航太は幼稚園児です。ある日の夕方、航太はテレビの天気予報を観ていました。
「航ちゃん、ごはんよ!」
「えっ! もう? …パパは?」
「パパは出張だって言ったでしょ!」
「うん、それはきいたよ。でも、なぜそれで、ごはんがはやくなるの?」
「パパはね、今日は帰ってこないの!」
ママの睦美は少し疲れぎみのせいか、諄(くど)い子ね! という煩(わずら)わしそうな顔で航太を見ました。
「そうなんだ…。これさ、すぐおわるから、ちょっとまって!」
航太は睦美へ、リターンエースですぐ返しました。若い女性の天気予報士が天気概況を話しています。
『低気圧は遠ざかりますから各地で晴れるでしょう。ただ、高気圧の速度が遅いため、ところにより雲が残るでしょう」
「あしたは、はれだ…」
航太は天気予報を聞くのが最近の趣味になっていました。子供の趣味は高じやすいものです。最近では、必ず自分の絵日記にお天気を書き記(しる)していたのです。それも半端じゃないほどの懲(こ)りようで、実に詳細でした。
夕食が終わり、子供部屋へ戻った航太は、さっそく書き出しました。
「はれのちくもりだ。…いや、そうおもったけど、はれてきたんだった。まてよ! …はれてきたけど、はれるまではいかなかったんだった…」
航太はお天気欄に、 ━ はれのちくもり、とおもったら、またはれぎみ ━ と書きました。
その夜、航太は夢を見ました。夢の中の航太は雲の上で眠っていました。
『起きなさい、航ちゃん!!』
航太はその呼び声で目覚め、うっすらと瞼(まぶた)を開けました。すると、お日さまがニッコリと微笑(ほほえ)んで、航太を眺(なが)めていました。不思議なことに、いつもは眩(まぶ)しいお日さまが、ちっとも眩しくありません。
『航ちゃんは感心ですね! いつも、お日さまはあなたを見ていますよ! これからも、あなたのお天気予報を楽しみにしています。あしたは、きっと先生に褒(ほ)められるわよ』
声がなんだかママに似ているな…と航太は思いました。
「航ちゃん、起きなさいよ! 遅刻よ!」
航太が薄目を開けると、お日さまじゃなくママが航太を見下(みお)ろしていました。もう次の日の朝になっていたのでした。
「うん…」
航太は、ゆっくりとベッドから出ました。その日、航太は夢のとおり、先生に絵日記のお天気予報を褒められました。
完