私は、無人島に持っていく一冊には、迷わず中島敦『李陵』を選ぶ。
李陵と司馬遷と蘇武の、三者三様の生き方がとても学びになるからだ。この『李陵』は、毎日のランニング中に、Audibleで繰り返し聴いている。我ながらよく飽きないなと思うくらい。
3人の登場人物が「何を相手にした」かがとても興味深く活写されている。
武人・李陵は、現世を相手にした。世の人から承認されることを求めた。
文人・司馬遷は、後世を相手にした。宮刑に遭って男根を切除されるという憂き目に遭っても。生き恥を晒して、後世への使命感を果たした。実際、後世に認められた。
義人・蘇武は、天を相手にした。現世も、後世も、相手にしなかった。自分の節義・インテグリティのみを頼りにした。「蘇武持節」という説話集に残った。
彼ら3人の生き方、特に、とっても強くて、とってもカッコいい李陵が、その根底において「世間に認められる」というスケベ心・下心を有していたために、他の二人と比べて浮かばれぬ人生を送った点が、とても味わい深い。
現世を相手にしない。後世か、天を相手にする。
そんな価値観を学べる『李陵』。マジでオススメです。