本日8月8日は、スペイン無敵艦隊がアルマダの海戦でイングランド艦隊に敗北した日で、ジャック・バルマとミッシェル・ガブリエル・バッカールがモンブラン初登頂に成功した日で、江戸幕府・諸藩の軍勢と天狗党が戦闘状態に入った日で、第二革命に失敗した孫文・黄興らが日本に亡命した日で、ソビエト連邦が日本に宣戦布告(モスクワでの通告の数十分後の9日未明に満州・朝鮮・樺太で一斉に進撃を開始)した日で、ソ連の漁業巡回船ラズエズノイ号が日本の領海を侵犯した日で、中国共産党第八期中央委員会第十一回全体会議で「プロレタリア文化大革命についての決定」が採択された日で、後に韓国大統領となる金大中が東京都内のホテルから拉致された(8月13日にソウルにある自宅で発見された)日で、湾岸戦争でイラクがクウェートの併合を宣言した日で、郵政民営化関連法案が参議院で否決されたことで第2次小泉内閣が衆議院を解散した日で、猫の日です。にゃあ。
本日も倉敷は晴れていましたよ。
最高気温は三十四度。最低気温は二十三度でありましたよ。
明日も予報では倉敷は晴れとなっております。
或る日の事。
倉敷美観地区の大原美術館の門の下にぼんやり空を仰いでいる一人の愚か者がありました。
愚か者の名は狐といつて元は蝶よ花よと言はれて育つたにもかかわらずぽんこつでぼんくらで怠惰な性のままぼんやりと生きてゐるのです。
哀れなる哉。愚かなる者。狐は呆けた顔でぼんやりと空を仰いでゐたのでございます。
何しろ倉敷美観地区といへば名だたる観光地ですから往來にはまだしつきりなく人や車が通つてゐました。
門一ぱいに当たってゐる油のやうな夕日の光の中に老人のかぶつた帽子や女の金の耳環や男の持つ寫眞機が絶えず流れていく容子はまるで画のやうな美しさです。
しかし狐は相変わらず門の壁に身を凭せてぼんやり空ばかり眺めてゐました。
空にはもう細い月がうらうらと靡いた霞の中にまるで爪の痕かと思ふ程、幽かに白く浮かんでゐるのです。
「日は暮れるしお腹は空くしぼんやりと生きてきて此の儘で佳いのかしらん? というぼんやりとした不安に襲われるし、こんな思ひをして生きてゐる位ならいつそ倉敷川へでも身を投げて死んでしまつて鯉の餌になつた方がましかもしんない」
狐は獨りさつきからそんな阿呆な取りとめもない本気でない愚かなことを思ひめぐらしてゐたのです。
すると何処からやつて来たか、突然狐の前へ足を止めた老人があります。
それが夕日の光を浴びて大きな影を門に落とすとぢつと狐の顔を見ながら、「うぬは何を考へてゐるのだ」と突然に横柄に狐に言葉をかけました。
「私ですか? 私は理由もなく不安な気分が治まらずほとほと困り果ててどうしたものかと考へてゐるのです」
老人の尋ね方が急でしたから狐はさすがに眼を伏せて思はず正直な答えをしました。
「さうか。それは可哀さうだな」
老人は暫く何事か考へてゐるやうでしたが、やがて往來にさしてゐる夕日の光を指さしながら、「では我がうぬに好い事を一つ教へてやらう。今この夕日の中に立つてうぬの影が地に映つたらその頭に当る所を夜中に掘つて見るが好い。きつとうぬの不安が治まるものが埋まつてゐる筈だから」
「ほんたうですか」狐は驚いて伏せていた眼を挙げました。
「嘘ぢや。その道は混凝土ぢや。掘れぬわ。ふおふおふおふお。早く家に帰つて飯をたらふく喰いぐつすりすやすや寝るがよい。ふおふおふお」
不思議な事に老人の声はするものの老人は何処に行つたのか周囲にはそれらしい影は見当たりません。
その代わり空の月の色は前よりもなお白くなつて休みない往來の人通りの上にはもう気の早い白鷺が寝床を捜してひらひら舞つてゐました。
「揶揄われた。orz。見知らぬお爺さんに揶揄われてしまつた。orz。やれやれ」
狐はやはり夕日を浴びて大原美術館の門の下にぼんやりと佇んで空ばかり眺めていたのでありました。
「今日はたらふく食べて早くぐつすりすやすや寝やう」
狐はそう呟いてやがて帰路についたのでございます。