ギリシャ危機は終わらない。——根本解決に必要なこと[HRPニュースファイル1443]
http://hrp-newsfile.jp/2015/2331/
文/幸福実現党埼玉県本部幹事長代理 HS政経塾2期卒塾生 川辺賢一
◆ギリシャ危機は終わったか
今月23日、ギリシャ議会は増税や年金改革関連法案に加え、銀行の破綻処理手続き等を柱とする財政改革法案を可決。これにより、ギリシャはEUから求められていた金融支援の条件をクリアしました。
「ギリシャ危機の後退」を受け、世界の株式市場は高騰。2万円台を割り込んでいた日経平均株価も2万500円台まで回復しました。
では、これでギリシャ危機は終結に向ったのでしょうか。
確かに、労働人口の4分の1とも言われる公務員を抱え、早くて50代から年金受給が始まるギリシャ経済の現状は持続不可能であり、ドイツを始め、金融支援と引換えにギリシャに改革を求めるEU側の主張にも正当な点はあるでしょう。
しかし、若年層失業率が50%を超え、名目・実質共に一人当たりGDPがピーク時の4分の1も減少している状況で、増税を始め、さらなる緊縮政策が断行されれば、いっそう失業者が増大し、失業者救済のための公共支出が求められることが予想できます。
これでは、たとえEUが求める改革が断行されても、ギリシャ債務問題は深刻さを増すばかりか、EU支援に依存したギリシャはやがて国民の意思による予算決定、すなわち国民による主権行使が何一つできなくなるでしょう。
つまり、ギリシャとEUが現状、向っている未来は、かつて債務国であった東ドイツを債権国の西ドイツが吸収したとの同様、EUという第3者機関を通じた「ドイツのギリシャ吸収」、あるいは「ギリシャのEU直轄領化」です。
むろん、東ドイツと西ドイツの場合と異なり、言語も民族も異なる国家の統合は、常に破局の危機に晒され、その度に、日本も含め、世界経済は迷惑を蒙るでしょう。
では、ギリシャ危機の根本解決には本来、何が必要なのでしょうか。
◆ギリシャに必要な改革
まず、「50代で退職したギリシャ人の生活を、どうしてドイツ人が税金で面倒を見なければならないのか」という率直なドイツ人の感覚は間違ってないでしょう。
かつて英国病とマーガレット・サッチャーが闘ったように、勤労意欲の低下したギリシャには労働組合の弱体化政策、国有資産の民営化、社会保障費の削減、行政のスリム化等といったドイツが求める改革の断行は一部不可欠であり、ギリシャは鉄の意志を持った指導者を選出しなければなりません。
しかし、同時に不可欠なのは、独自通貨の復活と通貨切り下げを通じたギリシャの国際競争力回復です。
現状、ギリシャは通貨切り下げではなく、デフレによって、つまりギリシャの製品・サービス、そして労働賃金が名目・実質共に、下落していくことを通じて、国際競争力を取り戻そうとしています。
ところが、統計上、あるいは直感的にも、名目上の賃金給与額が低下し続ける社会(デフレ下)で、景気回復や失業率の改善は不可能で、ギリシャは国際競争力の回復、つまり債務返済のために、失業率を増大させなければならないという、矛盾した状況に陥っているのです。
だから独自通貨の復活と通貨切下げが必要なのです。
もしもギリシャが独自通貨ドラクマの復活を決断すれば、通貨の切下げによって、ギリシャは自国の製品・サービス、また賃金給与の名目額を下落させることなく、対外的な競争力を取り戻すことができるのです。
実際、英国病からの脱却にはサッチャーによる改革だけでなく、ポンド危機による通貨切下げが必要でした。また97年通貨危機に見舞われた東アジア諸国においても、通貨の暴落自体が次の成長を後押ししました。
日本政府も世界経済のステークホルダーとして、ギリシャ問題をEUやIMFだけに任せるのではなく、意見を述べるべきです。
例えば日本政府には1兆ドルを超える外貨準備があり、その準備から一部融資することで、ギリシャの債務不履行を防ぐことができます。
日本はその見返りに、日本の改革案をギリシャに履行させ、また円建ての返済を求めることで、欧州における円国際化を進め、ギリシャ進出を足かせに欧州における人民元の国際化を企てる中国を牽制することもできます。
◆緊縮財政と決別を
緊縮財政ではギリシャ問題の解決は難しいこと、そして根本解決に必要なことを述べて参りましたが、1930年代の大恐慌を経験した世界は、既に緊縮財政の間違いを痛い程、学んでいるはずなのです。
大恐慌以前の世界では、金と自国通貨の価値を連動させること、つまり金本位制がグローバル・スタンダードでした。
供給側に制限のある金を基準に貨幣を刷れば、貨幣の価値暴落はまぬがれ、世界経済は安定すると考えられていたのです。
ところが金本位制の下では、金の流通量、あるいは金の埋蔵量に世界の貨幣供給量が規定されるため、世界経済は成長しようとすればするほどに、デフレ、賃金の下落、景気悪化、結果的としての社会秩序の不安定化が進む構造となっていました。
そこで世界は金本位制と決別し、金ではなく、供給側に制限のない国債やその他債券・証券を担保に貨幣を発行するようになったのです。
金の価値は供給が制限されることで保たれますが、債券には供給側の制限がありません。ところが、たとえ新規債券が発行されても、人々の勤労により、新しい価値が付加されれば、債券の価値は保たれるのです。
緊縮財政の発想が世界経済の成長の足かせとなっています。これを乗り越えるために必要なのは、勤労によって富を増やすことができるという世界観です。
今こそ、私たちは緊縮財政と決別すべきなのです。
そのような環境の中で、不動産市場も債券市場も金利を得られない状況になり、だぶついた資金が一極集中的に株式市場に投入されたものと思われる。だからこそ、中国の株式市場の参加者の80%以上が個人投資家という構造なのである。
また、その結果、中国株式市場の時価総額は中国のGDP規模と同じレベルの10兆ドルを超える水準まで上がり、売買高も市場規模2倍以上のNY市場を大きく超える状況になったわけである。
しかし、企業業績の悪化が予測され配当の減少が予測される中で、このような状況をいつまでも保持できるわけではなく、この臨界点を超えたのが6月12日から始まる継続した下落であったといえる。中国株式は約3週間で3割以上下落した。
額で言えば3兆ドル以上、GDPの3割が一気に失われたことを意味する。ギリシャの危機とこの状況をうけて、7月6日から中国政府の意向を受けた証券会社によって2.6兆円規模のPKO(プライス・キープ・オペレーション)が行われたが、株価下落を抑制することができず、現在のところ失敗に終わったと判断される。
7月8日、株価の暴落を抑制するため、上場株式の半数以上を売買停止(売買が停止されている限り、株価が決まらないため損失が出ない)にしたが、これでも株価下落を抑えきれなかった。
また、中国の中央銀行は、株価下落の影響を受ける証券会社に対して、特別融資を行う(中央銀行が証券会社にお金を貸し出す)として、金融不安を抑える政策も同時進行で取りはじめている。
この件に関しては、中央銀行による間接的な株価購入ではないかという国際社会からの批判も出ている。そして、上場企業の大口株主などに対して、6ヶ月間の売却禁止を命じた。これも売却量が減れば価格が下がらないという理屈である。
しかし、このような強権的な政策をとっても、市場のひずみを拡大するだけという意見もあり、これが外国人投資家の離脱を促進する部分もある。バブル崩壊リスクだけでなく、政治的リスクとして認識されているからなのだ。
いつ、自らが保有する株式を売却できなくなるかわからないからなのである。そもそも共産主義の国であり、どこまで権利が守られるかも不透明なのである。
中国ではこれから地獄が始まるのであろう。
【プロフィル】渡邉哲也 1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。大手掲示板での欧米経済、韓国経済などの評論が話題となり、2009年『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告しベストセラーになる。内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行っている。 2015.7.28 11:26