本日3月17日は、ムンダの戦いでユリウス・カエサルが元老院派の軍を破った日で、クライシュ族率いるメッカとムハンマドを受け入れたメディナがバドルで激突したバドルの戦いがあった日で、イングランド王エドワード3世が長男エドワード黒太子のためにコーンウォール公を創設した日で、フランスの帝政移行でイタリア共和国で大統領ナポレオン・ボナパルトがイタリア王として即位してイタリア王国に移行した日で、サルデーニャ王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世がイタリア王国の成立を宣言した日で、愛国社第四大会で愛国社を改称して国会期成同盟が成立した日で、ベネルクス3国とイギリス・フランスの間でNATOの前身となるブリュッセル条約が調印された日で、インドのジャワハルラール・ネルー首相が米ソどちらの陣営に属さない非同盟外交の声明を発した日で、カリフォルニア大学バークレー校のグレン・シーボーグらが98番元素の合成に成功したと発表した日で、「『ポタラ宮やダライ・ラマ14世を爆撃する』と脅した中国共産党人民解放軍がダライ・ラマ14世を誘拐する」という噂が広がって人々が宮殿を取り囲んだチベット蜂起でダライラマ14世テンジン・ギャツォがチベットからインドへ逃れた日(この出来事で約86000人のチベット人が中国人民軍に殺されたとされている)で、ブエノスアイレスのイスラエル大使館で自爆テロ(29人死亡)があった日で、アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュによるイラク大統領サッダーム・フセインへの最後通牒演説が行われた日です。
本日も倉敷は晴れていましたよ。
最高気温は十四度。最低気温は二度でありました。
明日も予報では倉敷は晴れとなっております。
狐は横になって隅の方に――殆ど後ろから見た時には洋灯の影になって闇がどうしても其の本の表を見せまいと思われる所で一心になって小説を讀み耽っていた。
明日はお休みの日である安らかさと大きな自由との為に狐は今心一杯に小説の中の哀しい懐かしい物語についていつまでも耽ることが出来るのだった。
そして自分の現在の全てを幻のように溶かし込んで夢のような息を吐いていた。
同じ部屋の洋灯の光の中心には狐の友人達が横になって何かを話していた。
そして御互いに友人達はその息も聞こえないような狐について考えなかったしまた狐もちんちくりんの狐の体によって作られた闇の中に閉じ込められてしまったように洋灯の光の方に向き合うとも友人達の話に耳を傾けようともしなかった。
『おや? 狐はあんな所で本を讀んでいる』
不意に一人の友人が隅の方に頁を捲る音を聞いて云った。
『うん。そうだろう』別の友人が同時に隅の方を見た。『狐は本を讀みだすと何も聞こえなくなるからね。傍で悪口を云っても聞こえない』其の友人は笑って云った。
『其処は暗いよ』とそれからまた声をかけた。
狐はふと器械的に振り向いた。
しかし誰れの顔も網膜に映らなかった。
只、明るさが眩しく目についたばかりであった。
そして又すぐ彼女は暗い哀しい幻につゝまれてしまった。
狐は赫い花を欲しいと一生懸命に前から歩いていた。
しかし狐の歩いてる所にはなんの花も咲いてなくって道の色は白かった。
けれどもやがて狐は遠い所に赫い点のようなものを見つけて急いだ。
そして小さなダリやの花を一本見つけた。
それで狐は急いで折り取ろうとするとその花は見るうちに驚くほど大きくなって牡丹の花のように崩れてしまった。
驚いて手を引くとずっと前にも前にも赫い血の色の花が一杯に連なって咲いている。
そしてそれが焔のように崩れては燃えてるのだ。
狐は驚いて茫然たってしまった。
すると狐は足元から蒸すような熱さを感じて眩暈がするとそのまゝくら/\と倒れてしまった。
翌朝、仄かな暁の光と共に、狐は独り目覚めた。
そして、朝の新しい光に対する歓喜の為めに無意識に床のなかゝら片腕を差し伸べて枕際の窓のカーテンを引きあげようとした。
けれども狐は急に驚いたような不快な表情をして床の中に再び引込んだ。
そして直ちに忌まわしい重苦しいだるい気分になってどうした訳か時々襲われるように羞かしさが狐の髪の先から足の先までをぞっとさせた。
そして夜具の中の両足が物に怯えた様に震えた。
狐の腕に墨で悪戯書きが書いてある。
『友人達の仕業だ。おのれ』狐はしわがれた声で呟いた。
僅かに起き上っては見るけれどもいつものように着物を着るだけの元気はなかった。
狐は讀書に夢中になって友人達に無防備に体を晒していたことに深い烈しい苦しい恥羞を覚えた。
そして無防備な姿を友人達に晒した不覚を愧じ自らの情けなさに怒りを覚え、其の身を憤懣の炎で焦がした。
狐は、友人達に無防備な姿を晒した遣瀬なさと恥かしさと不安との為に立上ることも出来ずにいた。
そして狐の眼は不安に窓の向うの空を見つめたまゝ暫らく震えていた。
狐は自分の身をそっと見た。
そして何かしら自分の知らないことがあるような気がしてならなかった。