http://the-liberty.com/article.php?item_id=12767 幸福の科学
「また?」と思うような騒動が、芸能界で続いている。
笑顔で振る舞うタレントたちは、裏でどのように扱われているのだろう―。
今まで笑ってテレビを見てきた私たちも、そろそろこの問題に向き合う時が来ている。
(編集部 山下格史、馬場光太郎)
女優・清水富美加(法名・千眼美子)さんの出家を機に、芸能界で地殻変動が起きている。伏線の一つは2015年に遡る。
「清水富美加さんの『告白』に信憑性があったのは、能年玲奈さんが"干された"時と構図があまりにも似ているからです」
芸能評論家の肥留間正明氏は本誌の取材にそう語る。
広がる芸能事務所への不信感
能年さんは、2013年のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」のヒロイン役で大ブレイクした。しかしその後、マスコミに「演技指導の女性に"洗脳"され、事務所を独立しようとした」と報じられる。しばらくの間、テレビや映画から姿を消した。
実は、独立の背景にあったのは、清水さんと同じ芸能事務所の劣悪な待遇だった。「あまちゃん」の撮影時、事務所からもらっていた月給は5万円。下着を買うお金すらなかったという。
その後、受けたくない仕事を拒否していると、マネージャーから「態度が悪いから仕事を入れられない。事務所に対する態度を改めろ」と言われ、仕事を干されてしまう。
こうした待遇に耐えかねて、能年さんは2015年4月、事務所独立へ動いたところ、"洗脳された"という形でバッシングされた。事務所の圧力が、メディアに働いたと見られている。
「"洗脳"したと報じられた演技指導の先生は、評判のいい方です。大手プロダクションのタレントが皆、指導を仰いでいました」(肥留間氏)
このトラブルで、日本社会に芸能事務所や、事務所の代弁をするメディアへの疑念が広まった。その不信感に追い討ちをかけたのが、近年で最大の芸能ニュースとなった「SMAP解散」だ。
昨年、SMAPのうち4人が所属事務所ジャニーズを辞めるとの報道が出た。きっかけは、SMAPを長年支えてきた女性マネージャーが、ジャニーズ事務所幹部と対立し、退社したこと。4人が彼女を追いかけて事務所を出ようとした。しかし、ジャニーズは移籍先の事務所に圧力をかけて阻止。見せしめとして、SMAPのメンバーにテレビの生放送で謝罪会見をさせた。
ネット上では、「パワハラ」「ブラック企業」と批判が殺到した。そのいざこざの影響を引きずり、昨年末、SMAPは解散した。
清水富美加さん出家の衝撃
世の中で、芸能事務所という存在への不信感が最高潮に達していた今年2月、女優の清水富美加さんが、心身ともに追い詰められ、生命に危機が及びかねない状態になった末に、「出家」という形で事務所を飛び出した。
その後、緊急発刊された自著『全部、言っちゃうね。』で、「デビュー後、しばらくは、睡眠時間3時間で働いても月給5万円」「水着やブルマの仕事が嫌で事前に拒否していたのに、『もう決まっている』と言われ、出演を強要された」といった状況を告白。業界に走った衝撃を、芸能関係者はこう語る。
「清水さんの所属事務所は当初、『世論は自分たちにつく』と思っていたそうです。宗教アレルギーもありますし、『仕事を投げ出すなんて許されない』という論調になると思っていた」
しかし蓋を開けてみると、風は真逆に吹いた。
「いつも通りに、芸能事務所の息のかかったワイドショーのコメンテーターなどが、激しく清水さんを批判しました。
ところが、批判をすればするほど、読者や視聴者が反発し、メディアを操作する事務所の『闇』に注目が集まった。全て跳ね返ってくるという、皮肉な結果に終わったんです。業界の人間は相当大きな危機感を持ちましたよ」(芸能関係者)
タレントの松本人志さんもテレビで芸能人の組合設立を提唱するなど、風向きは変わった。
2月に女優の堀北真希さんが「引退した」という報道の裏にも、この風向きの変化が表れている。彼女は、俳優・山本耕史さんと結婚した時点で、事務所を辞めたがっていた。しかし事務所側から、次から次へと仕事をゴリ押しされていたと言われている。そこへ清水さんの出家報道があり、その約1カ月後、堀北さんの「引退」報道があった。
「事務所側はもっと働かせたかったんです。でも、清水さんみたいにテーブルをひっくり返されたら事務所が大恥をかくから、事務所は『分かった、もういい』となった」(同)
タレントは「荷物」か?
タレントを粗雑に扱ってきた芸能事務所は多い。
「事務所の社長クラスだと、タレントのことを何て呼んでいると思いますか? 『荷物』ですよ。『うちの荷物、ちょっと今日入れときましたから』って。『仕入れ』『稼動させる』という言葉も使います」(同)
また事務所側は、「レッスン料などを大量に投資してきた」という論理で、タレントを言いなりにし、移籍・独立も許さない。
前出の肥留間氏は、「『今までお前にはいくらかかって、服もいくらかかって、全部お前にツケてある。だからできない』というのは、芸者置屋の論理ですよ」と語る。
事務所に反発するタレントに対して、昔は"勘違い"と言っていた。しかしその理屈は、だんだん通用しなくなっている。
「清水さんの件で、他のタレントも"覚醒"したと思います。私たちは『荷物』じゃないんだって。こうしたことは、まだ何人も続くのではないでしょうか」(芸能関係者)
「芸能界は自浄作用を働かせるべきでしょう」
日本俳優連合
専務理事・声優
池水通洋
(いけみず・みちひろ)1943年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学中退。声優として、「元祖天才バカボン」のウナギイヌ、「新巨人の星」の長嶋茂雄、「機動警察パトレイバー 劇場版」の太田功などで出演。国際会議などに出席し、俳優の地位向上に奔走する。
―清水富美加さんの事例で、芸能界に波紋が広がっています。
池水氏(以下、池) コミュニケーションがうまくいかず、タレントと所属事務所の信頼関係が崩れたということなのかもしれません。
一般論で言えば、芸能界には古い体質が残っています。
事務所は「このタレントはうちが育てた」「あの女優はうちが売り出した」と言って、「タレントの勝手にはさせない」というスタンス。一方、タレントは、売り出しに成功したら事務所の扱いに不満を抱きがち。ただ、表現する仕事で精一杯で交渉事はすべて事務所に任せている。仕事をくれる事務所と対等な関係をつくることは極めて難しいわけです。
嫌な話だけど、いろいろ問題が出てくると、どうしても法律なんかで縛らなくちゃいけなくなってしまいます。双方がコミュニケーションをとり、ウィン・ウィンの関係を維持することが望ましいのです。
声優の多くは出演料が明確
―「日本俳優連合(日俳連)」は、どのように俳優の権利を守っているのですか。
池 日俳連はそれぞれの芸能事務所に所属しているタレントが、自分の権利を守るために個人で登録する「協同組合」です。登録者は約2500人いて、その多くが声優です。タレントの出演条件などをまとめた団体協約をつくって、NHKや民放にそのルールを守ってもらっています。
毎年、各タレントが自分で届け出た出演ランクの一覧表を作っており、プロデューサーやディレクターなどはそれを見て誰をキャスティングするか決める。市場原理が働くんです。出演料が明確なので、タレントも自分がいくらもらっているかが分かります。出演料を高く設定し過ぎると仕事が減る(笑)。そこは自分で責任を持たないといけません。
一部の芸能事務所はタレントの稼ぎの大半を持っていくなどの報道もありますが、声優事務所の多くは2割程度。これも日俳連の努力の賜物でしょう。
―声優はずいぶん守られていますね。
池 声優の仕事は、外国映画で吹き替えの必要が出てきて、新劇(*)の俳優がアルバイトとして始めました。でも非常に待遇が悪く、いくら働いても食えない。何とかしようということで、1973年に声優200人でデモ行進やストライキをやった。
そしたらギャラが約3倍に上がって、その後、二次使用料などの獲得にも成功しました。
(*)日本の伝統的な歌舞伎、能、狂言などの「旧劇」に対し、ヨーロッパの近代演劇に影響を受けた日本の演劇。
芸能界も「近代化」が必要
―「好きでやってるんだから、わがまま言うな」という批判も聞こえてきます。
池 サラリーマンだって好きでやってる人たくさんいるでしょ? プロ野球も昔は待遇が悪かったけど、経営者と選手会が折り合っていろいろなルールをつくっていますよね。
野球選手と同じでタレントも多くの人々を楽しませる「顧客吸引力」があるのだから、もっと正当に評価されていい。芸能界も「近代化」が必要です。
声優やアメリカの俳優と同じように、日本のタレントも声を上げればいい。もちろん、日俳連に入ってもらってもいいです(笑)。芸能界のトラブルがこれ以上表立ってくると、そのうち政府や行政に介入されるでしょう。自浄作用を働かせるべきだと思います。
芸能界の「掟」は世界で通用するか?
清水富美加さんの事例に象徴される、タレントへの人権侵害を防ぐために、芸能事務所はどのように変わるべきなのだろうか。
他業界レベルの「人権意識」を
タレントが退社・独立の動きを見せた時、芸能事務所は決まって「お前にどれだけ投資してきたと思ってるんだ」と言って、辞めることを許さないという。
しかしこの言い分は、他の業界では通用しない。芸能評論家の肥留間正明氏はこう語る。
「普通の会社だって、研修などで社員に投資していますよ。それでOLが独立や転職する時に、『あなたには借金がある』と言う会社なんてありません。
独立するタレントに対して、『恩知らず』のように言う事務所もありますが、逃げられるような信頼関係しか築けなかったマネジメントの失敗でしょう」
日本の芸能事務所には、タレントを「商品」のように扱う悪弊がある。しかし、エンターテインメントが盛んなアメリカでは、エージェント(日本の芸能事務所に相当)にとって、タレントは出演契約・キャリアプランニングを委託してくる「お客様」だ。
日本の芸能事務所は、他の業界や海外の芸能界と同じレベルの人権意識を、マネジメントに組み入れるべきだろう。
ギャラの透明性を
金銭面においても、タレントの権利は圧迫されやすい。
芸能関係者はこう語る。
「タレント本人にギャラを教えることは、芸能界最大のタブーです。関係者が言っていたことですが、ある女性タレントがCM出演で4億稼ぎました。しかし事務所は『CM料は1・5億だ』と嘘をつき、タレントの取り分は1・2億だったそうです」
アメリカでは、法律によってこうしたピンハネを防いでいる。エージェントは、タレントから受け取った手数料と、タレントに支払った賃金についての記録を保存し、要請があれば労働長官に提出しなければいけない。
日本の芸能事務所も、こうしたギャラ周りの透明性・公開性を担保すべきだろう。
労働組合設立を許す
アメリカには、約16万人が加盟する「SAG‐AFTRA」という俳優の労働組合がある。カリフォルニア州でモデルを務める日本人女性は、「エージェントとの間で問題があったとき、組合に直接連絡すると、間に入ってくれます。組合は現場にも時々現れて、仕事環境のチェックをします。食事の時間が確保されているかなども、厳しく見ているんです」という。
日本でも、タレントの労働組合をつくるべきという声があるが、なかなか実現しない。
例えば俳優の小栗旬さんは一時期、労働組合の設立に動いていた。しかし、その後、なぜか女性スキャンダルが報じられ、口をつぐんでいる。関係者の間では、「『変な動きをするな』という事務所からの警告」という見方が強い。もしそれが本当なら、憲法が保証する「団結権」を侵していることになる。
タレントの人権や業界全体の発展を考えるならば、一般企業と同じようにタレントにも組合設立の自由を認め、ウィン・ウィンの関係を築いていくべきだろう。
事務所移籍のルールをつくる
多くの芸能事務所は、「タレントは簡単に移籍させない」という暗黙の協定を結んでいるという。
しかし、タレントが、よりよい待遇や、より自分に合った事務所に移籍できなければ、事務所同士が労働環境を改善し合う競争原理が働かない。
プロ野球では、選手が一定期間以上、球団で活躍した場合、球団移籍を交渉できる「フリーエージェント(FA)権」を得られる。
サッカーのJリーグにおいては、選手はチームとの契約満了の6カ月前から、自由に他チームと移籍交渉ができる。
問題が多発する芸能界でも、事務所移籍のための一定のルールをつくるべきだ。
一連の騒動で、労働基準監督署や公正取引委員会なども、芸能界への監視を強めているかもしれない。
しかし、問題が起きるたびに政府や行政の介入が強まることは、本来、国民の自由を守る意味でも望ましくない。
今求められているのは、芸能事務所をはじめ業界の人々が自発的に改革を進め、「自浄作用」を働かせることだろう。日々、芸能人から夢や希望、勇気をもらっている国民の多くが、それを期待している。