インジェラはエチオピアの主食である。
テレビで日本に暮らすエチオピア人の家族を放映した。
そこで紹介された食事を見て41年前を思い出した。
当時、エチオピアは夜間戒厳令が敷かれていた。
それとも知らず、入国したばかりの私は一人、ホテルで紹介された酒場を訪ねた。
そこで現地の酒を、差し出されたあてを肴に呑んでいた。
人懐こい現地人が私の回りに集まり英語や身振りで意志疎通を図る。
彼らは長身で精悍なスタイルをしているが、顔はにこやかで優しい。
外国人で金がない奴だと分かっても馬鹿話は終わらなかった。
その内一人が言った。
今日はここに泊まりだなと。
とんでもない、ホテルに帰ると言うと皆で笑った。
もう帰れない、今から外に出れば殺される。
時間は9時を回っていた。
そこで初めて戒厳令の事を知った。
こんなことは日常茶飯事なのだろう。
店主のママが問題ないと笑った。
その夜はそこに泊まることになった。
食事を用意してくれた。
十人近くの円座に出てきたのが初めて見るインジェラだった。
直径が30cmほどある薄いパンのようなものだが色が悪い。
使い古しの雑巾のようだ。
泡のような膨らみがいっぱいあり酸っぱい臭いもする。
ママがこれをちぎり肉と野菜を炒めたものを少し掴むと私の鼻先に差し出した。
これがエチオピアの習慣なのだそうだ。
少し臭いが我慢して食べた。
味はよかった。
するとママの娘や従業員が次々と同じことを始めた。
私は自分で食べるまでもなくお腹が一杯になった。
その内に外でガラガラと音がする。
戸を開けないで外を見ろと言う。
そこには装甲車が砲塔を揺らしながら見廻りをしていた。
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