水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (87)元(もと)

2019年09月13日 00時00分00秒 | #小説

 元(もと)とは元々あった物(もの)や事(こと)である。物は形(かたち)があって分かりやすいが、事にはその形がなく、漠然(ばくぜん)とした出来事だから忘れられやすい。では、その元が何をもって元とするのか? が問題となる。分かりやすく言えば、その元々あった物や事の元は何なのか? ということだ。平成が元号(げんごう)なら、次の元号は何なの? という話ではない。^^
 二人の老人が様変(さまが)わりした工事後の町を眺(なが)めながら小高い丘の叢(くさむら)へ座り、話し合っている。
「綺麗になりましたなぁ~!」
「はあ、まあ…」
「浮かぬ顔をされておられますが、なんぞ訳でも?」
「確かに綺麗になりました。綺麗にはなりましたが、どこか元あった風情(ふぜい)が消えましたな。これでは助かるものも助かりませんっ!」
「はあ、それはまあ、そうですが…。それは時の流れ・・でしょう」
「いやぁ~、それはどうですかな。元は元々あった風情ですから、時が流れようと戻(もど)ろうと、変わらんものだと私ゃ思っとりますが…」
「元々ですか?」
「はいっ! 元々あった風情です」
「では、建てかえ前の町に建っていた建物の前に建っていた建物の風情は元ではないと?」
「… いやいや、そりゃ、元の風情でしょう」
「ということは、建てかえ前の町の風情は元の風情ではない・・ということになりますが…」
「ははは…、そうなりますかな」
「はいっ! そうなります」
「ははは…考えてみりゃ、元なんてものは、いい加減なものですなっ!」
「ははは…深く考えるほどのことでもないですな」
「ははは…そのようですな」
 二人の老人は話し合うのが馬鹿馬鹿しくなったのか、立ち去った。
 元とは何なのか? などと深く考えず、軽く考えた方が助かる訳だ。^^

                                


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