古稀を過ぎた主夫の独り言日記

主夫の独り言
やれるまでは小学生とサッカー
合唱は再開しました
アフリカの想い出

かんこうりょこう その5

2021-06-06 23:24:43 | 未来への提言
テントの朝は早い。
白々と明ける頃、鳥のさえずりが始まった。
その光と音に誘われて私はベッドを離れ大きく両手を挙げて伸びをした。
テントの外を少しだけ開けて外を眺めた。
狭霧が景色を神秘の世界に変えていた。
ベッドでは彼女の寝息が静かに波打っている。
私はその音にそっと微笑んで着替えをし、外に立った。
4月の空はまだ冷え込んでいたが、私の心には熱い芯が突き通っていた。
霧の向こうに人影が見える。
その人影も景色に溶け込んでいた。
私は昨日の焚き火に熾きを見つけ、薪のささくれを解して乗せてみた。
白い煙が立ち上り、ぼっと点った。
「おお、点いた。」
私は嬉しくなり,慎重に薪を組んだ。
赤々とした火が音を立てたのを確認してテントに戻った。
寝息は続いていたが、私は彼女の裸の肩にそっと手を添え声を掛けた。
「朝が君のように美しいよ。」
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かんこうりょこう その4

2021-06-06 23:12:03 | 未来への提言
しかし、現実にはその不吉な予感は覆された。
喧噪から解き放たれた自由。
緑茶の香り。
新緑の緑。
静かに立ち尽くす富士山。
あのきらきら太平洋も私の心を満たしていた。
そして今、私は富士山の懐に抱きしめられている。
キャンプとは行ってもテントの中は豪華だった。
ダブルベッドが据え付けられている。
近くの建物にはシャワールームもあった。
テントの外には細々と焚き火が燃えている。
その横には薪が積上げられていた。
身体を包み込むような簡易椅子も二つ。
私たち二人は備え付けのウイスキーで乾杯した。
その夜、久し振りに二人は一つになった。
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かんこうりょこう その3

2021-06-06 11:01:46 | 未来への提言
飛行場を出ると暫く茶園の中を走った。
新緑の茶園の浅い緑は私を夢心地にさせた。
昨夜遅くまで仕事で疲れていた私はリクライニングシートで熟睡した。
目覚めたときは間近に富士山が拡がっていた。
昨日の喧噪は一体何だったのだろう。
心の落ち着きが私を自由にさせていた。
大きく欠伸をすると、車窓から室内に目を移した。
「やっと目が覚めたのね。」
隣の席の女性が声を掛けたのだ。
もう5年も付き合っている仲なのに関係は一向に進展しなかった。
進展どころか、私は少々疲れ気味でもあった。
彼女が申し込んだ今回の旅行に、私は不承不承承諾したのだった。
もやもやした物を感じながらの四泊五日の旅。
これが二人の将来を悪い方向に決定づけるかも知れない。
私はそんな気持ちを抱えていたのだ。
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かんこうりょこう その2

2021-06-06 10:27:37 | 未来への提言
12時を少し回っていた。
バッゲイジクレイムを過ぎたところで大きな荷物はすべて回収された。
小さなリュックを右肩に掛けた私はゲートで歓迎を受けた。
富士山静岡空港の小さな出口は多くの人で埋め尽くされていたのだ。
拍手の嵐と生花の小さな薔薇ブーケを受け取り大きく息を吸った。
新鮮な香りが満ちている。
私たち一行はその香りの方向に導かれていった。
緑茶の香りが会場一杯に拡がっている。
その時、人型ロボットが私にお茶を勧めてきた。
「緑茶もございます、抹茶もございます。どちらになさいますか。」
落ち着いた女性の合成音が香りと共に私を包んだ。
「緑茶を」
人型ロボットは様々な言語を繰り広げていた。
小一時間、この場で軽食を済ませるとバスに誘導された。
何の変哲もない大型バスだったが、座席は広々と気持ちよい。
ここから2時間掛けて富士山の麓へ向かうのだ。
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かんこうりょこう その1

2021-06-06 10:00:16 | 未来への提言
2025年4月、記念すべき第1号の旅行団は上海を飛び立った。
浦東の空は灰色がかっていたが、ここの空は違う。
2時間半の飛行で空港が望めるところまで来た。
普通のルートと違いこの便は特別なフライトサービスがある。
飛行場東側上空を数分間大きく円を描く。
富士山が北の方向にシルエットを映し出す。
真下には太平洋が青と紫の光を跳ね返している。
そして飛行場の周りは新緑の海が延々と波打っている。
そう、ここは富士山静岡空港。
上海からの旅行客は空から日本の第一印象を目に焼き付けるのだ。
やや西寄りの風を受けて、黄金に輝く飛行機は静かに降り立った。
私はわくわくを押し殺して、飛行機の窓枠から外を凝視していた。
何もかも見逃すまいと。
この旅は四泊五日の小旅行だが、初めての体験を味わえる。
一泊目は富士山の麓でのキャンプ。
二泊目は山梨県のワイナリーでのパーティー。
三泊目・四泊目は東京スカイツリーホテルを拠点とした東京見物。
そして再び富士山静岡空港から上海に戻るのだ。


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