悪いと悟った『酒呑童子』。又しても「虚空飛天」の妖術を使い大江山へと飛び去ります。

この後、『源頼光』は勅命を仰ぎ、大江山へ鬼退治に向かう事となりますが、そのお話はまた明日。

松の外になってしまいました(^^;) 一月十七日

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「山姥」

2022年01月16日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

鬼に鬼女と続いたところで、今日は少し毛色を変えて「母と子」がテーマの神楽。と言っても人を捕り食らう「山姥(やまんば)」となれば、鬼と大差ありませんが(^^;)

2013年7月6日「安芸高田神楽特別公演」、「佐々部神楽団(安芸高田市)」による【子持ち山姥】

東国の賊徒を平定するため、信州明山へと差し掛かった『源頼光』『卜部季武』主従。しかしその山には、旅人を捕り食らう恐ろしい『山姥』が隠れ住んでいたのです。舞台に登場したのは長刀を手にする老婆と、いまだ幼さの残る少年。実はこの二人こそ、旅人を襲い悪逆の限りを尽くす山賊の女頭目と、その一子『怪童丸』

「ここが恐ろしい山姥の住処とも知らず、のこのこと入り込んできたのが運の尽き。良き獲物がやってきたわ~」とばかり襲い掛かったものの、思いもかけない手強い二人に、遂に『山姥』の本性を現す老婆。

しかし武勇でならし、これまで幾多の鬼神を相手に戦ってきたた頼光主従、山姥ごときに怯むはずもなく、いざ成敗!と刀を振り上げたその時!

母の危機と見るやとっさに駆け寄り、二人に立ち向かう『怪童丸』。その隙にと母を逃がします。が、相手は都でも武勇名高き『源頼光』と『卜部季武』。あらん限りの力を振り絞って二人に立ち向かいますが、我が母でさえも叶わぬ相手に、しょせん太刀打ちできる筈もなく・・

あわや『怪童丸』!とその時、二人の刃の前に身を投げ出す『山姥』。「我ら二人、もとは都に住いした「北面の武士」の妻なれど、夫の勝手によって離別され、一子を抱え都を追われ、頼るものとて無く、世を呪い人を恨んだあげく山賊に成り下がった身の上。この上は、どうぞこの命と引き換えに、我が子『怪童丸』だけは、どうか、どうかお助け下され」

子を思う母の心。また母をかばう子の心根。人に有らざるものとなっても変わりない親子の情愛。頼光は『怪童丸』を手元に置いて家来にすると約束し、母親には二度と人を襲うなと諭して立ち去るように命じます。

最期の別れを惜しむ母と子・・・母はこの山深くにひっそりと身を隠し、そなたが立派な武人に育つよう祈り暮らそうゆえ・・互いを思いやり涙する母と子・・こうして『源頼光』の家来となった『怪童丸』、後に四天王の1人『坂田金時』として頼光に仕え、武勇を馳せることとなります。

------------------------00----------------------

2013年7月7日「安芸高田神楽特別公演」、「青神神楽団(安芸高田市)」による【山姥】。
舞台に登場した『山姥』『怪童丸』。ここでは『怪童丸』の獲物が斧である事に注目。ある程度の内容を知っていれば、これが物語の展開に大きく関与する演出である事がわかります。

それにしても前回に引き続き、今回の『怪童丸』君も、中々のイケメン。しかも何故か黒ガッソが似合ってる(笑)

でいきなりの乱闘場面・・・何故に故に、そこに至る経緯がないのか、本人にもわかっていません(^^;)  中々に手強い山姥と怪童丸ですが、音に聞こえた『源頼光』『卜部季武』

しかし所詮は落ちぶれた山賊風情、天下にその名を知られた頼光にかなう筈もなく・・斧を奪い取られた『怪童丸』、今まさに成敗!のその瞬間、刃の下に身を投げ出す山姥。そこには旅人を恐怖に震え上がらせた化け物の姿はなく、一途に我が子を護ろうとする母の顔が・・

この身はいかようにされましょうとも、どうかこの子の命だけはと伏し拝む姿からは、山姥と恐れられた面影は微塵もなく、ただただ、我が子の命をひたすらに請い願う母の姿に、怪童丸もまた深く首を垂れます。  昨日見たばかりの演目なので展開は分かっている筈ですが、親子の情愛が日本人の心をくすぐるのか・・目の奥がツ~~~~~ン(´;ω;`)ウッ…

山姥のこれまでの悪行を思えば本来は許しがたき事ではあるが、子を思う親としての心根は哀れである。この上は己のこれまでの悪行を悔い改めて静かに過ごせよと諭す頼光。

母の心情を汲み取り、怪童丸を家来にすると約束する源頼光、こういう経緯があれば、そりゃぁ、後の『坂田金時』、何ぞ何事がおころうとも『源頼光』に命がけで仕えるはずです。何というか・・頼光さん、おっとこ前~~!!

------------------------00----------------------

最後は2015年4月19日「因原神楽交流大会」、「琴庄神楽団(北広島町)」による【山姥】

舞台に登場した『山姥』『怪童丸』。もと名のある武士の妻であった名残なのか、手には立派な薙刀が握られています。

まだ子供の面影が残る怪童丸ですが、黒ガッソが結構似合ってます。母をかばうように常に前に立ちはだかる姿には、怪物といえども親子の情愛が・・

賊徒平定のため、信州に向かう頼光主従。山あいの夜は早や暮れ落ち、辺りは夜の闇に・・遠くに明かりを見つけた二人、たどり着いた山家に一夜の宿を求めます。

二人が寝静まるのを見届けた『山姥』親子。正体を現し襲い掛かりますが、相手は武勇に秀でた『源頼光』『卜部季武』・・・こればっかり(笑)

やすやすと二人の手にかかる様な相手ではなく、山姥も遂に化け物の本性を見せて長刀を振るいますが・・

無論、到底叶う相手ではなく、遂に『頼光』の刃の下に投げ出されます。もはやこれまで・・なれどこの子にだけはどうかお慈悲をと泣いて頼む山姥・・いや、哀れな母の姿。 頼光は母の必死の願いを聞き届け、怪童丸を家来にすると約束します。頼光の慈悲に、深く心を打たれる怪童丸。

この先、二度と相まみえる事のない母子の別れ。深々と頭を下げる怪童丸に今生の別れを告げるのは、今はただ年老いて見える母親。その後、旅人を恐れさせた山姥は、二度と現れる事はありませんでした。

------------------------00----------------------

さてここで『源頼光』の四天王について・・まずは四天王の筆頭とされる『渡辺綱』。京都の一条戻り橋の上で鬼の腕を切り落とした逸話は特に有名。続いて『卜部季武』。弓の名手として知られています。三人目が『碓井貞光』。身の丈7尺(約2m)の大男と伝えられており、碓氷峠の大蛇を大鎌で退治した話が有名です。そして四人目が今回の主人公『坂田金時』。実は私『碓井貞光』だけは、今回調べて初めて知った名前なんです。今まで頼光さんを入れての四人だとばかり・・(^^;) それじゃ四天王にはなりませんよね。

終わりにもう一つ、『山姥』を捨てた夫「北面武士」について。これは、院御所の北面、つまり「北側の部屋」の下に詰め、上皇の身辺警衛や、御幸に供奉した武士の事を言います。
11世紀末に白河法皇が創設した 院の直属軍と言う事で、それなりの地位であったと思われます。

松の外になってしまいました(^^;) 一月十六日

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「曽我兄弟・元就公・弁慶」

2022年01月15日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

今日は神楽団のオリジナルっぽい神楽の紹介。まずは2013年7月7日、「安芸高田神楽特別公演」、「吉田神楽団(安芸高田市)」による【元就公】。

この演目は、天文9年から天文10年まで、安芸国吉田の吉田郡山城周辺で行われた『毛利元就』『尼子晴久』の、郡山城の戦いをベースとした「吉田神楽団」の創作神楽です。
おどろどろしい煙幕の中に登場したのは、『尼子晴久』『尼子久幸』。どこからどう見ても悪役です(^^;)

悪役なのですが、白ガッソの尼子さんが、いわゆるイケメンなので、個人的な趣味優先で・・・

率直に言って、様になりすぎてカッコ良くて、思わず尼子さん側に肩入れしてしまう自分が怖い(笑)

続いて登場したのは『毛利元就』『毛利元春』。元就の妻『みい』の三人。「清神社」で戦勝祈願をする三人。毛利元春はこの時が初陣と言う事もあり、決死の覚悟で戦に臨みます。

もしかしたら今生の別れなるかもしれない妻と夫、母と子・・それでも戦の世の習い、笑って見送らねばなりません。

そうして迎えた決戦の時、「清神社」の威徳に守られた毛利親子と『尼子』群の戦い。けれどどうしても拭えない違和感は・・・戦国の世の敵・味方が、神楽では悪と神になる。とは言え、この吉田神楽団の所属地が『毛利家』の父祖の地である以上、これは止むを得ない描き方なんだろうと思います。何しろタイトルが【元就公】ですから(⌒∇⌒)

ともあれ(^^;)、見事『尼子久幸』を討ち取った『毛利晴久』、立派に初陣を飾る事が出来ました。
『毛利』と言えば「三矢の教え」が有名ですが、もう一つ「百万一心」も良く知られています。「百」の字の一画を省いて「一日」。「万」の字を書き崩して「一力」。これを縦書きで「一日一力一心」と読ませ、「日を同じうにし、力を同じうにし、心を同じうにする」と説いています。

------------------------00----------------------

2013年12月7日「神楽温泉湯治村:本郷太刀納め神楽」、「上河内神楽団(安芸高田市)」による【曽我兄弟】。
時は建久4年、『源頼朝』が行った富士の「巻狩(まきがり)」の際に、『曾我祐成・時致』兄弟が、父の仇『工藤祐経』を討った事件で、「赤穂義士・伊賀越えの仇討ち」と並ぶ仇討ち話として有名です。
下手に座るのが『河津祐泰』、中央にガッソをつけた『工藤祐経』『源頼朝』、どちらが敵役なのか一目でわかる設定となっています(^^;)

『源頼朝』に取り入る為、『工藤祐経』のだまし討ちにあう『河津祐泰』。この時の祐経の台詞がこのうえなく憎憎しげなのですが、実は敵役の二人が・・・めっさ!男前!”(笑)

父の死から18年後、祐泰の妻『満江御前』は、『一萬丸・箱王丸』を連れて『曾我祐信』と再婚。幼かった二人の子供は立派に成長し、『曾我十郎祐成・曾我五郎時致』と名乗ります。

父の仇討ちを誓う兄弟。その決心を覆す事が出来ないと知った母は二人の武勇を祈り、涙を呑んで二人を送り出します。

軽快な囃子と共に登場する工藤祐経と、郎党の『大見小藤太』。頼朝の信頼を得、富士の裾野の巻狩の大役も無事に果たし終えた事に気をよくし、今や得意の絶頂。

でもって、やっぱりこのお二方”めっさ!男前!”(笑)ガッソ姿が更に男前度をアップしてます。ちなみにお二方が舞台のすそから登場したときには、観客席のあちこちから「黄色い声」が飛んでいました(笑)

夜陰に乗じて、工藤祐経の館に忍び込む『曾我兄弟』ですが、ここで見張りの男に見つかってしまいます。ガッソ頭なのでてっきり敵方かと思いきや、自分は河津祐泰のかっての旧友だと名乗り、二人を祐経の寝所に案内してくれたのです。

この時の逸話は「富士の裾野の屏風絵」となって後世に伝えられ、後に『浅野内匠頭』を引きとどめた『梶川与惣兵衛』への、痛烈な皮肉として登場しますが、それはまた別のお話(笑)

ここからは『工藤祐経』と『曾我兄弟』、それに先ほど兄弟を助けた人物が加わっての戦い。 華麗な舞になびく「ガッソ」(笑)。心の中では、頑張れ”めっさ!男前~!”ヘ(__ヘ)☆\(^^;)

けれど、いくら”めっさ!男前!”でも、神楽の中では敵方、遂に切り殺されてしまいました。  できればなのですが・・・今度「上河内神楽団」の演目に出会える時は、是非とも!神方でm(__)m

見事に親の仇を討った曽我兄弟でしたが、兄の十郎祐成仁田忠常に討たれ、弟の五郎時致は捕縛されて鎌倉へ護送される途中、鷹ヶ岡で首を刎ねられました。富士市久沢にある「曽我寺」には曽我兄弟の墓があり、江戸時代から東海道を往来する人々が寄り道をして参詣したといわれています。

------------------------00----------------------

2019年4月21日「因原交流神楽大会」、「谷住郷神楽社中(桜江町)」による【弁慶】。

薙刀を手に、舞台に登場した【弁慶】。決して深いとは言えない神楽歴の私たちですが、この時の弁慶の姿は舞台を圧倒させる迫力で、思わず身を乗り出したくなる程。

静かで荘厳な弁慶の舞が終わると、緋色の被り物を身にまとった少年が登場。ここは五条の橋の上。まるで燕のように欄干の上を飛び跳ねて弁慶を翻弄します。

まるで女子のような子童に翻弄される弁慶。必死の長刀もひらりひらりと交わされ、遂に自らの負けを認めて降参します。

女子と見まがうほど美しい少年こそ、鎌倉幕府の初代将軍『源頼朝』の異母弟『源 義経』。稚児名『遮那王』、幼名を『牛若丸』と言います。

この出会の後、弁慶は、終生命を懸けて牛若丸(のちの源義経)に忠誠を尽くす事を誓います。

弁慶は元、比叡山の僧で武術を好み、五条の大橋で義経と出会って以来、郎党として彼に最後まで仕えました。兄の源頼朝と対立した義経が京を落ちるのに同行。山伏に姿を変えた一行は加賀国安宅の関で、富樫介に見咎められますが、偽の勧進帳を読み上げ、さらには義経を打ち据える事までやってのけたのです。富樫は弁慶の嘘を見破りながらも、主を思う必死の心根に打たれ、あえて義経一行の通行を許可しました。この話もまた「赤穂浪士:大石東くだり」の「白紙の御許書」で登場します。

2022年 小正月:一月十五日

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「悪狐(あっこ)退治」

2022年01月14日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

昨日に続いての狐退治は2013年4月21日、神楽門前湯治村にて、神楽デビューの二幕目・「広森神楽団(安芸高田市)」による【悪狐伝】。

その昔、中国やインドで悪行を重ねた金毛九尾の狐が、今度は日本の国を乗っ取ろうと海を渡って都に入り、絶世の美女『玉藻前』として鳥羽院に仕え、やがて帝の寵愛を一身に受けるようになります。しかし、『陰陽師・阿倍清明』によって正体を暴かれ、下野国那須野原へと逃げ去ります。このお話は、都から逃げた後の『玉藻前』が主人公です。

舞台に登場したのは『上総之介、三浦之介』、いわゆる神楽の演目ではイケメン担当で正義の味方。悪狐退治の為に旅を続ける二人、ひとしきり華麗な舞を見せて、舞台の奥に消えていきます。

お囃子の音が微妙に変わり、舞台の袖から進み出てきたのは、絶世の美女設定の「玉藻前」。今宵の宿と餌(笑)を求めて、一軒の古寺にたどり着きました。何やら面白おかしくおしゃべりしながらお掃除をしているのは、「目かづら」を着けた十念寺の和尚『珍斉さん』、神楽では道化役担当です。

軽妙なおしゃべりと、目が廻りそうに軽快でアップテンポな箒の舞を披露した『珍斉さん』に会場は爆笑の渦。ひとしきり客席を沸かせた『珍斉さん』の演技が終わると、いかにも儚げな風情で先ほどの美女が登場。ここで団員の美女設定にイチャモンをつける『珍斉さん』。笑いをこらえつつ、美女設定を押し通す玉藻さんに、会場は再び笑いの渦(笑)

ひとしきり客席を笑わせた後は、真面目に舞台に戻る珍斉さん。そのギャップがまた笑いを誘うのですが・・・一応美女と言う設定なので(笑)一夜の宿を貸すことにし、賞味期限不明の味噌など摺って、美女に夕餉をご馳走しようと張り切りますが・・何やら背後に忍び寄る危険な気配・・珍斉さ~~~~~ん、後ろ!!後ろ!! 

ビックリ仰天の珍斉さん。食われてなるものかと味噌棒片手に必死で応戦。人間死ぬ気になると意外と手強くなるもので(笑)、ましてや食い殺されるとなれば、それはもう死に物狂いにもなろうというもの。

意外と手強い珍斉さんに業を煮やした玉藻さん、遂に正体を現し珍斉さんを追い詰めたのですが・・

舞台から逃げ出した珍斉さん、何と、客席に紛れ込んでバナナを食べたり、お客のふるまい焼酎に舌鼓をうったり。もう何でもありに笑いが止まりません。

そんな珍斉さんの帰りを舞台の上で待つ悪狐さん。お囃子さんの前でおとなしく待っているその姿がお行儀良すぎて、会場はまたしても大爆笑。

とまぁ、色々ありましたが、珍斉さんも無事に悪狐の餌になり(^^;)、ゆっくりと英気を養った玉藻の前に、悪狐退治の旅を続ける『上総之介、三浦之介』が・・。怪しい者と問い詰める美形コンビ。次第に追い詰められる玉藻の前。

伊達に悪狐退治の勅命を受けたわけではない二人、遂に女の正体を玉藻の前と見抜きます。

追い詰められる玉藻の前、と、見る間に、怪しい霧が玉藻の体を包み始めます。

再び顔を上げた玉藻、そこには絶世の美女として時の帝まで迷わせた美しさの片鱗さえない、恐ろし気な狐の姿が・・

もちろん、そんな事で怯むような二人ではありません。激しい攻撃についに本性を現した悪狐。・・・・これが何故かちっとも怖くないと言うのが(^^;)・・多分 パジャマと言ってもおかしくない白いファーの衣装の所為だなんて・・いえいえ、そんな事、口が裂けても言えません(書いてるけど)

ともあれ、弓の名手と謳われた二人を相手に激しい戦いが繰り広げられ、ラストは二人の矢に射抜かれて壮絶な最期を迎えます。

------------------------00----------------------

2013年7月6日「安芸高田神楽特別公演」は「神幸神楽団(安芸高田市)」による【悪狐伝】。
朝廷の命を受けて悪狐征伐に向かう『三浦介、上総介』の美形コンビ。自己紹介代わりの舞を披露し、ひとまず退場。

【悪狐伝】ではすっかりお馴染みの『珍斉さん』、相変わらずユーモラスな仕草で会場を沸かせます。そこへなよなよと登場する絶世の美女、『玉藻前』

女人禁制のお寺の和尚さんの癖に、美女の色香に迷って、寺に泊める事を約束しちゃった珍斉さん。あれやこれやと楽しい想像にふけっていますが・・ほら・・・もう、すぐ後ろに・・・・!!!

という事で・・色に迷って戒律を破ったばかりに、あわれにも『悪狐』に捕り食らわれてしまいました。

多少筋張ってはいましたが、とりあえずお腹も朽ちた悪狐。再び美女の姿で先を急ごうとしたその矢先、『三浦介、上総介』に見咎められてしまいます。

しおらしく項垂れてやり過ごそうとしますが、朝廷より直々に悪狐退治を仰せつかった二人。やすやすと騙されるはずもなく、徐々に化けの皮を剥され追い詰められてゆく玉藻前。この時の玉藻さんの指先の演技、人に有らざる者の姿が顔をのぞかせる・・その瞬間が見事に表現されています。

「初めての神楽」に比べると、見る事に集中してきだしたのが如実にわかる画像の少なさ(笑)

------------------------00----------------------

ラストは2019年4月21日、「因原交流神楽大会」での「中川戸神楽団(北広島町)」による【悪狐伝】

花道より登場するのは、悪狐の正体を見破られ逃亡を続ける『玉藻前』。ひとしきり悪行の数々を披露&自慢。反省などと言う言葉は悪狐には存在しません(笑)

見れば何やら頼りなさそうな爺様が、愚痴などこぼしながら掃除をしておる。今宵の宿と食事は確保できた。と、ほくそ笑む玉藻さん

綺麗な姉さんの色香に迷った珍西さん、正体を現した玉藻の恐ろしい顔にも気づかない様子・・こんなに危機感のない珍斉さんと言うのも珍しいかも(笑)

しかも食べられちゃう前に記念写真まで撮ってるし。悪狐さん、ピースサインだし。っていうか、ファーの前ボタンが外れそうだし(^^;)

とまぁ、色々ありましたが、珍斉さんも無事悪狐のお腹に収まったところで、弓の名手『三浦介、上総介』の登場。

追い詰められて正体を現す玉藻前、その顔はさらに人ではないものに変化し・・

恐ろしい悪狐の顔で『三浦介、上総介』に襲いかります。

とはいえ、都に名だたる弓の名手の攻撃には、流石の玉藻前も歯が立たず、遂に最終形態へ。狭い客席の間を逃げ回る悪狐。

物凄く真面目な顔で悪狐を追う『三浦介、上総介』

美形を翻弄するのが楽しくて仕方ない悪狐。手拍子に乗って踊り始めましたが・・この画像、どうみても病院から抜け出してきた白髪のおじいちゃん(^^;)

調子に乗って機嫌よく踊っていただけなのに、何がどうしてそうなったのか、気が付いたら弓に射抜かれて断末魔。?????顔が無いっ!!!!顔がっっっ~~~~!!!

2022年 一月十四日

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「女狐退治」

2022年01月13日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

月一の舞ですっかり「宮乃木神楽団」の神楽に魅せられた二人。とは言え彼らが出演する神楽はいずれも遠すぎ、結局望みを果たせぬままに日が過ぎていきました。ある日ネットサーフィンで神楽の催しを検索していた時「因原神楽交流大会」の出演団体に「宮乃木神楽団」の名前が(⌒∇⌒) 島根県川本町因原・・前日から現地に行けば十分に列に並べます。

2015年4月19日、「因原神楽交流大会」にて、「宮乃木神楽団」による【女狐退治】

舞台の幕開け・・・・白無垢の内掛けを目深に羽織って登場したのは、恐ろしい牙を持つ妖狐・・

のように見えた筈なのに、陽の下に現われたのは、白銀の毛を持つ美しい女性。その顔を覆うのは深い深い悲しみの色・・・

「愛しい我が子はもうこの世にいない。あの小さな可愛いお前を守ってやれなかったわが身が悔しい・・なぜ? なぜ?!どうしてまだあんなに小さかったあの子が死ななければならなかったのか・・・」

人の気配に急ぎ身を隠す女。ほどなく、花道より登場したのは、父の仇を討つため九州・筑前の国から諸国遍歴の旅を続ける【岩見重太郎・重蔵兄弟】。旅の途次、大願成就の祈願のため防府天満宮に立ち寄ったところ、父の仇を討つためには、3つの難を乗り越えねばならぬとの御告げを受けます。

「周防長門の地でわが子をマタギに討たれた女狐が、人間に恨みを晴らさんと災いを重ねている。お前たち二人は長門に出向きこれを退治せよ」・・これが兄弟に課せられた第一の難関でした。

山道を行く二人の前に現われたのは、鄙には稀な美しい里娘。『およし』と名乗る娘に、「この里に人を食い殺すと言う獣が出ると聞いたが、何か知らぬか?」と声をかける岩見兄弟。

「見つけてどうされるのか」と尋ねる「およし」。「里の人たちに害をなす悪しき獣、我ら兄弟が退治する」と答える「岩見兄弟」。

その瞬間、美しかった「およし」の姿は消え失せ、そこに居たのは齢数百年を重ねた怪しい女狐。自分たち兄弟も父を殺され、その仇討をするために旅を続けている身。 たとえ狐とは言えども子を殺された母親の心情は察せられる・・ひたすらに子を思う母心に同情し、その恨みを忘れて山に帰れと諭す『重太郎』。

『重太郎』の真摯な言葉に、一度は人間を許そうと思いながら、それでも、どうしても、我が子を殺された恨みが捨て切れない『女狐』。「どうしても、どうしても愛しいあの子が殺された事が許せない!!」「およし」の血を吐くような言葉が、観客たちの心に重く響いてきます。

恨みの念から逃れる事が出来ない母狐。重太郎の優しい言葉に気持ちが動くたびに『女狐』は我を失い、憎しみだけが膨れ上がり、その怨念に支配されてしまうのです。

「そうだ、私は人間が許せないのだ。可愛いあの子を殺した人間が、どうしても、どうしても許せないのだ。私を邪魔するものは誰であろうと許さない。だから、私はお前たち人間を取り食らってやる!!」

そうして・・・完全に『妖狐』となってしまった『女狐』・・・その顔には先ほどの美しい里娘・およしの面影は微塵もなく、憎しみに取り付かれてしまった醜い獣の姿が。

「これほど道理を尽くしても分らぬとあらば致し方なし。我ら兄弟、防府の神のお告げに従い、汝を成敗してくれる」

すでに子を失って嘆く母の想いも消え去り、今はただ凄まじい怨念だけに支配され、牙をむいて重太郎兄弟に襲い掛かる『妖狐』。

流石の岩見兄弟も、怨念の塊と化した妖狐の力は凄まじく、戦いのさ中に弟・重蔵は命を落としてしまったのです。

弟の死を前に、気力を振り絞る重太郎。彼の放った矢は見事『妖狐』の体を貫き、こうして女狐は退治されました。

「父の仇討の為に、共に苦しみを分かちここまで来た弟よ・・お前を助けてやれなかった兄を許せよ・・・」重蔵を失った悲しみを胸の奥深くに刻み、重太郎は一人、次の難を払うべく旅をつづけるのでした。

勝手にセリフを作って紹介した「宮乃木神楽団」の「女狐退治」。やっぱり最高です。衣装も良いのですが、特に面が最高!その時々の見る側の気持ちによって、生身の人間のようにさまざまに変化して見える凄さ。むろん、舞い手の技量があってこそなのは言うまでもありません。さて次のチャンスは何時になるのか。広島と京都のこの距離が恨めしい(^^;)

2022年 一月十三日

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「大和・葛城」

2022年01月12日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

今日紹介する演目【大和・葛城】、本来は昨日の【土蜘蛛・葛城山】と同じカテゴリーなのですが、あえて日を変えての特別バージョン😄
2013年12月8日、千代田開発センターで開催された「月一の舞い」、「宮乃木神楽団結成15周年・記念特別公演」による【大和・葛城】

神楽のHPで見かけて一目ぼれしたポスター

前日の「本郷太刀納め神楽」の後、雪降る本郷PAで車泊。翌日の早朝、千代田まで走って、できるだけ前の席を確保すべく列に並んだものの、昨日から椅子を置いて場所取りしてる人が多く、入場時にやって来て前に割り込まれるものだから、どんどん後ろに・・😱

と、前置きはこれくらいで😅、この日の演目は「土蜘蛛」と「葛城山」の伝説をもとに創作された「宮乃木神楽団」のオリジナル。ここに登場する「土蜘蛛」とは、古代の日本において朝廷に従わない土豪たちを示す名称であり、これと同じような勢力は、日本の各地に名を変えて存在したと言われています。

舞台は平安時代中期の山深い葛城山。神武天皇に滅ぼされ僅かに生き残った我ら「土蜘蛛」一族。この大和の国:葛城山に隠れ住み、幾世代にも渡って恨みを晴らす機会を窺いながら生きてきた・・だが、この長き恨み、深き呪いの念は今まさに頼光に届き、頼光は重い病に臥したと聞く・・御簾の向こうから聞こえてきたのは、おのれの呪いが成就したことを喜ぶ不気味な声。

その言葉に応えるように開く岩屋、幾重にも張り巡らされた蜘蛛の巣の向こうから近づく怪しい影。

不気味な気配と共に登場する女郎蜘蛛。我ら土蜘蛛の呪いを受け病に臥せる頼光、今こそ積年の恨みを晴らす好機ぞ。土蜘蛛の精魂は二人に侍女となって頼光のもとに出向くよう命じます。

心得て!!!

相 心得て候~~~~~!

舞台変わって、ここは頼光の屋敷。近頃、何故か心持悪く気分も優れぬ。今はしばし、この病を治すことに専念しようと思う と家中の者に伝えています・・・・が、頼光の側近くに仕えているのは、あれは確かに女郎蜘蛛の二人!

そこへ登場する四天王の『渡辺綱』『坂田金時』。屋敷の守り、我らが必ず勤めましょうと力強く応えます。

草木も眠る丑三つ時・・何やら怪しい気配と共に寝所に現われた侍女。はっと振り向いた瞬間、その顔は恐ろしい女郎蜘蛛の顔に・・

女郎蜘蛛の吐き出す毒糸は、病に弱っていた頼光を絡めとり、やがて身動きできないままに追い詰められてゆきます。

満を持して登場する土蜘蛛の精魂。すかさず手にした葛の網で頼光を絡め捕ります。呪いに祟られ、葛の網に絡め捕られ苦しむ頼光。網を引き絞る土蜘蛛の精魂の顔に広がる狂喜の笑み・・

もがき苦しむ『頼光』に浴びせかける『土蜘蛛』の言葉。そこに込められていたのは深い深い恨みの念だったのです。
「汝知らずや我昔。大和朝廷にまつわらざる者ならば、葛の綱に絡められ滅びし者なり。いかに頼光!!!我ら味わいたる、地を這い、土を噛む苦しさを思い知れ!!!」

罠に絡め捕られて苦しむ姿は・・・眉目秀麗の頼光さんだけに、ある種の美しさを感じさせ、観客は次の展開への期待を籠めつつも、言葉を無くして舞台に釘付けになるのです。苦しみもがく頼光、しかしその手には片時も離す事の無かった名刀「膝丸」が・・・

意外な成り行きに驚く土蜘蛛、そんな馬鹿な、この罠から逃れることなどできる筈がない!!勝利の歓喜に満ちた顔は驚きから戸惑いに代わり・・

瀕死の身にありながら、我が精魂込めた葛の罠を破った頼光、何という事か!!!! 口惜しい!!え~~~~い、口惜しいぞ!!

頼光を苦しめていた病も、土蜘蛛の呪いを破ったことで消え失せ、名刀膝丸を手に反撃する頼光。情勢不利と悟った土蜘蛛は、蜘蛛の毒糸を放ち女郎蜘蛛とともに葛城の巣へと逃げ去りました。

騒ぎを聞きつけてはせ参じた『渡辺綱』『坂田金時』。この機を逃してはならぬと、共に葛城の山深くに隠れ住む土蜘蛛の征伐に向かいます。

勝手知る我が住処での戦い、地の利は我にあるとばかり、頼光の前に立ちはだかる土蜘蛛。もはやその顔に、頼光の屋敷に現われた土蜘蛛の面影は微塵もありません。鬼と化したすさまじい形相で頼光に向かう土蜘蛛。

あたりに立ち込める不気味な霧

すでに鬼と化してしまった女郎蜘蛛たち

観客席から湧きおこる拍手に応えるように、見事に「形」を決める土蜘蛛一族。ここでは完全に頼光さんたちは蚊帳の外。何と言ってもこの瞬間の主役は、間違いなく彼ら三人。

この先の戦いは、どんなに頑張っても臨場感重視の画像のみ

可愛い部下の女郎蜘蛛を倒され、今はこれまでと覚悟を決める土蜘蛛

このうえは一人でも多く道連れにと決死の戦いに挑むのですが・・

一太刀、また一太刀・・次々に襲ってくる刃の下に、吐き出す蜘蛛の糸も今は我が身を覆うのみ・・

さしも頼光を苦しめた土蜘蛛の精魂も、今は立ち向かう術もなく壮絶な最後を迎える時が来ました。敵役なのに、その死の瞬間に哀れを感じさせられるというのも、神楽ならではかもしれません。

見事土蜘蛛一族を打ち取った頼光主従。こうして都の平穏は守られ、名刀「膝丸」は「蜘蛛切丸」と改められました。

この日は「宮乃木神楽団」二代目団長の襲名式が行われるという事で、思いがけずに立ち会う事が出来ました。結成から15年、歴史としては決して長くはない神楽団ですが、独自の創意工夫によって築き上げられた魅力は、確実に私たちを虜にしました。熱烈なファンがいるというのも納得のすばらしさ。

素晴らしい神楽の裏には、裏方に徹して団員を育て上げた団長さんの存在がどれほど大きなものであったか・・そう、大事なことを忘れていました。この神楽団で使われる衣装も面も小道具も、すべて団長さんの手作りなんです。そしてそれがより一層、舞台に魅力を添えて、観客の目をも楽しませてくれます。神楽にわかファンで神楽に関してはド素人と言っても良い私たちにも、この素晴らしさはしっかりと伝わってきました。

素晴らしい最高の時間を、有難うございました!!

------------------------00----------------------

京都市上京区にある「北野東向観音寺」境内の片隅には、蜘蛛が棲息していたといわれる「土蜘蛛塚」が残されています。


2022年 一月十二日

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「土蜘蛛(つちぐも)退治」

2022年01月11日 00時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

さて、昨日のブログで、神楽では鬼が主役と書きましたが、鬼にもいろんな種類が存在しています。今回は大和国葛城山に住む土蜘蛛のお話、【土蜘蛛】【葛城山】という演目で上演されます。

2013年4月21日、私たちの神楽デビューとなった「広森神楽団(安芸髙田市)」演じる【土蜘蛛】。

流行り病に倒れた『源頼光』。次女の『胡蝶』に命じて「典薬頭(てんやくのかみ)」から薬をもらってくるように頼んだと語るところから物語は始まります。ほどなく大切そうに薬を抱えて花道より登場する侍女の胡蝶。

が・・・実はこの胡蝶、葛城山に棲む土蜘蛛が胡蝶を食い殺して化けたもので、頼光を毒殺しようと企んでいたのです。薬を飲み寝所に去った頼光・・しばし時を見計らい御簾の向こうに声をかける胡蝶・・「頼光殿、お心持はいかに?」・・返事はなく、再び胡蝶「頼光殿・・・・・お心持は・・」。やがて足元から怪しく湧き上がる霧。

ガラリと変わった声音で更に問う胡蝶「いかに頼光!!心持やいかに!!」返事の帰らぬことに狂喜し、振り向いた胡蝶は、耳まで咲けた口で高らかに笑う鬼の姿に。そのまま頼光に襲い掛かったのですが・・

しかし、毒薬に倒れたとはいえ大江山の鬼退治で名を馳せた頼光殿。必死の力で「名剣・膝切丸」を手にし、正体を現した鬼に一太刀。思いがけない頼光の反撃に傷を負わされた鬼は、蜘蛛の巣を吐き出し逃げ去りました。

実は鬼の正体は葛城の山深くに住む土蜘蛛と呼ばれる妖怪。奥の騒ぎを聞きつけて駆け参じたのは、四天王の一員で『坂田金時』『卜部季武』

頼光より「膝切丸」改め「蜘蛛切丸」と名付けられた名剣を託された二人は、土蜘蛛の血痕を追って葛城山にたどり着き、必死の探索の末、遂に土蜘蛛の巣を発見します。

一段と恐ろしい形相となった土蜘蛛を相手に、激しい戦いを挑む『坂田金時』と『卜部季武』。ここからが神楽の一番の見せ場、鬼と神人との闘いです。

臨場感優先の戦いの場面、翻る裾の鮮やかで美しい事。恐ろしい形相の鬼の流れる白髪のこれまた美しい事(^^;) 

ラストは二人に容赦なく切りつけられてめでたしめでたしなのですが、鬼の絶命の演技も迫力満点、これで虜にならない方が不思議というもの(笑)

------------------------00----------------------

2013年7月6日に開催された「安芸高田神楽特別公演」、「塩瀬神楽団(安芸髙田市)」演じる【葛城山】。
美形担当の『坂田金時』『卜部季武』が去った後に、典薬頭から貰ったという薬湯を捧げ持って登場する侍女の胡蝶・・・を取り食らって化けた土蜘蛛。

頼光に毒薬を渡し、じっとその時を待つ胡蝶・・深まる闇の気配に耳を澄ませ、更に奥深く頼光の様子を探る胡蝶。やがて渦巻く怪しい霧の中から現れたのは本性を現した土蜘蛛。手に掴んでいるのは・・毒に侵された頼光。

しかし必死の力を振り絞った頼光に一太刀浴びせられた土蜘蛛。忌々しく葛城の山深くに逃げ帰ってしまいます。それを追ってきた『坂田金時』と『卜部季武』。本性を現した土蜘蛛を前に「いざ勝負~!!勝~~~~負!」

------------------------00----------------------

同じく7月7日に開催された「安芸高田神楽特別公演」、「美穂神楽団(安芸髙田市)」演じる【土蜘蛛】。

まんまと頼光殿に毒薬を飲ませる事に成功し、ひそかに様子を伺う、怪しさマックスの胡蝶さん。

邪魔な打掛も脱ぎ捨てて・・・

首尾よく罠に嵌めたつもりだったのに、いざとなると正気を取り戻す頼光殿。さすがに武勇に秀でた頼光殿は、鬼女の毒さえも気力で跳ね返します(笑)

片時も離さず身に着けていると言う宝刀膝丸を手に、鬼女に立ち向かう頼光殿。流石にこれまでと悟った鬼女、蜘蛛の糸を放って巣へと逃げ帰ります。この土蜘蛛が用いる蜘蛛の糸に見立てた白い紙テープですが、これは他の鬼の場合も同様で、いざと言う時に良く使います。これを舞台と客席に向って放つ場面は、まるで手品のようで、記念にテープを持ち帰る人もいたりします。(我が家にもあります)

葛城山に逃げ帰った土蜘蛛の巣を探し当てた四天王の二人。お約束どおりの鬼とのやり取り。様式美という言葉がありますが、神楽の世界もまた流れにのっとった様式美で構成されています。

最初に登場する人物の自己紹介に始まって、決戦の場での神人(追手)と鬼との掛け合い。その時々の間を縫うように入るお囃子の掛け声。すべてが計算され尽くした流れの中に、予想外のアドリブが入ったりと、終始、舞台から目が離せません(((((^_^;)

華麗なる戦いを経て、見事勝利を収める『坂田金時』と『卜部季武』。何度見ても、戦いのラストに見せる鬼の断末魔のシーンは圧倒的な迫力で手に汗握るという形容がぴったり。私的にはこの場面が最大の見せ場だと思ったりしています。

------------------------00----------------------

2013年12月7日、「神楽門前湯治村:本郷太刀納め」での「塩瀬神楽団(安芸髙田市)」による【葛城山】。神楽の演目としてはかなり頻繁に登場しますが、神楽団ごとの構成の違いなど、ストーリー以前の楽しさがあり、決して見飽きる事はありません。

まずは恒例の『頼光殿』の自己紹介(笑)

頼光殿の近況報告の後に登場する『坂田金時』『卜部季武』。こちらはいわゆる「神人」で、美形担当です。

舞台は変わって、花道より典薬頭から頂いた薬を捧げ持って登場する『胡蝶』・・実は土蜘蛛

『頼光』にまんまと毒酒を飲ませ「してやったり」とばかりに、その正体を現す土蜘蛛。

「これより『頼光』の!肉を食らい、血をば啜らん~」と見得を切る場面は、何度見てもゾクゾクします。この決めポーズ、神楽関連のポスターやカレンダーにもよく登場します。で、折角カッコよく決めたのに、強靭な精神力で復活した頼光さんに一太刀浴びせられ、葛城山の巣に逃げ帰ってしまいます(^^;)

そこで美形担当の二人、さっそく葛城山まで土蜘蛛を追い、一時は危機に陥るも確実に追い詰め、最後は恒例の派手な大立ち回り。

激しい戦いの合間に独特の決めポーズを見せながら舞う土蜘蛛、その姿は何度見ても胸が躍り、まさに神楽の主役は”鬼”だと再認識。

------------------------00----------------------

2015年4月19日「因原神楽交流大会」、「中川戸神楽団(北広島町)」による【土蜘蛛】。

ここでは、侍女の胡蝶が、実際に典薬頭より薬を頂く場面から物語が始まります。

薬を持ち帰ろうとする胡蝶をとらえ、まんまと胡蝶になりおおせた土蜘蛛。同じ人物が演じているのですが、仕草も声も、顔つきさえも全くの別人。豪華な打掛は、金糸で縫い取りされた蜘蛛の巣の柄に変わっています。

見事、胡蝶に化けおおし、毒薬を飲ませる事にも成功した土蜘蛛でしたが、正体を見破られた上に手傷を負い、蜘蛛の糸を放って退散。動きが速く、顔以外は完全にぶれています(^^;)

葛城の山深く、土蜘蛛を追ってきた神人。見つけた土蜘蛛の巣は、一目でそれとわかる仕様。蜘蛛の巣の向こうに潜む土蜘蛛の姿は、見慣れた形だけに不気味さも倍増。

この後、華麗な戦いが開始され(画像は臨場感重視)、見事、土蜘蛛成敗となりました。

------------------------00----------------------

最後は2019年4月21日「因原神楽交流大会」、「横田神楽団(安芸高田市)」による【葛城山】。

近頃とみに体調思わしくない頼光殿の自己紹介から始まる物語。そう言えば、心なしか面やつれして見えるから不思議。

そこにやって来ました美形担当の『坂田金時』『卜部季武』。とはいえ、どちらが坂田さん卜部さんなのか、今となっては全然覚えちゃいません(笑)

御身辺の警護、我ら二人必ずや勤めましょうと見得を切る場面ですが、横田神楽団のメンバーは本当に美形の層が厚い(⌒∇⌒)

それぞれが持ち場に戻ったところで危険な女「胡蝶さん」登場。手には典薬頭より頂いた薬・・とすり替えた毒薬を大切そうに抱え、これより頼光殿のお命を頂戴しに参ると、トンデモ発言。

見事毒薬を飲ませる事に成功した胡蝶こと土蜘蛛。不気味な笑いと共に寝所に倒れる頼光を襲いますが・・

それしきの事でやすやすと倒される筈もなく、常に身辺に置いておいた名刀:膝丸を抜きざま、一太刀浴びせます。こんな場面ですが、胡蝶さん、そこら辺の女形より百万倍、綺麗です!!

遂に正体を現し頼光に襲い掛かるも、深手を負った身で正気を取り戻した頼光にかなう筈もなく、葛城の山深くに逃げ去ってゆきました。

騒ぎを聞いて駆け付けた『坂田金時』『卜部季武』に名刀膝丸を与え、土蜘蛛退治を命じる頼光殿。このあたりから前の席の人が微妙に体を起こし始めた為、沢山の頭が写りこんで、修正が追い付きません(´;ω;`)

山深く、誰にも暴かれることなど無いと思っていた巣も暴かれ、もはや逃げ隠れもならぬと観念した土蜘蛛。

最終形態へと変化し、正義のヒーローとの合戦に・・実は個人的な感想として、この大悪鬼の面よりも、先の般若面の方が、女性の妖には似合うように思うのですが・・やっぱり大悪鬼でないとダメなのかな~

鬼と神人との闘い、やっぱり大悪鬼じゃないとこれだけの迫力は出ませんよね。そして今日もめでたく華麗に神人に打たれてしまう大悪鬼の土蜘蛛さん。ああ、神楽ってやっぱり最高~~~(⌒∇⌒)

同じ土蜘蛛をテーマにした神楽、もう一舞台あります。この時の舞台が、私たちの神楽への愛着をより決定的なものとしました。明日はスペースを割いてじっくり紹介しようと思います。

正月十五日までは松の内 一月十一日

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「紅葉狩」

2022年01月10日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

「紅葉散る 里は静かに 眠るとも 聞こゆるものは 山寺の鐘」

神楽歌にのって始まる【紅葉狩】。時は平安中期、武勇の誉れ高い『信濃守中納言・平維茂』は帝の勅命を受け、信州戸隠山に住み旅人を襲って食らうと言う『鬼女・紅葉姫』の成敗に向います。

2013年7月6日「安芸高田神楽特別公演」は「横田神楽団(安芸高田市)による【紅葉狩】。
戸隠山に棲む鬼女を退治するため、先を急ぐ『余五将軍・平惟茂』と従者。横田神楽団の美形キャラはメイクが映えるイケメン揃い(笑)なので、私も含めて女性ファンが多いそうです。

一方こちらは信州戸隠山。錦秋の山々を彩る紅葉を愛でる美女三人。その輝くばかりの美しさは、手にする紅葉さえも色褪せてしまうほど・・ひとしきり披露される美しい三人の舞と鬼女大王の口上・・鬼女大王って(^^;)

神楽歌と笛の音・・人気の無い山中で紅葉狩りの宴を開いていた美女の姿に思わず心を奪われる平惟茂主従。武勇を誇る『平惟茂』も、美女の甘い言葉についつい役目を忘れ、差し出されるまま杯を重ね・・いつしか意識も遠のき・・

毒酒に倒れた二人を見て不気味に笑う美女たち。その手から伸びる妖の糸に絡め捕られ、もはや身動きさえも叶わぬ有様。

「今宵の獲物は何と美しい~。さぁこれよりは、こやつらの生き血を啜り~骨をば噛み砕かん」高らかに笑う紅葉姫たちの姿は見る間に恐ろしい鬼女に 

今宵の獲物を食らう準備に奥に消えていった鬼女・・鬼女の罠に嵌り深い眠りに落ちる二人のもとに現われたのは、八幡大菩薩の使神・竹内の神
二人に掛けられた妖術を解き、あの女たちこそが戸隠山に棲む鬼女である事を教え、ありがたい神剣を授けて消えます。

毒の眠りから覚めた『維茂』は、枕辺に残された神剣を手にし、神の威徳に深く感謝します。そして改めて鬼女の恐ろしさを胸に刻み、自らの使命を果たすべく、決戦の場へと赴くのです。
完全に鬼と化した鬼女、そこには女人であった面影は、片鱗も残ってはいません。

戦いが始まる前には、まずは自らの名と勅命を相手に伝えるのが、舞台の上でのお約束。で、この時の受け答えが実は私たちの間では密かなブーム。時に応じて「おうさ!」「なんと!」「た~だ今がことなり~」(笑)そして「いさ!勝負!!しょ~ぶっ!!」が決戦の合図。ここから神楽ファン必見の戦いの舞が披露されるのです。

残念ながら(^^;)戦いの場面の画像は、いつもの臨場感優先・・知らない人が見たら、多分何だろう??って思うだろうと自覚しつつ。 でも肉眼で見てもこんな感じで、本当に凄いスピードなんですよ。

部下を次々と成敗され、今はこれまでと自ら二人の前に姿を現す鬼女大王。真後ろから見る決めポーズも実に美しい(⌒∇⌒)

正義の味方を応援しているはずなのに、いつの間にか鬼の所作が決るたびに沸き起こる拍手。が、鬼が主役のままでは舞台は終わりません(((((^_^;)

八幡大菩薩から賜った神剣の威徳はありがたく、悪行を重ねた『鬼女・紅葉姫』とその一族は『平惟茂』によって見事成敗され、戸隠山は再び平和な山里の風景を取り戻しました。

------------------------00----------------------

2013年7月8日、同じく「安芸高田神楽特別公演」で、「桑田天使神楽団(安芸高田市)による【紅葉狩】。
なんと、信州戸隠山に住む『鬼女』、今回は、いきなり旅人を襲って捕り食らう場面から。

さて、都より『平惟茂』が鬼女退治に来ると知った『鬼女』。ならば返り討ちにせんと紅葉の宴の謀をたくらみます。舞い落ちる紅葉よりも艶やかな美姫とお付きの侍女二人。

鬼女の謀が待ち受けているとはつゆ知らぬ『平維茂:主従』。鬼女征伐の勅命を受けてこれより戸隠山へと向います。

主従は、人里離れた山中で紅葉狩の宴を催す三人の美女と出会います。こんな寂しい場所に貴婦人だけでいる事、本来ならば怪しいと思わねばならぬのに・・何時の世も美しい女性に殿方は弱いようです。そうして誘われるままに酒宴に加わる『維茂主従』。

美女たちのもてなしについつい杯を重ね、いつしか前後不覚に・・実はこの女達こそが戸隠山の鬼女とは夢にも疑わず、遂に酔い臥してしまいました。

「あ~らうれしや!、遂に維茂~倒れたり~~~」勝ち誇った鬼女の声が山中にこだまします。

毒酒に酔いつぶれ深い眠りに落ちた維茂主従。その夢に現れたのは、日々崇敬する八幡大菩薩。女人の正体が戸隠山の鬼女である事を告げ、ありがたい神剣を授けて彼らを目覚めさせます。

神の御加護を受け鬼女の館に赴き、今は大鬼王となった紅葉姫一味に戦いを挑む維茂主従。狭い舞台の上一杯に繰り広げられる乱舞は勇壮でしかも美しく、何度も見ているはずなのに、見るたびごとに気持ちが高ぶります(笑)

手下の鬼女を成敗し、遂に大鬼王との勝負。張り巡らされた妖の糸の奥深くに潜む大鬼王に向かって、「いざ、じんじょうに勝~負!」

どの神楽の画像を見ても、戦いの場面は90%の割合で鬼が主役(^^;) ことほど左様に、鬼の演技は素晴らしく見る者を魅了せずにはおきません。

------------------------00----------------------

2013年12月7日「神楽門前湯治村:本郷太刀納め神楽」で、「上河内女性神楽団(安芸高田市)による【紅葉狩】
鬼女征伐の勅命を受けて戸隠山に向かう武将『平維茂』と従者。ちなみにお囃子方も全員女性と言う徹底ぶり。

さて、二人が奥に退くと同時に登場する鬼女、内掛けを高く差し上げる腕の細さが、間違いなく女性であることを示しています。

打掛を脱ぎ捨て振り向いた『紅葉姫』。どんなに秀逸な演技を見せようと、いかに上手に化粧をしようとも、こればかりは男性には真似のできない美しさ(^^;)。 余談はさておき、山道を急ぐ維茂主従を見つけ「良き酒肴が登り来!登り来る~!」と見得を切る場面。当然ですが声が可愛すぎて・・。でも、鬼女とは言え、元は都で高貴な方の寵愛を受けた『紅葉姫』。まして変化する前なら声が美しいのは当然なんです!

さて、紅葉の宴に誘われ、美女のもてなしについつい重ねてしまう盃の数。時折客席に向けられる紅葉姫の視線の怪しさ、何だかゾクゾクします(笑)

何時しか酔いつぶれて眠りこける二人を見下ろし、してやったりと正体を現す鬼女。観客席から湧きおこる拍手。

深い眠りに落ちた維茂主従の枕辺に立つ『八幡神』は、鬼女の正体を明かし、さらに維茂に神剣を授けて消えます。

いざ戦いの場面、今は完全に悪鬼と化した紅葉姫とその侍女二人。鬼棒片手の鬼の所作に、またしても会場からは大きな拍手。時々、〇〇ちゃ~~~んと声がかかるのは、お身内なのか、それともファンクラブの会員か(笑)

クライマックスの大鬼女との闘い。いやいや、この二人の決めポーズの何とも優雅で美しい事。ちなみに大鬼王の髪が深紅なのは、鬼があくまでも、元は女人である事を示しているから・・と思ったのですが真実は???

真偽のほどはともかく、そういった細かい演出を発見するのも神楽の楽しみの一つかな。ともあれ、こうして戸隠山の鬼は見事退治されました。

------------------------00----------------------

2019年4月21日、「因原交流神楽大会」で、「大都神楽団(江津市)」により【紅葉狩】

この日、信州戸隠山で鹿狩りに興じていた『多田満仲』主従は、里の「芝刈り権兵衛」に行き会います。

ここで権兵衛さんが登場する時点で、楽しい掛け合いが始まるんだろうと、客席は早くも笑う準備(笑) 従者の方、何が何でも笑うもんかと必死に生真面目顔ですが・・・

いきなり満仲さんに向かって本名で話しかけ、ものすご~~~~~~~っく、個人的な質問等するものだから、遂にたまりかねて笑いだしてしまいました。してやったりと、どや顔の権兵衛さん、良いのか本当に??(笑)

さて、気を取り直し、良い狩場を知っちょるから連れて行ってやるというので、付いていくことに。その山路で、紅葉狩する女性たちに出逢います。

誘われるままに酒を飲み、美女の舞に酔いしれる二人と、おまけの権兵衛さん。

やがて崩れるように眠りこける二人・・嬉しそうに顔を見合わす美女。で、気が付いたら権兵衛さんが消えてる(^^;) 

してやったりと鬼女の本性を現した二人、酒の毒に侵され思うように動けぬ二人に襲い掛かる鬼女たち。

その時、神の息吹にも似た鈴の音ともに白面の使徒が現れ、満仲に一振りの太刀を授け、また体に回る毒気を払って消えてゆきます。

神より授かりし太刀の威徳に気力をみなぎらせた満仲。客席に逃げ込んだ侍女を追うのですが、観客の皆さん一斉にカメラを取り出し・・おかげで画像は下半分がすべて観客の上半身で埋め尽くされました(笑)

この後、見事満仲の矢に抜かれて絶命、いよいよ残るはラスボス『鬼女・紅葉』。何と大太鼓の上を足場に、妖の糸を繰り出し、散々に満仲を苦しめます。

どうです、この迫力。深紅の髪を逆立てた鬼女の顔は、まさに名の通り、燃えるような紅葉の色。夜中に出会ったら・・・絶対に死ねます(^^;)

ちなみにここで登場する『多田満仲』は、鬼退治で有名な『源頼光』のお父さん。武勇の血はちゃんと受け継がれていたんですね。

------------------------00----------------------

神楽では正義の武人が窮地に陥ると「八幡神」がよく登場します。これは祭神である『八幡麻呂』が武勇の神とされるからです。神楽の演目には、この『八幡麻呂』が登場して鬼を退治する【八幡】があります。

正月十五日までは松の内 一月十日

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年の初めの神楽三昧「坂上田村麻呂」

2022年01月09日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

2013年7月6日「安芸高田神楽特別公演」、「天神神楽団(安芸高田市)」によるオリジナル【二所の朝廷】

平安京を治める嵯峨天皇と、平城京を都とした平城上皇の対立から生じた権力の二重構造。「二所朝廷」とは文字通り二つの朝廷が対立する状況であり、その対立を煽っていたのが平城上皇の寵愛を受けて朝廷を思うままに操ろうとした『藤原薬子』。
舞台は、絶大な権力を手にし、頂点に上り詰めた『藤原薬子』と、その侍女『夏虫・冬虫』の登場から始まります。

二人の侍女を従えて我が世の春を謳歌する薬子でしたが、嵯峨天皇は勅命でもってこれを追放。しかし一度手にした蜜の味はあまりにも甘く、手放すことなど到底受け入れられるものではありません。遂に薬子を成敗する為、天皇は『坂上田村麻呂』『坂上廣野』を差し向けます。

悪あがきも最早これまで・・おのれの最期を悟った『薬子』は、「死返玉(まかるかえしのたま)」をもって鬼女となり、三輪山に棲む蛇神を呼び覚ましたのです。

三輪山に棲む蛇神と言えば、奈良大和の一宮「大神神社」。参拝もさせて頂きましたが、まさかこんな場面で、しかも悪の化身となり果てた薬子に召喚されるとは・・(^^;)

それにしても「八岐大蛇」に登場する時と違って実に表情豊かな蛇神。舞手の技量が遺憾なく発揮された素晴らしい演技が続きます。

でもって、大蛇は何の為に呼び出されたのか良く分からないまま、追っ手との戦いが開始されます。多分、身も心も鬼となるために蛇神の力を取り込んだのでしょう。

ここでは侍女だった鬼の髪が赤毛になり、『薬子』の髪は大鬼女の威厳を示すように見事な白銀です。

まずは元侍女であった鬼との闘い。華麗な舞とともに繰り広げられる戦いに勝利を収めた二人。いよいよ大悪鬼との決戦です。

ちなみに「御幣」を持って戦っているのが『坂上田村麻呂』。この「御幣」は、神霊の依代となるもので、これも神楽では非常に多く用いられています。こうして見事、大悪鬼『薬子』を成敗した『坂上田村麻呂』、彼の武勇はますます広く知れ渡るのです。

------------------------00----------------------

2013年7月7日「安芸高田神楽特別公演」、「山根神楽団(安芸高田市)による【鈴鹿山】

『鎮守府将軍・坂上田村麻呂』、又しても勅命によって、鈴鹿山の鬼人征伐に向かいます。ちなみに「鎮守府将軍」は、武門の最高栄誉職とみなされた職名を指します。画像はいきなり、前段階すっ飛ばして、鈴鹿山の鬼人『坂上田村麻呂』との戦いのシーンです。

何故だか劣勢の『坂上田村麻呂』、決して意図して狙ったわけではないのですが、ずっとこんな感じ。鬼神が強すぎるのか・・・・w(゜o゜)w. もしや、相棒がいないから?!それとも神の威徳を秘めた神剣を授けられなかったから?!

結局最後までこんな感じで、鬼神を倒す場面の画像が一枚もありません(^^;)。でも舞台の上ではちゃんと劣勢を挽回し、鬼神は無事に成敗されました。

平安初期の武将『坂上田村麻呂』。四代の天皇に仕えて忠臣として名高く、桓武天皇の軍事と造作を支えた一人であり、二度にわたり征夷大将軍を勤めて蝦夷征討に功績を残しました。死後は嵯峨天皇の勅命により平安京の東に向かい、立ったまま柩に納められて埋葬。「王城鎮護」「平安京の守護神」「将軍家の祖神」と称えられ、武神・軍神として信仰の対象となりました。

正月十五日までは松の内 一月九日

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする