突 破[ブレーク・スルー]
(第三十三回)
明日は昌が再入院する日なのだ。それにしても、八月はもう終わろうとしているのに、真夏日がまだ続いている。地球温暖化も深刻になったもんだ…と、圭介は思ったりした。熱気は衰えを見せなかったが、それでもいつしか、ウトウト・・と圭介は微睡(まどろ)んでいった。
八月二十六日、昌は再入院した。既に母は、必要な入院中の品を、ぎっしり手荷物に纏めて準備をしていた。少しでも圭介に手間をかけまいとする母心の一面が垣間見られて、圭介の心を熱くする。体力は衰えつつあるが、まだまだ気丈な母の精神力は翳(かげ)りを見せない。
「ほー、元気そうじゃないですか、土肥さん」
回診中の三島が昌に気づき、病棟のベッドに荷物を置いた昌の姿を病室のドア口で呼び止めた。
「あらまあ、先生…、またお世話になります」
「いやあ…、気楽になさって下さいよ。それじゃ孰(いず)れまた…」と云って、次の部屋の患者を回診にと動き始める。付き添いの圭介は、軽い会釈を三島に送ったが、三島も同様の仕草を返して、スゥーっと姿を消した。
暫(しばら)くして智代が病室に現れた。圭介が社でどうしても抜けられない用件が出来たため、付き添いの交代で来たのだ。
「圭ちゃん、もう行っていいわよ」
無表情の姉に漠然とそう云われて、「じゃあ…」と、思わず口にしてしまった自分に圭介は気づく。