水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第七十四回)

2011年11月17日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
    
第七十四回
『あっ! そうでした。いや、いやいやいや、課長もこの如意の筆で念じれば、飛べるかも知れませんよ。それ、いつだったか、ゴーステンで人の姿がすべて消えたことがあったじゃないですか!』
「ああ、そんなこともあったな。だが、あのときは、人の姿が見えなくなっただけだぜ」
『でも、先生方の話だと、人間界と霊界の狭間(はざま)におられたんでしょ?』
「そういや、そんなことを云っておられたなあ…」
 二人は、しばし沈黙した。
それじゃ、次の土曜か日曜で、これを使って試してみましょう。課長の都合のいい方で結構です』
 幽霊平林は如意の筆を上山の前へ差し出すように見せると、そう云った。
「試すって?」
『だから、僕と一緒に他の国へ現れることが可能か、ですよ』
「そんな…。マジックのイリュージョンのようなことが本当に起こるのか、俄(にわ)かには信じられんがなあ…」
『いや~、それは僕にも分かりません。ただ、軍事パレードがハチャメチャになる光景を見た僕としては、どうも可能なように思えるんですよ』
「ああ、そりゃそうあって欲しいさ、私も。まあ、完璧にこの世の科学を否定した発想だがな」
 上山も幽霊平林とともに外国へ現れることが可能なら、霊界司からの命題である社会悪を懲らしめることは可能なように思えた。
 結局、二人は土曜の朝に再会することを約して別れた。呼び出すタイミングは、上山の都合もあろうから・・ということで、八時頃に上山から呼び出すことに決まった。土曜にしたのは、万一の不測の事態に備えてである。上山としては初めての試みであり、自分の身体がどうなるか分からない素朴な不安もあった。すべては幽霊平林の所持する如意の筆に委(ゆだ)ねられた形である。上山は正義の味方のヒーローとして活躍できるか、いわばオーディションを受けている心境だった。


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