「パパ、人間達が騒いでいるよ」
「ああ…お前が箒(ほうき)で掃いた風とジョウロの打ち水のせいだろう」
「下界では台風とかいうそうだね?」
「ああ、そうだ。私達は有史以前より自然の営みをしているだけなんだが、どうも最近の人間は身勝手な者が増えたからな。異常気象、温暖化とか言ってるが、すべては人間が為(な)した業(わざ)だ」
天空王と天空王子が話し合っているところへ天空の妃(きさき)が現れた。
「二人とも、そろそろ食事よ。今日はいい霞(かすみ)が流れ込みましたわ」
「そりゃいい! 美味そうだな」
王は楚々とした風を舞わせながら答えた。
「ええ。でも、少しお気の毒ね、下界の人たち」
妃は薄雲のカーテンを少し開け、下界の惨状を眺めながら呟いた。
「それはそうだが、私達のせいじゃない。人間が自然を壊し始めて250年ばかりになるが、彼等はもっと早く気づくべきだった。だから、自業自得さ」
「そりゃ、そうだけど…」
「なんとかならないの?」
王子も下界の惨状を垣間見ながら言った。
「これから立ち直るも潰(つい)えるも彼ら次第さ。私達はそれを見守るしかない。ただ一つ、彼らには地球の全生命を守る責務があるということだ」
「滅亡した種も多いそうね」
「ああ、絶滅種はかなりいる。それに危惧される種も増え続けているからなあ」
王は溜息(ためいき)混じりの風を少し悲しげに舞わせた。
「だから身勝手なんだね」
「そう…。だが、彼らを信じて、もう少し様子を観よう」
「あと100年ほどね?」
「…だな。それで、すべての結果が出るだろう。地球生命が自滅していないことを望むばかりだ」
天空家族は風に棚引(たなび)いて舞い去った。
THE END