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【お金は知っている】
新年の新聞紙面は電子版を含め、どれもどうでもよい記事満載で辟易(へきえき)させられたが、その中で「オヤッ」と思い、読んだのが産経ニュース(電子版)1月5日付、「戦艦大和が謎の反転」である。
記事の主題は戦艦大和が敵の輸送船団を目前にしながら引き返してしまった1944(昭和19)年10月23~25日のレイテ沖日米海戦だが、日本海軍が重大な虚報を流したことが日本の惨敗につながったと論じている。
レイテ海戦の前の台湾沖での海戦で「敵機動部隊の過半の兵力を撃滅」「敵航空母艦十一隻撃沈、戦艦二隻撃沈、巡洋艦三隻撃沈…」させたと海軍は発表した。この“幻の大戦果”を海軍は取り消すことができず、陸軍にも事実を隠した。それを信じた陸軍は大部隊を投入したが、制空権はなく、海軍とともに壊滅的な打撃を受け、日本の敗戦は決定的になった。
現在の政府の経済発表もレイテの大虚報を彷彿(ほうふつ)させる。政府が昨年12月20日に発表した月例経済報告で「景気は緩やかに回復している」との景気判断を墨守した。10月の消費税増税後も内需が底堅く外需の低迷を補っていると楽観一筋である。
これがいかに欺瞞(ぎまん)かは、同じ政府発表の各種経済統計の10、11月分から見ても明らかである。鉱工業指数が前回(2014年4月)の消費税増税後を上回る落ち込みを示し、10月の小売販売額は前年同月比7%減と前回の増税直後(4・3%減)以上に落ち込み、東日本大震災以来の最低水準に沈み込む情勢だ。住宅着工は2カ月連続で減少し、前回増税後の水準よりも低い。
政府は「景気は緩やかに回復している」との表現を18年1月から使い続けている。デフレ圧力のもとで18年度の実質国民所得はマイナスになり、家計消費は低迷を続け、外需も米中貿易戦争のあおりで中国経済の減速が深刻化している現実を無視した「大本営発表」を修正しようともしなかった。動機は、10月の消費税増税の正当化だ。
思えば14年度の消費税増税時も1997年4月の増税が現在まで続く慢性デフレの引き金になった事実を財務省や同省御用の学者やメディアが完全無視したうえだった。安倍晋三政権が2013年夏に増税実施の最終決断をする際、財務省OBの黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は、増税の衝撃は金融緩和でカバーできると断言し、首相に予定通りの実施を催促した。それがいかに誤りだったかは、その後のデフレ、マイナス経済成長などをみても明らかだった。
この新春は超弩級(ちょうどきゅう)の世界経済リスクが目の前に迫っている。きっかけは米軍によるイラン革命防衛隊の精鋭組織のソレイマニ司令官殺害だ。グラフは原油価格と米経済成長率の推移である。07年、米住宅市場のバブル崩壊を嫌った巨額の余剰マネーが原油相場を押し上げて実体景気を押し下げ、08年9月のリーマン・ショックを導いたのだ。最大の打撃を受けたのはデフレ日本である。(産経新聞特別記者・田村秀男)