食器洗いをしている時、突然でてきた曲。
昔、むかし『包丁一本晒に巻いて』
こんな歌詞の曲が流行った。
私が小学校3年生の頃かと思う。
かっちゃんという子がいた。
同級生で良く遊びに来た。
タバコ屋の息子だが少し知能に問題があった。
楽しい子だったので良く遊んだ。
特殊学級で2年間、その後も同じクラスだったろうか。
かっちゃんもわたし同様歌が好きだった。
『ほうちょういいぼっ〜ん、たらいにま〜い〜て〜』
気分が良いとこの歌を歌った。
まだ独身だった私の叔父。
『かっちゃん、包丁をどうやってタライに巻くだ?』
『?···』
そしてまた、包丁をタライに巻くのだった。
かっちゃんは優しい子でもあった。
当時、銀玉鉄砲なるものが流行った。
銀色の塗料が塗られている丸い銀玉。
それを撃ち出す鉄砲は黒いプラスチック製。
初めは玉を一発ずつ込めて撃つもの。
それが、玉は一度に入れて棒をいちいち引いて撃つものに変化した。
更に引鉄を引くだけで玉が出るようになった。
私はその鉄砲を持っていなかった。
幼稚園の時から玩具を一切買ってもらわなかったからだ。
お祭りの帰り道、祖父が何でも買ってやると言ってくれた。
それでも、『いらない』それだけだった。
欲しい物は小遣いを貯めて買う。
だから、無駄なものは一切買わない。
そんな変わった子供だった。
子供が集まると銀玉鉄砲ごっこをやった。
私は逃げるだけ。
鉄砲がないので玉を拾いながらにげた。
玉も安かったので拾う子は少なかったのだ。
ある日、かっちゃんが言った。
『連発銃、買ったよ』
見せてくれた。
そして、ズボンのポケットから古い銃を取り出した。
銃身の押し出し棒をいちいち引き出す物。
その引き出し棒も歯で引く。
だから先端の丸い部分の根元は歯型だらけ。
丸い部分も既に傾いていた。
その鉄砲を手のひらに乗せ、私の前に差し出した。
『あげる、もういらないから』
『えっ、いいの』
私は使い古した旧タイプの鉄砲を貰った。
その日以来、私も撃つ側に回った。
もっとも、わたし以外は全員最新型を持っていたが。
私は丸い部分をいちいち手で引いた。
決して歯で引くことはなかった。
連発銃には敵わない。
それでも楽しく遊べる様になった。
遊び終わった後、私は一人、打った以上に銀玉を拾い集めた。