幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第六十一回
『来ましたよ! 課長』
「見りゃ分かるさ…。で、訊(き)いてくれたか?」
『あっ! うっかりしてました!』
「なにやってんだよ! それが目的だろ。訊いてくれないと私の動きようがない。会社のこともあるしな」
『すみません! さっそく戻って訊いてきます』
「ああ…。今日は日曜だし、ずっと家にいるから、出来るだけ早く頼むよ」
『はい!』
幽霊平林はペコリと頭を下げると、いつものようにスゥ~っと格好よく消えた。
「あいつは、いつも格好よさだけは一人前だな…」
上山は幽霊平林が消えた瞬間、嫌味をひと言、云った。
こちらは霊界である。戻ったのはいいが、幽霊平林は苦慮していた。と、いうのも、霊界番人を呼び出す方法がないことに気づいたからだった。霊界番人が現れるのは、いつも一方的で、かつて幽霊平林から霊界番人を呼び出したことがなかったのだ。加えて、呼び出せる手段や方法もまだ訊けないでいた。そうと分かった幽霊平林は深く項垂(うなだ)れていた。上手くしたもので、項垂れたとき、胸元に挟んだ如意の筆が、ふと目に入った。瞬時に、これだ! と閃(ひらめ)き、幽霊平林は、さっと如意の筆を手にすると、心で霊界番人に会えるよう念じながら軽く一、二度、振ってみた。すると、たちまちにして上方より光が射し、光輪が幽霊平林の前へ現れた。
『なんじゃ! 急に呼びよって。いかが致した? …おお、そなたは!』
『はい。以前、霊界番人様に、この筆を賜(たまわ)った者でございます』
『ああ…、それは憶えておる。というか、もっか最大の関心事ゆえのう。霊界司様にも日々、きつう云われておる。じゃから、忘れようにも忘れられんわ』
そう云うと、霊界番人は豪快に笑い飛ばした。