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シネ・ウインドで「アイダよ、何処へ?」を観てきました。
1995年、ボスニア・ヘルツェゴビナの町スレブレニツァがセルビア人の軍に襲われ、住民達が国連の避難所へと詰め掛けるが全員は入りきれずに周囲にも人々が溢れ返り混乱を極めていた。
国連の通訳として働くアイダは避難民、そしてその中にいる夫と息子2人を救おうと奔走するも、予測できない事態に翻弄されていく。
冒頭、国連平和維持軍とセルビア人の代表による交渉の場面から、話し合いによる戦争の平和的解決の難しさ、その状況で通訳をする以外何も出来ないアイダの無力さという残酷な現実がいきなり突きつけられる。
その後、猛暑の中を歩く大量の避難民の場面からも、戦争に巻き込まれた人達の未来の見えない苦しみが伝わる。
国連が用意した避難所にも十分な食料や設備はなく、さらに全員は入れずに周囲にも行き場のない避難民の群衆が取り囲むという混乱を極めた絶望的な状況。
人手もまったく足りていない状況に通訳のアイダも駆り出されながら、なんとか夫と息子2人を助けようとするも当然それも許されず、国連の一員としても妻・母親としても苦しむことになる。
そこに突然武器を持ったセルビア人達が乗り込んできて、人々を目には見えない暴力で威圧してじわじわと追い詰めていき、国連軍もその状況に対処しきれずに明らかに事態が悪化していくのを誰も止められない恐怖と絶望に襲われる。
彼らは食料を与え新たな避難所へ大量輸送すると主張するが、嫌な予感しかしない…と思ったらやっぱり…という最悪の結末が待つ。
本作は1995年のボスニア紛争と集団虐殺事件スレブニッツァ・ジェノサイドという事実に基づく物語だが、この歴史をまったく知らなかった自分はアイダのような先の見えない不安を疑似体験しながら観ました。
戦争を俯瞰的に描くのではなく、あくまで一人の小さな人間の目線から描き、戦争に巻き込まれた人間がいかに無力かを表現した傑作だと思います。