幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第七十七回
『ええ…。でも滑川(なめかわ)教授や佃(つくだ)教授は、この事実を知ったら喜ばれるでしょうねえ』
「そりゃ、もちろん大喜びだよ、君。とくに変人扱いされてる心霊学の滑川教授なんか一躍、世の中のヒーローだ」
『霊動学の佃教授が開発したゴーステンだって、ノーベル賞かも知れませんよ』
「ああ、まあな。ただ、こうして私が瞬間移動した事実を証明するものがない。人間には君の姿は見えないんだし、如意の筆も、然(しか)りだからな」
『そうでした。…まあ、課長と僕は正義の味方でいいんじゃないですか』
「ははは…正義の味方は目立たないからなあ」
『はい! そのとおりです』
「よし! それじゃ今度は、私の家に戻れるか、だ。こんな自殺名所の樹海に長居は無用! やってくれ!」
『分かりました…』
樹々の茂る青木ヶ原樹海の木漏れ日の中、幽霊平林はプカリプカリと少し高く浮き上がった。そして、ふたたび両の瞼(まぶた)を閉ざすと、何やら無心に念じ始めた。そして最初の時のように、しばらくすると徐(おもむろ)に両瞼(まぶた)を開き、如意の筆を二度、三度と軽く振った。するとたちまち、二人の姿は鬱蒼と茂る青木ヶ原樹海から忽然と姿を消したのである。その消えた二人は瞬間移動し、ふたたび上山の厨房へと現れた。
『わぁ~!! やりましたね、課長!』
「おお! おおっ! やったな、…やった!」
二人は狂喜乱舞した。交通手段、いや、自らの両脚を使わず、遠く離れた地上へ瞬間移動した人物は人類史上、上山が初めて、と思われた。
『これで僕達は正義の味方ですよ、課長!』
「んっ? まあな…」
幽霊平林に云われ、上山もマンザラでもない気分で北叟笑(ほくそえ)んだ。
『あとは、課長の気持ひとつです!』