水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

世相ユーモア短編集 -56- 回りもの

2025年01月16日 00時00分00秒 | #小説

 金は天下の回りもの・・とは、よくいうが、ちっとも私のところへ回って来ないのはどうしてだろう…などとは言わないが、^^ 回ってくる金額が少な過ぎ、貯えを取り崩す現実には、些(いささか)か怒れてしまう。^^ 今の世相を観望すれば、億単位のお金が議員各位の周辺を駆け回っているニュースを羨(うらや)ましく見聞きするが、住民税非課税世帯の私のところへは少しも駆けっ回ってくれないのは、どうしてだろう…と、思ってしまう訳だ。^^ 実に悲しい機械仕掛けの世相には、ただただ無常を感ぜずにはおられない。私事の愚痴はこの辺りにして、今日のお話と参ります。^^
 冬の寒気がようやく緩もうとしていた、とある年の春のことである。戸坂は陽気に誘われ、コケコッコ~~! と威勢よく、桜見物に出かけることにした。戸坂が毎年、桜を見る場所は決まっていて、ニワトリのようにアチラコチラと歩き回ることはなかった。ただ、最近の世相は物価高で、年金暮らしの戸坂に回りもののお金は回らず、僅かな援助金が国から下りたものの焼け石に水だった。毎年、か細くなる準備する酒の肴に、戸坂は思わず深い溜息を吐(つ)いた。出かける日の天候や時間は例年、決まっていて、前もって調べた挙句のお出かけとなっていた。
「さあ! これでいいだろう…」
 毎年、花見は朝早く家を出る関係からか、防寒対策も心得ていて、完全装備+準備万端で家を出るのが戸坂の常だった。馴れとは妙なもので、早朝の寒さも、さほど気になるものではなかった。桜の下へ折り畳みのテントを広げ、ホエブスでコッヘルに汲んだ土手べりの川水で燗をし、寒の冷えを防ぐべく軽く一杯の酒を喉へ流し込む。そして、厚切りのベコンを食パンに包(くる)んで頬張る。えも言えぬ幸福感が金の回らない戸坂に回った。
 回りもののお金が回らなくても、幸福感は考えようで回るものなのです。^^

                   完


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