突 破[ブレーク・スルー]
(第四十一回)
「但し、これだけは云っておくけどね。効果は確実にあるだろうが、有効性は30%から100%と異なる。完治するかは責任がもてないよ」
「勿論ですとも…」と、語尾が言葉にならないほど有り難い圭介である。このとき彼は、見えざる救いの手があることを知ったのである。
蔦教授の助力は、O大の藤木教授にも及び、国に新たに認可されたそのテクノライシンのアンプルも届けられることとなった。
再入院から四週目、HFF20及びテクノライシン、両アンプルの筋注により、癌細胞は確実に自滅(アポトーシス)を繰り返していた。両剤によるウイルス療法は、関東医科大学付属病院でも注目に値する療法として、昌に限らず、他の患者にも用いられることになるのだが、それは先の話である。この時点では、まだ市販はされてはいなかった。
一ヵ月後、三島が圭介をカンファレンス室に、ふたたび呼んだ。
「転移性のものですし、私どもも、八、九割方…いや、完璧に駄目なんじゃないかと正直なところ思っておりました。しかし、現在の所見では、確実に病巣は縮小しております。既に四分の一の大きさまで後退しており、残余部分もこの状態で推移しますと時間の問題です。土肥さんが蔦教授を知っておられたという幸運もあるのでしょうが、これは、親を想うあなたの心が起こした奇跡と云うしかありません。私どもの病院では、今まで、この種の完治の症例がなかったのも事実でして、私もいい勉強をさせて貰ったと思っております。しかし、まだ油断は禁物ですが…」
すらすらと朗読文を読むような流暢(りゅうちょう)さで三島が告げる。